夜な夜なシネマ

映画と本と音楽と、猫が好き。駄作にも愛を。

『千年医師物語 ペルシアの彼方へ』

2016年01月30日 | 映画(さ行)
『千年医師物語 ペルシアの彼方へ』(原題:The Physician)
監督:フィリップ・シュテルツェル
出演:トム・ペイン,ステラン・スカルスガルド,オリヴィエ・マルティネス,
   エマ・リグビー,エリアス・ムバレク,ベン・キングズレー他

数カ月に一度、わが家でどうしても食べたくなるのが
西宮の“淡路島バーガー”のハンバーガーと桃谷の“たわら”のとんかつ弁当。
水曜日に休みを取り、前日の夕方、まずはたわらにお弁当を予約。
その時間に合わせてどこかで映画を観ることに。
いつでも安く観られる劇場に行くのはもったいない。
レディースデーを活用すべく、なんばのシネコンでハシゴする3本を検討。

桃谷から電車でお弁当を持ち帰るのも嫌だから、やっぱり車で。
なんばに行くときは日本橋のタイムズに駐めるのが常だったけど、
平日ならばなんばパークスは最大料金1,000円だと知ってから
なんばパークスの駐車場を愛用しています。
新御堂筋が渋滞していたら何時に着けるかわからないので、
とりあえずこの日観たい2本目と3本目だけオンライン予約。
1本目の候補として数本メモして、どれを観るかは到着時間次第。
結果、最も早い時間からの上映で、いちばん観たかった本作に間に合いました。
なんばパークスシネマにて。

アメリカ人作家ノア・ゴードンの同名小説が原作。
この原作は、アメリカではさほど売れなかったのに、ヨーロッパでベストセラーに。
『アイガー北壁』(2008)のドイツ人監督フィリップ・シュテルツェルによる映画化です。
イスラムが生み出した最高の知識人と言われるイブン・スィーナーが登場しますが、
史実に基づく作品として観るよりもフィクションとして観るべき作品のよう。
大画面で観るのが楽しい、一種の冒険ものとも言えます。

11世紀のイングランド
キリスト教の世界では医療行為が神への冒涜とみなされ、医者は存在しない。
病に罹った人は旅回りの理髪師に診てもらうよりほかない。
理髪師は妖術使いとして、痛みを伴う歯を抜いたり指を切断したりして銭を稼ぐ。

少年ロブは、脇腹の痛みに悶え苦しむ母親を理髪師に診せようとする。
しかし、理髪師を家に連れ帰ってみると、すでに母親の枕元には神父が。
母親を救えるのは神のみだという神父に逆らえず、そのまま母親は死亡。
翌日、ロブの幼い弟妹は村の別家族に引き取られるが、ロブはひとり取り残される。
神父に相談しても冷たい返事しかなく、ロブは理髪師を頼る。

迷惑顔の理髪師だったが、孤児になったロブを追い返せない。
ロブは理髪師とともに旅をするようになり、やがて青年に。
医術を学んで、母親のように病気に苦しむ人を救いたいと願う。

ロブは理髪師の行為こそが医術だと信じて疑わなかったが、
あるとき理髪師の目が見えなくなる。
ユダヤ人の村には治療してくれる医者がいると聞いて行ってみると、
理髪師の病は白内障だとわかり、手術でみごとに視力を取り戻す。

これこそ自分が求めていた医術。
もっともっと学びたいと、ロブは高名な医師イブン・シーナがいるという
ペルシアのイスファンを目指して旅立つのだが……。

イブン・シーナ役には『ザ・ウォーク』のパパ・ルディ役もよかったベン・キングズレー
素晴らしい俳優ですね。この人がいなくなったら、とても悲しいかも。
ロブ役にはトム・ペイン。この役に関しては小栗くんよりもタイプ(笑)。
色気もあって、もっといろいろ出演してほしいところ。
理髪師役にはステラン・スカルスガルド。いい加減だけど善人で、涙を誘います。
イケてる暴君、見たことあるけど誰だっけと思ったらオリヴィエ・マルティネスでした。

イランを貶める、史実に反した軽率な作品との評価もありますが、
フィクションの冒険ものとして観る分には私は好きでした。

医術の進歩にはさまざまな人が関わり、想像できないほどの苦労があったはず。
作品中、黒死病(=ペスト)が流行した折りに、逃げ出す政治家が多いなか、
医師たちは最後まで現場に残ってひとりでも多くの患者を救おうとしました。
救命の手段がない患者にも命を賭ける医師たち。
その姿には国境も宗教もないはず、と思うのは甘いですか。

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『ザ・ウォーク』

2016年01月28日 | 映画(さ行)
『ザ・ウォーク』(原題:The Walk)
監督:ロバート・ゼメキス
出演:ジョセフ・ゴードン=レヴィット,ベン・キングズレー,シャルロット・ルボン,
   ジェームズ・バッジ・デール,クレメント・シボミー,スティーヴ・ヴァレンタイン他

寝不足のところを25分かけて109シネマズ箕面まで歩いたせいで、
疲れて眠ってしまうかと思いましたが、
『信長協奏曲(のぶながコンツェルト)』は楽しかったのでセーフ。
本作はちょっと睡魔に襲われるかもしれない危険を感じながらIMAX3D版を鑑賞。

第81回アカデミー賞で長編ドキュメンタリー映画賞を受賞した『マン・オン・ワイヤー』(2008)。
それこそいつ眠くなっても不思議はない作品だったのですが、
こんなことを試みるイカレタ人物がいたという事実が衝撃的で、
私はとても面白く観ることができた1本でした。
そのドキュメンタリーを原作とする作品です。

そういえば本作の試写会が109シネマズ大阪エキスポシティのグランドオープン前にあり、
応募したのに外れたことを思い出します。ゲストは浜村淳さんでした。

フランスに暮らすフィリップ・プティが少年時代に観たサーカス
パパ・ルディなる国籍不明の老人が仕切るそのサーカスは夢の世界。
なかでも綱渡りに目が釘付けになったフィリップは、独学で綱渡りにチャレンジ。
夜、サーカスのテントに忍び込んで綱渡りをしようとしたところ、
ルディに見つかって大目玉を喰らう。
が、フィリップが咄嗟におこなった曲芸にセンスを認めたのか、
ルディはフィリップに時折指南するようになる。

曲芸師になりたいというフィリップに両親は猛反対。
フィリップは家を飛び出すと、パリの街頭で曲芸を始め、金を稼ぐ。
綱渡りができる場所を常に探していたフィリップは、
ある日の雑誌でニューヨークのツインタワー建設の記事を目にする。
地上110階建て、高さ411mのワールドトレードセンター
この北館と南館の間に綱を張って、いつか必ず渡ると決める。

同じ頃、街頭で歌をうたっていたアニーと知り合う。
アニーはフィリップに綱渡りの練習場所を紹介。
その様子を写真に収めたいと言ってきたジャン=ルイと友だちに。
フィリップが夢を語るとアニーもジャン=ルイも大賛成。
ワールドトレードセンターの完成を前に、皆でニューヨークへと乗り込むのだが……。

そんなところで綱渡りをすることはもちろん違法。
綱渡りで法をおかす前にまずは入念な下調べが必要だから、
彼らはあの手この手を使って建物に侵入します。
その過程で知り合う保険会社のバリーや、数学者のジェフ、
通信機器を売るジャン=ピエールなど協力者の人柄が魅力的。
綱渡りの目論見がバレたから巻き込んじゃえとばかりに引っ張り込まれたメンバーですが、
みんなイタズラ好きの子どもの顔になっています。

しかし、高所恐怖症でなくともビビります。
何度チビりそうになったことか(笑)。
意外に真上から下を見る映像のほうが平気に思えました。
ビルの端に立つ姿やビルの壁伝いに作業するシーンのほうがヒヤヒヤもの。

違法行為で逮捕されて、判事が下した処分が素敵です。
「子どもたちが見られる場所、安全な高さで綱渡りを」。
セントラルパークで綱渡りをする刑でした。

1974年8月7日の出来事でした。
ワールドトレードセンター側の計らいで、永久通行証を贈られたフィリップ。
あのビルは、もうありません。

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『信長協奏曲(のぶながコンツェルト)』

2016年01月26日 | 映画(な行)
『信長協奏曲(のぶながコンツェルト)』
監督:松山博昭
出演:小栗旬,柴咲コウ,向井理,藤ヶ谷太輔,水原希子,古田新太,濱田岳,
   高嶋政宏,でんでん,勝矢,阪田マサノブ,阿部進之介,山田孝之他

いつものとおり、土曜日にしこたま飲み、翌日曜日の朝。
サッカーに行くダンナを起こさなければならないから、ゆっくり寝てはいられません。
早起きしたついでに梅田まで映画を観に行くつもりだったけど、寒い、寒すぎる。
予報のような雪模様ではないものの、気温は氷点下。
うだうだしているうちにどんどん過ぎてゆく時間。

日曜日は16時に晩ごはんという掟があるから、
梅田で2本観ることをあきらめるか、そもそも梅田に出ることをあきらめるかの二者択一。
もっとうだうだしながら悩んで、箕面で2本観ることに。
車で行けば5分とかからない距離だけど、ダンナが車を使用中。
わが家は阪急箕面駅とみのおキューズモールとの中間点よりだいぶん箕面駅に近い地点にあります。
箕面駅まで歩いてそこから千里中央行きのバスに乗るつもりが、
うだうだしているうちにバスにも間に合わなくなり。

とりあえずキューズモール方向に向かって歩きはじめ、
もしも上手い具合にバスが来たら乗ろうと思っていたのに、バス来ない。
結局てくてく25分かかってキューズモールに到着。
109シネマズ箕面にて、貯まったポイントを使って鑑賞しました。

石井あゆみの同名コミックで、TVアニメ版もTVドラマ版も大人気。
私はすべて未読の未見です。
映画版の冒頭でざっとドラマ版のあらすじ説明があって親切。

勉強苦手、日本史にももちろん疎い高校生サブロー(小栗旬)は、
ひょんなことから戦国時代にタイムスリップ
たまたま通りかかったのが織田信長(小栗旬の一人二役)で、サブローと瓜二つ。
病弱な信長から頼まれて、サブローが信長になりすますことに。

戦乱の世に平和をもたらしたいと思うようになったサブロー。
正室の帰蝶(柴咲コウ)と喧嘩をしながらも仲睦まじく、
家臣の池田恒興(向井理)、柴田勝家(高嶋政宏)、丹羽長秀(阪田マサノブ)、
前田利家(藤ヶ谷太輔)、佐々成政(阿部進之介)らからの人望も厚い。

安土城を築城して天下人へと駆け上がりつつあった日、
サブローと同じくタイムスリップしてきた松永弾正久秀(古田新太)から
日本史の教科書に記載された衝撃の事実を聞かされる。
まもなく信長は死ぬ運命にあるということを。

そんななか、顔を隠し、明智光秀としてサブローを支えると誓った本物の信長が、
帰蝶や家臣、領民らを虜にしているサブローに嫉妬心を抱く。
そんな光秀の思いに気づいた羽柴秀吉(山田孝之)は光秀にサブロー暗殺を持ちかけて……。

サブローほど勉強嫌いではなかったけれど、私も歴史の勉強は適当だった口。
時代劇や時代小説があまり得意でないのはそのせいなのか。
だけど、こういう切り口で歴史に触れることができたら楽しいですね。

小栗くんって凄い男前というわけではないのに、なんか好感が持てます。
主演クラスの向井くんもこういう脇役が多くなり、そこにハマっている感じ。
こんなふうに手堅く演技ができれば、ずっと需要があるでしょう。
山田くんは悪役を演じているときも悲哀を感じさせてくれます。さすが。

期待度から言うと、もっともっと笑えるシーンが多いのかと思っていました。
大笑いできたのはわずかで、徳川家康役の濱田岳と小栗くんとの掛け合いがそう。

意外に残虐なシーンが多いので、子どもさんにはどうか。
でも、万人が楽しめる作品だと思います。

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『消えた声が、その名を呼ぶ』

2016年01月25日 | 映画(か行)
『消えた声が、その名を呼ぶ』(原題:The Cut)
監督:ファティ・アキン
出演:タハール・ラヒム,シモン・アブカリアン,マクラム・J・フーリ,
   トリーヌ・ディルホム,アルシネ・カンジアン他

ドキュメンタリー2本を観たあと、やはりシネ・リーブル梅田で本作を。

『そして、私たちは愛に帰る』(2008)、『ソウル・キッチン』(2009)、
『トラブゾン狂騒曲 小さな村の大きなゴミ騒動』(2012)のファティ・アキン監督の作品。
19世紀末から20世紀初頭のアルメニア人大虐殺をモチーフとし、
監督が共同執筆でオリジナルの脚本を書き上げています。

1915年、オスマン・トルコの街マルディン。
ここにおいては少数派であるアルメニア人に生まれついたナザレットだが、
妻と双子の娘とともに、鍛冶職人として幸せに暮らしていた。

しかし、第一次世界大戦の影響が街にも現れるようになる。
突然やってきた憲兵が、15歳以上の男性は全員ただちに兵士、
オスマン・トルコのために戦えと言う。
妻子と引き離され、強制連行されるナザレットらアルメニア人たち。

彼らを待っていたのは灼熱の砂漠での重労働。
過酷な日が続いていたある日、解放してやってもよいとのお達しが。
喜んだのも束の間、自由になりたければキリスト教からイスラム教に改宗せよと言われる。
家族のもとへ帰りたいと改宗を誓った者は労働から解放されるが、
ナザレットをはじめ、大半の者は十字架を捨てることなどできない。

しばらく経った日、アルメニア人は一斉に処刑を宣告される。
次々とナイフで首を掻き切られて絶命、ナザレットもその場に倒れ伏す。
ところが数時間後、ナザレットは目を覚ます。
彼の処刑を担当した男が殺人に恐れおののいて首を浅く切ったためだ。
死せずとも声を失ったナザレットは、家族の消息を追いはじめるのだが……。

壮大な旅路の物語です。

妻は早々と死んでしまったことがわかりますが、
双子の娘ルシネとアルシネは生きているかもしれない。
神のことなどもう信じられなくなったナザレットに、
まさに神か仏かと思うような救いの手を差し伸べる人も。
凄絶な旅路ではありますが、絶望ばかりではなく、
人って捨てたもんじゃないと思わせてくれるのがこの監督。

モーリッツ・ブライブトロイがちょこっと出演。
『ソウル・キッチン』のご縁でしょうね。

ちょうど職場にアルメニア人の外来研究員が来られていて、
十字架にまつわる展示をしたいと聞いたばかり。タイムリーでした。

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『美術館を手玉にとった男』

2016年01月22日 | 映画(は行)
『美術館を手玉にとった男』(原題:Art and Craft)
監督:サム・カルマン,ジェニファー・グラウスマン

前述の『A Film About Coffee ア・フィルム・アバウト・コーヒー』とハシゴ。
ドキュメンタリーを2本続けて劇場で観るのは珍しいかも。
シネ・リーブル梅田にて、1本目と同じスクリーン、同じ席に座って観ました。
これまた非常に面白い作品でした。

2011年に発覚した驚きの贋作事件。
全米20州の有名美術館がたった一人の男に騙されつづけていたのです。

その男、マーク・ランディスは、素性および美術品を入手した経緯を脚色し、
自分が描いた贋作を美術館に寄贈するという行為を30年間くり返していました。
作品は多岐にわたり、15世紀のイコンから、ピカソ、マグリット、ローランサン、
ドクター・スースにスヌーピーまで。

2008年、やっと彼からの寄贈品が贋作ではないかと気づいた人物がいます。
オクラホマシティ美術館のレジストラー(情報管理担当者)、マシュー・レイニンガー。
許せない行為だとレイニンガーは憤慨、職を捨ててまで調査した結果、
46館もの美術館が騙されて、贋作とは知らずに展示していることが判明。

事は大きくなり、メディアもランディスのことを取り上げます。
FBIも捜査に乗り出しますが、ランディスの行為は結局罪には問われませんでした。
彼は対価をまったく要求せず、一銭たりとも受け取っていないのですから。
FBIの担当者も「寄贈を受けるかどうかは美術館次第でしょ」と笑います。

一方、ランディスに興味を持ったシンシナティ大学美術館の職員、
アーロン・コーワンがランディスに電話取材を申し込みます。
なぜ贋作を描くようになったのかが知りたいのだと。

ランディスに執着する人々によって、浮き彫りになる彼の苦悩。
彼はとても不思議な人です。わがままなおじさんという風はまるでなく、
でも、つかみどころがなさすぎて、何を考えているのかわからない。
変人にはちがいないけど、アブナイ人という印象もありません。
ケースワーカーの女性が言うには「彼に対する自分の感情がわからないの」。
そう言いたくなる気持ちがなんだかわかる。

孤独だったからでしょう、などという言葉では片づけたくない何かがあります。
彼の贋作技術は卓越していて、レイニンガーも舌を巻くほど。
贋作のみならず、素描のテクニックも素晴らしいもので、
なぜ自分の名前で描かないのかとみんなが不思議がります。
それはおそらく彼にしかわからないこと、もしかすると彼にもわからないことで、
上記のケースワーカーの女性が言うとおり、「彼が人生を楽しむ権利は尊重したい」。
メディアに取り上げられて有名になった彼が生きがいを失ったとしたら、
それはとても切ないことに思えてしまうのです。

騙された側の美術館は、多くは語りたくない様子。
メディアは飛びついたものの、
コーワンが興味を惹かれるまではレイニンガーに協力する人がいなかったのも
恥をさらしたくはなかったからでしょう。
いやぁ、お見事、すっかり騙されましたと笑えるぐらいの度量があってもいいのに。
……てなことが言えるのは他人事だからでしょうかね。(^^;

美術じゃなくて工作だよ。自分の作品のことをそう言うランディス。
素晴らしい美術品に私には思えて、時おり涙すらこぼれそうになりました。
たまには手玉に取られたっていいんじゃな~い!?

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