夜な夜なシネマ

映画と本と音楽と、猫が好き。駄作にも愛を。

『トム・アット・ザ・ファーム』

2014年10月30日 | 映画(た行)
『トム・アット・ザ・ファーム』(原題:Tom à la Ferme)
監督:グザヴィエ・ドラン
出演:グザヴィエ・ドラン,ピエール=イヴ・カルディナル,エヴリーヌ・ブロシュ,
   リズ・ロワ,エマニュエル・タドロス,ジャック・ラヴァレ,アンヌ・カロン他

テアトル梅田にて、前述の『世界一美しいボルドーの秘密』とハシゴ。

まだ25歳のグサヴィエ・ドラン監督の前作『わたしはロランス』(2012)は、
DVD鑑賞だったにもかかわらず、もしかすると今年観た中でいちばん心に残っている作品。
本作はちゃんと劇場で観ようと、行ってまいりました。

モントリオール広告代理店に勤めるゲイの青年トム。
同僚で恋人だったギョームが交通事故で急逝し、葬儀に参列するため、
田舎で農場を営むギョームの実家へと向かう。
彼の家族に面会して何と言えばいいのか、弔辞はどうしようか、
道中いろいろと考えるが、上手い言葉が見つからないまま到着。

実家のドアをノックするが、誰もいない。
たまたま見つけた鍵で留守宅に上がり込み、突っ伏して眠ってしまう。
いつのまにか帰宅したギョームの母親アガットは、トムを歓迎。
しかし、自己紹介をしても、トムの名前など初めて聞く様子。

その夜、眠りについたトムを、ギョームの兄フランシスが乱暴に起こす。
フランシスによれば、アガットはギョームがゲイだったことを知らない。
サラという恋人がいるというギョームの言葉を信じていたから、
トムにも話を合わせるよう、単なる友人として振る舞えと強要する。
トムが納得できない顔をすると、フランシスはトムを殺しかねない勢い。
殴られ引っぱたかれ首を絞められ、トムは仕方なく従う。

葬儀に参列したトムは、町の人びとがフランシスを避けていることに気づく。
弟が亡くなったというのに、誰もフランシスに声をかけようとしないのはなぜなのか。
トムが病院へ行くと、「無事にモントリオールまで帰れますように」とまで言われる。

一刻も早くこの農場から逃げ出したほうがいい。
なのにトムはそこから離れることができない。
フランシスとともに牛の世話をして、アガットと3人で食事をとる。
夜はギョームの部屋に泊まる。そんな日が続いて……。

監督・製作・主演・脚本、ときには衣装まで自分で担当するドラン監督。
この人はやっぱり天才なのだと思います。
今回は、忙しさのあまりオリジナルの脚本を書くひまがなくて、
戯曲の映画化にとどめたそうですが、観客を引き込む力が凄いです。

いちいち思わせぶりなショットは意外にわかりやすく、
音楽が説明になっていたりもして痛快。
いったいトムはどうなるんだろうとドキドキ、目が離せません。

自身でトムを演じたドラン監督は、とても可愛い顔立ちで、
女性にもモテるだろうに、ゲイとはもったいない、なんて言ったら怒られるでしょうか。
作品としては『わたしはロランス』のほうが圧倒的に好きですが、
これもありかなと思いますし、今後も必ず観たい監督です。

“アメリカにはもううんざりだ”。
そうか、フランシスが何を象徴しているのかと思ったら……。
ちょっと笑ってしまいました。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

『世界一美しいボルドーの秘密』

2014年10月28日 | 映画(さ行)
『世界一美しいボルドーの秘密』(原題:Red Obsession)
監督:ワーウィック・ロス,デヴィッド・ローチ
ナレーション:ラッセル・クロウ

一昨日の日曜日、日本シリーズ観戦に甲子園へ行く前にテアトル梅田にて。
ちなみにこの日はさすがに7連勝はならず、負けてしまいましたが、いい試合。
しかもソフトバンク相手だとあまり腹も立たず、球場も電車も平和な雰囲気。
というよりも、日本シリーズに進出した事実が信じられない阪神ファンが多くて、
まだふわふわ夢見心地ということなのでしょうか。

『ぶどうのなみだ』に続いて、こちらもワインのお話。
原題は“Red Obsession”、ボルドーといえば特に有名なのは赤ワイン、意味は「赤い執着」。
赤ワインに取り憑かれた人や国を描いたドキュメンタリーです。
オーストラリア/中国/フランス/イギリス/香港の作品。

フランスを代表するワインの産地、ブルゴーニュとボルドー。
ブルゴーニュが主にフランス国内で消費されてきたのに対し、
ボルドーは地理的な特性ゆえ、早々と海を渡ってイギリスへ。
さらにイギリスからアメリカへと渡り、日本にも愛好者がいっぱい。

本作はそんなボルドーの5大シャトーの偉いさんやレストラン経営者、
世界的に影響力を持つワイン評論家にインタビュー。
それぞれの話がなかなかにおもしろい。

ワインが好きでたまらなくて、ブドウに愛情を注ぐことが必要だと、目を輝かせて語る人。
ブドウに向かって「美味しくなぁれ」とやっていたらドン引きですが(笑)、
きっとそれに近いものがあるのではと思います。

房の中に良くないブドウを見つけたら、その一粒を取り除くという話を聞いたとき、
以前、とあるレストランで食後のコーヒーをいただいたときのことを思い出しました。
あまりに美味しくて、「いつもと同じ豆ですか」と尋ねたら、
サービスの人が「同じなんですけど、豆を一粒ずつ選ってから挽きました」とのこと。
その手間が全体の味を上げるのですね。

後半はドドッと中国の話へ。
ボルドーにとって、最大の顧客はずっとアメリカだったのに、
ここ10年ほどはそれが中国に取って代わりました。
その昔はまったくいなかった億万長者が今や何百人もいる中国では、
金持ちがこぞってボルドーワインを買いあさる。
ワインを買うことで自分が文化に通じた教養ある人物だと見なしてもらえるから。

中国が凄い市場になると見たボルドーが、中国人向けのボトルデザインにしちゃったり、
そこにプライドはないのかと思わなくもないですが、めちゃめちゃ売れたそうです。
ワインに限らず、ものをつくる人にはプライドを持っていてほしいけど、
値段を高く設定することがプライド、みたいになっちゃっているような。

有名になれば必ず出回る偽造品の話や、“大人のおもちゃ”で巨万の富を築いたワイン収集家の話、
中国にフランス風シャトーを建てた醸造家の話など、いずれも興味を惹かれます。

『ボトル・ドリーム カリフォルニアワインの奇跡』(2008)は
カリフォルニアワインがフランスワインに勝った物語でしたが、
中国人醸造家にも負けちゃったって、それでいいのかフランス。

ナレーションはラッセル・クロウ。
『ノア 約束の舟』で葡萄畑を耕していた彼がこうして関わっているのは、
繋がりがあるようでニヤリ。

値段はほどほどで美味しいワインが飲みたい。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

『ぶどうのなみだ』

2014年10月26日 | 映画(は行)
『ぶどうのなみだ』
監督:三島有紀子
出演:大泉洋,安藤裕子,染谷将太,田口トモロヲ,前野朋哉,りりィ,
   きたろう,小関裕太,内川蓮生,高嶋琴羽,大杉漣,江波杏子他

前述の『グレース・オブ・モナコ 公妃の切り札』とハシゴ、
TOHOシネマズ西宮にて。

赤ワインのぶどうでは、なんといってもピノ・ノワールがいちばん好きです。
20代の頃はカベルネ・ソーヴィニヨンが好きでした。
というのか、それが好きだというのがカッコイイと思っていました。
渋くて重いイメージのカベルネ・ソーヴィニヨンを好きだと言えば、
私って飲めるのよ、お酒のことがわかっているのよ、という気がして(笑)。

そんな気持ちが吹っ飛んだのは『サイドウェイ』(2004)を観てから。
ピノ・ノワールの素晴らしさを熱弁するポール・ジアマッティに目と耳が釘付け。
以来、チャーミングなピノ・ノワールの味と香りに魅せられ、
お店で自分が出してもらったときだけでなく、
よそのテーブルでピノ・ノワールが注がれているのを見ただけで嬉しくなります。

三島有紀子監督は、私と同じ高校の卒業生だそうな。
注目はしていますが、『しあわせのパン』(2011)はちょっと苦手な部類でした。
キャストもストーリーもいいはずが、メルヘン具合に馴染めず、
印象に残ったのは忌野清志郎と矢野顕子のテーマ曲“ひとつだけ”のみ。
だから、劇場に観に行くかどうかは迷いましたが、
ピノ・ノワールの話だと聞いたらやっぱり行かずにはいられません。

北海道の空知(そらち)。
アオ(大泉洋)の父親(大杉漣)はハーモニカの名手だった。
父親の影響で音楽好きになったにもかかわらず、
音楽の世界で生きていこうとするアオに父親は反対。
アオは家を飛び出し、一流の指揮者として活躍していたが、
あるときその道を断念せざるを得なくなり、帰郷する。

父親はすでに他界、遺されていたのは葡萄畑と小麦畑。
アオの一回り年下の弟ロク(染谷将太)は小麦を育ててパンを焼く。
アオは“黒いダイヤ”と呼ばれるピノ・ノワールの醸造に励む。
しかし、なかなか理想のワインをつくることができず、苦しんでいる。

そんなある日、見覚えのないキャンピングカーが隣地に乗り入れ、
降りてきた若い女性エリカ(安藤裕子)は、いきなり地面に穴を掘りはじめる。
繊細な葡萄のそばでそんなことをされたら迷惑だとアオは通報。
駆けつけた警官のアサヒさん(田口トモロヲ)はエリカと意気投合。
穴掘りを注意するどころか、酒盛りに。
翌日には郵便配達人の月折さん(前野朋哉)もやってきて、またまた酒盛り。
ロクまでがすっかりエリカと打ち解けてしまった様子。

警戒心を募らせるアオだったが、ここから出て行きそうにもない彼女にワインを注いでみると……。

やっぱりメルヘン具合に馴染めません。
『しあわせのパン』よりは話し方その他に現実感がありますが、
いきなり畑の中で楽隊を編成されても。
メルヘンならメルヘンで突っ走ってくれればいいのに、なんだか中途半端な気がして。
最後にキスシーンを入れる必要があったのかどうかも疑問。

だけど、良いシーンもいろいろあります。
自分の名前の由来が酷いものであると思い込んでいたエリカ。
アオのフォローもいいけれど、母親と再会して、勘違いだったとわかるシーンは温かい。

ピノ・ノワールが出てくるのはやっぱり嬉しく、
帰ったら飲みたくなったけど、我慢、我慢。
同監督の次作『繕い裁つ人』も結局観てしまうのかしらん。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

『グレース・オブ・モナコ 公妃の切り札』

2014年10月25日 | 映画(か行)
『グレース・オブ・モナコ 公妃の切り札』(原題:Grace of Monaco)
監督:オリヴィエ・ダアン
出演:ニコール・キッドマン,ティム・ロス,フランク・ランジェラ,パス・ベガ,
   パーカー・ポージー,マイロ・ヴィンティミリア,デレク・ジャコビ他

CS(クライマックスシリーズ)のファイナルステージ。
もしもフルで試合がおこなわれるとしたら、最終戦は20日、今週月曜日の予定でした。
この日はダンナの帰りが超遅いとわかっていたので、
できれば映画を観に行きたいけれど、もしもその日に決着だとしたら?
映画を観に行っている場合ではないでしょう。

だけど、どこまでも弱気な阪神ファンとしては、
そんな日にTV観戦することを考えただけでキリキリと胃が痛みます。
いっそ試合は観ずに映画を観に行こうかなどと悩むことしきり。
ところが、まったく予想していなかったまさかの4連勝。
何も悩むことはなくなって、仕事帰りにTOHOシネマズ西宮へ。

実話に基づくフィクション」だそうです。

1956年、大人気女優だったグレース・ケリーは、
カンヌ国際映画祭で知り合ったモナコ大公レーニエ3世と結婚。
公妃となるために26歳の若さでハリウッドから引退する。

“世紀の結婚”と言われて6年が経過した1962年。
娘と息子にも恵まれて、幸せに満ちた毎日を送っていると思われたが、
『マーニー』のヒロインのオファーにやってきたアルフレッド・ヒッチコックは、
彼女のやつれた表情を見て心配する。

公務で忙しいレーニエとは顔を合わせることすらなかなかできず、
公用語であるフランス語を上手く話せない、宮中のしきたりにも馴染めない。
たかが女優と陰口を叩かれ、孤立無援に近い状態。
彼女の心の支えとなってくれるのはタッカー神父のみだった。

ハリウッドの復帰話にレーニエが賛成するわけなどないと思いつつ話してみると、
意外にも自分の責任でやれるのならやってみればいいと言う。
しかし、折しもモナコは国家存亡の危機に直面中。
フランスのシャルル・ド・ゴール大統領がモナコに過酷な徴税を求めようとしているのだ。
女優復帰の件を公表する時機は考えなければ、あちこちから非難されるだろう。
グレースはヒッチコックと相談し、公表の時機を図るが、なぜかすっぱ抜かれてしまう。

宮中によからぬ画策をしている者がいるにちがいない。
グレースは腹心の秘書に疑わしい人物の動きを調べるように指示。
想定もしていなかった人物の裏切りが判明し、
グレースは家族と国家を守るため、一世一代の役割を自分に課すのだが……。

グレース役のニコール・キッドマンは相変わらず美しい。
レーニエ役のティム・ロスの演技もしっかり見たかったところですが、
あくまで本作の主人公はグレース、これでよかったかと。
神父役のフランク・ランジェラは『素敵な相棒 フランクじいさんとロボットヘルパー』 (2012)とはひと味ちがう存在感。

自分をよく思っていない人に囲まれて、誰を信用してよいのかわからない。
そんななか、神父の助言を得て、モナコに溶け込む覚悟をしたグレース。
フランス語をマスターし、しきたりを学ぶだけでなく身につける。
形から入ることで、今まで彼女を見下していた人々の見方を変えてゆきます。
欲を言えば、彼女が人々の心を掌握した過程をもっとじっくり見せてほしかったような。
全体的にわりとあっさり、103分で終了というのがいいところでもあるのですけれど。

52歳で亡くなってしまったことが悔やまれます。
だけど、彼女は今も人々の心の中に。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

『ふしぎな岬の物語』

2014年10月23日 | 映画(は行)
『ふしぎな岬の物語』
監督:成島出
出演:吉永小百合,阿部寛,竹内結子,笑福亭鶴瓶,笹野高史,
   井浦新,片岡亀蔵,中原丈雄,石橋蓮司,米倉斉加年他

わが家からいちばん近い劇場、109シネマズ箕面。
もっぱら、晩ごはんの支度をしなくてよい場合の平日の仕事帰りに車で行きますが、
この間の日曜日は19日だったため、109シネマズの鑑賞料金が1,100円。
ダンナが車を使っているので、私はバスでみのおキューズモールへ。

第38回モントリオール世界映画祭で、審査員特別賞グランプリと
エキュメニカル審査員賞(キリスト教団体が人道的作品に贈る賞)を受賞、話題に。
そんな賞を取らずとも吉永小百合ですから、観客動員は見込めたでしょうけれど。
彼女自身が初めて企画から手がけた作品なのだそうです。

岬村の先端にたたずむ“岬カフェ”の店主・柏木悦子(吉永小百合)。
彼女が「美味しくなぁれ」と念じて淹れるコーヒーが本当に美味しいと評判。
また、彼女の人柄に惹かれて何十年とかよう常連客もいる。

そのうちのひとりが不動産屋のタニさん(笑福亭鶴瓶)。
悦子への淡い恋心をひた隠しにして30年。
それから、漁師の徳さん(笹野高史)、教師の行吉先生(吉幾三)。

行吉先生が担任を務めたのが悦子の甥・柏木浩司(阿部寛)。
浩司は、亡き悦子の夫から彼女を守る役目を引き受けたのだと言い、
岬カフェが見えていつでも駆けつけられる場所に住んでいる。

村の祭りの日、徳さんの娘・みどり(竹内結子)が突然帰ってくる。
彼女は徳さんの反対を押し切って結婚、村を出て行ったのだが、離婚したらしい。
浩司をはじめ、みどりの帰郷をみんなが歓迎するが、
徳さんだけは素直になれず、みどりのほうもどうすればよいのかわからず……。

かなり退屈。すみません、ちょっと寝ました。
109シネマズのエグゼクティブシートに座ったら、心地よくて。
成島出監督の作品はわかりやすいのがいいところ。けれどもこれはわかりやす過ぎ。
心情を全部言葉に出して言われると、もう少し表情を見てみたくなります。

まぁこれは吉永小百合を見る映画で、サユリストならばぞっこんでしょう。
だって、ほんとに綺麗だし。どうやったらあんな口角の自然な上がり方を保てるの。
でも、コーヒーに「美味しくなぁれ」はドン引き、彼女じゃなければ張り倒したい。
それを伝授される竹内結子の心情こそ言葉に出してほしかったりして。(^^;

「とにかく吉永小百合」という世代でないならば、ちとツライのでは。
『蜩ノ記』の直木賞選考時の林真理子の評、「主人公らが清廉すぎる」というのは、
本作のほうがピッタシ来る言葉だと私は思いました。
吉永小百合は決して汚してはいけない存在で、
まさに本作の浩司やタニさんのように憧憬の想いを抱く相手なのでしょうね。

前述の『まほろ駅前狂騒曲』で男子中学生の共感能力で笑わされたなら、
こちらではやはり熟年者の共感能力の高さを再確認。
笑いやすすり泣きがたくさん聞こえてくるのはもちろんのこと、
鍋にかけていたふきんに火が燃え移る瞬間に劇場で「うわっ」。
これは劇場で観る醍醐味です。

ということで、同回のモントリオール世界映画祭で最優秀監督賞を受賞した作品、
『そこのみにて光輝く』の圧勝なり。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする