夜な夜なシネマ

映画と本と音楽と、猫が好き。駄作にも愛を。

『ネットワーク』【町山智浩氏解説付き上映会】

2024年12月16日 | 映画(な行)
『ネットワーク』(原題:Network)
監督:シドニー・ルメット
出演:ウィリアム・ホールデン,フェイ・ダナウェイ,ピーター・フィンチ,ロバート・デュヴァル,
   ネッド・ビーティ,ウィリアム・プリンス,ビアトリス・ストレイト他
 
休日に会う約束をしていた友人から発熱したという連絡があってキャンセル。
んじゃあ映画とひとりごはんと決めて、まずは車でTOHOシネマズ西宮へ。
朝イチの時間帯、選択肢はいくつかあったのですが、
このさき観る機会がなさそうな本作を選択しました。“午前十時の映画祭”にて。
 
本編の前と後に映画評論家の町山智浩氏の解説映像があります。
これがとても面白くて、ほー、へーの連続でした。
 
1976年のアメリカ作品で、パディ・チャイエフスキーのオリジナル脚本シドニー・ルメット監督が映画化。
チャイエフスキーはそれまで主にTVドラマの制作を担当しており、
TV番組の裏側を描こうと脚本を温めていたところ、こんな作品ができたのだとか。
第49回アカデミー賞ではこれで脚本賞を受賞。
そのほか、主演男優賞をピーター・フィンチ、主演女優賞フェイ・ダナウェイ
わずか5分間の出演でビアトリス・ストレイトが助演女優賞を受賞しています。
ピーター・フィンチがノミネート直後に心不全で急死したことでも話題になりました。
 
大手ではあるけれど業界1位ではないテレビ局UBS。
報道番組で10年以上に渡ってキャスターを務めてきたハワード・ビル(ピーター・フィンチ)は、
視聴率の低下を理由に解雇されることが決まります。
ハワードの盟友で報道部長のマックス・シュマッチャー(ウィリアム・ホールデン)が気遣ったところで、
上層部の決定をくつがえすことはできません。だって実際視聴率を稼げないのだから。
 
おとなしく解雇を飲んだと思われたハワードですが、
その後の本番中に「来週この場で頭を撃ち抜いて自殺する」と宣言し、大騒動になります。
局には苦情の電話が殺到し、上層部は激怒。ハワードを即降板させるように言い渡します。
 
ところがハワードの自殺予告がメディアで採り上げられると凄まじい注目を浴び、
他番組のプロデューサー、ダイアナ・クリステンセン(フェイ・ダナウェイ)は
このチャンスを逃す手はないとUBSの大株主CCAの役員フランク・ハケット(ロバート・デュヴァル)に進言。
 
おかしなことを口走るようになったハワードは預言者として世間から信奉されるようになり、
ハワードの精神状態を心配するマックスは降ろされて、代わりにダイアナが番組を担当することに。
 
という話なのですが、本当に時代を予見していたような作品でいろいろとビックリ。
当時はまだ報道番組のバラエティ化などはなかったそうで、今はそんなのばっかりです。
 
ダイアナはテロリストに犯行現場をカメラに収めさせてそれで視聴率を稼ごうとする。
大衆は暴力を好まないと言う人がいても、映せば観る人がいっぱいいます。
 
本番中の自殺予告や強盗犯の実況映像などは実在の事件にヒントを得ているのですね。
また、『ジョーカー』(2019)をはじめとするさまざまな作品が本作にオマージュを捧げているとのこと。
私は何も知らなかったから、町山さんの解説を聴いて目からウロコでした。
 
それにしたって、マックスがダイアナに惹かれて不倫に走る理由がようわからん。
浮気して本気になって結局妻のところに戻るのもダイアナの脚本通りってか。
マックスの妻を演じるのがビアトリス・ストレイトで、5分間のまくし立ては確かに迫力があります。
妻にバレたわけでもないのに正直にダイアナのことを打ち明けると、
25年連れ添ってきた妻は「私に情熱を向けなくてもいいけれど、尊重はして」みたいなことを言うんですね。
浮気はしたとしても相方を尊重する。それは大事じゃないかなと思いました。
あ、これは作品の本筋からは離れた話か。(^^;

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『虹、結』

2024年12月11日 | 映画(な行)
『虹、結』
監督:大原誠弍
出演:髙木七海,海道力也,中野良美,鈴木タカラ,森由佳,小槙まこ,藍星良,春風亭昇太,
   市山貴章,米﨑亮,佐々木綾香,藤川学,藤川光代,仲田幸子,ひーぷー,TOMOKI他
 
イオンシネマ茨木にて。
 
2022年に沖縄本土復帰50年を記念して製作されたのが『風が通り抜ける道』という作品。
本作はそのスピンオフに当たる作品なのだそうです。
客はもしかすると私ひとりかと思ったけれど、昔から沖縄絡みの作品はよく客が入っていて驚く。
沖縄の人は故郷をこよなく愛しているのだろうなぁといつも思います。
 
『風が通り抜ける道』を観る機会がなかったので、登場人物の人間関係も背景もまったく知らないまま鑑賞しました。
 
大阪市此花区の実家を出た月皐(つきさつき)(髙木七海)は東京でOLに。
上司(春風亭昇太)から言われた仕事はすべて完璧にこなし、同僚たち(森由佳&小槙まこ)の尻拭いもしてきた。
しかし自ら意見を述べることは皆無なせいで、向上心がないなどと言われている。
 
あるとき、同僚が手配した合コンの場に向かうと、相手はイケメンじゃないうえに金もなさそう。
同僚は用事ができたことにして即帰ろうと言い、それはあまりに失礼だと非難した皐は翌日同僚から嫌がらせを受ける。
上司も味方になってはくれず、理不尽に感じた皐は仕事を辞め、大阪へと帰る。
 
実家の前までは来たものの、厳しかった父親・幸蔵(海道力也)に会うのは怖い。
どうしたものかと迷って公園で佇んでいたところ、旧友・新垣香澄(佐々木綾香)に遭遇。
香澄の家に招かれた皐は、彼女の夫・将司(福地清)が沖縄出身だと知る。
 
香澄と将司に悩みを聴いてもらったのち、将司から沖縄の人の温かさを聞き、皐は沖縄へ行くことを決意して……。
 
こんなことを言うのは本当に申し訳ないのですが、ご当地ムービーにありがちなのは、
出演者に素人も多いから、なんとなく作品全体が素人くさくなる。
さらに、ヒロインよりも同僚たちのほうが美人だったりして、
なのにヒロインのことを別嬪だとか綺麗だとかもてはやす台詞はどうかと思うんです。
皐ちゃんの化粧は相当濃くて、そのまつげはどうなんだとも思いますしね。
 
父親の幸蔵はいったいなんの仕事をしている人なんですか。
龍模様のスカジャンどころか、ジーパンにも同じ模様が入っているし。
妻を亡くして娘をちゃんと育てなきゃいけない一心で厳しくしていたっぽいけれど、かなりモラハラ入ってます。(^^;
再婚相手の美里(中野良美)はとても優しくて良い人で、皐が彼女を初めて「お母さん」と呼ぶときは感動的だけど、
あんなに「ここで泣け」と言わんばかりの展開だと、私はちっとも泣けないんです。
 
たくさんの人がこの作品を撮るために参加して、苦労もしながら楽しんで、そこに連帯感が生まれる。
沖縄の素晴らしさは十二分に伝わってきますしね。
大正区に沖縄の店が多い理由も知ることができました。
 
観ますよ、ご当地ムービーを。これからも。

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『ノーヴィス』

2024年11月20日 | 映画(な行)
『ノーヴィス』(原題:The Novice)
監督:ローレン・ハダウェイ
出演:イザベル・ファーマン,エイミー・フォーサイス,ディロン,ジェニー・ロス,
   シャーロッテ・ウベン,ジョナサン・チェリー,ケイト・ドラモンド他
 
週初めの仕事帰りに梅田まで行くのはキツイのですが、
早いうちに観ておかないと上映が終わってしまいそう。
観たいでしょ、これ。だってイザベル・ファーマン主演ですよ。
『エスター』(2009)の衝撃から時が経ち、彼女は27歳になりました。
撮影当時はまだ10歳かそこらだったのではないでしょうか。
あんな役を演じてよくここまで成長したものです。
というわけで、彼女を見たくてテアトル梅田へ。
 
監督はハリウッド大作で音響を担当してきたローレン・ハダウェイ。
長編映画を撮るのはこれが初めてなのだそうです。
ハダウェイ監督自身が大学時代にボート部に所属していた体験を基にしているとのこと。
 
極めて優秀な成績で大学に合格したアレックス・ダルは物理を専攻。
最も苦手とする科目であるにもかかわらずわざわざそれを選び、
授業では納得いくまで解答を見直し、つきあわされる教員もほとほと困っている。
 
そんなアレックスが入部したのは女子ボート部。
友人のジェイミー・ブリルはスポーツ奨学金を獲得するためにボート部に入り、
コーチや先輩たちから早くも逸材と言われているのを聞いて焦る。
強迫観念に駆られたアレックスは、狂気を感じるほどの練習を始めて……。
 
同じボート競技の話でも、先日観たばかりの『がんばっていきまっしょい』とはエライ違い。
実はアレックスは大統領奨学金なるものをすでに得ているのに、
他人が褒められると絶対に負けたくない、相手を超えなければと思う。
けれどそれを露わにして相手にぶつけるわけではなくて、ひとりで黙々と訓練に励みます。
それはもう負けず嫌いなどというものを通り越し、自分を追い込んで傷つけているだけ。
 
雨天のもとでボートを漕ぐのは問題ないが、雷のもとでは絶対駄目。
そんなルールも無視して嵐の中を漕ぐアレックスの表情が凄まじい。
 
“エスター”のイメージが強すぎて、こんな狂気の女性を演じても普通に見えなくもない。
まだ30歳前の彼女が今後どんな女優になっていくのかちょっと楽しみです。

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『ネネ エトワールに憧れて』

2024年11月19日 | 映画(な行)
『ネネ エトワールに憧れて』(原題:Neneh Superstar)
監督:ラムジ・ベン・スリマン
出演:ウミ・ブルーニ・ガレル,マイウェン,アイサ・マイガ,スティーヴ・ティアンチュー,セドリック・カーン他
 
シアタス心斎橋にて、前述の『室井慎次 生き続ける者』先行上映2回目を観る前に鑑賞しました。
 
フランス作品。監督は本作が長編2作目となるラムジ・ベン・スリマン。
内容的に女性監督なのかと思ったら、1982年生まれの男性監督でした。
 
アフリカ系フランス人の少女ネネは12歳。パリ郊外の団地で両親と3人暮らし。
ダンスが大好きな彼女は、パリ・オペラ座エトワール、マリアンヌの映像を見て憧れを抱く。
オペラ座のバレエ学校の入試を受けに行くと、周囲はバレエ教育を幼い頃から受けてきた富裕家庭育ちばかり。
しかしそんなことをまるで気にしないネネは実に自由に踊り、審査する教師たちを驚かせる。
 
審査員のうち、2人を除く全員がネネを合格とするべきだと言うが、
ネネが黒人であること、低所得者層が住まう地域にいることなどを問題にして断固反対。
あれほどネネが憧れているマリアンヌも絶対に不合格だと主張するも、
少女の未来を奪ってはいけないと言われ、渋々ネネの入学を認める。
 
意気揚々と初日を迎えたネネだったが、「入学させたのは私ではない」とマリアンヌは冷たい。
明らかに黒人を蔑視する教師もいるし、一緒に入学した生徒たちもネネを小馬鹿にした態度で、
時には下品きわまりないいじめに遭ったりも。
そのたびに黙っちゃいないネネは相手に暴力をふるい、マリアンヌはそれを理由に退学させようとして……。
 
物怖じしないネネは傲慢に見えるときもあります。
けれど実際のところ、彼女がいちばん才能豊かで踊るのが上手。しかもひそかに練習を重ねています。
いじめに屈しない彼女だけど、あまりの扱いについに弱気になる日が来てしまう。
 
バレエ学校に通わせるのは大変だろうに、一貫して応援しつづける父親が格好いい。
母親も最初はバレリーナだなんてと反対するけれど、入学後は娘を後押しし、守ろうとする素晴らしい家族。
 
オペラ座のバレエ学校ともなると、いま踊れているかどうかのみならず、
どういう骨格の持ち主で将来どういう体型になるかも重視するようで、凄いなぁと思いました。
 
ネネの入学が決まったときに、同じ団地住まいの友人たちが「無理無理。私ら底辺の人間だよ」と言います。
一度帰ってきたネネがそんな友人たちに励まされて一緒に踊るシーンが◯。
ひとりで踊るシーンは圧巻で、おそらく天性のものがあるんじゃないかと思います。
 
これが実話ベースならもっと気分が高揚したと思われますが、実話ではないんですよね。
開かれた場所が増えるといいなぁ。

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『2度目のはなればなれ』

2024年10月26日 | 映画(な行)
『2度目のはなればなれ』(原題:The Great Escaper)
監督:オリヴァー・パーカー
出演:マイケル・ケイン,グレンダ・ジャクソン,ダニエル・ヴィタリス,ジョン・スタンディング,
   ジャッキー・クルーン,ヴィクター・オシン,ウィル・フレッチャー,ローラ・マーカス他
 
TOHOシネマズ西宮にて、前述の『悪魔と夜ふかし』の次に。
 
“Based on a True Story”なんてテロップは出ないのですが、実話が基なのだそうです。
第二次世界大戦後に話題になったバーナード・ジョーダンのこの話、英国では誰もが知っているのかもしれません。
 
英国海軍退役軍人のアーサー・ジョーダンは妻のレネと老人ホームに入所中。
近頃体調が思わしくないレネのことが心配で、アーサーはいつもそばにいるが、
まもなく開催される“Dデイ(ノルマンディー上陸作戦)”の70周年記念式典のことが気になっている。
イギリスからフランスに向けてのそのツアーに参加したいと希望したところ、もう定員いっぱい。
なんとなく諦めきれずにいるアーサーの気持ちを察し、レネが背中を押す。
 
90歳の老人がひとりでフランスへ行くことをホームが許可するはずもなく、早朝にこっそりと出かけるアーサー。
アーサーがいないことに気づいた職員たちは大騒ぎを始め、警察に届け出る。
ただひとり、彼の行方を知るレネがスタッフのアデルに打ち明けたところ、みんなひと安心。
面白がって警察官までもがSNSに「Dデイに出席するために老人ホームから大脱走」と投稿する。
 
騒ぎになっているとはつゆ知らず、ろくに金も持たずに出かけたアーサーは、
空軍の退役軍人ハワード・ジョンソンと親しくなり、同宿させてもらえることに。
退役後は名門私立学校の校長まで務めたというハワードだったが、実は心残りを抱えていた。
ある約束を果たせなかったことを気にしていたアーサーは式典そっちのけでハワードを誘い出し……。
 
戦争で肉体的に傷を負った人は大勢いますが、そうでなかったとしても、心に傷を負わなかった人はいない。
明るく振る舞っていてもフラッシュバックに襲われたり、夢遊病の症状が出たり。
これだけはやっておかなければあの世に行けないとことがそれぞれにあります。
 
レネを演じたグレンダ・ジャクソンは、本作の撮影終了から1年経たずに亡くなり、これが遺作に。
また、アーサー役のマイケル・ケインも同年に俳優としての引退を発表しました。
こんな素晴らしい俳優ふたりだったからこそ、こんな胸を打つ作品になったのだと思います。
 
戦って良いことなんてひとつもない。だけど戦いはなくならない。
思い残すことがないようにできるのかなぁ。

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