凄惨な事件が現実の社会でひんぱんに起こっている今、
一家4人の惨殺事件を主題とするノンフィクション小説を
通常は、あえて読みたいとは思わない。
映画『カポーティ』を見逃して、残念に思っていた直後
この本を図書館で偶然見かけて借り出した時は、不快なら
読みきらなくても・・・といった気持ちだった。
読み終えて、スキャンダラスな作家の書いたエキセントリックな
ノンフィクション小説ではなく、本物の作家の書いた年月に
磨がれてもますます輝きを持つであろう普遍的な小説の品格を感じた。
被害者・加害者が一人ひとり描写されながら徐々に「事件」に
むかって時が流れていく。冒頭からぐいぐい引き込まれた。
犯人が主人公というのではなく、事件後は犯人の家族・追う立場の人や
街の人々に事件がもたらしたものにも焦点があてられる。
さらに、あっけない逮捕とそれに続く裁判や死刑制度についても。
計り知れない暗く重い部分を通り抜けた読後には、
それでも何かしっかりした希望の種子のようなものが残った。
その種子は私自身が育てるもの。
社会や家庭、自分自身の暗部にのみ込まれる事なく
生きつづけていこうとする意志かもしれない。