夜な夜なシネマ

映画と本と音楽と、猫が好き。駄作にも愛を。

『トゥルー・グリット』

2011年03月31日 | 映画(た行)
『トゥルー・グリット』(原題:True Grit)
監督:ジョエル・コーエン,イーサン・コーエン
出演:ジェフ・ブリッジス,マット・デイモン,ジョシュ・ブローリン,
   バリー・ペッパー,ヘイリー・スタインフェルド他

前述の『英国王のスピーチ』が、
本年度のアカデミー賞の主たる部門で受賞しまくったのに対し、
本作は10部門でノミネートされていながら無冠に終わってしまいました。
けれど、強くお薦めしたい一作。

タイトルの意味は「真の勇気」。
ジョン・ウェイン主演の『勇気ある追跡』(1969)のリメイクです。

強い信念と責任感を持つ14歳の少女マティ。
牧場主である父親が、雇い人のトムによって撃ち殺されたとの知らせを受ける。

父親の遺体を引き取るため、
読み書きのできない母親と代わって町へやって来たマティは、
必ず自分の手で仇を討つと心に誓うが、
トムは法の及ばないインディアン領に逃げ込んだらしい。
しかも、お尋ね者の悪党ネッドのグループに仲間入りしたようだ。

そこでマティは、信頼のおけそうな保安官を当たることに。
彼女の目に止まったのは、大酒飲みだが腕は確かな老いた保安官ルースター。
元来の頭の回転の速さで、ルースターを雇う金を工面するマティ。

最初はマティを相手にしなかったルースターだが、
その根気に負けて引き受ける。
しかし、マティについてこられては足手まとい。
別の事件の犯人としてトムを追うテキサスレンジャーのラビーフとともに、
マティに気づかれぬうちに川を渡ってインディアン領へと向かうのだが、
マティが執念深く追いかけて来る。

こうして、復讐への過酷な旅が始まり……。

時代劇も苦手ですが、西部劇もあまり得手ではありません。
けれど、本作と『3時10分、決断のとき』(2007)は、
観てよかったとしみじみ思いました。

マティは、馬に関する商談などでは、舌を巻くほどの賢さを見せます。
それでいて、原野に入れば少女らしく、不安を隠せません。
一方の飲んだくれ親父のルースターと、いきがっている若造ラビーフは、
原野ではたまには油断しつつも、さすがと言わせる腕を見せつけます。
原野の内と外、そこで見せられる3人の強さと弱さのバランスがとてもいい。
会話の端々にユーモアも盛り込まれて、硬派一辺倒ではありません。

星空のもとを馬が駆けるシーンではじんわり。
「生きているならば、連絡がほしい」。
静かな余韻なのに、胸が刺されるようです。

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『英国王のスピーチ』

2011年03月28日 | 映画(あ行)
『英国王のスピーチ』(原題:The King's Speech)
監督:トム・フーパー
出演:コリン・ファース,ジェフリー・ラッシュ,ヘレナ・ボナム=カーター,
   ガイ・ピアース,ティモシー・スポール他

近頃お気に入りの作家は誰かと聞かれたら、重松清を挙げます。
決して読者を泣かせようとしているわけではないと思うのですが、
彼の短編集を読むと、1冊につき1編か2編は必ず涙がこぼれます。

さて、この映画の主人公、ジョージ6世は吃音症。
重松氏も同じく吃音症で、だから、吃音症の人が登場する著作がいくつかあります。
『きよしこ』の主人公である少年もそうで、「カ行」が大の苦手。
ジョージ6世の苦手な音がわかる場面では、少年のことを思い出してニッコリ。

今年のアカデミー賞の作品賞に輝いた話題作。
すでにご覧になった方も多いですよね。

英国王ジョージ5世の次男ジョージ6世は、
幼い頃から吃音というコンプレックスを抱えている。
明るく優しい妻と、愛くるしいふたりの娘に恵まれたものの、
人前に出ることを極端に恐れ、内向的な性格に。

吃音をなんとか克服しようと、
これまで何人もの言語聴覚士の治療を受けてきたが、改善の兆しは皆無。
あまりに奇天烈な治療法を持ち込まれた日、
金輪際、治療は受けたくないと妻に言い放つジョージ6世。

しかし、王子なのだから、そのままで良いわけはない。
妻が最後の望みを託したのは、
スピーチ矯正の専門家でオーストラリア人のライオネル。
王子に対しても遠慮のない物言いと治療法にとまどいつつも、
ジョージ6世はライオネルのもとへ通うようになる。

やがてジョージ5世が逝去。
ジョージ6世の兄エドワード8世が国王に即位するが、
奔放な兄は、王室が認めない女性と結婚すると言い出し、
王位を返上してしまう。

突然王位を継承することとなったジョージ6世は、
あらゆる場面でスピーチを求められることを想定し、
不安と恐怖で目の前が真っ暗になるのだが……。

先日の高校野球の選手宣誓でも思いましたが、
よどみなくしゃべることが、人の胸を打つとは限りません。
ライオネルの言うとおり、あの間(ま)があるからこそ。
ライオネル役のジェフリー・ラッシュ、やはり素晴らしい俳優です。
彼を観るならば『シャイン』(1995)を。

同監督作品の『くたばれ!ユナイテッド サッカー万歳!』(2009)は
日本では未公開でしたが、DVD化されています。
とってもおもしろかったので、これもぜひどうぞ。

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『極悪レミー』

2011年03月24日 | 映画(か行)
『極悪レミー』(原題:Lemmy)
監督:グレッグ・オリヴァー,ウェス・オーショスキー

昨年末、ミニシアター系で公開されました。
TSUTAYA DISCASでは取り扱いがないので購入することに。

地震の影響でDVD等の発売が次々と延期になっていますが、
本作に関しては9日が発売予定だったので、
普通ならば発売当日には手元に届いているはずでした。
ところが、なぜか全然配送される気配がなく、
予定日から10日ほど経ってから何事もなかったように届きました。

原題“Lemmy”に対して、この邦題は上手いと思います。
しかし、購入した初回生産限定版は、その名も“OVERKILL EDITION”。
“殺し過ぎ”って、このタイミングで言ってどうする。(--;
総再生時間は6時間50分のド迫力。

前置きが長くなりましたが、
“レミー”と言っても、ヘヴィメタを聴く人でなければ「誰、それ?」でしょう。
1975年に結成され、今なお絶大な人気を誇るイギリスのバンド、
“モーターヘッド”のベーシスト兼ボーカリスト、レミー・キルミスターのことです。
本作は、3年にわたって彼を追い続けたドキュメンタリー。
本人と、多数のミュージシャンへのインタビューで構成されています。
俳優のビリー・ボブ・ソーントンも出演しているのが、私としては嬉しいところ。

撮影時のレミーは63歳。
「セックス、ドラッグ、ロックンロール」を地で行く人生だったようで、
レミーにまつわるさまざまな伝説のうち、女性2000人斬りは本当かと問われて、
「それは嘘。本当は1000人さ」と軽く答えています。

「女性なんて」的発言をしようともどこか憎めないのは、
父親のいなかった彼が、母親と祖母から大切に育てられたからなのか。
最も感謝している人物として、すかさずそのふたりを挙げています。
「女に囲まれて育ったから、女の気持ちには詳しいよ」と言うけれど、
どんなことを言うときもちょっと照れくさそうなのがお茶目。
ワルぶっていても、ちらちらと優しさがうかがえます。

軍事マニアぶりには引きますが、
ヒトラーに傾倒しているとの噂について、「見当違いもいいとこだ」とあっさり。
レミーにとっては、愛用のウエスタン・ブーツと同じ感覚なのかも。
ゲームに没頭する姿は単なるオタク。(^^;

メタル・ファンでなくても、おそらく十二分に楽しめます。
『グローバル・メタル』(2007)の監督がライブの客の中にいるのを見つけて、得した気分。

ちなみに、代表曲のひとつが“OVERKILL”です。

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『冷たい熱帯魚』

2011年03月16日 | 映画(た行)
『冷たい熱帯魚』
監督:園子温
出演:吹越満,でんでん,黒沢あすか,神楽坂恵,梶原ひかり,渡辺哲他

こんなときに映画もどうなんだと思いながら。
明るいものと暗いものと迷い、暗いほうにしたら、気分が撃沈。
さまざまな悲惨な事件を盛り込んだ実録犯罪物というべき作品で、
それについては『映画秘宝』の3月号で紹介されています。

2009年1月14日。
小さな熱帯魚店を経営する社本信行は、妻と死別。
まだ若い妙子と再婚するが、前妻との間の娘である美津子は
妙子のことをとことん嫌い、折り合いは最悪。
気まずい空気の中で3人は暮らしている。

ある晩、男友だちと出かけた美津子が万引をして捕まる。
スーパーからの電話で、妙子とともに慌てて車を走らせた社本は、
警察へ通報しようとする店長になんとか詫びを聞き入れてもらおうと必死。
しかし、美津子には反省の色がまったく見えない。

そこへやって来たのが、店長と懇意らしい村田幸雄という男。
社本の店の何倍もの敷地の熱帯魚店を営む村田は、
寮を完備する自分の店で美津子を預かることを提案して、その場をとりなす。
責任を持って更生させるからと言われ、
社本と妙子もその申し入れを受けることに。

美津子は上機嫌で寮生活を開始。
いろいろなことが上手く行くかに見えたが、
村田から高級熱帯魚の繁殖による儲け話に誘われ、断れずにいたところ、
猟奇殺人事件の共犯となることを余儀なくされて……。

1993年に起きた埼玉愛犬家連続殺人事件が大きなベースとなっています。
経営者夫婦は、詐欺のような儲け話を顧客に持ちかけて、バレれば毒殺。
遺体を風呂場で解体してドラム缶で焼却。
「遺体なき殺人」と呼ばれるに至ったその工程は、
想像するだけでもおぞましいものですが、
本作では直視できないほどのリアルさをもって撮影されています。

寂しい町並み、冷たい雨。不安を煽る蛍光灯の白さ。
登場人物はみんなどこか異常。
実際の事件が本当にこの通りだったとは思えないのに、
リアリティーを感じてしまいます。
キャッチコピーの「この素晴らしき世界。」が本当に怖い。

人にはお薦めできないし、自分でも二度と観たくありません。
エロもグロもてんこ盛りで最悪だと思うのに、
おもしろかったと言わざるを得ない、とても困った作品です。

最後ぐらいはホロリと来るかと見せかけて突き落とされます。
だけど、これが救いでもあるのかと思ったりして。
「生きるってことは、痛いんだよ」。

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「ら抜き」が気になる。

2011年03月11日 | 映画(番外編:映画と邦題・字幕・台詞)
以前、低予算映画にのみ出現するものとして、「ら抜き」を挙げました。

あれからほぼ3年、世間ではさらに「ら抜き」が一般化し、
いまやそんなことを気にするのは
器の小さい人間なんじゃないかと思ってしまうほど。(^^;

邦画を観ていれば、もはや「ら抜き」のほうが普通ですし、
何十年か前の洋画がDVD化されると、その字幕にも「ら抜き」多発。
「見れる」「食べれる」「寝れる」などなど、
もう「ら抜き」がどうたらとは言いづらい状況です。

周りの人が「ら抜き」で話していたり、メールをくれたりしても、
それについてどうこうとはまったく思いません。
それでも、私自身が「ら抜き」は使わないでいようと思うのは、
もともと正しかったはずの日本語がどれなのかを忘れずにしていたい、
使うときに考えたいと思うからかなぁ。

いま読んでいるのは天童荒太の著作なのですが、
この人はまた気持ちいいぐらい、「ら抜き」なし。
気持ちが「ら抜き」に引っかかることがないので、さくさく読めます。
けれども「ら抜き」が不自然な場合ももちろんあり、
たとえば、「ら抜き」を使う人と使わない人の会話を
小説の中で使い分けているとみられる著者に当たると、
「おおっ!」とニヤリとしてしまいます。

思いっきりイマドキの人の映画なのに「ら抜き」じゃなくて驚いたのは、
『ブラック会社に勤めてるんだが、もう俺は限界かもしれない』(2009)でした。
2ちゃんねるで話題になったスレッドの実写映画化でしたね。

小池徹平演じる、元ひきこもりの青年が、小さなIT企業に就職。
サービス残業で徹夜もあたりまえのブラック会社で……というお話でした。
そんな会社で、小池くんが唯一信頼していたのが田辺誠一演じる社員。
ふたりが屋上で会話するシーンで
「これまで生きて来られたのも」という台詞が二度も登場し、
「ら抜き」とちゃうやん!と思わず巻き戻してチェックした次第です。

ところで、大阪弁に「ら入れ」があると気づいたときは愕然としました。
「走れない」が正しいですから、「走れへん」と言うべきなのに、
「走られへん」と言っちゃいます。あかんやん、私。
関西弁でも、京都弁ならば、ちゃんと「走れへん」。
大阪弁の場合、「走れへん」と言うと、
「走る気がないから走らない」というニュアンスになることがあって、
そのニュアンスを伝えたいときは、「走らへん」だったり。

日本語ってむずかしい。おもしろい。

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