夜な夜なシネマ

映画と本と音楽と、猫が好き。駄作にも愛を。

『本日公休』

2024年10月04日 | 映画(は行)
『本日公休』(原題:本日公休)
監督:フー・ティエンユー
出演:ルー・シャオフェン,フー・モンボー,ファン・ジーヨウ,アニー・チェン,
   シー・ミンシュアイ,リン・ボーホン,チェン・ボーリン他
 
9月2度目の3連休に予定を詰め込みすぎなのがわかっていたので、
週明けの火曜日も前もって有休を申請し、朝ちょっとゆっくりすることに。
ところがふと映画の上映スケジュールを見ると、前週末に公開になったばかりの本作が1日2回の上映のみ。しかも朝イチと昼間。
どうしても観たかったので、8時すぎに家を出てテアトル梅田に行くべしだったのに、そんなに早起きできませんでした。
あきらめようと思ったけれど、9時すぎに出発すればシネマート心斎橋の上映に間に合うじゃあないか。
 
というわけで、まだ通勤ラッシュで渋滞気味の新御を走り抜け、なんとか本編開始前に到着。
台湾の俊英と言われるフー・ティエンユー監督による温かい作品です。
 
台中の下町で理髪店を営んで40年になる女性アールイ(ルー・シャオフェン)。
夫を亡くし、3人の子どもたちは独立して家を出ている。
 
都会の美容院に勤務する長女リン(ファン・ジーヨウ)はバツイチ。
車の修理工場を営むチュアン(フー・モンボー)と結婚して息子アンアンも授かったのに離婚。
次女シン(アニー・チェン)はスタイリストとして撮影現場でてんてこ舞い。
長男ナン(シー・ミンシュアイ)は近所に住んでいるものの、楽して儲けることばかり考えては失敗。
今は太陽光パネルで一儲けしようと実家への設置を母親に勧めるが、アールイは素っ気ない。
 
ある日、シンが実家に戻ると母親がいない。
表に「本日公休」の札を掛けて車で出かけたようだが、スマホを置き忘れている。
それを聞いてナンも実家にやってくるが、母親の居場所に心当たりなし。
ふたりして仕事中のリンに電話をかけると、弟妹両方からの連絡にリンは何事かと怒り出し……。
 
というのが冒頭のシーン。アールイの行動があきらかになったのちにまたこのシーンに戻ります。
 
序盤の、開店前から戸をがんがん叩いて駆け込んでくる老人とのやりとりでもう涙目。
「こんな朝早くからどうしたんですか」と尋ねるアールイに、
「亡くなった女房が夢に出てきて、あなたの髪がそんなに白くなっちゃったらあなただとわからないと言われた、
あの世で会ったときに女房に見つけてもらえるように、髪を染めてほしい」ですから。
 
さてさて、場面が変わると、アールイの商売の仕方がなんとも古くて娘たちは呆れてばかり。
電話帳を繰りながら、常連客ひとりひとりに連絡を取り、「そろそろ散髪する頃ですよ」。
勤務先の美容院で顧客の奪い合いに悩むリン曰く、女の客が面倒くさい。
男の客は一旦担当が決まればそのままを通すから、アールイは安泰らしく。
実際、アールイの店の客たちはみんないたって素直だし、客同士みんな仲良し。
散髪が終わるとその場でラーメンをすすっていたりして、どんなのどかやねんと思う(笑)。
 
リンの元夫チュアンがこのうえなくいい奴で、離婚後も孫を見せるために父子そろって散髪にやってきます。
アールイがリンとチュアンの復縁を願うのも当然だし、リンよりむしろチュアンを信頼している。
だから、子どもたちが誰も母親の行方を知らないというのに、チュアンだけは知っています。
 
チュアンが言うには、アールイは常連客だった歯医者の出張散髪に出かけていると。
歯医者宅に電話をしたらその娘が出て、父親は病床にあって散髪に行ける状態ではないと言う。
それを聞いたアールイは、出張散髪に行こうと決めるのです。
 
弟が長らくかよっていた美容院へ散髪に行きたいと言い、ひとりでは車の運転が心配だからと私が付き添い。
最期の散髪になるであろうことを覚悟していた弟のことを思い出すとやっぱり泣けてきます。
私は自分がお世話になっていた美容院には申し訳なくも失礼して、
あれからずっと、弟の髪を切ってくれていた美容師さんのところへかよっています。
 
商売のあり方、人としての心のあり方を考えさせられる作品でした。

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『ぼくのお日さま』

2024年09月26日 | 映画(は行)
『ぼくのお日さま』
監督:奥山大史
出演:越山敬達,中西希亜良,山田真歩,潤浩,若葉竜也,池松壮亮他
 
仕事帰りにテアトル梅田で2本ハシゴの2本目。
 
奥山大史監督の前作『僕はイエス様が嫌い』(2019)はとても苦手でした。
なんだか宗教色が濃かったのを覚えています。
本作もそんなだったらツライなぁと思っていましたが、予告編を観るかぎりそうではなさそうで。
ロケ地は北海道内各地とのこと。
 
スケートリンクがある北国の田舎町。
小学6年生のタクヤ(越山敬達)は軽度の吃音症ではあるもの、それが原因でいじめを受けたりはしていない。
しかし身体能力が高いとは言えず、夏の野球も冬のアイスホッケーもド下手で笑われる。
 
ある日、タクヤはフィギュアスケートの練習をするさくら(中西希亜良)にひと目惚れ。
彼女のように飛んだり回ったりしてみたいと、ひとりで練習を始める。
その様子に気づいたのが、さくらのコーチを務める荒川(池松壮亮)。
ホッケー靴のままでは無理だと、昔自分が使っていたスケート靴をタクヤに差し出す。
 
以降、みんながスケートリンクから帰ってから、荒川がタクヤの指導をするように。
荒川はふと思い立ち、さくらとタクヤにペアでアイスダンスに挑戦しないかと提案するのだが……。
 
これはかなり好きでした。
ゆるゆると穏やかに話が進むのかと思っていたら、想定外の厳しさ。
 
もともと一流のフィギュアスケーターだった荒川は都会で暮らしていましたが、
さくらの母親(山田真歩)から娘のスケート指導を請われ、この町にやってきます。
 
荒川はゲイで、家業のガソリンスタンドを継いだ五十嵐(若葉竜也)と同棲中。
ふたり仲睦まじく居たところをさくらが見かけてから暗雲が立ちこめる。
さくらには男同士の恋愛感情など理解できないから、
荒川がタクヤをフィギュアスケートに引き入れたのはタクヤをそういう目で見ているからなのではと考えます。
 
不潔、汚らしい、気持ち悪い。そんな感情を隠せず、荒川に毒を吐く。
見られていたことなど知らない荒川は、急に辞められて戸惑います。
ペアダンスの受験会場にさくらが現れてくれることを願いましたが叶わず。
 
荒川もタクヤも打ちひしがれているはずなのに、本作では誰も泣きわめいたりしない。
ただ現状を受け入れて、淡々と日々を過ごす。それが切ない。
 
いつかわかってくれる日が来ますように。
北海道の風景がとても美しいです。

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『ヒットマン』

2024年09月23日 | 映画(は行)
『ヒットマン』(原題:Hit Man)
監督:リチャード・リンクレイター
出演:グレン・パウエル,アドリア・アルホナ,オースティン・アメリオ,レタ,サンジェイ・ラオ,
   モリー・バーナード,エヴァン・ホルツマン,グラレン・ブライアント・バンクス他
 
甲子園で劇的なサヨナラ試合を観戦してから、車で行っていた私は友人を大阪市内まで送り、
イオンシネマ茨木に回って21:45からの本作を鑑賞。どんなハシゴやねん。(^^;
 
そこまでして早いこと観ておきたいと思ったのは、
リチャード・リンクレイター監督の新作で、かつグレン・パウエル主演だから。
パウエルは『トップガン マーヴェリック』(2022)のハングマン役で一気に認知度が高まりましたが、
リンクレイター監督とは相性が良さそう。ふたりはこれが初顔合わせだそうです。
 
本作はそんなパウエルとリンクレイターが共同で脚本を担当し、製作にも名を連ねています。
全部が実話というわけではないけれど、ゲイリー・ジョンソンは実在の人物で、
教鞭を執りながら地元警察の囮(おとり)捜査に協力していた経歴の持ち主らしい。面白いじゃあないか。
 
ニューオーリンズの大学で心理学と哲学を教えるバツイチ独身男のゲイリー・ジョンソンは、
機械操作に必要な専門知識を有することから、地元警察の囮捜査に協力している。
 
通常の囮捜査の過程は、殺し屋を騙る捜査官に連絡してきた人物と直接会い、
相手が具体的に殺人を依頼して金をこちらに渡した瞬間に犯罪が成立するから、
捜査車両内で待機していた警察官が即時逮捕に出向く、という寸法。
 
その捜査車両内で機械操作をするのがゲイリーの役目だったのに、
あるとき、捜査官のジャスパーが良からぬ行動のせいで停職処分となり、
急遽ゲイリーがジャスパーの代役で捜査に就くよう命じられる。
温厚な性格のゲイリーは突然の指令に戸惑うが、ほかに代役がいないのだから仕方がない。
 
これをきっかけにまさかのゲイリーの才能が開花。
殺人の依頼者について事前に調べ上げ、相手好みの外見と性格の殺し屋に変身。
車で待機中の警察官クローデットとフィルは「あの地味なゲイリーが」と舌を巻き、
その目覚ましい検挙率に上司もご満悦。
 
ところが、DV夫の殺害を依頼してきたマディソンに一目惚れしてしまう。
本来はマディソン逮捕に持って行くべきところ依頼を撤回させ、すぐに家を出て逃げるようにアドバイス。
クローデットたちにはそれで終わりと見せかけて、以後もマディソンと逢瀬を重ねるのだが……。
 
マディソンに会うときのゲイリーは凄腕の殺し屋ロン。
男前で色気もあって、遊び慣れているふう。そのなりきりぶりが可笑しい。
ゲイリーとして焦ったときも、ロンならどうするかを瞬時に考えて局面を乗り切ります。
ロンが板についてくると、いつもは冴えない教師のはずが、
女子学生の間で「最近ジョンソン先生いいわよね」なんて噂されるように。
七変化とまでは言わずとも、グレン・パウエルの変装を楽しむことができます。
 
アドリア・アルホナ演じるマディソンのことがイマイチ好きになれず、
終始どこかもやもやした気持ちで観ていました。
実際にいますよね、私弱いの、あなたしか救ってくれる人がいないの、みたいな感じで、
しかもこれが美人だったりするから、自分しか彼女を守れないと思わされて入れ込む。
でも実は自分で夫を殺せる力を持っている女だったりする(笑)。
 
人を殺せば必ず見つかって罪を償わねばならなくなる、なんて月並みなオチにはなりません。
そこへ来て初めて、マディソンええやんと思うのでした。
 
すっかりグレン・パウエルのファンです。

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『憑依』

2024年09月15日 | 映画(は行)
『憑依』(英題:Dr. Cheon and Lost Talisman)
監督:キム・ソンシク
出演:カン・ドンウォン,ホ・ジュノ,イ・ソム,イ・ドンフィ,キム・ジョンス,パク・ソイー他
 
イオンシネマ茨木で『メリーおばさんの羊』を鑑賞後、109シネマズ箕面へ。
21:30からのレイトショー、カン・ドンウォン主演の新作公開初日だというのに、客は私ひとり。
今年8度目の“おひとりさま”ではないですか。
 
客ふたりよりも客ひとりのほうがいいと思っていたけれど、ホラーでひとりきりというのは怖いかも。
とビビっていたら、想像以上にコメディ要素が多くてめっちゃ楽しめました。
やっぱり、知らない人とふたりでなんとなく気まずいよりもひとりのほうが良い。
 
などまったく視えないのに祈祷師を名乗るチョン(カン・ドンウォン)は、
助手のインベ(イ・ドンフィ)と共に依頼人を騙して金を取るインチキお祓いをおこなっている。
悪霊を呼び出したように見せる技術を担当するのがインベで、
チョンはそれをみごとに祓ったように言葉巧みに演出するのだ。
 
客はたいてい金持ちだから、このインチキお祓いに感謝して多額の金を出すばかりか、
家にあるものを何でも持ち帰ってくれてよいと言う。
客からせしめたブツをチョンが持ち込むのは旧知のファン(キム・ジョンス)が営む骨董品店
 
ある日、チョンの事務所に若い女性ユギョン(イ・ソム)が訪ねてくる。
幼い妹ユミン(パク・ソイー)に憑いた悪霊を祓ってほしいと言われて彼女の家に向かうと、
村全体に暗い空気が漂い、村人全員が引っ越すことになっている様子。
 
ユギョンの家に着くと、そこには動けぬように縛り付けられたユミンの姿が。
いつもと同じインチキを働こうとしたところ、ユミンには本当に何者かが取り憑いているとわかる。
実はユギョンとユミンこそが霊を視ることができる者で、悪霊は姉妹の眼を狙っているのだ。
 
インチキ祈祷師かと思いきや、チョンは由緒正しき祈祷師一族のもとに生まれたその能力を持つ者。
霊は視えないが払う力を持つチョンと霊が視えるユギョンは、協力して悪霊を退治することに。
 
あらすじはザッとこんな感じでしょうか。
最初のインチキお祓いがなかなか面白くて笑えます。
インチキではあるのですが、チョンの洞察力は確か。
依頼人の様子や家の内外、SNSへの投稿写真を一目見るや、その家庭の問題を即座に判断。
それをもとに上手く騙すんですね。詐欺師にはこんな力が必要だと納得。
 
とにかくキャストが最高です。
ユミンに取り憑いている悪霊こそがチョンの祖父と弟を殺した奴。
この悪霊を演じるのがこれまた名優のホ・ジュノで、怖いのなんのって。
村人も取り巻きも意のままに操れるくせして、自分自身は動けないとは(笑)。
 
韓流スターって面白いですね。
確かにシュッとした顔はしているけれど、顔だけ見ている間は、そこまで人気がある理由がわからない。
だけどひとたび演技を見るや、虜になります。
 
チョンとユギョン、インベとファンがチームを組んで祓う続編を作ってもらえませんか。
『メリーおばさんの羊」とは違って、確実に観たいやつですけど。

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『ボストン1947』

2024年09月13日 | 映画(は行)
『ボストン1947』(英題:Road to Boston)
監督:カン・ジェギュ
出演:ハ・ジョンウ,イム・シワン,ペ・ソンウ,パク・ウンビン,キム・サンホ他
 
仕事帰りに車を走らせ、テアトル梅田へ。2本ハシゴの1本目。
 
監督は『シュリ』(1999)や『チャンス商会 初恋を探して』(2015)のカン・ジェギュ。
 
1936年、ベルリンオリンピックが開催され、マラソン金メダルと銅メダルに輝いたのは朝鮮人の2選手。
しかし、当時の朝鮮は日本の統治下にあったため、彼らは日本代表として記録される。
金メダルを受賞したソン・ギジョン(ハ・ジョンウ)は、おおっぴらには不満を唱えなかったものの、
表彰台で日章旗を隠す仕草をしていたことを非難され、引退を余儀なくされる。
 
それから10年以上が経過し、いまだ破られぬ世界記録を持つギジョンを称え、
彼の名前を冠したマラソン大会が開かれるが、当のギジョンはまるでやる気なし。
 
困窮する生活のために仕事を掛け持ちする青年ソ・ユンボク(イム・シワン)は、
優勝すれば賞金が出るというガセネタに釣られて出場、見事1位となるが、
賞金は出ないわ、ギジョンは酒の匂いをさせて会場に来るわで憮然。
 
一方、銅メダル受賞者のナム・スンニョン(ペ・ソンウ)は若手選手を育てるべく、
マラソンの指導者として現場に出続けているばかりか、自らもまだ走っていた。
ギジョンを監督とするチームでボストンマラソンに参加しようと熱意を持って誘ってくる。
 
気乗りせずも、太極旗を胸に出場したい想いがこみ上げてきて、
ギジョンはスンニョンと共にユンボクをボストンへ連れて行こうと考える。
しかしボストンで受け入れてくれる人間や出場のための保証金の工面に困り……。
 
反日感情あらわな作品ならばちょっとツライとも思っていましたが、そこまでではありません。
朝鮮人としてオリンピックに出ることが叶わなかった事実が述べられているだけ。
 
戦争が終わり、ようやく自分たちは自分たちとして走れると思ったのに、
ボストンに渡ってみれば、用意されていたユニフォームの胸には星条旗
朝鮮は独立国ではなくて難民国だから、朝鮮としての出場は認められないと言われるんですね。
 
それを翻させるためにギジョンとスンニョンは打って出ます。
無事太極旗を胸に走れることになり、ユンボクが素晴らしい走りを見せる。
もともと彼のマラソンは独学。
走力がついたのは、母親のために祠の供え物を盗みに行っていたおかげというのは嘘か誠か。
神様は怒らない、見捨てない。
 
よその国の人間を無理やり自分の国の人間にするなんてとんでもないことだと改めて思う。
それを望んでいるのならまだしも、決してそうではないのだから。
 
同監督の『シュリ』のデジタルリマスター版も今日から公開です。

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