本の名前でヤクザだけど、この著者鈴木 智彦氏がヤクザということではない。「サカナとヤクザ」」(小学館)で密漁ビジネスを追ったり、「ヤクザと原発」(文春文庫)で原発ビジネスを追求したりしている潜入ルポ・ライターです。
この本はヤクザがときどきピアノを弾いて稼いでいるという話ではなくて、著者が『ダンシング・クイーン』を弾きたいと思い立ちピアノを始める話です。
帯に「楽譜のよみかたも知らない52歳の挑戦」とありますが、こっちは「ちょっとは楽譜が読めるけれど、62歳の挑戦」だったわけだから、これは非常に気になる。
もしかするとこれはオジサンには非常に重要な本なのかもしれない。
違反になるかもしれないけれど、ちょっと抜き書きでスタート。
ガキの頃からそれなりに音楽は好きで、ロックやポップスのミュージシャンには一家言あるつもりだった。
なのにABBAで。
まさかABBAで。
それでピアノの先生探し、
「『ダンシング・クイーン』を弾けますか?」
「練習すれば、弾けない曲などありません」
ということでレイコ先生と出会います。
そして最初のレッスン、
「まずは”真ん中のド”を覚えましょう。さkほど言ったロゴ付近にあるのがそれです。機械的にここだと覚えてください」
ドを押す。
音が鳴る。
と初めて「よろこびの歌」を30分。
「一緒に歌おう!」
最初雄レッスンはこれで終わりと思っていたら、レいコ先生が「一緒に歌おう!と言い出した。
・・・
音楽は誰もが生まれながらに喋れる言語なの。
だから心をひらけば歌には感情をこめられる。・・・その時の気持ちになってまずは歌ってみてください。そしてその気持ちのままもういちどピアノを弾いてください。ミスしてもいい。間違えて当然。下手でいいの。そんなこと音楽に関係ない。だからセーブしないで。解き放って」
ピアノから、全然違う音が鳴った。
こうして1年2か月後に発表会になって
「もう死にそうです。みなさんこうなるんですか?」
「シニアのみなさん緊張しすぎて、なんというか悲壮な感じで、わかりやすくいうと・・・・お通夜ね」
そして盛大に手の震えも感じて演奏。
結果、俺は数小節を見事にぶっ飛ばして演奏を終えた。一分弾いても、十分の演奏でも、一万円の参加費というのに・・・・。
校正さんが素敵な花束を渡してくれたが、なにも聞こえていなかった。言いたいことはひとつ、
「いつも演習のときは弾けるんです!」
レッスン、発表会の体験は見事にラップして、そして氏の音楽から受ける愛と素直な喜びが伝わってくる。52歳も62歳も関係なかったけれど、まさに演奏のすてきな入門書。
楽器を前にして佇むオジサン、ぜひ一読をお勧めする。
追記 レイコ先生 元気なあかちゃんうまれたでしょうか。