夜な夜なシネマ

映画と本と音楽と、猫が好き。駄作にも愛を。

『ドリーミン・ワイルド 名もなき家族のうた』

2025年02月21日 | 映画(た行)
『ドリーミン・ワイルド 名もなき家族のうた』(原題:Dreamin' Wild)
監督:ビル・ポーラッド
出演:ケイシー・アフレック,ノア・ジュープ,ゾーイ・デシャネル,ウォルトン・ゴギンズ,
   ジャック・ディラン・グレイザー,クリス・メッシーナ,ボー・ブリッジス他
 
大阪ステーションシティシネマにて3本ハシゴの2本目。
1本目の『ショウタイムセブン』で爆睡し、これもやばいかと思っていましたが、全然大丈夫でした。
ノーマークだったのにとても良かった。ということは、やっぱり面白ければ寝ないのか!?
 
実在の兄弟デュオ“ドニー&ジョー・エマーソン”を取り上げた音楽ドラマ。
弟のドニーをケイシー・アフレック、青年時代の彼をノア・ジュープ
兄のジョーをウォルトン・ゴギンズ、青年時代の彼をジャック・ディラン・グレイザーが演じています。
 
監督は『ラブ&マーシー 終わらないメロディー』(2015)のビル・ポーラッド。
この人は監督作は2本のみだけど、今は亡きヒース・レジャー主演の『ブロークバック・マウンテン』(2005)を皮切りに、
『それでも夜は明ける』(2013)や『怪物はささやく』(2016)など、話題になった多くの作品の製作に当たっているようです。
 
テレビもろくに映らないような田舎の農場で育ったエマーソン兄弟。
父親のトラクターに乗ればラジオから流れる音楽を一日中聴くうち、兄弟のうち弟のドニーは作曲を始める。
 
ドニーの才能は家族の誰もが認めざるをえないもの。
父親はこの芽をつぶさぬようにと金を工面して、農場の端っこに音楽スタジオを設ける。
兄のジョーがドラムを叩き、ほかの楽器とボーカルはすべてドニーが担当。
レコーディングすると1枚のアルバムを作り上げる。タイトルは“ドリーミン・ワイルド”。
しかしそのアルバムが世間の話題に上ることはなかった。
 
30年が経った今、ドニーは街で小さな音楽スタジオを経営しつつ、ドラマーの妻ナンシーとささやかなライブ活動を続けている。
愛しい娘と息子もいるが、経営状態は決してかんばしくなく、そろそろ廃業すべきかと考えている。
 
そんなとき、今も実家の農場近くでひとり暮らしのジョーから連絡が入る。
なんでも“ドリーミン・ワイルド”がバズっているらしく、エマーソン兄弟を探していた音楽プロデューサー、マットが訪ねてくると。
信じられない話だと思いながらも実家に出向くと、レコードコレクターが“ドリーミン・ワイルド”を聴いて度肝を抜かれ、
そこから皆が知るところとなったこのアルバムを有名なミュージシャンも聴いてベタ褒めしていると言う。
 
アルバムを再発してツアーまでおこなう話が持ち上がり、ジョーも家族も大喜びするが、
ドニーだけは複雑な思いを消せずに戸惑い……。
 
10代のとき、音楽に人生を懸けると誓い、自信を持ってアルバムを世に出したのに、家族以外は誰も見向きもしなかった。
自分のせいで父親は土地の大半を手放して金を作ってくれたけれど、報いることはできず。
30年も経ってから認められても、ドニーはどうしてよいかわかりません。
しかも、今の自分の相方は妻のナンシー。彼女ではなく、彼女より演奏が下手なジョーと一緒に舞台に上がるのも複雑な気分。
 
しかし彼の家族はどこまでも優しい。両親とジョーと妹たち。それにナンシーたち今の家族も。
一攫千金を狙ってドニーの味方をしているわけではなくて、とにかくドニーの才能を信じています。
たいした才能もない息子を信じる親バカという場合もありましょうが、この親はそうじゃない。
大きな愛で息子を見守り続ける父親を演じるボー・ブリッジスが凄くイイ。
ナンシー役のゾーイ・デシャネルも「私のほうが」なんてところは微塵もなくて、兄弟の仲をきちんと取り持ちます。
 
後ろめたさを感じるたび、過去の自分と向き合うドニー。
音楽から離れることなく続けていたからこその今かと思います。
 
作品中にもカメオ出演していた本物のドニーとジョーが演奏する姿がエンディングで観られます。
客席でそれを幸せそうに見守る両親の姿も。

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『敵』

2025年01月30日 | 映画(た行)
『敵』
監督:吉田大八
出演:長塚京三,瀧内公美,河合優実,黒沢あすか,中島歩,カトウシンスケ,高畑遊,
   二瓶鮫一,高橋洋,唯野未歩子,戸田昌宏,松永大輔,松尾諭,松尾貴史他
 
イオンシネマ茨木にて。
 
1998年に出版された筒井康隆の同名小説を全編モノクロで映画化したのは吉田大八監督。
結構好きな監督です。彼が映画化に選ぶ作品がわりと好きというのか。
 
77歳になる元大学教授の渡辺儀助(長塚京三)はフランス文学の権威。
20年前に妻の信子(黒沢あすか)に先立たれたが、古い日本家屋に住みつづけ、規則正しい生活を送っている。
それなりの会社に就職して出世した教え子たちの多くが今も彼を慕い、
雑誌にエッセイを連載する話を持ってきてくれたり、遊びにきてくれたり。
劇団を主宰する教え子(松尾諭)は積極的に片付けを手伝ってくれて、庭の井戸掘りにまで精を出す。
 
そんな教え子の中でも鷹司靖子(瀧内公美)には若干の下心がある。
靖子のほうもそれを察知していると見え、なまめかしい仕草を見せられるとついついよからぬことを考える。
また、友人(松尾貴史)に誘われて行くようになったバーには、
オーナーの姪でフランス文学を学んでいる大学生だという菅井歩美(河合優実)がいて、なんだか色っぽい。
 
預貯金があと何年持つかを冷静に計算し、終末に備える儀助だったが、最近頻繁に届く迷惑メールが気になる。
URLをクリックせずにゴミ箱に捨ててはいるものの、「敵がやってくる」という文言が頭から離れない。
ある日、好奇心に負けてついにクリックしてしまうと……。
 
不思議な感覚で面白い作品でした。
品行方正、誰からも尊敬される老人のはずが、女性に対してはそれなりに破廉恥な感情を持っています。
隠しているつもりがきっちり見抜かれていて貶められる、騙される。
 
途中からは現実なのか彼の妄想なのかが観ているこちらにもわからなくなる。
認知症の兆候としか思えませんが、時折本当にそのことが起こっていたりもする。境目がわからない恐怖。
 
まともな間の彼が作る日々の料理がとても美味しそうで。
白米を炊き、網で魚を焼く。朝食はハムエッグのこともあります。コーヒーは豆からきちんと挽く。
蕎麦を湯がいて刻んだ葱と共に。鶏肉と太い葱を買ってきて焼き鳥串を作る。レバーまであります。
白菜のキムチをどっさり買って韓国冷麺に添えたら体調を崩して病院に行くはめに。
医者からは、若いときと同じように激辛なものを食べちゃ駄目ですよとたしなめられる。
 
平穏な生活って何でしょう。
彼の最期が幸せだったかどうかは私たちにはわからない。
こんな恐ろしい夢を見る前に死にたいと思うのでした。

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『盗月者 トウゲツシャ』

2025年01月13日 | 映画(た行)
『盗月者 トウゲツシャ』(原題:盗月者)
監督:ユエン・キムワイ
出演:イーダン・ルイ,ルイス・チョン,マイケル・ニン,アンソン・ロー,ギョン・トウ,田邊和也他
 
友人夫婦の車で東福寺へ。
蕎麦会席をいただく前にのお墓にも連れて行ってもらいました。これも一石二鳥と言ってよいですか。ちゃう!?(^^;
ゆっくり楽しく食事したあと、イノダコーヒ本店でお茶してからお別れ。
私はMOVIX京都で映画を2本観てから帰ることに。
 
行き当たりばったりで映画に行くことはまずありません。この日も出かける前にオンライン予約済み。
時間的にちょうど良い作品は何かなと調べたところ、ノーマークだった本作がひっかかる。
へ〜、こんな香港映画があるのねと興味を惹かれて観に行ったら、これが大当たりでした。
いきなりのドンパチシーンは終盤になってようやく「おおっ、こういうことか」。
 
確かな目と腕を持つ時計修理工のマー(イーダン・ルイ)は、パーツだけ本物を揃えて偽物を仕上げるなんてお手の物。
富裕で傲慢な客を相手に、そんな「本物を使用した偽の高級時計」を売りつけることもある。
 
ある日、裏社会では有名な老舗時計店を仕切る二代目ロイ(ギョン・トウ)から窃盗チームへの参加を強要される。
それは銀座の時計店に保管中の「ピカソ愛用の時計」3点を盗み出すというもので、
マーが断ろうとすると、偽物販売の件を知っているらしいロイに脅される。
返事次第では命すら奪われそうで、致し方なくマーはチームに参加することに。
 
マーと共に東京へ向かうのは他に3人。
リーダーは先代ロイの忠実な臣下だったタイツァー(ルイス・チョン)で、戦略の策定と遂行に長けている。
爆薬の扱いならピカイチのマリオ(マイケル・ニン)は、壁などの破壊のみならず逃走経路にも詳しい。
鍵師の母親を持つヤウ(アンソン・ロー)は、今は眼を患っている母親の手術代を稼ぐため、母親の代わりに自分のチーム入りを志願。
 
東京に到着した4人は、客を装って下見をおこない、入念な計画を立てるが……。
 
ロイから指示されたのは3点を盗むことで、それ以上でもそれ以下でも駄目だと言われます。
しかし銀座の時計店に行ったマーは、その3点ではない時計に目が釘付けになります。
マーが長年、どうしても本物を見てみたいと思っていた“ムーンウォッチ”の43番。
アポロ11号に搭乗した宇宙飛行士バズ・オルドリンが着けていたとされるこの時計は、月面で初めて使用された時計とされるアメリカの国宝。
それが目の前に現れたものだから、平常心ではいられません。
 
そもそもロイは先代の臣下をすべて断ちたいと思っているから、タイツァーやマリオは捨て駒。
その巻き添えを食いかけているマーとヤウだけど、この4人のチームワークが最高で。
 
種明かしにニヤニヤしてしまう痛快クライムアクションです。
イーダン・ルイとアンソン・ロー、ギョン・トウは香港の男性アイドルグループ“MIRROR”のメンバーだそうで、道理でカワイイ。
香港版リメイクの『おっさんずラブ』ではイーダン・ルイが主演、オリジナルで田中圭が演じた役を務めているとのこと。
本作で悪役を演じたギョン・トウがグループではいちばん人気らしく、彼やアンソン・ローのほうがよりアイドル顔だとは思いますが、
三枚目的なところのあるイーダン・ルイのほうが私はうんと気に入りました。
 
連日飲み続けているし、京都からとっとと帰っとけよ私と思っていたけれど、これは本当に観てよかった。
めちゃめちゃ楽しい。

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『太陽と桃の歌』

2025年01月04日 | 映画(た行)
『太陽と桃の歌』(原題:Alcarras)
監督:カルラ・シモン
出演:ジュゼップ・アバッド,ジョルディ・ プジョル・ ドルセ,アンナ・ オティン,アルベルト・ボスク,シェニア・ ロゼット,アイネット・ジョウノウ,
   モンセ・オロ,カルレス・ カボス,ベルタ・ピポ,ジョエル・ロビラ,イザック・ロビラ,エルナ・フォルゲラ,アントニア・カステイス他
 
テアトル梅田にて2本ハシゴの2本目。
 
1本目に観た『クラブゼロ』がなんとも言えず気持ちの悪い作品で。
これはそんなことは決してなかろうと思いながら臨むスペイン/イタリア作品。
第72回ベルリン国際映画祭金熊賞を受賞しています。
 
スペイン・カタルーニャ地方の桃農園。
三世代でこの農園を守りつづけてきたソレ家だが、地主から土地を明け渡すように突然通告される。
祖父のロヘリオの時代には契約書など存在せず、永年の貸与を口約束していた。
法的に効力を発揮できるものは何もなく、このまま地主に従わなければならないのか。
 
地主の通告の理由は、この地にソーラーパネルを設置したいというもの。
桃で収入を得ずとも、ソーラーパネルの管理を任せるからそれで食えるだろうというのが地主の言い分。
ロヘリオの息子キメットは激怒し、その息子ロジェーも桃づくりに携わりたいと思っているが、
キメットの妻ドロルスや妹夫婦のシスコとナティはパネルの管理人のほうが楽に稼げると考える。
 
夏が終われば土地の明け渡し期限が到来する。
なす術もないまま刻一刻とそのときが近づいてきて……。
 
巨大資本に潰される家族経営の農家という図は、考えてみれば『クラブゼロ』と言いたいことが同じと言えなくもない。
けれどその印象はまるで異なります。
 
困惑する家族たちの中で、何もわからない幼き子どもたちは無邪気。
あれれ、車がなくなっちゃったよ、車の中は涼しかったのに、なんで車がないの、なんて話している。
遊ぶことに忙しく、親たちの苦悩を知る由もないけれど、なんとなく不穏な空気は察しています。
 
桃の生産者たちがデモを起こして闘う様子と対照的にカタルーニャの景色が美しいのが切ない。
太陽は彼らの気持ちに関係なく照り続ける。呆然と見守るしかないエンディングです。
 
しかしソーラーパネルってそんなに儲かりますか。

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『どうすればよかったか?』

2025年01月02日 | 映画(た行)
『どうすればよかったか?』
監督:藤野知明
 
ここからしばらくは旧年中に観た作品です。
ナナゲイこと第七藝術劇場にて。
 
前月予告編を観たときから気になっていましたが、どうにもキツそう。
心が相当元気なときじゃないと観るのは無理だろうと思っているうちに公開になり、
あちこちのメディアで取り上げられて連日満席の模様。
んじゃやっぱり観ておきましょうかと覚悟してオンライン予約しました。
私が予約した時点でほぼ席が埋まっていて、当日は立ち見客が数十人出る盛況ぶりです。
 
北海道出身の藤野知明監督は1966(昭和41)年生まれで私と同年代。生きてきた時代背景が同じ。
姉と弟のふたりきょうだいというところも同じですが、環境はかなり異なります。
 
なにしろ藤野監督のご両親は共に医学に携わる人で、
藤野監督が生まれる前には監督の8歳上の姉・まこさんを連れて家族で欧州旅行。
当時の様子を収めた8ミリフィルムがたくさん残っていたり、
大正と昭和一桁生まれの両親が用意する食事はとっても洋風だったりして、
なんというのか、余裕ある暮らしだったように見受けられます。
 
まこさんも幼い頃から医学に興味を持ち、目指すは医者。
藤野監督曰く「姉は僕よりもずっと優秀で、中学・高校とずっとトップの成績」。
しかし医学部に入るのにはまぁまぁ苦労して、4年かかったそうです。
 
苦労して医学部に進学したといっても、まこさんは順調にその道を進んでいると思われていました。
ところが突然おかしくなる。夜中に大声で怒鳴りはじめ、救急車を呼ぶことに。
翌日にはまこさんを連れ帰ってきた親の「娘は100%正常」という言葉に藤野監督は疑問を持ちますが、
家族の中でまだ子どもの彼に発言権はありません。
 
やがて藤野監督も北海道大学に入学し、実家を離れたかったこともあって神奈川県で就職。
その後、映像制作を学んだ彼は、帰省して家族の姿を記録しはじめます。
最初に救急車を呼んだ日から18年後のことでした。
 
冒頭、本作は「統合失調症の原因を明らかにしたり治療法を追求したりするものではない」という、
監督自身の言葉によるテロップが映し出されます。
文言を正確に覚えているわけではありませんが、こんな意味だったかと思います。
 
娘が精神を患っていると認めたくない両親。けれど現状としてまこさんはおかしい。
まこさんが勝手に外出しては困るからと、玄関に南京錠などをつけます。
予告編からは彼女を部屋に閉じ込めたのだと思っていたので、そうではなかったのはまだマシに映りました。
 
冒頭のテロップで言われているように、本作は20年間の「記録」に徹しています。
 
まこさんの日常の行動、彼女と共に自らも外出しなくなった母親。
母親に認知症の兆候が現れはじめ、睡眠中のまこさんをわざわざ起こしたり、侵入者がいると言ったり。
その段になってようやくまこさんに診察を受けさせることに父親が同意し、
まこさんに合う薬が見つかって、3カ月入院したのち戻ってきます。
しかしまこさんがステージ4の肺癌だとわかる。
 
まこさんより先に亡くなった母親は、まこさんを病院に連れて行かないのは夫のせいだと話していました。
夫の言うことは絶対で、もしも娘を病院に連れて行けば夫は死ぬよ。
けれど、最後に残った父親に聞けば、妻が娘の病気を認めようとしなかったせいだと言う。
ふたりとも「せい」という言い方はしていないから、これは私の印象ですね。すみません。
 
「パパ」「ママ」と呼び合い、ただの一度も「僕」「俺」「私」等なかったことに違和感。
ずっとパパでありママであったのかなと思います。
記録に徹していたとはいうものの、監督が「復讐したいのか」などとまこさんに訊くところにも違和感。
 
どうすればよかったかはわかりません。
ただ、まちがった対処をしたとは思わないと断言する父親と父親のやり方を肯定する母親を見て、
自分たちは精一杯やったのだと、この人たちは満足だったかもしれないと思いました。
 
安易には何も言えない気がして、感想を書くのがとてもむずかしい。

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