『波紋』
監督:荻上直子
出演:筒井真理子,光石研,磯村勇斗,安藤玉恵,江口のりこ,平岩紙,
津田絵理奈,花王おさむ,柄本明,木野花,キムラ緑子他
すっかりインバウンドが戻ってきたミナミ。
“りくろーおじさん”のチーズケーキにアホほど並んでいる行列横を通る。
TOHOシネマズなんば別館にて、いただいた株主優待券を使って。
「おひとりさま2本まで」と書かれたミネラルウォーターを買いに走る客の姿。
水道水は飲まないようにねと家族に告げる主婦・須藤依子(筒井真理子)。
ところがある日突然、修が帰ってくる。
父親は半年前に亡くなり、息子は九州の大学を卒業して向こうで就職。
依子は新興宗教“緑命会”を心の拠り所にして生きていた。
勝手に出て行った修を突き放そうとするが、修は末期癌なのだと言う。
保険適用外の新薬に必要な金がほしくて帰ってきたらしい。
父親にはそれなりの資産があったはずだから、自分に相続権があると言い……。
修があまりにもろくでなしで、その点では依子に同情しますが、
彼女が一方的に被害者だとは思えないところもしばしば出てくるのです。
大きめの一戸建てに住み、幸か不幸か金もそれなりにあるから、新興宗教に入れ込みまくり。
依子に胸のすくアドバイスをするのがパート先の清掃員(木野花)。
更年期の乗り切り方を教えてくれたり、戻ってきた夫に仕返しすべきなどと言われたりして、
依子は少なからず気分を持ち直します。でもこの清掃員にも実は辛い過去がある。
いちばんの被害者は息子だったのではないだろうかと思います。
父親に捨てられ、残された母はおかしいから、見ているのがつらい。
逃げ出した先で出会った女性と同棲を始めたけれど、
母親に紹介しようと帰省すると、憎むべき父親が帰ってきていたうえに、
息子より6つ年上で聴覚障害者である恋人(津田絵理奈)のことを母親は嫌う。
こんな家からは離れたくなりますよねぇ。
いつもどこかのほほんとしている荻上直子監督作の中では、闇が強くて異色と言えそう。
でもところどころクスッと笑ってしまう場面はやはりある。
ムロツヨシの出演シーンは一瞬彼とわかりませんでした。カマキリの話、聞いてください。
絶望の中にも生きていくわずかな光を感じました。
他人から見ればこれが光とも思えないかもしれないけれど、本人にとっては。
筒井真理子は素晴らしい女優。最後は赤が映えて美しかった。