夜な夜なシネマ

映画と本と音楽と、猫が好き。駄作にも愛を。

『やさしい嘘と贈り物』

2010年10月29日 | 映画(や行)
『やさしい嘘と贈り物』(原題:Lovely, Still)
監督:ニコラス・ファクラー
出演:マーティン・ランドー,エレン・バースティン,
   アダム・スコット,エリザベス・バンクス他

2008年の作品。今春に公開されたレンタル新作です。

原題は“Lovely, Still”。
この邦題はありがちと言えなくもないですが
『やさしい嘘』(2003)という作品もありました―、
映画の内容を上手く表していると思います。
すでに喜寿を超えた名優2人の素敵な競演。

小さな町で孤独な毎日を送る老人ロバート。
勤め先のスーパーから帰宅すると、自宅のドアが開いている。
不審に思いつつ家に入ると、そこには見知らぬ老婦人が。

勝手に上がり込まれて怒るロバートに、その老婦人は丁寧に詫びると、
向かいに引っ越してきたメアリーだと名乗り、
留守のようなのにドアが開いていたものだから、
心配で中を覗いてみたのだと言う。
落ち着きを取り戻したロバートは、メアリーの笑顔に心を奪われる。

立ち去ろうとしたメアリーは、思い立ったように、
明晩一緒に食事をしないかとロバートを誘う。
ロバートは年甲斐もなくウキウキし、スーパーの店長マイクや同僚に、
デートの段取りや服装についてアドバイスを求める。

あまりに楽しい初デート。
ふたりは毎日会うようになり、お互いに片時も離れたくない存在に。
やがてクリスマスを迎えるのだが……。

ネタばらしをすべきかどうか悩みます。
というのも、予告編には前知識となる情報が盛り込まれて、
私はそれらを知ってから観て良かったと思いました。
心の準備ができたからです。

というわけで、以下、思いっきりネタバレです。

ロバートとメアリーは実は夫婦。
ところが、ロバートはメアリーのことを忘れてしまい、
自分は孤独な独居老人だと思い込んでいます。
メアリーはそんなロバートともう一度恋をすることを決意。
スーパーの店長として接するマイクは本当は息子で、
メアリーの娘であるアレックスももちろんふたりの娘。
妻と息子と娘が、父親のために優しい嘘をつくのです。

優しい嘘をつかれたまま、この世を去ることができればいいのでしょうが、
やがて、ロバートは真実に気づいてしまいます。
みんなに騙されていたとわかったとき、
半狂乱になるロバートに向かって、メアリーが口にする一言、
「離れたがっているのはあなたなのに」が本当に切ない。

近づくクリスマスシーズンに、優しさと、温もりと、切なさと。

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『十三人の刺客』

2010年10月26日 | 映画(さ行)
『十三人の刺客』
監督:三池崇史
出演:役所広司,山田孝之,伊勢谷友介,沢村一樹,古田新太,高岡蒼甫,六角精児,
   波岡一喜,石垣佑磨,近藤公園,窪田正孝,伊原剛志,松方弘樹,稲垣吾郎,市村正親他

前述の2本(これこれ)より前に観たのですが、書くタイミングを逸していました。
そこそこ話題になっているので、説明不要かも。
片岡千恵蔵主演の同名映画(1963)のリメイクです。

時代劇はあまり得手ではありません。
私の父は決して時代劇嫌いではなかったと思うのですが、
なぜかテレビで時代劇を観ていた記憶はなく、
それゆえ、私も興味が湧かなかったのか、
『水戸黄門』や『遠山の金さん』も観たことがありません。

そんなわけで、時代劇映画は食指の動かないジャンルです。
けれど、本作は大好きな三池崇史監督の手によるものだったため、
絶対行かなくちゃと思いました。

江戸時代末期。
明石藩主・松平斉韶(なりつぐ)の暴君ぶりは目に余るもの。
女と見れば襲いかかり、何の罪もない子どもに向けて弓を放つ。
反抗する者にはすぐに斬りつけ、首をもはねる。
しかし、斉韶が将軍・徳川家慶の弟であることから、誰も口出しできぬ状態。

斉韶はごく近い将来、老中への就任も決まっており、
このままでは幕府存亡の危機に直面すると考えた老中・土井利位は、
信頼できる御目付・島田新左衛門に斉韶暗殺の密命を下す。

返答しあぐねていた新左衛門の前で開けられた襖の向こうには、
斉韶に手足を切り落とされ、舌まで抜かれた少女の姿が。
斉韶は彼女をさんざん弄んだ挙げ句、飽きてゴミのように捨てたらしい。
血の涙を流す彼女を見た新左衛門は、必ずや斉韶暗殺を遂げることを誓う。

新左衛門のもとに集結した、腕に覚えのある武士や浪人、11人は、
綿密な計画を立てると、参勤交代の折りを狙い、
斉韶一行を中山道落合宿で待ち構えることに。
途中、山で道に迷った新左衛門を含む12人は、山で暮らす男と出会う。
やたら頑丈なその男も引き入れて13人に。

落合宿を丸ごと買い取った新左衛門らは、斉韶一行の到着を待つのだが……。

バイオレンス満載ですが、コミカルな演出もあって、やっぱり面白い。
新左衛門側と斉韶側の腹の探り合いも面白く、観る者を惹きつけて離しません。
どちらにも貫かれる武士道の精神には心を打たれます。

死闘シーンでは、『ワイルドバンチ』(1969)を思い出しました。
あれも凄絶でしたけれど、これも凄い。

男気たっぷり。熱いです。

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『シネマ歌舞伎 大江戸りびんぐでっど』

2010年10月21日 | 映画(あ行)
『シネマ歌舞伎 大江戸りびんぐでっど』
作・演出:宮藤官九郎
出演:市川染五郎,中村七之助,中村勘太郎,坂東彌十郎,市村萬次郎,
   片岡市蔵,片岡亀蔵,井之上隆志,市川猿弥,中村獅童,中村橋之助,
   中村扇雀,中村福助,坂東三津五郎,中村勘三郎他

歌舞伎の舞台をそのまま撮影して映画にしたものが「シネマ歌舞伎」。
2005年に始まって、現在では10作品を超えたそうです。
以前から観たいと思っていましたが、上映劇場がごく限られており、
そこまで足を運ぶには決定打に欠けて今日まで。
今回はクドカンの作・演出、しりあがり寿の道具デザインということで即決。

なんばパークスシネマのちょっとリッチなプレミアムシアターにて。
黒い生地の座席、ウッド調の肘掛けで、席と席の間もめちゃ広し。

心が躍るハチャメチャなあらすじ。

江戸時代。
伊豆諸島の新島で「くさや」を売る未亡人、お葉。
あまりの臭いに、露店の前をみんな駆け足で通るが、
亡き夫の作った「くさや汁」を最高の味と信じ、手放そうとしない。

そんなお葉に想いを寄せる半助は、
独りで心許ないお葉に「良い商売ができるから」と声をかける。
くさや汁の入った壺を携えると、お葉を連れて大江戸へ。

その頃、大江戸では、死んだはずの人間がゾンビとして甦っていた。
ゾンビに噛みつかれた人間もゾンビとなって大混乱。

半助は、くさや汁を自分の体に塗ることで、
ゾンビから敵対視されずに済むことを知る。
人間とゾンビの間に入って上手く仕切り、ゾンビの信頼をも得ると、
ゾンビたちを働かせる人材派遣会社を始めることに。

頑丈なゾンビたちは「ハケン」と呼ばれて引く手あまた。
また、ゾンビ対策のくさや汁が飛ぶように売れ、半助の商売は大繁盛。
お葉も半助と共に生きる決意をするのだが……。

クドカンが言っているとおり、生の舞台を撮影しているため、
トチった台詞やスベったギャグもそのまま観ることができます。
観客の笑顔や喝采もそのまんま。

伝統的な歌舞伎ファンがどう評価しているのか知りませんが、
興味のなかった人たちに観てみたい気は起こさせると思います。
何よりも、みんなが楽しく演じているのが伝わってきて幸せ。

クドカンが、昨年暮れの上演当時によく言われたのが、
「私は、面白かったですよ」だそうです。
この「私は」の「は」に想像力をかき立てられる、
でも、あなたが面白かったのならそれでいいと。

はい、私も面白かったです。りびんぐでっど~♪

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『インシテミル 7日間のデスゲーム』

2010年10月18日 | 映画(あ行)
『インシテミル 7日間のデスゲーム』
監督:中田秀夫
出演:藤原竜也,綾瀬はるか,石原さとみ,阿部力,武田真治,
   平山あや,石井正則,大野拓朗,片平なぎさ,北大路欣也他

一昨日のクライマックスシリーズを直視できそうになかったので、
現実逃避して、封切り日の映画を2本ハシゴ。
観た順番に書こうかと思いましたが、
2本目に観た本作がアンマリな出来で落胆。
昨日、甲子園で生観戦して落胆。今日の試合もなくなって落胆。
落胆ついでに、本作から書きます。

米澤穂信の同名ミステリーの映画化。
ご存じ、『リング』(1998)の監督によるもので、期待していたのですが、
原作を読んだ身としては目が点に。

コンビニの雑誌コーナーでアルバイト情報誌を眺めていた結城は、
突然、一目惚れしてしまいそうな美女、祥子から声をかけられる。
同じく仕事を探していると言う祥子は、結城に携帯の画面を見せると、
「こんな条件の仕事は危ないと思うか」と意見を求める。
条件を見て結城はびっくり。そこには「時給112,000円」の文字が。

誤植に違いないと思いつつも応募してしまったこのバイト。
さまざまな事情から大金を必要として集まったのは、
結城と祥子を含む10名。年齢も職業も異なる男女。
「暗鬼館」と呼ばれる建物に閉じ込められ、
時給112,000円で24時間拘束、7日間の心理実験が始まるのだが……。

たぶん、原作を読まずに観たほうが楽しめます。
アガサ・クリスティの『そして誰もいなくなった』のごとく、
1人ずつ殺されてゆき、犯人および犯人を当てた探偵役にはボーナス。
そんな大まかな設定が同じというだけで、原作とはまるで別物です。

まず、人物像がめちゃくちゃ。原作と同じ名前でもキャラは別。
バイトに応募した動機も、映画ではわからずじまいの人、多数。
殺される順番も違えば、犯人も探偵も違います。
暗鬼館の食事システムや監視役のロボットの趣きも違っていてイマイチ。
最後に残る人も異なり、原作のあのラスト、迫力があったのにと残念。

それに、原作ではいささかこじつけっぽくも意味のあった112,000円という時給に、
映画ではまったく必然性がなくなってしまいました。
世間が高額だと思う金額であればそれでよかったのでは。

さすがホラー映画の中田監督だと思わせてくれたのは、
ここまで見せんでもええやんというグロい殺人シーンのみ。(--;

本日のチケット、払い戻してきます。(T_T)
ちょっとは落胆を快復させてくれた1本目は次回に。

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『ナイト&デイ』

2010年10月15日 | 映画(な行)
『ナイト&デイ』(原題:Knight and Day)
監督:ジェームズ・マンゴールド
出演:トム・クルーズ,キャメロン・ディアス,ピーター・サースガード,
   ヴィオラ・デイヴィス,ポール・ダノ,ジョルディ・モリャ他

カタカナのタイトルを見て「夜と昼」かと思っていました。
そうじゃなかったという話はあとですることにして、
劇場で観るなら、こんな大スター競演のアクション映画は
抜群に楽しいことを再認識。いや~、ごちそうさま。

自動車修理工場の女性経営者ジューンは、
車の部品を仕入れに出かけたカンザスから、
自宅のあるボストンへと帰るために向かったウィチタ空港で、
ロイと名乗る男性と2度もぶつかる。
男前で爽やかな笑顔に心をときめかせるジューン。

その後、搭乗した飛行機内で偶然にもロイと近くの席に。
悪天候のせいなのか、飛行機は激しく揺れて、歩くこともままならない。
おぼつかない足でトイレに行こうとするジューンをロイは優しくエスコート。
個室内でジューンは「あんなにいい男を逃すわけにはいかない」と
自分に言い聞かせ、気合いを入れる。

ジューンがそうしている間、個室外では信じがたいことが起こっていた。
実は、ジューンを除く乗客と乗員はすべて、ロイを捕えるために乗り合わせた一味。
大乱闘の末、ロイは全員を殺すと、何も知らずに席に戻ったジューンに
パイロットを殺したことを告げ、自ら飛行機を不時着させる。

ロイの話によれば、彼は天才研究者サイモンを護衛するエージェントで、
研究所から世紀の発明品を盗んだとしてCIAに追われている。
しかし、それは濡れ衣で、もう1人の護衛フィッツの悪巧みを知り、
サイモンと発明品を安全な場所へ移したのだと言う。

ロイがジューンと接触したせいで、ジューンも仲間だと思われ、
ロイとともに逃走劇を繰り広げるはめになるのだが……。

出色の出来というのは褒めすぎか。けれど、本当に楽しいです。
トム・クルーズ、久々にカッコいいと思いました。
痛快なアクション映画ながら、いくつになっても素敵なコメディエンヌ、
キャメロン・ディアスの持ち味も活きて、笑いのツボもバッチリ。
どんな局面も余裕の笑顔のトムと、パニくりぶりが可愛いキャメロン。
このコンビ、最高。

ところで、最初の話に戻って、このタイトル。
英語で見れば“Knight & Day”でした。なるほど。
“Knight”は「騎士」であり、ロイの本名でもあります。
そして、“Day”は「いつか」。

物事にはすべて理由がある。

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