夜な夜なシネマ

映画と本と音楽と、猫が好き。駄作にも愛を。

『酒井家のしあわせ』

2007年07月31日 | 映画(さ行)
『酒井家のしあわせ』
監督:呉美保
出演:森田直幸,ユースケ・サンタマリア,友近,鍋本凪々美他

生まれついての関西人としては、
妙な関西弁を聞くと背筋がゾワッとしますが、
自然な関西弁の飛び交う、関西を舞台にした映画は
それだけでポイントが高くなります。

『幸福のスイッチ』(2006)もそうでしたが、
本作も関西出身俳優がズラリ。
と思ったけど、友近さんって愛媛出身だったんですね。
おみそれしました。m(_ _)m

関西のとある田舎町。一戸建てに住む酒井家。
父の正和、母の照美、中学2年の息子である次雄と、
その妹でまだ幼い光の4人家族。

一見ごく普通の家族だが、実は照美は再婚。
数年前に夫を事故で亡くし、どん底の気持ちで、
なんとか次雄を育てていた照美は、
正和と運命の出会いを果たし、電撃結婚。
やがてふたりの間に生まれたのが光だった。

次雄は新しい家族をなかなか受け入れられない。
標準語しかしゃべれない正和の存在は、
それだけでも鬱陶しいのに、何かと父親面。
口うるさい照美。まとわりつく光。

学校に行けば、部活はイマイチ。
可愛いけれど変わり者の同級生からは
好きなのか何なのかわからない告白をされる。
それを見られて上級生からはからかわれ、何もかもがイマイチ。

そんなある日、帰宅すると、荷造りをする正和の姿。
光が「お父さん、お出かけやで」とはしゃいでいる。
隣室で無言の照美に理由を問うと、
「お父さん、好きな人ができたから出て行くねんて。
それも、その相手って、男の人」。

ゲイであるとカミングアウトして出て行った正和。
ウザかったはずの継父だが、何かがおかしい。
釈然としない思いが募る次雄は、
町の天神祭で正和の姿を見かけて追いかけるのだが……。

天神祭が出てきたせいか、夏休みに観たい一作です。
次雄を演じた森田直幸君が◎。
彼の目を通して見た家族や同級生がユーモラスに描かれ、
ときには彼の心の声を聞かせてくれます。
「ショボすぎる」と呟く彼、サイコー。

登場人物もみんな、「おるおる、こんな人」。
特に、同級生の母親を演じる濱田マリは、
噂好きで世話焼きの喫茶店のママで笑わせてくれます。
「この人にだけは標準語をしゃべらさんといて(酷いから)」と
私が思う赤井英和も、関西弁なら大丈夫。
次雄の実父の兄を温かく演じています。

お盆にカニは食べたくないけど。

ちなみにこれも、日本語字幕付邦画

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邦画の日本語字幕

2007年07月24日 | 映画(番外編:映画と邦題・字幕・台詞)
最近のマイブームは、
「邦画を日本語字幕付きで見ること」です。

洋画は字幕付きが当たり前ですが、
邦画に日本語字幕が付くようになったのは、
聴覚障害者にも楽しんでもらおうという意図からでしょう。

私は、幼い頃、しょっちゅう中耳炎になっていましたが、
健康診断では聴力は普通です。
しかし、最近の邦画には台詞を聞き取れないものが多いのです。
昔の邦画は滑舌がよく(?)、台詞がハッキリ、キッチリ聞こえました。
最近は「普段話すように映画でも話す」のが基本なのか、
ボソボソ何を言っているのかわからない邦画がいっぱい。
「普段でももうちっとハッキリ喋るやろ」と言いたくなることも。

そんなわけで、レンタルした邦画のDVDを観るときは、
必ず「字幕」の設定ボタンを押してみます。
コストがかかるのか、日本語字幕付きの邦画はまだ少なく、
かなりのメジャー級か、障害者をテーマにした作品でないと、
なかなか出逢えないないのですけれど。

日本語字幕の魅力に気づいた私は、近頃では台詞が聞き取りにくくなくても、
まず、日本語字幕の有無を確かめます。
少々大げさですが、その字幕から、他人が物事を表現するとき、
どんな言葉を使うのかがわかっておもしろく感じることがあります。

音楽の鳴っているシーンなら「♪~」。
自然の風景が映し出されるシーンなら、「鳥のさえずり」や「川のせせらぎ」。
「ドアを閉める音」、「掃除機の音」、「爆音」など、
作品中に流れている音が「音」と表され、
擬態語や擬声語にはお目にかかった記憶がありません。
「ピロピロ」とか「サワサワ」とか、字で見ると楽しそうな気がしますが、
その音の表現の仕方は人それぞれだから、
字幕製作者のイメージで表現しては駄目なのですかね。

つい先日観た『ありがとう』(2006)が日本語字幕付きでした。
阪神・淡路大震災で家も財産も失い、無事だったのはゴルフバッグのみ。
これは奇跡だと思った古市忠夫氏が、還暦にしてプロゴルファーを目指すという、
実話に基づく作品です。

私のツボにハマった字幕は、
赤井英和演じる古市忠夫がトレーニングに励むシーン。
彼を応援する住民の風貌を表した字幕です。
ジャージを着た男性は「運動仲間風の男」。
「運動仲間風」って、どないやねん。
そら、ほかにどう説明するねんと言われたら困りますけど。
字幕製作者の苦労を感じながらもウケてしまいました。
ごめんなさい。

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『今宵、フィッツジェラルド劇場で』

2007年07月18日 | 映画(か行)
『今宵、フィッツジェラルド劇場で』(原題:A Prairie Home Companion)
監督:ロバート・アルトマン
出演:メリル・ストリープ,リリー・トムリン,ギャリソン・キーラー,
   ケヴィン・クライン,リンジー・ローハン他

昨年11月に他界したアルトマン監督の遺作。
無冠の帝王である彼の群像劇は逸品。
人は皆、どこかで繋がっている。
それを、ときには皮肉っぽく、ときには温かく、
常にユーモアを織り交ぜながら見せてくれる監督でした。
同監督の作品および群像劇については、こちらこちらをご参考までに。

人気ラジオ番組「プレイリー・ホーム・コンパニオン」。
ミネソタ州のフィッツジェラルド劇場で、
30年間、毎週土曜に公開生放送がおこなわれてきたが、
今夜、最終回を迎えようとしている。
ある大企業によって、ラジオ局が買収されたためだ。

しかし、楽屋入りする出演者たちの顔に涙はない。
思い出話に花を咲かせるカントリー歌手のジョンソン姉妹。
姉のロンダ、妹のヨランダと共に、ヨランダの娘ローラもやって来る。
母と同じく歌手を目指すローラは作詞に没頭。

下ネタ満載のカウボーイソングを歌い続け、
いつ聴衆からクレームが来るかと
ディレクターをハラハラさせてきたのが
男性デュオのダスティ&レフティ。
今日も「どうせ最後さ」と下ネタをあれこれ用意。

ベテラン歌手のチャックは、年老いて声もろくに出ないが、
長年サンドイッチの売り子を務めてきたエヴリンと、
出番後に過ごす時間を心待ちにしている。

司会者ギャリソンの名台詞で放送がスタート。
今宵が最後の放送であることを聴衆に言い出せないまま
番組を進行するギャリソン。

保安官のガイは、なんとかこの番組を続けたいと願う。
そんな折り、劇場に現れたのは白いコートの謎めいた美女。
彼女が天使だと信じたガイは、
番組を救ってくれるのではと望みを託すのだが……。

番組も実在なら、司会者も本物。
ギャリソン本人の原案による作品です。

胸を打つ台詞がいっぱい。
エヴリンと抱き合うことを夢見ながら
楽屋で息を引き取ったチャック。
悲嘆に暮れる仲間の耳元で、謎の美女はこう言います。
「老人の死は悲劇じゃない」。

ヨランダの人生訓も最高。
物事が上手く行かなくても絶望してはいけない。
上手く行かないということは、
まだ自分を活かしきれていないということ。
だったら、まだ可能性がある。
人生に無駄はない。きっと道は開ける。

そう、人生は素晴らしい。

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『リトル・ミス・サンシャイン』

2007年07月13日 | 映画(ら行)
『リトル・ミス・サンシャイン』(原題:Little Miss Sunshine)
監督:ジョナサン・デイトン,ヴァレリー・ファリス
出演:グレッグ・キニア,トニ・コレット,スティーヴ・カレル,
   アラン・アーキン,ポール・ダノ,アビゲイル・ブレスリン他

台風接近中ですが、陽の光あふれる作品を。

アリゾナ州郊外に暮らすフーヴァー一家。
勝ち組・負け組にこだわるリチャードは、
「9ステップ成功論」なるものを考案し、出版社に売り込み中。
しかし、色よい返事はもらえない。

息子のドウェーンは、そんな父親に反抗し、
家族と言葉を交わさないことを決意。
必要なことは筆談で。

娘のオリーヴは9歳。
ちょっぴり太めで眼鏡をかけた彼女の夢は、
美少女コンテストで優勝すること。
誰もが無謀だと思っているが、本人は大真面目。
ダンスの練習に明け暮れる。

オリーヴにダンスの指導をするのは、ヘロイン中毒の祖父。
一度は老人ホームに入ったものの、すぐに追い出される始末。

リチャードの妻、シェリルは、
こんな一家をまとめようと奮闘するが、
いつも苦労は報われない。

ある日、シェリルの入院中の兄、フランクが自殺を図り
(『40歳の童貞男』(2005)の童貞男がフランク役。絶品)、
ただでさえ危ういフーヴァー家に、
哲学者でゲイで、死にたい気分のフランクまで同居。

さて、そんなとき、
美少女コンテストの地区大会に出場したオリーヴが
繰り上げ優勝になったとの連絡が。
カリフォルニアで全国大会がおこなわれるのはこの週末。

オリーヴの夢は叶えたいけれど、飛行機代は工面できない。
かと言って、リチャードは運転の下手なシェリルに車を預けたくない。
リチャードとシェリルが家を空けると、
口をきかないドウェーンと、ヤク中のじいちゃんと、
また自殺を図るかもしれないフランクが留守番?
そんなこと、考えるだけで恐ろしい。

かくして一家はオンボロのミニバスを借りて
カリフォルニアへと向かう。

いきなりクラッチが壊れて発進不能かと思いきや、
修理工場のおっちゃんからアドバイスが。
この手の車は発進から2速まではクラッチがいるけど、
3速以上ではクラッチはいらん。
つまり、ある程度スピードが出るまで押せばいいんです。
押して始まる家族の旅。

いちばん心に沁みたのは、
オリーヴがドウェーンの肩を抱くシーン。
何も言わずに肩をぽんぽん。
言葉なんて要りません。

今年観たなかでイチオシ。

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「死」と向き合うということ

2007年07月06日 | 映画(番外編:小ネタいろいろ)
伯母の命があと数日と聞いたとき、
思い浮かんだいくつかの映画があります。

フランスの鬼才、フランソワ・オゾン監督の『ぼくを葬る』(2005)。
「葬る」は「おくる」と読ませています。
ファッション業界で活躍する31歳の写真家ロマンは、
突然、余命3ヵ月を宣告されます。
自分はどう生きるべきかを冷静に考え、家族には事実を隠し通すことに。
ゲイである彼は、最愛の恋人にも冷たく別れを切り出します。
人知れず、海辺で死を迎えるラストシーンは美しすぎるほど。
孤独なのに、孤独を感じさせません。
ロマンが唯一、病を打ち明ける祖母に大女優ジャンヌ・モロー。
彼女の台詞、「今夜、おまえと一緒に死にたい」がグッと来ます。

カナダ/フランス作品の『みなさん、さようなら』(2003)。
父親と疎遠になっている証券会社勤務のセバスチャンのもとへ、
末期癌の父親の死期近しと、母親から連絡が入ります。
二流大学の教授だった父親は女癖が悪く、
それまで家族はさんざん迷惑を被ってきました。
そんな父親のことなど今さら知るかと思いつつ、セバスチャンは帰郷。
明るく楽しい病室にしたいという母親の頼みを聞き入れ、
セバスチャンは父親の知人友人集めに東奔西走します。
最期が近づいても、相変わらずマイペースでわがままな父親。
父親に振りまわされるうち、
周囲の人びとが自分の生き方を見直してゆくのが面白いです。

伯母を想うとき、最初に頭に浮かんだのが『八月の鯨』(1987)でした。
往年の大女優、ベティ・デイヴィスとリリアン・ギッシュが姉妹を演じています。
当時ふたりは79歳と90歳(実年齢は一回り上のギッシュが妹役)。
老姉妹の60年来の習慣は、小さな島の別荘で夏を過ごすこと。
8月になるとやって来る鯨を見るために。
昔は美人だともてはやされた姉のリビーは
病を患って目が不自由になってからというもの、人間嫌いに。
すっかり皮肉屋になった姉の面倒をみる妹のセーラは、
どんな状況下でも明るく無邪気。毎日に感謝しています。
そんな彼女たちと、別荘近くに住むやはり老いた人びとの、
夏のある日を描いた静かな静かな物語。

来年は見ることができないかもしれない鯨。
でも、今年が最後になっても悔いはない。
海に吸い込まれるかのようなふたりを見ていると、
私の中では、リビーとセーラ、どちらも伯母に重なり、
「本当に、何も思い残すことはない」、
その言葉が強がりではなくて、本心に思えました。

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