夜な夜なシネマ

映画と本と音楽と、猫が好き。駄作にも愛を。

『恋の罪』

2011年11月28日 | 映画(か行)
『恋の罪』
監督:園子温
出演:水野美紀,冨樫真,神楽坂恵,大方斐紗子,津田寛治他

春先に観に行って、度肝を抜かれた『冷たい熱帯魚』
本作は予告編で何度か目にして、これまたツライなぁと思いつつ、
DVD化されてからでは観る勇気が出ないような気がして、
観に行ってしまった……そう、まさに「観に行ってしまった」感じです。

シネ・リーブル梅田にて。
最前列にカップル1組、あとは私を除けば全員男性お一人様の客。
ポルノを観に来たような気分です(笑)。
その気分に違わず、のっけから水野美紀があれまと驚く脱ぎっぷり。

『冷たい熱帯魚』が1993年の埼玉愛犬家連続殺人事件ならば、
こちらは1997年の東電OL殺人事件にインスパイアされた作品。
東京電力のエリート女性社員が、渋谷区円山町で殺害された事件は、
彼女が終業後に夜ごと売春をおこなっていたことが明らかとなり、
マスコミに大々的に取り上げられました。

そんな元ネタからこんな作品を作り上げてしまう監督の想像力に脱帽。
144分間、一度も時計を見ることなく、のめり込みました。

ある土砂降りの夜、不倫相手と逢瀬中の刑事、吉田和子は、
他殺体発見の知らせを受けて現場に向かう。

渋谷区円山町のラブホテル街(ラブホの映画、これとかこれとかもどうぞ)にある木造アパート。
いまは廃屋となっていて、どの部屋も勝手に出入りすることができるため、
よからぬ目的で使われているらしい。
その一室で発見された、何かを暗示するような惨殺体。

吉田和子(水野美紀)のほか、主たる女性がふたり登場します。

ひとりは菊池いずみ(神楽坂恵)。
売れっ子作家とめぐり逢い、友人も羨む玉の輿に乗ります。
自宅では執筆に集中できないからと言う夫は外に仕事場を構え、
毎日7時に家を出て21時きっかりに帰宅します。
紅茶を淹れ、スリッパを揃え、夫の帰りを待つ貞淑な妻。
それが、日中パートに出るようになったことから人生が一変。

いずみが円山町で偶然知り合ったのが尾沢美津子(冨樫真)。
一流大学で教鞭を執る美津子は、夜は売春婦の顔を持っていました。
言葉は「からだ」を伴うことで初めて意味を成すのだと美津子から言われ、
いずみの意識が変化してゆきます。

もちろんR18+指定。
グロ度は『冷たい熱帯魚』より控えめなものの、相当酷いです。
だけど、この監督の死の扱い方は徹頭徹尾、一貫しているように思えます。

エログロすぎて、人にはお薦めできないけれど、
本作もまた私の心を捉えて離しません。
ラストのゴミ袋を持って走る水野美紀の姿には泣きそうにすらなりました。
行ってしまわないでって。

言葉なんて覚えるんじゃなかった。
涙の意味がわかるから、涙のなかで立ち尽くす。

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『アントキノイノチ』

2011年11月25日 | 映画(あ行)
『アントキノイノチ』
監督:瀬々敬久
出演:岡田将生,榮倉奈々,鶴見辰吾,染谷将太,柄本明,
   堀部圭亮,吹越満,津田寛治,宮崎美子,原田泰造他

さだまさし原作の同名小説の映画化で、
第35回モントリオール世界映画祭でイノベーションアワードなる賞を受賞。
泣くことにかけては非常にハードルが低いはずの私が一滴の涙も流せず。
そこへ、数日違いで観に行った人から「ポロポロ泣けた」というメールをもらい、
う~ん、私の根性がひん曲がっているのかもと凹みました。(^^;

高校時代の辛い記憶に苦しみ、自分を責め続ける青年、永島杏平は、
父親の紹介で、遺品整理業「クーパーズ」に雇われる。
その仕事は、故人の部屋を遺族に代わって片付けるというもの。

就職して数日後、杏平は現場でさまざまな思いが交錯して動けなくなる。
誰とも話そうとしない杏平のことを気にかけていた先輩社員の佐相から、
飲みにでも行けと小遣いを渡された久保田ゆきは、終業後に杏平を誘う。
以来、やはり辛い過去があるゆきと心を通わせてゆくのだが……。

なぜ泣けなかったのかを考えてみました。

まず、描写がかなり直接的でグロテスクでした。
孤独死を思わせる部屋にはひからびたウジ虫やゴキブリ。
また、杏平の同級生が投身自殺するシーンは、
コンクリートに叩きつけられるさまがもろに映し出されます。

ネタバレ御免、こうして死をまざまざと見せつけるわりには、
最後の最後に主人公をあっけなく死なせてしまう。
その「死」が、次の「生」に繋がるということなのでしょうけれど、
この死に方にはその昔の月9ドラマ『ピュア』みたいに、目が点に。

ただ、いろいろ考えさせられはしました。
目の前で、死にたいほど憎い相手が、自分が手を下さなくとも死のうとしている。
そのときに自分はどうするか。
映画としては、同じく岡田将生が演じた『重力ピエロ』(2009)の彼の決断に同意したい。
けれど、『13階段』(2003)の山崎努の台詞を思い出して、またしんみり。

ちなみに、瀬々敬久監督は京大文学部哲学科卒でピンク映画出身、
当時は“ピンク四天王”の一人とも言われていました。
その後は『感染列島』(2008)のような大作を撮ったかと思えば、
ピンク映画の名残が感じられる『泪壺』(2008)や『愛するとき、愛されるとき』(2010)も。
『私は猫ストーカー』(2009)には「植木に水をやる男」の役で出演。
いやはや多才。バラエティーに富んでいます。
本人がいちばん楽しいのは果たしてどれ?

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東洋ショーじゃないけれど

2011年11月21日 | 映画(番外編:小ネタいろいろ)
先週、このお店の近くの居酒屋で、職場関連の飲み会がありました。
参加者のうちの一人が、「昔、東洋ショーをよう見に来た」と懐かしそう。

これだけでニヤリとされた方には説明するまでもありませんが、
東洋ショーとは、大阪・天満のストリップ劇場。
男に生まれていたら、私も行ってみたかったぁ。
女の身ではさすがにストリップは観に行けず、せいぜいこんな感じ

東洋ショーにかぎらず、ストリップ劇場の話を聞くのはおもしろいです。
ステージ脇に小部屋があって、おねえちゃんが立っている。
自分の好みのおねえちゃんを選んでショーの間にその小部屋へ行けば
おねえちゃんがあんなことこんなことをしてくれるなんて聞いたときは、
「へぇぇぇぇ!」と目からウロコでした。

海外のストリップ劇場の話を聞けば、
ステージと客席の間が広い店ほどダンサーの容姿のレベルが高く、
真ん前で踊ってくれる店ほど「どうよ、これ」のレベルだそうで。
アンマリだけど、笑いました。

ところで、1997年に放映されていたドラマ『青い鳥』で夏川結衣の娘を演じ、
そのけなげさが強烈な印象を残した鈴木杏。
トヨエツもかすむほどの堂々の演技で、凄い子役だなぁと思いました。

その鈴木杏もいつのまにか24歳に。
彼女が出演しているレンタル新作を2本観たのですけれど。

1本目は『まほろ駅前多田便利軒』(2011)。
東京のはずれ、まほろ駅前で便利屋を営む多田(瑛太)は、
中学時代の同級生だった行天(松田龍平)と偶然出会います。
いかにも風来坊の行天をなりゆきで泊めることになり、
一晩だけのはずがそのまま居座られ、奇妙な共同生活が始まります。

夜逃げした母娘に置き去りにされたチワワの飼い主を多田が探していると、
風俗嬢のルルがやって来ます。
そのルームメイトが鈴木杏演じるハイシー。
チリチリの髪の毛にアッパッパと、まるで垢抜けないおねえちゃん。
気立ては良さそうだったのが救い。

2本目は『軽蔑』(2011)。
チンピラのカズ(高良健吾)は、兄貴分の命令でポールダンスバーを襲撃。
ついでに、恋い焦がれていたトップダンサー、真知子(鈴木杏)を連れ出し、自分の故郷へ。
カズは意外にも名家のボンボン息子で、放蕩息子の帰還に両親は呆れつつも、
カズと真知子が住むマンションをあてがうのですが……。

あの『青い鳥』の子役が脱いでいるわけですが、
これが見ているのが気の毒になるほどの幼児体型で、
公開時のウリである濡れ場シーンもなんだかイタイ。
映画自体もおままごとを見せられているようで、
今年いちばん文句たらたら言いたくなった作品かも。

風俗店がらみの作品で、ここ数年でいちばん心に残っているのは、
ベルギー/ルクセンブルク/イギリス/ドイツ/フランスの作品、
『やわらかい手』(2007)です。これは超オススメ。
最近知ったのですが、どうやら日本でこれをリメイクしていたようで、
タイトルは『やさしい手』(2010)。
しかし、手コキするおばちゃん役が水沢アキとなると、
なんだか生々しすぎてまだ観る勇気がありません。

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『奇跡』

2011年11月17日 | 映画(か行)
『奇跡』
監督:是枝裕和
出演:前田航基,前田旺志郎,オダギリジョー,夏川結衣,阿部寛,
   長澤まさみ,原田芳雄,大塚寧々,樹木希林,橋爪功他

今年の梅雨時に公開、先週末からレンタル開始。

近頃、メジャーな映画作品の多くが小説やコミックを映画化したもので、
映画オリジナルの作品にはなかなかお目にかかれなくなりました。

本作は、『ワンダフルライフ』(1999)や『誰も知らない』(2004)の是枝裕和監督が、
小学生兄弟漫才コンビ“まえだまえだ”を主役に抜擢して、
2011年3月に全線開通した九州新幹線をモチーフに脚本を書き上げたオリジナル。
監督お得意の、「脚本を子役には渡さずに撮影を進行する」という手法が用いられています。

余談ですが、子役の一人は本木雅弘と内田也哉子夫妻の娘だそうで、
ばあちゃん役で出演している樹木希林の実の孫。ほぉ~。

小学6年生の航一と4年生の龍之介は仲の良い兄弟。
しかし、売れないミュージシャンである父親に母親が愛想を尽かし、両親が離婚。
航一は鹿児島で母の実家で、龍之介は福岡で父と暮らしている。
家族4人の絆を取り戻したい。そう願う兄弟。

ある日、航一は同級生からこんな噂を聞かされる。
「九州新幹線が全線開通する朝、鹿児島から福岡へ向かう一番列車と、
福岡から鹿児島へ向かう一番列車がすれちがう瞬間を見ることができれば、
奇跡が起こって願い事が叶う」と。

居ても立っても居られずに、龍之介に電話する航一。
奇跡を起こそうと決意したふたりは、周囲を巻き込んで計画を立て始める。

航一と龍之介の同級生数名がこの計画に乗り、
それぞれがそれぞれの計画に夢中になる姿が愛敬満点。

まずは地図を広げてすれちがう場所の見当をつけます。
熊本が目指すべき地だということが判明し、
今度はそこまで行くのにかかる電車賃の算段。
自販機の下に百円玉を見つければ狂喜。
何しろ極秘計画ですから、必要以上には大人に頼りません。

それでも、心底困ったときは、じいちゃんの出番。
航一たちが早退を試みて保健室を訪れたとき、
頼みのじいちゃんが若干早く現れたのは可笑しすぎ。

列車がすれちがう瞬間、みんなが願いをわめき立てるなか、
何も口には出さない航一。
帰ってきてから龍之介に詫びる航一の言葉がとてもいいです。
そして、あれほど「意味わからん」と嫌っていた桜島の灰をも、
航一は受け入れるようになるのでした。

九州の話だけど、「太陽の塔」も登場。
「仕分け」の意味を知った龍之介がボソリ、
「お父ちゃん、お母ちゃんに仕分けされたんやろぉ」。
子どもって、残酷。(^^;

原田芳雄の元気な姿を見られて得した気分。

じいちゃんのかるかん、食べたいです。

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『マネーボール』

2011年11月14日 | 映画(ま行)
『マネーボール』(原題:Moneyball)
監督:ベネット・ミラー
出演:ブラッド・ピット,ジョナ・ヒル,フィリップ・シーモア・ホフマン,
   ロビン・ライト,クリス・プラット,ケリス・ドーシー他

『リバー・ランズ・スルー・イット』(1992)を観たとき、
世の中にこんなに美しい男性がいるのかと、ブラピに見惚れました。
そのブラピも見れば見るほど汚くなっていますが、
汚いほうが男臭さが感じられてイイなぁと思う今日この頃。
真田広之も汚くなってからのほうが好きですねぇ。←最近見ないけど。

さて、野球映画にハズレなし。
野球が好きだからそう感じるのかどうなのか、
でも、やっぱりこれもアタリでした。

現在はメジャーリーグの名ゼネラル・マネージャー(GM)と讃えられるビリー・ビーン。
野球界にまったく新しい球団運営法を持ち込んで、賛否両論を呼びました。
セイバーメトリクスと呼ばれる、統計学的見地から戦略を考える手法により、
このチームが奇跡の20連勝を果たしたという実話を映画化。

高校時代は、スカウトがこぞって狙うスター選手だったビリー。
スタンフォード大学へは奨学金を得て入学することができる。
その道を捨てることをためらいつつも、プロ野球入りを選んだ。
しかし、大成することなく早々と引退する。

その後、ビリーは若くしてオークランド・アスレチックスのGMに就任。
長らく低迷を続けていたチームは財政的に困難を極めた状態。
大事に育てた選手が開花すれば、金持ち球団にすかさず持って行かれ、
抜けた穴を補強しようにもその金がない。

ベテランの老スカウトたちとのミーティングは旧態依然。
考え方を根本から変えなければとビリーが感じていた矢先、
クリーブランド・インディアンスとの交渉の席でピーターという若者を見かける。

名門イェール大学卒のピーターは、専攻していた経済学の観点から、
あらゆる球団の選手のデータを徹底的に調べ上げていた。
その理論を試すべきだと考えたビリーは、ピーターをアスレチックスへと引き抜き、
安い選手を買って勝てるチームをつくるという戦略を打ち立てるのだが……。

スカウトからあれほど太鼓判を押されたのに、なぜ自分は駄目だったのか。
自分は本当に正しく評価されていたのか。
ビリーがピーターを呼び入れる直前、ピーターに自分を評価させるシーンが面白いです。
そこで遠慮がちながらも本音でビリーをバッサリ斬ったピーター。
主役はブラピにまちがいありませんが、見た目は冴えないピーター役、ジョナ・ヒルが◎。
ブラピに振り回されながらもインテリの彼は決して持論を曲げません。
でも、人間味があって、さまざまな場で見せる優しい心。

投球フォームがいびつ、故障持ち、すでに老体の域。
そんな理由で他球団では邪魔者扱いされていた選手たち。
彼らがチャンスを与えられ、やがて勝利をつかみ取る。
これはスポ根の王道ではありますが、やはりグッと来てしまいます。

笑ったのは、自分が試合を観ると負ける、
そのジンクスから、生観戦を拒み続けてきたビリーが、
20連勝目前の試合に足を運び、まさかの……というシーン。
あんなチームを見続けてきた人なら、きっと気持ちがわかるはず。

野球であれ何であれ、旧来の方法を最初に変えようとする者は叩かれる。
それが画期的な方法であればあるほど、変わることを良しとしない人がいる。
このくだり、ボストン・レッドソックスのオーナーとのやりとりと、
金では決めないと誓ったビリーにピーターがかける言葉に胸を打たれました。

ついでながら、アート監督役のフィリップ・シーモア・ホフマンも私の大のお気に入り。
『セント・オブ・ウーマン/夢の香り』(1992)で高校生だった彼をどうぞ。

人は野球に夢を見る。

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