二草庵摘録

本のレビューと散歩写真を中心に掲載しています。二草庵とは、わが茅屋のこと。最近は詩(ポエム)もアップしています。

さよならだけが人生だ

2018年03月23日 | 俳句・短歌・詩集
通勤途中、数日まえから気になっていたハクモクレンを撮影した。
クルマを歩道にのせ、PEN-F&標準ズームで撮影しながら、
井伏鱒二さんの有名な詩を思い出した。
白い大きな花びらが、風に吹かれて、ハラハラと散っていたからだ。

この杯を受けてくれ
どうぞなみなみつがしておくれ
花に嵐のたとえもあるぞ
さよならだけが人生だ

これが井伏さんの和訳で、日本人でこの詩を知らない人はほとんどいない・・・と思う(*-ω-*)
原詩は晩唐の詩人、于武陵の「勸酒」という漢詩。

勸君金屈巵
滿酌不須辭
花發多風雨
人生足別離

<読み下し>
君に勧すすむ 金屈卮(きんくつし)
満酌(まんしゃく) 辞じするを須(もちい)ず
花発(ひら)けば 風雨多し
人生 別離(べつり)足る


漢詩のファンなら、中国の詩の中で飲酒の詩が重要なジャンルを形づくっていることを知っている。
その代わり、日本の和歌とは違って、恋の詩は、絶無とはいわないが、非常に少ない。

酒に、あるいは酒席に列して、心のこもったことばを送る。
中国における士大夫階級の教養、センスの見せ所なのである。
「勸酒」とあるが、じつは、別れの詩なのである。
井伏さんの名訳によって、日本では広く知られるようになった。于武陵は、この一編で後世に名を残した・・・といえるだろう( ´。`)
もう一度引用しよう。

この杯を受けてくれ
どうぞなみなみつがしておくれ
花に嵐のたとえもあるぞ
さよならだけが人生だ

ハクモクレンを見ながら、あるいはサクラを見ながら、
日本人は日本人特有の“無常観”に浸る。
そして、花の宴となる。もちろん、わたしもそういった無常観を共有している。
花見の宴は豊臣秀吉「醍醐の花見」を嚆矢とし、江戸時代、元禄のころから庶民のあいだに、徐々に広まっていく(^^♪

春は・・・春こそ、日本列島が一番華やかに彩られるシーズン。
「本にばかりしがみついていてどうする!?」と自分にいいたくなる。しか~し、今年はなかなか撮影モードのスイッチがONにならないのはどーしてだろう´Д゜

この季節、上州ではよく風が吹く。
美しいハクモクレン。数年前まで、わたしにはこの花が「春をつげる花」であった。
それが、このあたりでは今日、明日で見納めとなるだろう。


※なお、井伏鱒二さんの盗作疑惑が気になる方はこちらが参考になる。
https://blog.goo.ne.jp/chorinkai/e/1cfc92e675a391b03d467977f079f26a

http://ogikubo-bunshi.a.la9.jp/toku-ibuse-tousaku.html


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 春の夢みる | トップ | 日曜日のラッパスイセン »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

俳句・短歌・詩集」カテゴリの最新記事