二草庵摘録

本のレビューと散歩写真を中心に掲載しています。二草庵とは、わが茅屋のこと。最近は詩(ポエム)もアップしています。

「武蔵丸」を読みながら思い出す

2011年09月02日 | Blog & Photo

ついせんだって、BOOK OFFで手に入れた車谷長吉さんの「武蔵丸」(新潮文庫)を読んだ。「武蔵丸」が、カブトムシの名前だ、ということが、立ち読みしながらわかったので、おもしろそうだな・・・と好奇心がはたらいた。

この作品は、武蔵丸というカブトムシの、いわば飼育日記となっている。
小説というより、エッセイであるが、日本の私小説は、その80%がエッセイなので、これだけが例外というわけではない。武蔵野のさる場所で採取し、自宅に持ち帰って飼育をはじめ、11月に亡くなるまでの数ヶ月間を、100枚弱あまりの“小説”にまとめあげている。できはそうよくなくて、あえて評価すれば、三毛ネコの基準では「3」というランクにとどまる。小説としてはB級だけれども、カブトムシのことをこんなふうに書いた小説をほかに知らないので、珍品としての価値はある(=_=)

わたしは過去に読んだ動物小説をいくつか思い出した。
いちばん好きなのは、漱石の「文鳥」。これは川端康成の「禽獣」とならぶ名作であろう。小説家とはどういう存在なのか、人間はなぜ、どんなふうに“愛玩動物”とつきあうのかが、読みすすめていくにしたがって、あぶり出されてくる。
梶井基次郎の作品にも、いろいろな小動物が登場する。作者は「観察する人」として、“愛玩動物”に対し、鋭利なまなざしと愛情をそそいでいる。もっといえば、それは「いのち」にそそがれるまなざしといっていいだろう。「武蔵丸」は、そういう系譜につながる私小説(心境小説)である。
プロローグでは、車谷さんが東京の根津に、中古住宅を手に入れるまでの経過が語られる。
そのあたりも、不動産業に従事するわたしには、読みどころとなっている。

数年前に読んだものでは、中野孝次さんの「ハラスのいた日々」がなんといっても感動的だった。大の男たる中野さんが、身も世もなく慟哭している。本作はベストセラーとなり、映画化までされ、愛犬家の涙をしぼったので、ご記憶の方もおられるだろう。
海外ではなんといっても、ファーブルだろう。かの「昆虫記」には、科学者の眼と、文学者の眼が同居している。記述することによって、その方法を手探りする中から、「記述する人」は、なにものかに“到達”するのである。そこに観察眼というもののすごさが形成される。ドストエフスキーは犬が好き。カフカは爬虫類が好き。萩原朔太郎も動物好きだったから、カメだの蛸だの犬だの猫だのが登場する詩をいろいろと書いている。草野心平さんは、カエルの詩人。

人間の生活の隣や、足許に、種々雑多な生き物たちが暮らしている。
それらは、「関心を持たなければ見えてこない世界」として、そこに存在している。だから、おもしろいのであ~る(^_^)/~

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