夜な夜なシネマ

映画と本と音楽と、猫が好き。駄作にも愛を。

『マンデラ 自由への長い道』

2014年05月31日 | 映画(ま行)
『マンデラ 自由への長い道』(原題:Mandela: A Long Walk To Freedom)
監督:ジャスティン・チャドウィック
出演:イドリス・エルバ,ナオミ・ハリス,トニー・キゴロギ,リアード・ムーサ,
   リンディウェ・マチキザ,ジス・ドゥ・ヴィリエ,ファナ・モコエナ他

『映画 闇金ウシジマくん Part2』の前売り券を買ってあるのに、
次から次へと観たい映画が出てくるものだから、なかなか行けない。
上映回数の多い間に行っておかなくてはと、平日に休みを取って映画のハシゴ。
このところ、有休はすべて映画を観るために使っています。
そしてその日はいつも、仕事に行くよりも早く家を出ているという……。

ウシジマくんを観る前に、9:00上映開始の本作をTOHOシネマズ梅田にて。
イギリス/南アフリカ作品で、U2のボノが本作のために書き下ろした主題歌が話題になっています。

1918年、南アフリカに生まれたネルソン・マンデラ。
ヨハネスブルグで法律を学んだ彼は、盗みの疑いをかけられた黒人メイドを弁護。
法廷では皮肉を込めた発言で女主人を怒らせて退席させ、
訴えそのものを棄却に持ち込むという鮮やかな手腕を発揮する。

その様子を見た非合法組織“アフリカ民族会議(ANC)”のメンバーは、
自分たちの組織にはネルソンの力が必要だと考える。
白人からボーイ呼ばわりされても相手にせず、
白人よりも賢く金持ちになればいいんだと言いきるネルソンは、
ANCの勧誘に乗ろうとしなかったが、彼らのデモを見て考えを変える。

ウォルター・シスル、アーメド・カスラダ、ターボ・ ムベキなどとともに、
ネルソンは人種隔離政策“アパルトヘイト”の撤廃を目指して尽力。
最初の妻エヴリンとの結婚生活が破綻したあと、黒人初の民生委員ウィニーと再婚。

やがて、非暴力主義に限界を感じたネルソンは、武装闘争に身を投じる。
そのせいで、再婚後わずか数年にして逮捕され、終身刑を言い渡されるのだが……。

この手の作品は、いつものことながら良い悪いとは言えません。
歴史について学ぶ機会で、こんなことがあったんだなぁと思うばかり。

ネルソンの逮捕後、代わりに黒人たちの指揮を執り始めたウィニーは、
獄中でやはり暴力に走ってはいけないと考え直すネルソンとちがい、
白人に対する憎悪を露わにします。その結果、黒人同士の争いも勃発。
南アは人種差別により潰れるだろうと世界中から言われました。

とても印象に残っているのは、豪華な「監獄」へ移送されたネルソンが、
孫たちが白人看守を揶揄するしぐさを見て、
そんなことをしてはいけない、人には敬意を払えと教えるシーン。
後のシーンでも、復讐心でいっぱいの黒人たちに、赦すことを解きます。

収監からずっとネルソンの看守だったのはジェームズ・グレゴリーでしたね。
『マンデラの名もなき看守』(2007)を思い出しました。
同じ国で生まれ暮らす白人なのに、なぜにこうも異なるのか。
差別をするように教育されることの恐ろしさを感じます。

肌の色のちがいだけで生まれつき差別する人間はいない。
憎しみは生きているうちに覚えるもの。
ならば愛も学べるはず。愛のほうが、ずっと自然な感情なのだから。

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『アタック・オブ・ザ・50フィート・チアリーダー』

2014年05月30日 | 映画(あ行)
『アタック・オブ・ザ・50フィート・チアリーダー』(原題:Attack of the 50ft Cheerleader)
監督:ケヴィン・オニール
出演:ジェナ・シムズ,ショーン・ヤング,トリート・ウィリアムズ,サーシャ・ジャクソン,
   ライアン・メリマン,オリヴィア・アレクサンダー,A・J・ラマス他

50フィート=15メートルちょい。
そんなデカいチアリーダーだというだけでそそられません?(笑)

低予算映画の帝王ロジャー・コーマンが製作に当たった超B級作品。
“未体験ゾーンの映画たち 2014”で公開されたときに気になっていましたが、
時間が合わずにDVD化待ち。GW中にレンタル開始となりました。

大学院で科学を専攻するキャシーは、母親の願いでもあるチアリーダーになるのが夢。
意気揚々と入部テストを受けるが、顔にいくつかある大きなニキビと身体能力の低さゆえ不合格に。

どこへ行こうが大学の花形であるチアリーダー部員の言うことがすべて。
特にキャプテンのブリタニーには誰も逆らえず、
キャシーら新入生は女子寮でもとことんいびられる。

美しくなってチアリーダーに。
そう考えたキャシーは、一緒に研究を重ねてきたカイルの目を盗み、
実験段階にあった新薬を自分に注射する。

すると驚くべきことに、翌朝キャシーの顔からはニキビが消え、
スラリとした脚に巨乳のスタイル抜群、みちがえるほどの美人に変身。
男子も女子もみんなが注目するなか、身体能力までアップした彼女は、
ブリタニーが次々と繰り出す意地悪な課題を難なくクリア。

ブリタニーを除くチアリーダー部員がキャシーの入部を切望。
晴れてチアリーダーとなったキャシーだったが、
薬の副作用で次第に体が巨大化しはじめて……。

まったくどこまでおバカなんだというぐらいおバカです。
最初はちょこっとデカイぐらいだったのが、やがて15メートルに。
15メートルというと、5階建てか6階建てのビルぐらいの高さですからね。
そんなデカイ女がのしのしと駆けずり回るんです。

それに張り合おうとブリタニーがカイルに迫り、
手元が狂ったカイルがブリタニーの両乳首に注射してしまってブリタニーも巨大化。
最後はアメフトの試合中にグラウンドに乗り込んだキャシーとブリタニーが対決。
こんなデカ女ふたりがもつれてオッパイ丸出しになっても
色っぽくもなんともないっちゅうの。

ロジャー・コーマンも顔を出しているほか、
ジョン・ランディスサム・ライミの弟テッド・ライミも出演。
みんな好きなんですねぇ、こんなバカ映画が。

『ブレードランナー』(1982)が懐かしいショーン・ヤングがキャシーの母親役で出ています。
キャシー役のジェナ・シムズ、これからどうなるのかわかりませんが、
『アタック・オブ~』と聞くと必然的に思い出すのは『アタック・オブ・ザ・キラートマト』(1978)。
その続編『リターン・オブ・ザ・キラートマト』(1988)に出演したジョージ・クルーニー
出演をなかったことにしたがっているように、
彼女も本作への出演をなかったことにしたくならないように祈ります。
いや、なかったことにしたくなるほど今後売れるのが最良なのか。

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『ディス・イズ・ジ・エンド 俺たちハリウッドスターの最凶最期の日』

2014年05月28日 | 映画(た行)
『ディス・イズ・ジ・エンド』(原題:This is the End)
監督:セス・ローゲン,エヴァン・ゴールドバーグ
出演:ジェームズ・フランコ,ジョナ・ヒル,セス・ローゲン,ジェイ・バルシェル,
   ダニー・マクブライド,クレイグ・ロビンソン,マイケル・セラ他

GW中にDVDレンタルが開始された2013年のアメリカ作品で、日本では劇場未公開。
あまりにバカバカしく、かつ、そこそこ楽しかったのでご紹介。

監督はセス・ローゲン
彼と共演者ジェイ・バルシェルの二人芝居による2007年の短編を長編化したそうな。
ハリウッド俳優たちが全員実名そのままで登場するところからワラけます。

ロサンゼルス空港でセス・ローゲンがジェイ・バルシェルの到着を待っている。
セスに気づいた周囲の人々から、「いつも似たような役ばっかりやってるけど、
いつになったら本気で演技するんだ」とやじられつつ。

やがて旧友ジェイが到着。セスはジェイを自宅へ案内。
この日のためにジェイのお気に入りものを満載した部屋に、ジェイは大喜び。

夜になり、セスはジェームズ・フランコの新築祝いへ出かけようと言う。
ジェームズのことが嫌いなジェイは拒否するが、
決してジェイを独りにしない、ずっと一緒にいるからとセスが約束、
新築祝いパーティーまっただ中のジェームズ邸へ。

近所にチャニング・テイタムも住んでいるという“セクシー通り”にたたずむ、
おまえは麻薬王かと言いたくなるようなジェームズ邸。
パーティーにはジョナ・ヒル、クレイグ・ロビンソン、ダニー・マクブライド
マイケル・セラエマ・ワトソンデヴィッド・クラムホルツ
クリストファー・ミンツ=プラッセリアーナポール・ラッドなどなど。

この雰囲気には馴染めない、そう感じたジェイは、
セスにつきあわせて数ブロック離れた店へタバコを買いに。
そのとき、大きな地震のごとく地面が揺れ、青い光が走る。
店内にいた大勢がその光に吸い込まれ、空に昇って行くではないか。

あわててジェームズ邸へ戻るセスとジェイ。
邸内は何事もなかったようにパーティーが続いていたが、すぐに同じ揺れに襲われ、
外へ飛び出した客たちが今度は地面に開いた穴に吸い込まれる。

なんとか逃げることに成功してジェームズ邸に集まったのは5人。
ジェームズ、セス、ジェイ、ジョナ、クレイグ。
正体不明の敵に入ってこられぬように扉や窓を塞ぎ、
邸内にある食糧でどう生き延びるかの算段を始める。

嫌いな奴がいても、上っ面だけは友好的な関係を保っていたはずが、
泥酔してバスタブで眠っていたダニーが登場。
5人の計画を台無しにする行動に出たものだから、みんなぶちキレて……。

無茶苦茶です。かなり下品。でも笑えます。

映画や俳優ネタもてんこ盛り。たとえばこんな感じ。
・セスがジェイのために用意したパイプは「ガンダルフのパイプ」。
 ガンダルフ役のイアン・マッケランが同性愛を擁護するなんて話も。
・ジョナ・ヒル曰く、緊急時には著名人から救助されるものだから、
 自分はジョージ・クルーニーとサンドラ・ブロックの次に救助される。
・食糧以外にジェームズ邸で見つかったもののなかにビデオカメラが。
 「『27時間』で使ったカメラだろ」と言われて、「『127時間』(2010)だよ」。
・同じくジェームズ邸には『フライボーイズ』(2006)で使ったという銃も。
・セスとジェイの会話には『スモーキング・ハイ』(2008)の続編を作る話が登場。
 そのなかでウディ・ハレルソンを殺す計画を練る。
・『スーパーバッド 童貞ウォーズ』(2007)のスタッフが送る『128時間』はどうだという案。
・ジェームズがリンジー・ローハンと寝たことがあると告白。
 同じホテルに宿泊したさい、クスリでハイになったリンジーが、
 ジェームズをジェイク・ギレンホールとまちがえて寝たらしい。

……とこんな感じです。

その後どうなるのかといえば、ダニーはみんなに非難されて出て行く。
ジョナは悪魔に取り憑かれ、ジェイが『エクソシスト』(1973)を真似て悪魔払い。
しかしそれも功を奏さず、残った4人はジェームス邸から脱出。
そこへ巨大なモンスターが現れて、自ら囮になって立ち向かったクレイグは、
絶命寸前にあの青い光に召されて天国へ。

心を入れかえて善人になれば天国へ行けるとわかった残り3人。
輩を引き連れたダニーにはジェームズが立ち向かうが、なぜかジェームズは地獄へ。
残ったのはセスとジェイただ2人。
ジェイは今までの自分を心から詫び、青い光到来。
セスと手を繋いで一緒に天国へ召されようとするも、セスは無理っぽい。
もう駄目だぁというときにセスの純粋な告解も神に通じて天国へ。

天国では天使となったクレイグに迎え入れられ、
どんな願いも叶えられると教えられたジェイが神様にお願いしたのは、
バックストリートボーイズの登場なのでした。
エンドロールではブラック・サバスの曲もかかります。

よくもみなさんこんな作品に出演したものだと思いますが、
これはセス・ローゲンに人徳があるということなのでしょうね。

SMちっくな格好をしてダニーの腰にむしゃぶりついていたチャニ様、
あなただけは出演を断ってもよかったような。

〈追記〉1984年に開館し、5月31日に30年の幕を閉じる吉祥寺バウスシアターにて、
   “THE LAST BAUS~さよならバウスシアター、最後の宴”が現在開催中。
   最終日に本作が上映されるようです。

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『青天の霹靂』

2014年05月27日 | 映画(さ行)
『青天の霹靂』
監督:劇団ひとり
出演:大泉洋,柴咲コウ,劇団ひとり,笹野高史,風間杜夫,柄本佑他

天気が良すぎて暑かった封切り直後の日曜日、
午後2時から箕面のメイプルホールで友人が所属するマンドリンクラブのコンサート。
友人といっても私よりかなり年上、還暦を過ぎて何年にもなる人。
にもかかわらず、その人のお母様と私の母が40年前に同じパン教室にかよっていたと知ったときは、
なんたる世間の狭さよと驚き呆れ、嬉しくなったものです。

という話はさておき、コンサートの前に映画を1本観たい。
伊丹へ行けば、同日まで伊丹郷町館にて開催中の『戦火を逃れた花嫁衣裳展』も観られる。
TOHOシネマズ伊丹へは川西能勢口経由でJRを利用するほうが楽だけど、
阪急で行けば、STACIA PiTaPaの“電車に乗って映画を観に行こう”のキャンペーン中。
300ポイントを貰うために歩いてみるかということで。それにしても暑いがな。(--;

ちょうど40年前にタイムスリップする話で、なんとなくこの日に観るのはタイムリー。

四十路目前の独身男・晴夫(大泉洋)は売れないマジシャン。金もない、女もいない。
さびれたマジックバーに勤め、居眠りする客の前で今日も手品。
後輩がテレビで活躍する姿をみじめな気持ちで見つめている。

そんな晴夫のもとへ、絶縁状態にあった父親・正太郎(劇団ひとり)の訃報が届く。
ホームレスとなっていた正太郎は、河川敷で死んでいたらしい。
警察から呼び出されて遺骨を引き取った晴夫は、正太郎が住みついていた河川敷へ。
青空のもと立ち尽くしていると、突然の雷に打たれる。

目覚めた晴夫はなんと40年前の浅草にタイムスリップしていた。
途方に暮れる彼が行き着いたのは演芸場の雷門ホール。
雇ってもらえないかと支配人(風間杜夫)に飛びつくと、
誰に芸を習ったでもないという晴夫のことなど使えないと言う。
そこで、スプーン曲げをやって見せる晴夫。
ユリ・ゲラーが世間を騒がす以前のこと、ステージに立たせてもらえることに。

しゃべりの苦手な晴夫とコンビを組むのは悦子(柴咲コウ)。
ところが悦子の具合が悪くなり、出演できそうにもなくなった日、
数日間行方知れずだった悦子の夫が戻ってくる。
悦子に代わって晴夫とともに出演するという夫に会ってびっくり、それは正太郎で……。

ベストセラーとなった『陰日向に咲く』と同じく、これも原作は劇団ひとりの小説。
映画化を他人に預けた前作が気に入らなかったのかどうかはわかりませんが、
本作は劇団ひとり自らがメガホンを取った監督デビュー作。

まず96分という尺の短さに好感が持てます。
無駄に笑いを取ろうとしたり泣かせようとしたりすることなく、コンパクトに。
それでいて、晴夫と正太郎のコントのごときマジックは楽しくて、
観客の間でも大ウケしていました。

ろくでなしの父親がほかに女をつくったせいで、
母親は自分を産んですぐに出て行ってしまったと聞かされていた晴夫。
こんなみじめな人生を送っているのは両親のせいだと思っていたのに、
そうではなかったと知ってしまいます。
正太郎がラブホテルの清掃人になった理由をボソッと言うときなど、やっぱり涙。

大泉洋、柴崎コウ、劇団ひとり、いずれも○。
笹野高史はすっとぼけた産婦人科医、柄本佑もマジックバー店員としてちらりと。
プロマジシャン、ナポレオンズのパルト小石が出ているのも楽し。
昭和の雰囲気を満喫できます。

あなたが、私の生きる理由。

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『わたしはロランス』

2014年05月26日 | 映画(わ行)
『わたしはロランス』(原題:Laurence Anyways)
監督:グザヴィエ・ドラン
出演:メルヴィル・プポー,スザンヌ・クレマン,ナタリー・バイ,モニア・ショクリ,
   スージー・アームグレン,イヴ・ジャック,ソフィー・フォシェ他

3年前までは劇場で鑑賞する本数はせいぜい60本程度だったはず。
それが、あることがきっかけで2012年から150本前後を劇場で観るように。
で、劇場で観たものを優先してここにUPしていたら、
かつてのようにはDVDで鑑賞した作品をUPするひまがなくなりました。
劇場未公開でおもしろかった作品はできるだけ紹介したいけれど、
劇場公開された作品については年末の「今年観た映画50音順」まで出番なしだなぁと。

しかし、これは別。ちょっと衝撃的でした。
昨秋公開された2012年のカナダ/フランス作品で、4月25日よりレンタル開始。
168分と長尺ゆえレンタルを躊躇していましたが、観てよかった。
劇場で観なかったことがこんなに悔やまれたのは『灼熱の魂』(2010)以来。

国語教師ロランスは、物腰やわらかく機知にも富むイケメンで、生徒たちの間で人気者。
一緒に暮らす恋人フレッドのことをこよなく愛し、よい関係を築いている。

そんな彼には、フレッドにも隠しつづけてきた秘密がある。
それは、自分の心は女であり、男の体は間違いだと思っている、
つまり性同一性障害であるということ。

30歳の誕生日を迎えた日、ついにそれをフレッドに打ち明けるロランス。
ゲイであることをなぜ黙っていたのかと憤るフレッドに、
ロランスは、これはゲイとは別のものであると懸命に話す。

一旦飛び出したフレッドだったが、ロランスを愛する気持ちは変えられない。
彼がこれから女として生きていくために協力すると決める。
以降、ロランスは学校にも女性の格好で出かけるのだが……。

監督のグザヴィエ・ドランは25歳、ゲイ。
『マイ・マザー』(2009)で自ら主演して監督デビューを飾ったときには
まだ19歳だったというのですから驚きです。
本作は第65回カンヌ国際映画祭のクィア・パルム(セクシュアル・マイノリティをテーマにした作品に与えられる賞)受賞作。

1989年生まれの監督が本作の舞台として設定したのは、
現在ほど性同一性障害が認識されていなかったであろう1989年から1990年代初めのカナダ。

ロランス役のメルヴィル・プポーが美形なのに比べると
フレッド役のスザンヌ・クレマンは特徴的な容姿なのですが、
愛した男性から唐突に「自分の心は女だ」と告白されて苦しむ女性を見事に演じています。

性同一性障害については私はまだまだ無知で、理解しがたいところも多い。
心は女だと言うロランスが愛するのは女、
だけど性的には男で、男として行為に及ぶ。
それゆえフレッドが離れられない部分もあると思っていいのでしょうか。

女装をする息子を受け入れられるはずもない父親に対して、
ナタリー・バイ演じる母親ジュリエンヌは凄い。
母親に打ち明けたロランスが「もう愛してくれない?」と尋ねると、
「女じゃなくて、バカになっちゃったの?」と笑うジュリエンヌ。
また、引っ越しを決めたジュリエンヌは、「私は住所を変える。あなたは性別を変える」と、
たいしたことじゃないわよと言わんばかり。
「あなたは昔から息子じゃなかった。娘のような気がしてた」という台詞も実にいい。

ロランスやフレッドの心情を表すシーンにも惹かれます。
ソファに座って放心状態のフレッドが滝のような水をかぶったり、
色とりどりの布地が華やかに飛び交ったり、枯れ葉が吹雪のごとく舞ったり。

原題の“Laurence Anyways”はラストシーン、ふたりの出逢いのときの台詞。
こんな素敵な出逢いかたをしたら、忘れたくても忘れられない。
……ナンパのひとつに過ぎないけれど。(^^;
切なさで胸がいっぱい、悲しくて悲しくて、涙がこぼれました。

『チョコレートドーナツ』と併せて観たい1本。
その想い出を胸に、生きてゆく。

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