夜な夜なシネマ

映画と本と音楽と、猫が好き。駄作にも愛を。

『ヴィクトリア女王 世紀の愛』

2010年01月28日 | 映画(は行)
『ヴィクトリア女王 世紀の愛』(原題:The Young Victoria)
監督:ジャン=マルク・ヴァレ
出演:エミリー・ブラント,ルパート・フレンド,ポール・ベタニー,
   ミランダ・リチャードソン,ジム・ブロードベント他

前述の『海角七号 君想う、国境の南』とハシゴ。
同映画館にて上映中。

原題は“The Young Victoria”。
英国史上、最も輝ける時代を築いたといわれる女王。
彼女が統治していた期間は「ヴィクトリア朝」と呼ばれ、
英国の絶頂期だったということは周知の事実。
しかし、彼女のイメージはといえば、小太りのいかめしい顔つきのおばあさん。
本作はそんな彼女の若き日に焦点を当てた佳作です。

19世紀の英国。
国王ウィリアム4世の姪で、筆頭の王位継承者だったヴィクトリアは、
彼女の命をつけ狙う者から守るため、
幼いころから厳重な警護下に置かれる。
一時も独りで過ごすことは許されず、窮屈な毎日。

父親であるケント公は、彼女が1歳になるのを待たずして亡くなり、
以来、母親のケント公夫人は、秘書のコンロイにすべてを任せっきり。
コンロイに操られるがままに政治に口を挟むため、国王との仲が険悪に。
しかし、そんな国王もヴィクトリアのことは可愛がっている。

ヴィクトリアが王位を継承できる年齢になる前に、
ケント公夫人に摂政を委ねるという書類にヴィクトリアが署名すれば、
実質的権力を握れると考えるコンロイは、力ずくで署名させようとする。
だが、ヴィクトリアは頑として署名しなかった。

そして、彼女が18歳になった年、国王が逝去。
ヴィクトリアは女王に即位する。

『プラダを着た悪魔』(2006)の鬼編集長のアシスタント役、
『ジェイン・オースティンの読書会』(2007)のフランス語教師役などが
とても印象に残っているエミリー・ブラントがヴィクトリア役。
女王にはミスキャスティングかと思いきや、どうしてどうして。
生まれながらの女王で、臆することなく、強くありながら、
いたずらっぽい微笑みや頼りなさも見せてくれます。

のちに彼女から求婚するアルバート公は、
そもそもは政略結婚をもくろむ叔父が送り込んだ相手。
なのに、お互いにひと目で恋に落ちてしまうくだりにはニッコリ。
狙撃を受けたさいには、大喧嘩中だったにもかかわらず、
ヴィクトリアをかばって重傷を負ったアルバート。
「僕の代わりはいるけれど、君の代わりはいない」という台詞に泣かされて。

宮殿、衣装ともに見どころ十分。
劇場では衣装も展示中。併せてお楽しみを。

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『海角七号 君想う、国境の南』

2010年01月25日 | 映画(か行)
『海角七号 君想う、国境の南』(原題:海角七號)
監督:ウェイ・ダーション
出演:ファン・イーチェン,田中千絵,中孝介,リン・ゾンレン他

関西では、現在、梅田ガーデンシネマのみにて上映中。
知名度の高い俳優が出ているわけでもないのに、
台湾で史上一位の観客動員数を記録したという作品です。

ミュージシャンになる夢に破れ、
台北から台湾南端の島・恒春へ帰郷した青年アガ。
町議会の議長を務めるアガの継父は、
怪我で休暇中の郵便配達夫のボー爺さんに代わり
郵便配達の仕事をするよう、自暴自棄気味のアガに勧める。

郵便物の中にあった宛先不明の小包。
当然、局へ返さなければならないが、
アガはなんとなく持ち帰って勝手に開けてしまう。
それは、日本が台湾を統治していた1940年代、
日本人教師から台湾人女性へ宛てられた手紙の束で、
教師の他界後、その娘が見つけて送ってきたものだった。
日本統治時代の旧番地宛だったため、宛先不明となったのだ。

さて、この頃、町のリゾートホテルでは、
日本人歌手を招いた海岸ライブが決定し、
外国人モデルをはべらせたポスターを作成中。
ところが、その噂を聞きつけた議長が、
町おこしの機会に町の出身者を使うべきだと言い張り、
前座として参加するバンドのオーディションをおこなう。

自らもモデルでありながら、
外国人モデルの雑用係をさせられていた日本人の友子は、
帰国直前に議長らに引き留められ、
このイベントの通訳として残るはめに。
素人即席バンドの世話まで引き受けることになって……。

監督は、あるときニュースで日本統治時代の旧番地宛に
ごくごく事務的な手紙が届いたことを知り、
これがもしラブレターだったら……という発想から
本作を撮り始めたのだそうです。

日本統治時代、日本語と日本人名の使用を強要されていたにもかかわらず、
台湾人には親日家が多いというのは聞いていましたが、
映画のそこここにあらわれる温かい感情。
優しい笑いをもたらすシーンが多数。
また、お涙頂戴のシーンなんてひとつもないのに、
なぜか何度もグッと来るものがあり、涙が溢れました。

台湾でも大人気の歌手、中孝介さんの歌声はやはり素晴らしい。
YouTubeでは『それぞれに 海角七号バージョン』を視聴することができます。
アガをボーカルとするバンドと中さんが共に舞台に上がるラストシーン。
その感動は、ちょっと言葉では表せません。

この作品を劇場で観られたことを幸せに思います。

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『アライブ 生還者』

2010年01月21日 | 映画(あ行)
『アライブ 生還者』(原題:Stranded: I Have Come from a Plane that Crashed on the Mountains)
監督:ゴンサロ・アリホン
出演:ロベルト・カネッサ,ナンド・パラード,アントニオ・ビシンティン他

1972年10月13日に起きたウルグアイ空軍機571便遭難事故。
乗客乗員あわせて45名のうち16名が、
雪に覆われたアンデス山中で72日間を経て生還した様子は、
過去に幾度となく映画化されています。

もっとも有名なのは、ハリウッド映画の『生きてこそ』(1993)。
事実に基づき、生存者がアドバイザーを務めた作品です。
『アンデスの聖餐 人肉で生き残った16人の若者』(1975)は、
タイトルからはカニバリズムに目を向けた興味本位の作品とも取れますが、
真面目に撮られた、ブラジル人監督によるドキュメンタリーでした。

本作は、初めて生存者全員が出演したドキュメンタリー。
生存者へのインタビューと再現映像で構成されています。
なんというのか、良いとか悪いとかではなく、凄まじい。
観終わるとしばし放心状態に。

ウルグアイのラグビー部に所属する大学生とその関係者たちを乗せて、
チリのサンティアゴへ向かったチャーター機571便。
生まれて初めて飛行機に乗る者もいて、みんな大はしゃぎ。
ところが、諸般の悪事情が重なり、名もない峰に墜落してしまいます。

機体は雪山を滑り落ちて、ふたつにぶった切られた状態に。
墜落した拍子に機体から投げ出されて即死した者、数名。
パイロットはどの辺りの上空かを言い残して死亡。
食糧を含む大半の荷物が積まれていた尾部は、
乗客のいた部分とは切り離された形でどこか遠くへ。

救助隊の到着を今か今かと待ちわびますが、
機体が白かったために雪と同化してしまい、上空からは見つけることが困難。
すぐそこを飛んでいる捜索機が素通り。
やがて、捜索が打ち切られたことをラジオで知って愕然。

負傷が原因で徐々に増えてゆく死亡者。
食糧が底を突き、遺体を食べることを決意するまで、
自分は狂ったのではないかと思い悩みます。
口に出してみれば、誰もが考えていたこと。

助けは来ないと悟り、最も体力のある2名が、
5,000メートル級の山を越えて9日間歩き続け、
やっと辿り着いた緑のある場所で、川向こうに牛が見えた瞬間の喜び。

その場に立つ力すら残っていないはずなのに、
丁寧に並べた遺体について、
そのひとりずつの名前を救助隊員に懸命に伝えた生存者。
彼らの気持ちがわかるなんて言えないけれど、
どの言葉も表情も胸に迫ってきました。
凄いです。

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『私は猫ストーカー』

2010年01月18日 | 映画(わ行)
『私は猫ストーカー』
監督:鈴木卓爾
出演:星野真里,江口のりこ,宮崎将,品川徹,諏訪太朗,
   瀬々敬久,黒沢久子,麻生美代子,徳井優,坂井真紀他

イラストレーターの浅生ハルミンの同名エッセイがベース。
どんなに愛しくても、いつしかいなくなってしまう猫。
ふれあえる時間はわずかだから、
主人公は、可能なかぎり、猫をつけ回します。(^^)

東京の下町に住む、イラストレーターの卵、ハル。
イラストを描く仕事のかたわら、
近所の古本屋でアルバイトをしている。
とにかく大の猫好きで、空いた時間は猫を探して町を散策。
猫を見つけると追わずにはいられない。

古本屋のレジには、キジトラ猫の“チビトム”が鎮座。
チビトムと一緒に過ごせる勤務時間が幸せでたまらないが、
もうひとりのアルバイトの真由子は、
そんなハルの様子を見ては眉間にしわを寄せる。
「ハルさんって、猫さえいれば幸せ……って人じゃないでしょうね?」。

古本屋の店主夫婦は、寡黙で地味なご主人と、
元ホステスだったという明るい奥さん。
一風変わった組み合わせだが、とても幸せそう。
ところが、ある日、1冊の古本のせいで、痴話喧嘩となる。

すると、飼い主夫婦の間の不穏な空気を察したのか、
突然チビトムが行方不明に。
奥さんは愛猫の失踪に半狂乱になり、
あまり心配しているとも思えないご主人に八つ当たり。
自分も家を飛び出してしまう。

チビトムが帰ってくれば、奥さんも戻ってくるのでは。
真由子はチビトムのポスターを作成し、町中に貼る。
ハルもチビトムの行きそうな場所を探し始めるのだが……。

猫にやたら詳しく、「猫が世界を救う」とまで言い切る猫仙人。
猫のことなら任せろと言うわりには、全然頼りにならない僧侶らしき人。
猫ストーカーのハルをストーカーしているとおぼしき古本屋の常連客。
特にストーリーがあるわけでもなく、
ただ、こういった人びとと谷根千(やねせん)の町で過ごす時間が
実にゆるゆると流れるので、睡魔に襲われる人もいるかも。

でも、猫好きの方には強くお薦めしたいです。
画面の中の猫と目が合って喜んでみたり、
猫のちょっとした仕草に頬がゆるんでしまったり、心がほっこり。
「簡単には触らせてくれない猫に触らせてもらう極意」も可笑しいです。

猫以外の部分では、古本屋のご主人の台詞、
「感傷ってあるじゃない。次元がちがうんだよなぁ」には
妙にしんみり、うなずいてしまいました。

ここにいるよ。

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『OLDK(オーエルディーケー)』

2010年01月14日 | 映画(あ行)
『OLDK(オーエルディーケー)』
監督:原正弘
出演:清水美那,三浦誠己,一條俊,北川絵美,上田耕一,國村隼他

2004年のR-15指定作品。
すぎむらしんいちの漫画『OLDK築25歳』を映画化。

本作は、女性を主人公に、愛・友情・エロスをテーマとして、
6人の監督が撮った「ラブコレクション」シリーズの第2弾だそうな。
『きみの友だち』(2008)の廣木隆一監督の企画のもと、
『百万円と苦虫女』(2008)のタナダユキ監督や『ノン子36歳(家事手伝い)』(2008)の熊切和嘉監督など、
今、脂の乗っている監督がメガホンを取っています。
いずれも70分程度の中編で、さくっと観るのにうってつけ。

東京の片隅に建つ、老朽化したアパート。
102号室に住むのはOLのケイコ。
対人関係を築くのが苦手で、会社で疲れ果てている。
想いを寄せていた職場の男性は別の女性と婚約。
家に帰って早く眠りたい。
ところが、ゆっくり眠れない事情がある。

101号室には、若さと精力だけが取り柄の男、タクヤが。
マキという女の稼ぎでヒモ同然の生活をしている。
朝も夜も壁越しに聞こえるマキの喘ぎ声。
しかも、マキが仕事に出ている昼間は、
レナという女を連れ込むものだから、昼夜問わずに喘ぎ声。

103号室には、大音量でデスメタルを聴き続ける男、西条が。
ヤクの売人である西条は、いつしか売り物に手を付け始める。
ラリラリ状態でメタルを聴くものだから、
音量はますます上がって、今や爆音に。

また、202号室からは不気味な物音が聞こえ、
天井が軋むのが気になって仕方ない。
しかし、住人とは顔を合わせたことがない。
いったいどんな人が住み、何をしているのか。

気が弱いせいで、苦情を申し立てることもできず、
不眠に陥ってしまったケイコは、
ある方法で自殺しようと決めるのだが……。

たいしたことなかろうと観始めましたが、これがなかなかよくできています。
同じ時間に、複数の人間が何をしていたかという、私の好きなヤツなんです。
その手の作品については、こちらをご参照ください。
そこに挙げた数々の作品に比べると、時系列の描き方がいささか粗く、
完成度は高いとは言えませんが、ラストは度肝を抜く展開で、抱腹絶倒。

上田耕一や國村隼など、ちょい役(だけどインパクト大)で
ベテラン俳優が顔を見せているのも頼もしい限り。
「ラブコレクション」シリーズ、制覇することにします。

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