夜な夜なシネマ

映画と本と音楽と、猫が好き。駄作にも愛を。

『親切なクムジャさん』

2006年03月30日 | 映画(さ行)
『親切なクムジャさん』(英題:Sympathy for Lady Vengeance)
監督:パク・チャヌク
出演:イ・ヨンエ,チェ・ミンシク,クォン・イェヨン他

インドネシアで「カニを食べよう」と誘われたら喜んではいけない、
それはあなたと喋りたくないからだ、と聞いたことがあります。
確かに、人はカニを食べるとき、無口になるものですが、
この話の真偽のほどはわかりません。

韓国で刑期を終えた囚人が出所時に豆腐を食べるのは
ホントにホントの慣習なのだそうです。
真っ白な心で再スタートを切れるように。
どこから書いてもネタバレになりそうな本作は、
大人気を博した『宮廷女官 チャングムの誓い』のイ・ヨンエ演じる、
美貌の囚人クムジャが出所するシーンから始まります。

刑務所前で牧師から差し出された豆腐を
「余計なお世話よ」と払い落とすクムジャは、
20歳だった13年前、当時6歳のウォンモを誘拐、絞殺を自首。
天使の顔を持つ魔女として世間を騒がせる。

服役中はいつも優しい笑みを絶やさず、
みんなが嫌がる仕事も快く引き受ける。
そんな彼女は「親切なクムジャさん」と呼ばれ、
後から入ってくる囚人たちも彼女の虜に。

しかし、彼女の「親切」は十分に図られたものだった。
13年の間に「親切」で得た仲間たちからの信頼。
刑期を終えたクムジャは、先に出所した刑務所仲間の協力を仰ぎ、
自分に幼児誘拐殺人の罪をなすりつけた男への復讐を開始する。

白と赤のコントラストが美しくも恐ろしいオープニング。
バリバリ短調な音楽にも背筋がゾクッ。
『オールド・ボーイ』(2003)と同監督による
復讐3部作の完結編なので、重量級なのは観る前から歴然。
男の復讐劇だった『オールド・ボーイ』より
女の復讐劇の本作のほうがドロドロしているのかと思いきや、
こちらのほうが後味はいいです。若干。
それでも堂々のR-15指定。

1999年に山口県光市で起きた母子殺害事件には
胸が張り裂けそうになりました。その事件を思い出します。
「死刑にしてくれないのなら、私が犯人を殺します」との
被害者の夫の言葉が本作に映っているかのようです。

「フランスでは話が途切れると、天使が通り過ぎたと言うらしい」。
無口を守るためにカニを出すらしいという噂もあれば、
気まずい沈黙にはこんな素敵な言い伝えも存在するのですね。
ケーキを囲む明らかに異様な席で出る、
こんな台詞にホッとする不思議。

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エンドクレジットを見る(『ナルニア国物語』追記)

2006年03月23日 | 映画(な行)
エンディング曲とともに流れるスタッフやキャストの紹介。
このエンドクレジットの長さと、その映画に費やされたお金は比例すると私は思っています。
スタッフが多ければ多いほど人件費はかかりますから、
人手をかけずに作られた映画は必然的にエンドクレジットが短くなります。

『ナルニア国物語』のエンディングで驚いたのは、エンドクレジットの流れる速さ。
一般的な映画に比べるとビミョーに速い。
流れはじめたとき、「は、速すぎるやんけ~」と思いましたが、
それぐらいの速度で流してもかなり長い。
つまり、微妙に速度をあげないと、「な、長すぎるやんけ~」と思われてしまうのですね。
この「ビミョーに速度をあげてもエライ長さ」に
莫大なお金を注ぎ込んでいる映画であることを感じました。

エンドクレジットのなかで惹きつけられたのは
コーヒーショップが挙げられていたこと。
撮影中の食事は不可欠のことですし、
ケータリングサービスの会社がクレジットされることはありますから、
コーヒーショップがクレジットされてもなんら不思議はないのでしょうが、
「コーヒー供給者」とあるのを見たときは
「いったいなんぼほどのコーヒーを提供してん!」と興味が湧きました。

超大作のこと、字幕はどうせ戸田奈津子さんだろうと思っていたら、
最後の最後に登場した松浦美奈さんの名前にこれまた驚き。
字幕翻訳者についてはこちらをご参照ください。
どうりで「なっち語」は出てきませんでした。

白い魔女がエドマンドを誘い込むために使ったお菓子、
「ターキッシュ・ディライト」は気になるところ。
直訳すると「トルコの悦び」であるこのお菓子は、まるで求肥(ぎゅうひ)かボンタン飴。
甘さが喉に突き刺さります。
たいがい、ちゃちな箱にアホほど詰められていて、
箱を手に取るたび、まぶされた砂糖が噴出することに。
いつも「こんなん、1つか2つでええねん。
誰がこんなに食べられるねん」と思っていましたが、
エンドクレジットで「コーヒーショップ」を目にしたら、
ターキッシュ・ディライトとコーヒーが欲しくなりました。
う~ん、でもコーヒーとは合わないかも。

エンドクレジットを追いかけながら、
どんな人がどんな形でかかわった映画なのかを考えるのも
ひとつの大きな楽しみです。

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『ナルニア国物語 第1章 ライオンと魔女』

2006年03月20日 | 映画(な行)
『ナルニア国物語 第1章 ライオンと魔女』(原題:The Chronicles of Narnia: The Lion, the Witch and the Wardrobe)
監督:アンドリュー・アダムソン
出演:ウィリアム・モーズリー,アナ・ポップルウェル,スキャンダー・ケインズ,ジョージー・ヘンリー,
   ティルダ・スウィントン,ジェームズ・マカヴォイ,ジム・ブロードベント他

観てきました。
辛口な感想も多いようですが、私はとても楽しかったです。

超話題作なのであらすじは省略。
原作を読んでいない私は前知識ゼロで、
次男のエドマンドが最後まで嫌な奴だったらどうしようと不安に。
ディズニーにそんなことはありえない?

末っ子のルーシー役、ジョージー・ヘンリーは
めちゃめちゃ愛らしくて賢そう。
しかし、背中の丸め方とか、会話の切り返し方に
どことなくオバチャンぽさも漂わせ、
『E.T.』(1982)のドリュー・バリモアを彷彿とさせます。
体型的にもドリューの後を引き継ぎそう。

白い魔女役のティルダ・スウィントンは
私が考える「お願いだから眉毛を描いてください、
でないと怖い女優三人衆」のうちの1人です。
あとの2人はグウィネス・パルトロウとケイト・ブランシェット
パルトロウはブラピの元の元の彼女、
ブランシェットは“ロード・オブ・ザ・リング”シリーズのガラドリエル役です。
この3人とも、眉毛がないとマジで怖い顔のうえ、似ています。
魔女役以上に怖かった『コンスタンティン』(2005)もどうぞ。

キツネの声役、ルパート・エヴェレットは
『アナザー・カントリー』(1983)でゲイの学生を演じ、
その約15年後にホントにゲイであることをカミングアウト。
優男(やさおとこ)ながら、ゲイであることを告白してからは
女性との恋愛ものには縁遠くなりました。
そんな彼が抜擢されたキツネ役は観ていて嬉しいです。

アスランの声役はリーアム・ニーソン。
彼の代表作といえば『シンドラーのリスト』(1993)のシンドラー役ですが、
『ラブ・アクチュアリー』(2003)の彼も好き。
妻を亡くして哀しみに暮れつつ、
その妻の連れ子に恋の悩みを打ち明けられて
なんとかしてやりたいと思う継父役が頼もしいです。

さて、カーク教授役のジム・ブロードベント。
子どもの言葉を信じてくれる大人で
出番は少ないながらも好感度高し。
『アイリス』(2001)では認知症と診断された実在の作家、
アイリス・マードックに寄り添う夫を演じています。
『ブリジット・ジョーンズの日記』(2001&2004)ではブリジットの父親役。
中絶問題を取りあげた『ヴェラ・ドレイク』(2004)では裁判長役。
寂しい髪の毛の乱れ方次第で、格調高い役もボンクラ役も、何でもできる人です。

おもしろかったというより、楽しかった、そんな感じ。
映画館で観ますよ、次も。

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『大いなる休暇』

2006年03月15日 | 映画(あ行)
『大いなる休暇』(原題:La Grande Seduction)
監督:ジャン=フランソワ・プリオ
出演:レイモン・ブシャール,デヴィッド・ブータン,ブノワ・ブリエール,
   ピエール・コラン,リュシー・ロリエ他

カナダ・ケベック州の作品なので、フランス語。
原題の“La Grande Seduction(=大いなる誘惑)”から察するのは
ちょっとしたサスペンスですが、
邦題がぴったりの穏やかな、でも切実な作品。

かつては漁業で栄えたサントマリ・ラモデルヌ島。
現在は人口約120人、そのほとんどが生活保護を受けている。
人びとは昔の活気を島に取り戻すべく、
プラスチック工場誘致計画をものにしたいと考える。

しかし、企業側の工場誘致条件として
「常駐の医者がいること」が挙げられていた。
なんとか島に住み着いてくれる医者を確保しようと、
インターネットで調べ得るモントリオールの全医者に
村長のジェルマンらは手紙を出しまくる。
工場誘致のために医者が必要だとの事情は伏せ、
1カ月だけ田舎暮らしを楽しんでみませんかという内容で。

何の音沙汰もなく、人びとが諦めかけたころ、
やってきたのは整形外科医のクリストファー。
1カ月の間にクリストファーを島に永住する気にさせるため、
島民あげての嘘で塗り固めた日々が始まり……。

涙ぐましい努力はイライラするほど。
クリストファーの好みを予想したジェルマンは
島民にクリケットを覚えるように指示します。
ホッケーにしか興味がなかった彼らは
「こんなの、スポーツじゃねぇ!」と言いつつ、
用具やコートを自前で準備、ユニフォームは奥様方のお手製。

クリストファーの電話はすべて盗聴。
モントリオールの恋人への電話の中で
「君のビーフ・ストロガノフが食べたいよ」と言うのを聞けば、
伝達係がすぐさま食堂に走り、
壁に貼られる「本日のお薦めメニュー、ビーフ・ストロガノフ」。
でも、それってどんなものなのかわからなかったり。

ジェルマンの誘いで釣りを始めたものの、
クリストファーには一向に釣れる気配がありません。
釣りもろとも島に嫌気をさされてしまうことを恐れ、
ひとりの男が海に潜り、クリストファーの釣り竿の先に
1匹のドでかい魚を取り付けます。
だけど、冷凍庫から出してきた魚を付けたもんだから、
カチンカチンのそれを見て訝るクリストファーの顔。
深海にいれば魚も凍るとの説明に納得する顔も可笑し。

こよなく島を愛する気持ちが伝わってきます。
「本音」の効き方がオツ。

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『亀は意外と速く泳ぐ』

2006年03月10日 | 映画(か行)
『亀は意外と速く泳ぐ』
監督:三木聡
出演:上野樹里,蒼井優,岩松了,ふせえり,松重豊他

大学のとき、「成績がオール“良”だったら
責任を持って就職先を紹介する」と言った先生がいます。
優・良・可とある成績のうち、
全科目“良”をとるのは不可能に近いこと。
すべて“並”であることは
やろうと思ってもできないことの極みでは。

「脱力系コメディ」と銘打たれた本作は
あまりに“並”な主婦がスパイに転身。
上野樹里みたいな可愛い若奥様であることに
「並とちゃうやろ!」とツッコミつつ。

片倉スズメ、主婦、23歳。
生まれてこのかた、目立つことにはまるで縁がない。
現在、夫は海外単身赴任中。
日課は夫のペットである亀にエサをやること。

親友の扇谷クジャクは生き方が派手。
張り合うつもりもないけれど、クジャクは常に上を行く。
スズメが北風の音のする扇風機を発明して
120万の賞金を獲得したときも、ご馳走しようと思ったら、
クジャクは有馬記念で200万をゲット。

平々凡々な生活から抜け出したいと思っていたスズメは、
偶然「スパイ募集」の貼り紙を目にする。
早速連絡して、指定された住所を訪ねると、
そこには平凡な熟年、クギタニ夫婦が。
これ以上ない平凡さがお眼鏡にかない、
活動資金として500万を受け取ったスズメはスパイに。
目立たず暮らすように指示を受ける。

スパイたるもの、ファミレスやスーパーでは
記憶に残らない注文・買い物をせねばならぬ。
好きな数字も寿司ネタも「そこそこ」だと言われてきたスズメには
存在感を示さないのはお茶の子さいさいのはずなのに、
やろうと思うとこれがなかなかできない。
し、知らん間に目立っとる!
平凡であることは変わらないのに、
スパイを自覚して以来、生き生きしてきます。

監督は『トリビアの泉』などの構成作家だけあって、
小ネタ、小ネタのオンパレード。
ストロー肝臓、手羽先のナチス、うずらの卵10個の目玉焼き、
炸裂するオーザックの袋、豆腐屋の隣の最中屋。
かりんとうを一晩水に浸けておくとかなりアブナイ。
くだらん!と思いつつ、吹き出すことの連続。

ネタバレですが、ラーメン屋の店主もスパイ。
旨すぎてもマズすぎても目立ってしまうので、
わざと平凡な味のラーメンを出し続けます。
「妥協できる妥協味を作り続けるのは結構難しい」の言葉に唸りました。
ラーメンよりエスプレッソの美味しいラーメン屋です。

「そこそこ」って難しい。

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