夜な夜なシネマ

映画と本と音楽と、猫が好き。駄作にも愛を。

恐るべし、『ローマの休日』。

2011年07月29日 | 映画(番外編:映画と読み物)
金城一紀氏の著書『映画篇』を読み終えました。

彼の原作が映画化されたものはほぼ観ています。
と言ってもそもそも寡作な人ですから、
私が観たのはそのうちの『GO』(2001)、『フライ,ダディ,フライ』(2005)、
そしてその韓国版リメイク『フライ・ダディ』(2006)の3本のみ。
あとは『SP』の脚本と原案を担当している作家として有名ですね。

映画化されたものはすべて好きだったにもかかわらず、
なぜか原作には手が伸びず、読んだことがありませんでした。
これは映画化もされていませんでしたから、その存在すら知らず、
たまたま見つけて購入したものの、ずっと放置していました。

もっと早く読めばよかったと後悔。
読み終わってすぐよりも、数日後の今のほうがじんわり来ています。
本の帯には「現実よ、物語の力にひれ伏せ」のキャッチコピー。
はい、ひれ伏しました。

映画をモチーフにした5つの物語で構成されています。

1つめは『太陽がいっぱい』(1960)。
在日韓国人である金城氏の自伝だと思われます。
映画がなければ共通項はなかったであろう主人公とある同級生。
ふたりで過ごした少年時代の描写は、輝きと切なさいっぱい。
いつしか疎遠になってしまい、迎える現在。
こう結んでくれてありがとうと言いたくなるエンディングです。

2つめは『ドラゴン怒りの鉄拳』(1971)。
夫を自殺で失った女性のもとへ、ビデオレンタル店から電話が。
夫が借りっぱなしだったビデオを返却しに行き、延滞料金5万円を払います。
申し訳なさそうにそれを受け取ったアルバイトの青年は、
サービスだと言って、次々とお薦め作品を貸してくれるように。
何が可笑しかったって、数々のお薦め作品。
特に『キングピン ストライクへの道』(1996)には笑いました。

3つめは『恋のためらい フランキーとジョニー』(1991)、
もしくは『トゥルー・ロマンス』(1993)。
悪徳弁護士である自分の父親から金を強奪する計画を立てた女子高生。
彼女に白羽の矢を立てられた男子高生はその計画に乗ることに。

4つめは『ペイルライダー』(1985)。
両親と過ごす時間が少なくて、寂しい思いをしている小学生の男の子。
彼の前に突然現れたハーレーに乗ったおばちゃんと半日を過ごします。

5つめは『愛の泉』(1954)。
これはタイトルのみで、話中に本作が出てくることはありません。
なぜなのかは読んでのお楽しみ。
おじいちゃんを亡くして、見ていられないほど落ち込んでいるおばあちゃん。
おばあちゃんのことが大好きな孫たちは、
なんとかおばあちゃんに元気を出してもらおうと、
おじいちゃんとおばあちゃんの思い出の映画『ローマの休日』(1953)を
映画館並みの場所で上映することを企画します。

こうして書けば歴然としますが、私が好きだったのは、
1つめ、2つめ、5つめの物語。
それぞれ別の話のように思わせておいて、ところどころでリンク。
すべて読み終わると、もう一度、最初のページを開いてニッコリ。
幸せな気持ちに浸れます。心に残る言葉もたくさん。

映画を全然知らなくても楽しめること請け合います。
『ローマの休日』恐るべしな理由もご確認を。

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『コクリコ坂から』

2011年07月26日 | 映画(か行)
『コクリコ坂から』
監督:宮崎吾朗
声の出演:長澤まさみ,岡田准一,竹下景子,石田ゆり子,風吹ジュン,
     内藤剛志,風間俊介,大森南朋,香川照之他

小学生の頃、月刊少女漫画の人気を二分していたのが『なかよし』と『りぼん』。
それぞれ1954年と1955年の創刊で、いずれもまだ続いているというのはエライ。
けれど、それより20年以上後に創刊され、当時は話題にものぼらなかった『ちゃお』が、
いまは2誌よりもずっと購買部数を伸ばしているそうで。

私はずっと『りぼん』派でした。
中学生になると『りぼん』と並行して『別冊マーガレット』を買い始め、
高校生になって『別冊マーガレット』だけに絞ったような記憶があります。

本作はご存じ、ジブリのアニメ。
宮崎駿の息子の監督デビュー作にして酷評された『ゲド戦記』(2006)から5年。
あのときは脚本も自らの手によるものでしたが、今回は1980年の漫画を映画化。
その漫画は知らんなぁと思っていたら、『なかよし』に掲載されたものでした。

アニメ化するにあたり、時代を1963年としています。

翌年に東京オリンピックをひかえた横浜。
船乗りの父親を亡くした高校生、松崎海は、
実家である下宿屋を切り盛りしている。
毎朝起きて、下宿人や弟妹たちの食事を用意し、片付けも済ませると、
お手伝いさんとバトンタッチ、急ぎ足で学校へと向かう。
彼女のお弁当は友人たちの間でもおいしそうだと羨望の的。

そのお弁当を広げる彼女の前に降ってきたのは、新聞部の部長を務める風間俊。
それは、男子文化部員が集まる老朽化した建物、
カルチェラタンの取り壊しに反対するパフォーマンスだった。

呆気にとられる海だったが、イケメンの風間の人気は沸騰。
パフォーマンスの写真まで売りに出されるほど。
妹に風間のサインをせがまれた海は、渋々カルチェラタンへ。
なりゆきで新聞のガリ切りを手伝うようになり、やがてふたりは想いを寄せ合う。
しかし、予期せぬ運命が待ち受けていて……。

1963年当時、それなりの年齢だった人は、
ノスタルジックな光景に心地よさを感じるでしょう。
が、監督は1967年生まれ。この時代に無理やり合わせに来た感があります。
ドラマティックな展開のはずが、盛り上がりに欠けたままエンディングへ。
淡泊であるほうがいい場合もありますが、
ちょっぴりその計算をし損ねたような印象を受けました。
観客におもねていると思われないようにおもねてしまった。そんな感じかなぁ。

だけど、清々しくて気持ちよかったのは確かです。
上を向いて歩こう。

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『BIUTIFUL ビューティフル』

2011年07月22日 | 映画(は行)
『BIUTIFUL ビューティフル』(原題:Biutiful)
監督:アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ
出演:ハビエル・バルデム,マリセル・アルバレス,エドゥアルド・フェルナンデス,
   ディアリァトゥ・ダフ,アナー・ボウチャイブ,ギレルモ・エストレヤ他

スペイン/メキシコの作品。
大阪・千日前のパチンコ店に囲まれた映画館にて。
なんとなく、本作は洒落たロケーションにある映画館で観るよりも、
こっちのほうがしっくり来ると思いました。

娘から「ビューティフルの綴りは?」と問われた父親が、
「聞こえるままだよ」と答えて教えた綴りがタイトルとなっています。

スペイン、バルセロナの片隅。
移民や不法滞在者に仕事の斡旋をして日銭を稼ぐ男、ウスバル。
躁鬱病でアル中の妻と別れ、娘と息子をひとりで育てているが、
ある日、自分は末期癌に冒されていることを知る。

余命は2カ月。死への恐怖よりも頭を巡るのは、
自分の死後に遺される子どもたちがどうなるのかということ。
ウスバルはとにかく子どもたちが生きてゆけるだけの金をつくろうと考える。

ストーリーとしてはこれだけで、148分の長編。
けれど、ひとつとして無駄のない作品です。

冒頭、晩ごはんに不平を言う子どもたちに、何を食べたいかと尋ね、
シリアルと砂糖をそれに見立ててふるまうウスバル。
生活のレベルがわざわざ語られることはありませんが、
こんなシーンから彼らの貧困の様子が伝わってきます。

まだ幼い息子のマテオは、無垢ゆえに思ったことをそのまま口に出してしまい、
母親からは「この子は40歳の男のように女を傷つける」と言われます。
子どもたちをこの母親に預けてはおけないと引き取ったものの、
落ち着きがなくおねしょを繰り返すマテオにウスバルはイライラを募らせ、
時に叱り飛ばさずにはいられません。
しかし、その後の父と子のやりとりには強い絆を感じます。

違法なことに手を染めていながら、悪人にはなりきれないウスバル。
仕事を斡旋したセネガル人や中国人の身の上を心配し、
彼らが飢えることのないよう、寒さをしのげるよう、
あれやこれやと手を尽くします。だけど、世の中は非情。

ダダーッと涙を誘うようなシーンはないのに、どれも胸を打ちます。
ウスバルが、写真でしか顔を知らなかった父親と火葬場で対面するシーンは、
防腐処理を施された遺体が映るのでグロテスクなはずなのに、
ウスバルの表情と併せて、美しいとすら思いました。

もう一度、観たい作品です。

それにしても、ハビエル・バルデムは相変わらず凄い。
『ノーカントリー』(2007)では殺人鬼。
『コレラの時代の愛』(2007)では偏執狂。
『食べて、祈って、恋をして』(2010)ではあの色男。
本作では父性を知らない、父性に溢れた男です。

ついでながら、中国人の不法滞在者が穿いていたのはブリーフでした。
ブリーフについては、カテゴリーの「番外編:映画と下着」をどうぞ。

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『アイ・アム・ナンバー4』

2011年07月20日 | 映画(あ行)
『アイ・アム・ナンバー4』(原題:I Am Number Four)
監督:D・J・カルーソー
出演:アレックス・ペティファー,ティモシー・オリファント,テリーサ・パーマー,
   ダイアナ・アグロン,カラン・マッコーリフ,ジェイク・アベル他

映画をハシゴするのに時間的に最良だったというだけで選んだ1本。
これがバカバカしいんですが、意外におもしろくて。

同監督の『ディスタービア』(2007)も1本でいろんな味わいを楽しめる作品でしたが、
本作はSF、アクション、ホラー、サスペンスと来て、
さらには学園青春ドラマとラブロマンスの要素まで。どんだけてんこ盛りやねん。
原作は人気SFシリーズなのだそうです。

人間とそっくりの姿の宇宙人が住むロリアン星。
しかし、いつしかモガドリアンと呼ばれる極悪宇宙人に侵略され、
殺戮が繰り返された結果、生き残ったロリアン星人はほんのわずか。
地球に産み落とされた末裔9名は、それぞれの守護者の庇護のもと、
モガドリアンから逃れて生きてきた。
やがて、モガドリアンが地球に上陸し、9名全員を殺しにかかるのだが……。

という、はちゃめちゃな設定です。

ロリアン星人には人間のような名前はなく、
ナンバー1からナンバー9まで番号を振られています。
モガドリアンは律儀にナンバー順に殺して行くのです。

で、本作の主役はナンバー4。
ひっそりと暮らすのが鉄則なのに、何しろコイツはイケメンのスポーツ男子。
冒頭、モテモテの彼が一番人気の女性と夜の海でイチャついていたら、
体に異変が起きて、その瞬間、彼はナンバー3が殺されたことを知ります。

こんなシーンがネットにアップされたものだから、
モガドリアンに見つかってまうやんと、引っ越しを余儀なくされます。
父親代わりの守護者ヘンリーとともに、オハイオ州へと移り住んだナンバー4は、
ジョン・スミスと名乗って地元の高校へ。

美人同級生サラとジョンがいい仲になると、
学校を仕切るアメフト部のマークがあの手この手で嫌がらせ。
また、昔、父親を宇宙人にさらわれたと主張して
頭オカシイ扱いされている科学オタクのサムが良い味を出しています。
犬好きにはたまらん(猫好きの私も泣いた)エピソードも盛り込まれ、
個人的に笑いのツボだったのは、その泣かせる犬と格闘中、
足を滑らせてずっこけるモンスター。
まぁよくもこんなに詰め込めたものだと可笑しくて。

ラスト30分という頃にナンバー6(♀)が登場して、圧巻の闘いぶり。
名前を問われたナンバー6が“ジェーン・ドゥ”と答えるのも楽し。
これについては小ネタ「名なしのゴンベ」をご覧ください。

続編、あるんやろなぁ。
要らんけど、あったら観に行ってしまいそう。

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『ハングオーバー!! 史上最悪の二日酔い、国境を越える』

2011年07月16日 | 映画(は行)
『ハングオーバー!! 史上最悪の二日酔い、国境を越える』(原題:The Hangover Part II)
監督:トッド・フィリップス
出演:ブラッドリー・クーパー,エド・ヘルムズ,ザック・ガリフィナーキス,
   ケン・チョン,ジェフリー・タンバー,ジャスティン・バーサ他

前作は、口コミから評判となって世界中で大ヒット、
日本では未公開のはずが、署名運動が巻き起こって公開に至ったという、
『ハングオーバー! 消えた花ムコと史上最悪の二日酔い』
続編にはあまり心が動くほうではありませんが、
あのメンバーが帰ってくると聞いただけでニヤリ。

ちなみに、前作をつまらないと思った人、生理的に受け付けられないと思った人は、
本作も駄目だと断言できるのでやめておきましょう。
それと、前作を観ていない人にとっては、意味不明の会話が頻出すると思われます。
ご覧になる場合は、必ず前作を観てからに。

2年前、ラスベガスで悲惨な酔っぱらい体験をした男、フィル、ステュ、ダグの3人。
前回はダグの結婚式を前にしての出来事だったが、
今回はそれが縁でステュがめでたく結婚することに。
結婚式の会場は、花嫁の両親の出身地であるタイの美しい島。
招待状を受け取ったフィルとダグ夫妻は、異国での結婚式への参列を楽しみにしている。

前回の騒動の元凶は、ダグの義弟アラン。
またもや騒動を起こされてはたまらんと、アランにだけは知られないようにするが、
なぜかアランの耳に入ってしまい、自分だけ招待されていないことにスネている様子。
ダグから懇願されて、ステュは渋々アランも呼ぶことに。

こうしてタイの地へと降り立った4人。
花嫁の超優等生の弟テディもまじえて、男同士で1杯だけ飲もうと、
その夜、ビーチで缶ビールを手に取る。

ところが翌朝、フィルが目覚めると、そこは小汚い部屋。
ステュの顔には派手なタトゥー、アランは丸坊主、テディは行方不明。
おまけにやたらと洒落たサルが1匹と、
前回知り合いになった中国人マフィアのミスター・チャウが全裸で寝ている。
全員を叩き起こし、テディの捜索を始めるのだが……。

目覚めたときの「またやっちまった……」感がいいですねぇ。
私もお酒を飲むのが大好きですが、
飲み過ぎた翌日、二日酔いになったときは「もう二度と飲まん」と思います。
なのに、次はまた飲んでいます。学習せぇっちゅうの。

前作よりいささかパワーダウンしていますし、悪ノリもしすぎかも。
ニューハーフとやっちゃうわ、お坊さんを拉致しちゃうわ。
そのお坊さんの股間にペットボトルを立ててみるところなんか、
不謹慎きわまりなく、怒る人もおるやろなぁ。
けれど、こういう下ネタOKな人なら、エンドロールまで存分に楽しめます。

チケットをネットで購入するさい、すでに埋まっている席の状況を見て、
躊躇したのは初めてでした。どう見てもふたり連ればかり。
そこに女ひとりで観に行くのってどうなの。
しかも、こんな映画だとわかっているし。

けれど、観に行ってみたらそんな心配は不要でした。
明らかに前作を観てきた人ばかりで、事あるごとにみんな大笑い。
劇場で知らない人たちと笑いを共有できるのっていいなぁとあらためて思いました。

そうそう、タトゥー屋のおっちゃん役で、映画監督のニック・カサヴェテスがカメオ出演。
嬉しい驚きでした。
最初はメル・ギブソンかリーアム・ニーソンが演じるはずだったそうで、それも驚き。
愛すべきハゲ、ポール・ジアマッティの脇役ぶりに脱帽。

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