夜な夜なシネマ

映画と本と音楽と、猫が好き。駄作にも愛を。

ものの味わい方を観る。〈酒とピラニアの餌〉

2004年10月28日 | 映画(番外編:映画と食べ物・飲み物)
前述の『列車に乗った男』のなかには、
ふたりの男がお互いの人生への憧れを見せるシーンがいくつかあります。

特に好きだったのは酒とスリッパのシーン。

最初はマネスキエからの寝酒の誘いも断っていたミラン。
しかし、やがて食事も一緒に取るようになり、
逆にマネスキエに酒を勧めます。

ミランにハードリカーを勧められ、
「やめとく。おいしくない」と答えるマネスキエ。
これに対して、ミランはこう言います。

「コツがある。
 まず、口いっぱいに含め。
 喉が渇いたときの水のように、
 体中の管に流し、ぬくもりを味わう。
 どうだ?」。

マネスキエは「飲めそうだ」。
このときの幸せそうなマネスキエの顔といったら。
そして、無愛想なミランもこのときばかりは微笑んでいます。

ミランがマネスキエにこんなことを頼むシーンもあります。
「部屋履きを履きたい」。
「足が痛むのか?」とマネスキエ。
「履いたことがないんだ」。

履き心地のよさそうな、高そうなスリッパに
生まれて初めて足を通すミラン。
「どうだ?」と問われて、「いいもんだな」。
履き込めば履き込むほど、
肌の一部になるからと教えるマネスキエ。
そして、やはり、ふたりとも幸せに満ちた表情。

酒の味わい方が出たついでに思い出した映画を。
役所広司主演の『油断大敵』(2003)。
こちらもおそらくまだ新作レンタルの棚にあります。

ダルマの製作所から数十万円とピラニアの餌を盗んだ
柄本明演じるベテラン泥棒。
刑事である役所広司から
「なんでピラニアの餌なんか盗んだんですか」と聞かれ、
「食べたんだ」。

不思議そうな顔で柄本を見つめる役所に向かって、
「ただ食べるんじゃない。
 自分の想像していた味とどうちがうか、
 味わいながら食べるんだ」。

飲むも食べるも、ただボーッと喉を通してちゃいかんってことですよね。
口に入れる前からしっかり想像を働かせ、
喉を通りすぎてゆくのを感じながら、体中でしっかり味わう、
なんて幸せなことでしょう。

ただし、柄本明の台詞には続きがあります。
「そうすると、ひとつの真実が見えてくる。
 ピラニアは味音痴だ」。(^O^;

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『列車に乗った男』

2004年10月26日 | 映画(ら行)
『列車に乗った男』(原題:L'Homme du Train)
監督:パトリス・ルコント
出演:ジャン・ロシュフォール,ジョニー・アリディ他

邦題が「なんとかな女」であるものは、
原題はまったく別であることが多いと書いたことがあります(こちらこちら)。
エロ路線を想像させて販売率or貸出率を上げたいのかもしれませんが、
借りるのを躊躇するようなタイトルとジャケットにするのはやめてほしい。
(「恥ずかしくって借りられない」もご覧ください。)

それに比べて、「なんとかな男」の場合は、
原題もそのままであることが多いんです。
フランスの名匠、パトリス・ルコントのこの作品、
原題は“L'Homme du Train(=列車の男)”。
ちょっとニュアンスを変えたこの邦題は、なかなか作品をうまく表しています。

シーズンオフのリゾート地。
列車を降り立った男がドラッグストアにやってくる。
ぶっきらぼうな様子のその男ミランは、一見して観光客でないことがわかる。
アスピリンを買って、店を出る。

やはり店にいた初老の男はこの街に住むマネスキエ。
狭心症の薬を買いにきたが、在庫切れだと言われる。
ミランとほぼ同時に店を後にする。

マネスキエは、ミランがアスピリンの箱を開き、
「チッ、発泡錠を渡しやがった」と唸るのを聞く。
「水が要るね。うちで飲むかね?」とミランに声をかける。

だだっ広い屋敷に、マネスキエはひとりで暮らす。
久々の話し相手とばかりにミランに語りかけるが、
ミランは寡黙なまま。
アスピリンを飲むと、とっとと出て行ってしまう。

しかし、街の宿はどこも秋季休業中。
仕方なく、ミランはマネスキエの屋敷に舞い戻り、土曜日まで泊めてくれと頼む。
こうして3日間を共にすることとなったふたりの男。

マネスキエは詩をこよなく愛す元教師。
優雅な隠居生活を送っているように見える。
しかし、実際は「バーに姿を現すだけで、女の心を捉える男」になってみたいと願っている。
ミランの外出中に、彼の革ジャンを拝借すると、
鏡の前でワイアット・アープを真似てはおどける。

一方のミランはベテランの銀行強盗。
この街へ来たのもそのためだった。
しかし、マネスキエの暮らしをうらやましく思う。

人生の終わりに差しかかったころに、
こうしてお互いに「なってみたかった男」に出会います。
ラストが現実か夢かと問うなかれ。
シビレます。

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『2046』明日公開につき……ブリーフの似合う人

2004年10月22日 | 映画(番外編:映画と下着)
『2046』が明日公開で、
ワイドショーではもっぱらキムタクばっかり。
これはキムタク主演かとまちがうような扱いですが、
ほんとの主演はトニー・レオン。
私は彼のことを「もっともブリーフの似合う男」と思ってます。

『2046』と同じくウォン・カーウァイ監督の作品、
『恋する惑星』(1994)はふたつの恋の話で構成されています。
それぞれの話の主人公が金城武とトニー・レオンでした。
トニー・レオンはスチュワーデスの恋人にふられて凹む役。
やはり『2046』に出演しているフェイ・ウォンが
そんなトニーに恋する女性を演じています。

それまでに観た香港映画では、
男性が着替えるシーンが出てくると、下着は必ずブリーフ。
そして白が多い。
この作品でもトニーはブリーフを穿いていて、
「香港ではブリーフ以外は穿かんのか?それにしても似合ってる」と、
妙なところに感心したのを覚えています。

そしてこれも同監督の『ブエノスアイレス』(1997)。
昨年、投身自殺を図り、帰らぬ人となったレスリー・チャンと
同性愛関係にある役柄をレオンが演じました。
タイトルどおり、舞台はタンゴの国、アルゼンチン。
アストル・ピアソラの音楽が効果的に使われています。
この作品にはこんな逸話が。
レスリーには以前から同性愛疑惑(じゃなく事実)があり、
冒頭のトニーとの絡みのシーンが嬉しくてたまらんかったようです。
対してトニーは嫌で嫌で仕方がない様子。
映像からなんとなくそれが感じ取れるのが可笑しい。

ビビアン・スーと共演したのが『君を見つけた25時』(1998)。
売れっ子CMディレクター役をトニー、
その彼に抜擢される美少女をビビアン。
とても好きな台詞があって、それについてはこちらに書いてます。

トニー出演の最近の作品でイチ押しは
なんといっても『インファナル・アフェア』(2002)。
ブラピがリメイク権を獲得したことでも話題になっています。
警察の動きをかぎつけるために、
香港マフィアでありながら警察学校に送り込まれたラウと、
同時期、在校中に警視に見込まれて、素行不良での対校をカムフラージュ、
マフィアへの潜入スパイとなったヤン。
ヤン役を演じたトニーは、まるでズタボロ雑巾のよう。
男泣きの逸品です。

キムタクじゃなくて、トニーを見てね。ぜひ。

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泣きのツボ(『スクール・オブ・ロック』追記)

2004年10月19日 | 映画(番外編:映画と音楽)
前述の『スクール・オブ・ロック』を観て、「なんで泣けるん?」と聞かれ、
『ラブ・アクチュアリー』(2003)を観たときも、私が号泣した場面はほかの人とは別。
泣きのツボって人それぞれのようなので、考えてみました。
私の泣きのツボは?
どうも私の場合、音楽が絡むと必ず泣く。

以前、某百貨店の催し物で
スコットランドの伝統音楽、バグパイプの演奏がおこなわれているところに偶然出くわし、
泣きそうになったことが。
演奏者はキルトの衣裳を着たオッチャンばかり。
誰もが微笑ましい表情で演奏を聴いているのに、
なんで私、泣きそうになってるの。

知人の子どもさんが所属する吹奏楽部のコンサートを公園で観たときもなぜか涙が。
ほかに泣いてる人がおらんのに、
サングラスを外してハンカチで涙を拭うのって結構恥ずかしかったりします。
でも、そこに人がいて、音楽が奏でられると、
それだけで胸にググッと迫るものがあるんです。

ただし、映画中で泣くことを強要するような
バックミュージックで盛りあげすぎのシーンはダメ。
作り手のあざとさが見え見えで、一気に冷めてしまう。
「ほら、ここ、泣くとこですよ、どうぞ~」みたいなやつ。
『A.I.』(2001)なんかはそうかも。

『スクール・オブ・ロック』は音楽そのものがテーマでありながら、
大袈裟に音楽が使われず、
でも音楽の虜になる子どもたちがいて、
みんな一生懸命で、「泣け」とは言わない、そこが大好き。
で、結局泣かされてしまう。そんな作品でした。

ついでに、幼い頃、世に数ある習い事のなかで
私が自ら習いたいと言った唯一のものがピアノなので、
ピアノには別格の思い入れがあります。
そのため、ピアノの出てくる映画には無条件に惹かれます。
『シャイン』(1995)、『海の上のピアニスト』(1999)、
『戦場のピアニスト』(2002)など、挙げるとキリがないけれど、
いずれも演奏シーンだけで涙が。

映画とまったく関係のない余談ですが、
“ピアノのきれいな曲を集めてみました”というコピーにつられ、
ミーハーやなぁと思いながら、CD『ピアノ・ソングス』をPart1,2ともに買いました。
「私が死んだら、お葬式でお経の代わりにこの曲をかけてね」と
ダンナに頼んでる曲も入ってます。

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『スクール・オブ・ロック』

2004年10月15日 | 映画(さ行)
『スクール・オブ・ロック』(原題:The School of Rock)
監督:リチャード・リンクレイター
出演:ジャック・ブラック,ジョーン・キューザック,マイク・ホワイト他

チビ、デブ、超むさ苦しい容貌でありながら
映画で主役を張れる俳優がジャック・ブラック。
『愛しのローズマリー』(2001)では、
女性の内面がそのまま外見として映るという催眠術をかけられて、
巨漢の女性がスレンダー美人に見えてしまう主人公が好評でした。

今度の役は、売れないロックンローラー。
デューイはそのダサイ風貌で、
全身全霊を傾けてギターを演奏するため、聴衆は引きまくり。
バンドのメンバーは、彼のテクニックは認めつつも、
熱すぎるデューイのクビを決める。

親友ネッドの家に居候していたデューイだが、
家賃を払わないデューイにネッドの妻はキレる。
出ていくようにと詰め寄られ、「金ぐらいすぐに作ったる!」と逆ギレ。

と、キレてはみたものの、収入を得る予定はなし。
そんな折、ネッド宛の電話をたまたまデューイが取る。
産休などの教師に代わる臨時教員がネッドの仕事。
この日の電話は名門私立小学校の臨時教員の依頼だった。

ネッドが留守なのをいいことに、
給料欲しさにデューイはネッドになりすます。
学校へと出向いたデューイだったが、
そこでは厳しい管理教育のもと、子どもたちがひたすら勉強に励んでいた。

はなから授業などする気のないデューイは
ただボーッと時間を過ごすだけ。
呆れ果てる子どもたち。

しかし、ある日、音楽の授業で、
子どもたちのクラシック演奏を聞いたデューイは度肝を抜かれる。
彼らにロック魂を打ち込めば、
一緒にバンドを結成してコンテストに出場することも可能ではないか。

そう思ったデューイは、子どもたちに「極秘の研究」と信じ込ませ、
校長にも保護者にも内緒のうちにロックンロール三昧の日々を開始する。

製作側は子どもの出演映画にありがちな
「かわいい」要素を徹底的に排除するように努めたとか。
それでもやっぱりかわいいけれど、
確かにありがちな可愛さではありません。
演奏だけでなく、照明や衣裳、護衛担当者まで決めちゃうのもおもしろいし、
ロックの歴史授業もイイ。
ひたすら楽しく幸せな気分に浸れます。

ラスト近くで涙目の私を見てダンナが「なんでやねん」。
ロードショーで観た人にその話をしたら
「私も聞きたいわ。いったいどこで泣くん?」。
こっちが聞きたい、なんで泣かん?

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