夜な夜なシネマ

映画と本と音楽と、猫が好き。駄作にも愛を。

『凶悪』

2013年09月29日 | 映画(か行)
『凶悪』
監督:白石和彌
出演:山田孝之,ピエール瀧,リリー・フランキー,池脇千鶴,白川和子,
   吉村実子,小林且弥,斉藤悠,米村亮太朗,松岡依都美他

劇場にて公開2日前に前売り券を購入済み
封切り日の初回に大阪ステーションシティシネマにて。

ずいぶん前に購入していた原作のノンフィクション『凶悪 ある死刑囚の告発』。
ほかにも読みたい本がありすぎて後回しにしていましたが、
公開には間に合わせようと今月初めに読みました。

著者の宮本太一氏は『FOCUS』や『週刊新潮』を経て『新潮45』編集部へ。
ある服役囚の紹介で、彼が請われて面会することになった後藤良次死刑囚
後藤はすでに死刑がほぼ確定しているにもかかわらず、
それ以外にも自分が関わった殺人事件があり、宮本氏に告白したいとのこと。

どの事件も後藤が「先生」と呼ぶ三上静男なる人物が首謀者で、
自分が死刑になるのは仕方のないことだが、自分が収監されたのち、
面倒を見てやってほしいと先生に頼んでいた舎弟が自殺してしまい、
約束をいとも簡単に破った先生が許せない、
だから宮本氏に事件を調べあげて記事にしてほしいと。

後藤の話を半信半疑で聴きながらも調査を重ね、ひとつひとつを明らかに。
彼の調査が警察をも動かしたくだりまでが淡々と書き綴られています。
文庫版にはさらに裁判の結末までが書き加えられ、非常に読み応えのある本でした。

映画版では登場人物の姓名に仮名が使われ、その他ずいぶんと脚色されています。

山田孝之演じる記者の藤井修一のように、
もともとやる気のなかった取材が上司から振られたわけでもなく、
ピエール瀧演じる須藤純次は舎弟を撃ち殺したわけでもありません。
原作には寂しい思いをする妻も出てこなければ、認知症の母親も登場せず、
この辺りはまったくの脚色なのか、宮本氏本人の話なのかは不明。

こうしたドラマ的要素が加えられたせいなのか、
ノンフィクションが原作だとは思えないほど、作り物っぽさが。
原作の後藤以上に須藤は思いっきりヤクザで、
リリー・フランキー演じる「先生」は、原作では直接手を下せない臆病者のはずが、
須藤に勝るとも劣らない暴力的な人物として描かれています。
被害者を焼却炉に放り込むシーンなど、『冷たい熱帯魚』(2010)そのもので、
こんなにギコギコ切るって聞いてないよぉと涙目になりました。(T_T)

生きて罪を償いたい。そんな言葉がとてもそらぞらしく聞こえて、
原作を読んで多少は理解したかった被告の人柄や真意がわからなくなりました。
死刑の是非を問う作品ではないと思いつつ、
映画版にはそれも含んでいるのかなぁという気が。

本と併せて観るか、まったくのフィクションとして観るか。
いずれにせよ、こんな事件を起こした人間が存在するのは事実。
そこに震えあがらずにはいられません。

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『エリジウム』

2013年09月27日 | 映画(あ行)
『エリジウム』(原題:Elysium)
監督:ニール・ブロムカンプ
出演:マット・デイモン,ジョディ・フォスター,シャールト・コプリー,アリシー・ブラガ,
   ディエゴ・ルナ,ワグネル・モウラ,ウィリアム・フィクトナー,ファラン・タヒール他

封切り日だった先週の金曜日、急にダンナが飲みに行くことになったので、
私は私で仕事帰りにいそいそと109シネマズ箕面へ。

3年半前に観て衝撃を受けた『第9地区』(2009)。
しばらくエビを見れば思いだしてオエッ、困ったという事実はさておき、
ニール・ブロンカンプ監督の大ファンになりました。
2作目となる本作は、顔ぶれも一気にメジャー級に。

2154年、環境破壊で荒廃が進むも人口は増加する一方の地球。
ほんの一握りの途轍もない富裕層だけは、
地球の約400km上空にスペース・コロニー“エリジウム”を築き、
どんな怪我や病気も瞬時に治す医療ポッドまで備え付けて、
何の心配も不自由もない楽園のような生活を送っている。

そんなエリジウムに夢を抱きながら、地球で貧しく暮らす男性マックス。
車の窃盗の腕は一流、何かと目をつけられてはいるものの、
巨大企業の工場でロボットの組み立てに従事し、今は真面目に働いている。

ところがある日、故障した機械を復旧させようとしたところ、
多大な放射能を浴びてしまい、5日で死に至ると宣告される。
生き延びるにはエリジウムへ密入国してあの医療ポッドに入るしかない。

そこでマックスはレジスタンス組織と接触。
組織のリーダー、スパイダーは、エリジウムに潜入するための偽造ID等を渡す代わりに、
革命を起こし得る重要人物の脳内データを奪取せよとマックスに指示。
マックスは決死の覚悟でエリジウムへの潜入を試みるのだが……。

地球が荒廃して貧困層と富裕層に分かれるという設定の作品は、どれもそれなりの面白さ。
この間も『アップサイドダウン 重力の恋人』を観たところだし、
富裕層が悪趣味なゲーム観戦に走る『ハンガー・ゲーム』(2012)なんてのも、
んなアホなと思いつつ、なんだかんだで面白く観てしまう作品です。

本作もそういう意味では別に目新しくはないのでしょうけれども、
南アフリカ出身の監督だけあって、遠景の荒廃した地球が凄絶。
普通のハリウッド映画とはどこか違うように見えます。

最近ちょっと太り気味かと思われたマット・デイモンは、
脱いでビックリの美しく鍛え抜かれた体。
あちこちに電極を繋がれる姿に笑ってしまったものの、
ほぼ無敵の強さが嬉しくなります。

冷酷非情な防衛長官にはお久しぶりのジョディ・フォスター。
偉そうな人物を演じていても、憎々しくは思えないのはこれまでの経歴ゆえか。
早々と死んでしまうディエゴ・ルナも体重を落としたのかスッキリ。
『第9地区』では主人公を演じたシャールト・コプリーが極悪人役で、キモくて怖い。

前作のハチャメチャぶりに比べると、
メジャー級になった分、商業的意識が強まったかなという気がしなくもありません。
死を覚悟して突入するのは『アルマゲドン』(1998)そのものですが、
これは想いを寄せつづけた女性フレイのためでもあり、
全人類に平等を期するためでもあるのはやっぱり南アゆえ。

今後の作品も楽しみな監督です。

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『大統領の料理人』

2013年09月25日 | 映画(た行)
『大統領の料理人』(原題:Les Saveurs du Palais)
監督:クリスチャン・ヴァンサン
出演:カトリーヌ・フロ,ジャン・ドルメッソン,イポリット・ジラルド,
   アルチュール・デュポン,ジャン=マルク・ルロ,アルリ・ホベール他

3本ハシゴの3本目、梅田ガーデンシネマにて。

この日のハシゴはこれが本命。絶対観たいと思っていた1本です。
ただ、予告編から軽めのコメディを想像していたら、
もっと真面目でしんみりさせられる話でした。

20世紀後半、フランスはミッテラン大統領の時代。
片田舎で農場を営む中年女性料理人のオルタンス・ラボリは、
ある日突然、パリのエリゼ宮(=大統領官邸)より呼び出しを受ける。

オルタンスには何が何だかよくわからないが、
かつて名刺交換をしただけのジョエル・ロブションの推薦により、
大統領専属の料理人に抜擢されたのだと言う。
自分には素朴な料理しかつくれない、そんな大役はとても無理だと断るが、
大統領が望むのはまさにそんな料理だと請われ、引き受けることに。

パリへ引っ越してきたオルタンス。
補佐として彼女に付くパティシエのニコラと給仕長のジャンは非常に協力的だが、
主厨房を通れば彼女を見下した態度がありありの料理人たち。
前途多難とおぼしきなか、オルタンスの料理に大統領は魅入られた様子。
彼女は自分の信念を曲げることなく料理に臨むのだったが……。

終始パリが舞台かと思いきや、最初は南極基地のシーンから。
オーストラリアから取材にやってきた記者とカメラマンが、
男だらけの中に女性料理人がいるのを発見、興味を持ちます。
彼女がかつて大統領の料理人であったことを知って取材を試みますが、
オルタンスは過去の話はしたくないのかつれない態度。
その時点で、大統領の料理人時代に苦い思い出があったことがわかります。

いくら大統領が彼女の料理を気に入っても、形式や規律を重んじる世界。
大統領の健康を気遣う料理を出すように細かく指示されたり、
食材の高さを指摘されたり、知人から食材を買ったことを非難されたり。
信念と熱意だけではやり通せなかった無念が滲みます。

南極基地の食事のシーンで思い出すのは、もちろん『南極料理人』(2009)。
思うように食材が手に入らないこんな場所で、
食事を楽しみにする仲間たちのために料理をして、
みんなから愛され、自信を取り戻すのがいいですね。

ちなみに、好感度抜群の給仕長役のジャン=マルク・ルロは、
ブルゴーニュのワイン醸造所の本物のオーナー。
作品中ワインの相談をするソムリエールはこれまた彼の本当の奥様だそうです。
料理やワインの話がより生き生きとしたものになったのは、
このふたりのおかげもあるのかもしれません。

オルタンス役のカトリーヌ・フロはあいかわらず素敵なおばさま。
何回でも観たくなる『女はみんな生きている』(2001)のせいで、
彼女を見ると反射的にフロマージュ・ブランが頭をよぎります。

カリッとトーストしたパンにバターを塗って、山盛りのトリュフ
数々のおいしそうな料理のなか、これがいちばん旨そうでした。
美味しいごはんで元気に。

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『劇場版 あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』

2013年09月23日 | 映画(あ行)
『劇場版 あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』
監督:長井龍雪
声の出演:入野自由,茅野愛衣,戸松遥,櫻井孝宏,早見沙織,近藤孝行他

新梅田シティに車を駐め、大阪ステーションシティシネマで前売り券を買い、
TOHOシネマズ梅田で前述の『サイド・エフェクト』を観て、またまた新梅田シティへ。
ハシゴの2本目はシネ・リーブル梅田にて。

2011年にフジテレビ系深夜枠で放映された大人気アニメの劇場版なのだそうです。
そんなことは全然知らず、観に行く気などさらさらなかったのですが、評判がよさそう。
「手紙」がキーになっている物語との噂に、勝手に『恋文日和』(2004)のような作品を想像。
いまだ携帯を持たず、電話よりも手紙派の私としては俄然観てみたくなり。

んが、結論から言って、まったく好みではありませんでした。
今年は『さよならドビュッシー』『リアル 完全なる首長竜の日』『100回泣くこと』と、
前代未聞、唖然呆然の作品をすでに3本も観てしまっていますが、
「途中で帰りたくなった度」では、本作は『100回泣くこと』に匹敵。

TVドラマを観ていない人にはわかりにくいかもという説もありますけれども、
その点についてはさほどややこしくありません。
劇場版に至るまでの話を私が理解したところによればこんな感じ。↓

小学校時代からの男女仲良し6人組“超平和バスターズ”がいて、
そのうちの1人、本作の主人公で通称“めんま”という女の子が死んでしまう。
彼女の死に胸を痛めたまま成長し、高校生になった5人。
やがて、めんまと両想いだった通称“じんたん”のもとへ、めんまの幽霊が現れるように。
めんまにはどうしても叶えたかった願いがあり、それが叶えられないうちは成仏できない
めんまの願いが何なのかヒントはあるはず、5人は思い出そうと努める。

で、劇場版に。

“超平和バスターズ”の秘密基地だった小屋へ5人は集合、
じんたんがめんまの幽霊を背負って駆けつけるシーンからスタート。

話は何日か前に戻って、集合する日までに5人はそれぞれめんまに宛てた手紙を書くことに。
今はじんたんにしか見えないめんまの幽霊。
ほかの4人もめんまよ姿を見せてくれと願い、めんまに伝えたかったこと、
伝えておかなくてはならないことを書き綴ろうとします。

悪い話ではないと思うのですが、とにかくまずめんまの声が受け入れがたし。
いわゆる萌える声なのでしょうけれども、
ほかの5人がそれなりに高校生らしい声なのに対して、
めんまひとりがまるで小さな子どものような声。
しかも、彼女のみ、「めんまね、めんまね」と自分のことを「めんま」と言い、
泣きモードであれこれ言いつのる様子が私にはムリッ。

観はじめた瞬間、私の頭のなかをよぎったのは、辻村深月の小説の世界。
私、がんばってるんだよ、私、かわいそうでしょ、そんな感じが全開でイタイんです。
ただ、辻村深月の場合は、そのイタさにイライラしつつも読まされて、
最後の仕掛けに涙が噴出なんてことが多いのですが、本作はそうは行かず。
途中5分ほど寝ました。(^^;

主人公のキャラと声が苦手だと、こんなにも話に入って行けないなんて。
なんぼアニメでも、普通の声と話し方のほうがいいなぁ。特に日本のアニメでは。
やっぱり新海誠監督の作品が個人的にはベストです。

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『サイド・エフェクト』

2013年09月21日 | 映画(さ行)
『サイド・エフェクト』(原題:Side Effects)
監督:スティーヴン・ソダーバーグ
出演:ジュード・ロウ,ルーニー・マーラ,キャサリン・ゼタ=ジョーンズ,
   チャニング・テイタム,アン・ダウド,ヴィネッサ・ショウ他

友だち3人と昼間から呑むために休みを取っていた日、
諸般の事情でうち2人が来られなくなり、延期決定。
というわけで期せずしてフリーとなったのは映画の割引は何もない木曜日だけれど、
手持ちのチケットやメンバーズカードを駆使することに。

あまり劇場へ足を運べない日が続いていたので、観たい作品が目白押し。
観られる可能性のある作品をすべて書き出し、車で梅田へ。
ぎりぎりまでどれにするか迷い、とりあえず新梅田シティの駐車場へ。

そこからスタコラ歩いて、まずは大阪ステーションシティシネマへ。
本日公開の『凶悪』の前売り券を購入するためだけに寄り、
それからTOHOシネマズ梅田にて、自宅近くでは上映していない本作を鑑賞。

スティーヴン・ソダーバーグ監督最後の劇場映画という触れ込みですが、
本当にもう撮らない気なのかともったいなく思うほどおもしろい。

望むものをすべて手に入れ、夢のような暮らしを送っていた女性エミリー。
しかし、最愛の夫マーティンがインサイダー取引で捕まり、状況が一変。
エミリーは鬱病に苦しみ、マーティンが出所してすぐに自殺を図る。

エミリーを診察した精神科医ジョナサンは入院を勧めるが、
夫に心配をかけたくない彼女は、ちゃんと診察に通うことを約束して退院。
約束どおり週に数度診察に訪れるようになったエミリーは、
どの薬も効かないから新薬アブリクサを試してみたいと言う。

ところが、アブリクサを処方されてから、エミリーは夢遊病を発症。
帰宅したマーティンに夢遊の状態でナイフを突き立て殺してしまう。

目覚めたエミリーは自ら通報、刺殺には覚えがない。
しかし、ナイフにはエミリーの指紋だけ。殺人容疑で逮捕される。
彼女は殺人者か、はたまた薬の被害者か。
窮地に追い込まれたジョナサンは、独自の調査をはじめるのだが……。

観に行くご予定のある方はこの先を読まないでください。

手の湿疹のことで読んだ本に、医師がステロイドを否定してしまうと、
病院経営が成り立たなくなると書いてあったのを思い出します。
新薬を患者に処方することで、医師は金を貰う。
ジョナサンは善意の人と見えて、そういった状況もきちんと患者に説明します。
あなたに処方することで私は製薬会社から金を貰います。それでもいいですかと。
私は金を貰うけれど、あなたは薬代を払わなくて良いのですと言われたら、
そうしますということになりますよね。

そんな話も絡めつつ、しかし、本作で怖いのはとにかく女。
新薬の副作用で犯罪が起きたと見せかけ、株で儲ける女医ヴィクトリア。
ヴィクトリアの話に乗って鬱病のふりを完璧にこなすエミリー。
この2人のレズシーンはやりすぎやろと笑いましたけれども。

『ドラゴン・タトゥーの女』(2011)のリスベット役もハマっていたルーニー・マーラは、
めちゃ可愛い顔をしているだけに、そのしたたかさが余計に怖い。
いいところは何もなし、あっけなく殺されてしまうチャニング・テイタムは、
同監督の『マジック・マイク』つながりの友情出演というところでしょうか。

男が嘘をつくことを覚えるのと同じように、女は騙すことを覚えると。
嘘をつくのと騙すのと、同じようで同じじゃないのかなぁなんて思いつつ。
嫌な話ではありますが、いやはや、おもしろかったです。

そういえば、ジュード・ロウ演じるジョナサンが連続勤務のお疲れ時に飲んでいたのは、
やっぱりレッドブルでしたね。
まるで寝不足で映画をハシゴするときの私のようです。(^^;

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