夜な夜なシネマ

映画と本と音楽と、猫が好き。駄作にも愛を。

『悪い男』

2004年09月30日 | 映画(わ行)

『悪い男』(英題:Bad Guy)
監督:キム・ギドク
出演:チョ・ジェヒョン,ソ・ウォン,チェ・ドンムン,キム・ユンテ他

本年度のベルリン、ヴェネツィアの両映画祭で
監督賞を受賞したキム・ギドク。
ヴェネツィアでは宮崎駿監督の『ハウルの動く城』の遙か上を行く評価だったようです。
(『ハウル』は技術貢献賞という、ちと中途半端な賞を受賞。)

これは受賞作とは別ですが、まぁぁぁ、えげつない話。
だけどなんでか見入ってしまう。

売春街を仕切るヤクザ、ハンギ。
昼下がりの繁華街で、ベンチに腰かける女子大生ソナを見かける。
清楚な彼女に一目惚れしたハンギは、彼女の隣に腰を下ろす。

しかし、明らかにカタギとは違うハンギに、ソナは冷たい視線を送る。
やがてソナの恋人が現れ、ふたりはその場を去ろうとする。

突然、ハンギがソナの唇を奪い、街は騒然となる。
群衆の中にいた軍人に取り押さえられたハンギは、
殴る蹴るの暴行を受けたうえ、ソナに唾を吐きかけられる。

屈辱的な気分を味わったハンギは
ある計画を思いつき、子分を動かす。
これを境にソナの人生が狂い始める。

ある日、書店に立ち寄ったソナは財布を拾う。
思わず中身を抜き取るが、財布の持ち主に捕らえられる。
抜き取った中身とは桁違いの金額を返すように言われ、
「そんなに入っていなかった」とつっぱねるが、
高利貸しのところへ連れていかれる。
身体を担保に借金することになったソナは、
ハンギの仕切る売春宿に売り飛ばされる。

ソナが暮らし、身体を売る部屋には、
マジックミラーが備えつけられていた。
彼女の様子を壁越しに見守り続けるハンギ。
そうとは知らないソナは泣き暮らし、やがて娼婦へと変わってゆく。

これは本国の韓国のみならず、
ヨーロッパでも話題になったそうです。
究極の愛か?
それとも性的倒錯か?
ヨーロッパでは精神科医まで呼んで映画を分析したとか。

同様に娼婦を見守る愛を描いたフランス作品、
『歓楽通り』(2002)とはまた別の究極の愛。
自分の手で娼婦に育てあげ、そうすることでしか成就できない愛。
ハンギの台詞は全編通してわずか1行。
でも凄みのある目が口以上にモノを言う。

予想に反して一見爽やかなオチ、
でも実はものすごくヘヴィーなオチで、脳みそがグワ~ン。
「韓国の北野武」と言われるキム・ギドク監督。
私は最近の北野武より好きだなぁ。


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『アドルフの画集』

2004年09月27日 | 映画(あ行)
『アドルフの画集』(原題:Max)
監督:メノ・メイエス
出演:ジョン・キューザック,ノア・テイラー他

「アドルフ」は、アドルフ・ヒトラーのこと。
この脚本にはスピルバーグも惚れ込んでいたものの、
あまりにタブー度が高すぎて、
さすがのスピルバーグも断念したようです。

タブー度最強の企画では資金集めも期待できず、
それでもこの脚本に惚れ込んだジョン・キューザック(大好き!)が、
自分はノーギャラで出演するからと実現。

1918年、ミュンヘン。
裕福なユダヤ人家庭で育ったマックス・ロスマン。
第一次世界大戦で右腕を失い、画家としての夢を絶ちきられた彼は、
画商としての人生を歩み始める。

画廊に富裕層の人びとが集うのに対し、
街では多くの復員兵が行き場をなくし、金もなく、自分を持て余し気味。

そんな復員兵らを冷ややかな目で見つめながら、
絵を描きつづける青年がいた。
それがアドルフ・ヒトラーだった。

画廊で華やかなパーティーがおこなわれた日、
ヒトラーがたまたま通りかかる。
シャンパンを中に運び入れようとするマックスにヒトラーは手を貸す。
ヒトラーのスケッチブックに気づいたマックスは、
ぜひ絵を見せにくるようにと誘う。

金をはたいて買ったスーツを着て、
ヒトラーはマックスを訪ねる。
ヒトラーの絵を見たマックスは言う。
心が揺さぶられない、もっと絵に自分をぶつけろと。

キャンバスに向かうヒトラーのもとへ、
ある日、陸軍将校がやってくる。
ヒトラーに演説の才能を見いだした将校は、
軍の宣伝活動のために演説をすれば、生活を保証するという。
金のために演説を引き受けたヒトラーだったが……。

原題は実はヒトラーではなく、“Max”です。
芸術家として生きる夢をマックスに託しつつ、
演説では反ユダヤ主義を叫ぶヒトラー。
政治家よりも画家になりたかった男が、
金のために引き受けた演説で独裁者となり、
彼の芸術家としての才能に賭けたユダヤ人が、
彼の演説をきっかけに命を落とします。←ネタバレ御免。

ヒトラーが画家志望だったというのは有名な話ですが、
以前見たニュースによれば、
彼が残したデッサンは芸術品としては評価できないとのことでした。

所詮、作り話だし、この作品からヒトラーを理解することは不可能。
彼の行為が正当化されることもない。
でも、誰しも何がきっかけで人生が変わるかわからない。
それは本当。

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『幸せになるためのイタリア語講座』

2004年09月22日 | 映画(さ行)
『幸せになるためのイタリア語講座』(英題:Italian for Beginners)
監督:ロネ・シェルフィグ
出演:アンダース・W・ベアテルセン,ピーター・ガンツェラー,ラース・コールンド他

デンマークの女性監督の作品。
『ダンサー・イン・ザ・ダーク』(2000)や『ドッグヴィル』(2003)のラース・フォン・トリアー監督が提唱する、
‘ドグマ95’のメンバーの一員です。
この‘ドグマ95’については以前にも書きましたが、
「使用するのは手持ちカメラだけ、撮影はロケのみ。
セットや人工的な照明禁止、CGに頼らない」といった掟を守って
映画を製作することに賛同した監督集団を指します。

コペンハーゲン近郊の町。
妻を亡くしたばかりの新米牧師アンドレアスは、
この町の教会の代理牧師として赴任する。
教会から紹介されたホテルを訪れると、
人のいいフロント係のヨーゲンが温かく迎えてくれる。

そのヨーゲンの親友は元サッカー選手のハル。
ヨーゲンの勤めるホテルを親会社とする、
スタジアム内のレストランの雇われ店主だ。
しかし、気に入らない客を怒鳴りつけるため、上司はハルの解雇を決める。
親友にクビを言い渡す役目を上司から仰せつかり、
なかなか切り出せずに悩むヨーゲン。

ひそかにヨーゲンに想いを寄せるのが
レストランのウェイトレスでイタリア人のジュリア。
ハルがクビになれば、ハルの親友ヨーゲンは
来店してくれなくなるのではと心配する。

美容師のカーレンはアル中の母を抱え、店をひとりで切り盛りしている。
パン屋の売り子のオリンピアは不器用で、売り物のパンを落としてばかり。
家に帰れば偏屈な父親に振り回され、絶望的な気分で毎日を送る。

こんな町の人びとが集うのが
市役所で週1回おこなわれる初級イタリア語教室。
ヨーゲンの誘いを受けたアンドレアスもこの教室に通うようになる。

登場人物がみんな愛すべき人ばかり。
訪れる不幸も、人とのふれあいで緩和されていき、小さな幸せを感じられます。
聖夜、ジュリアが「ヨーゲンさんがマルサラ酒を
飲みに来てくれますように」という願いがカワイイ。
こんな小さな願いがいっぱい。
欲を言うなら、これで120分近くは長すぎる。

エンド・クレジットはドグマでよく用いられる方法ですが、
封筒にキャストやスタッフの名前を記して1枚ずつ放り投げながら撮影。
原始的で逆に新鮮かも。

トライフルとマルサラ酒で観るのはいかが。

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凹んだときに観る映画

2004年09月17日 | 映画(番外編:小ネタいろいろ)
親愛なる友人が最近メゲてます。
スランプから脱出したいとき、
あなたならどうする?と聞かれました。

私は、基本的に、「何かが原因で落ち込んでいるとき、
その何かでしか回復されない」と思ってます。

たとえば、大失恋したとき、
それを癒すためには結局オトコしかないと。
恋に傷ついたとき、女友だちと飲んで食べて大騒ぎしてスッキリ、
なんてこともあるでしょうが、
根本的なところでは癒されない。どこか心は痛いまま。
前の恋をも吹き飛ばすオトコが現れたときこそ、
ほんとに心は元気になる。

原因とはちがうもので心の修復を試みても、
どこか心は痛いままなのです。

仕事でもスポーツでも何でも、基本はそうだと思ってます。
大失敗してスランプに陥ったとき、
ほかのことで気分転換を図ったとしても、
やっぱり心に何かがひっかかる。
そんなとき、いい仕事がひとつできたら、いいプレーがひとつできたら、
そのときは心がジワ~ンとしてきます。
あぁ、やっててよかったと。

でも、そんな現実を心に置きつつ、
とりあえずは気分を晴らしたいとき、こんな映画を観ます。
定番中の定番だもんで、いまさら書くこともないと思われる3本。

『ショーシャンクの空に』(1994)。
妻とその愛人を殺した罪で終身刑となった銀行家のアンディ。
無実を訴える彼は、刑務所内でも希望を持ち続けます。
根暗の代表みたいなアンディには、光が射すことはないのではとも思えます。
そんななか、銀行家としての腕を刑務所内で発揮し、
人間関係を築いていくすべもおもしろいし、
アンディがかけるレコード“フィガロの結婚”に
囚人たちが癒されるシーンも秀逸。
この作品が世間で評判になりすぎたのが
アマノジャクな私としてはつまらんけれど、
やはり観賞後のあの爽快感は表現しがたいでしょう。
生きててよかったと思った作品です。

『素晴らしき哉、人生!』(1946)。
善人で、いつも人に恵まれ、
逆境にもめげずにやってきた主人公。
でもあるとき、ツキにも見放されて絶望のどん底に。
自殺しようとした彼の目の前に見習い中の天使が現れて……。
人生ってええもんやと思ったクラシック作品。

そして『シャイン』(1995)。

けど、原因がわからなくて凹むときは?
私にもそのうち訪れるであろう更年期。
そんな場合はどうすればいいのか、これは困るなぁ。

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『ブラザー・ベア』

2004年09月16日 | 映画(は行)
『ブラザー・ベア』(原題:Brother Bear)
監督:アーロン・ブレイズ,ボブ・ウォーカー
声の出演:ホアキン・フェニックス,ジェレミー・スアレス他

『華氏911』(2004)の配給権を持ちながら、
自社の傘下であるミラマックス社に「配給するな」と命じたことで
評判を落としたと思われるディズニー。
『モンスターズ・インク』(2001)や『ファインディング・ニモ』(2003)の製作会社であるピクサーも
やはりディズニーの傘下だけど、
ディズニーとの契約を打ち切ったそうです。
最近のディズニーはピクサーに稼がせてもらってた感があるので、
稼ぎ頭を失ってたいへんかも。

これはそのディズニーの作品。

太古の村。
大自然のなか、人びとは動物とともに暮らす。
キナイは3人兄弟の末っ子。
早く一人前の大人になりたいと思っているが、
すぐ上の兄からはバカにされっぱなし。

ある日、木の枝に吊していた魚籠を熊に奪われる。
吊し方が悪いせいだと咎められたキナイは、むきになって熊を追いかけるが、
身の危険を感じた熊の逆襲を受ける。
弟を助けようとしたいちばん上の兄は
熊もろとも氷壁から落ちて死んでしまう。

キナイは復讐を心に誓い、生きているはずの熊を探し始める。
やっと見つけて熊をひと突きしたとき、不思議な光に包まれるキナイ。
そして、目覚めると、なんと熊になっていた。
天国の兄がキナイに愛の意味をわからせるため、なしたことだった。

クマになったキナイは途方に暮れる。
彼が変身させられたことを知る長老は
光の降り立つ山頂にたどり着けば兄に会えるだろうと告げる。

山頂を目指す途中、キナイは子熊のコーダと出会う。
母熊とはぐれたというコーダはキナイにまとわりつく。
仕方なく、コーダとともに旅することに。

ネタバレですが、
旅の道中、いろいろあるのはもちろん。
最後は無事山頂にたどり着き、改心して人間に戻る……と思ったら、ちゃうかったがな。
『シュレック』(2001)みたいなオチで驚いた。
けど安心して観られる85分はやっぱりディズニー。

先週、おもしろかったのは、台風の日。
人が歩くのもたいへんなほどの強風なのに、
信号待ちをしている散歩中の犬が「フんッ」と気合いを入れて風に立ち向かっている姿。
何もこないな風の強い日に散歩せんでも。
あまりのけなげさに、私ひとりでバカウケ。
あと、ネットニュースで見た、「鳩レースの鳩にドーピング疑惑」。
動物たち、がんばってます。

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