二草庵摘録

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「職業としての政治」マックス・ヴェーバー(脇圭平訳 岩波文庫1980年刊)レビュー

2019年01月17日 | 哲学・思想・宗教
以前、半分ほど読んだ記憶が微かにある。1980年の刊行だから、その翌年か翌々年ではなかったろうか?
活字が小さい上、翻訳が読みにくかった。原文を忠実に訳そうとしているためか、日本語としてこなれていない。一種の学術用語なので、慣れないと論旨についていくのが大変である。

この著作は、大学時代から知っていた。法学部の政治学科の学生であったわたしは「必読書リスト」の一冊として、書名を覚えた。
政治学を学ぼうとする若者は、まずこの本を読んでから、授業に臨め(ノ_-)。
図書館で借りようとしたら(だれの翻訳だったか)、あいにく貸し出し中。で、ずいぶん後年になって手に取った(^^;)

《あらゆる政治行動の原動力は権力(暴力)である。政治は政治であって倫理ではない。そうである以上、この事実は政治の実践者に対して特別な倫理的要求をつきつけずにはいない。では政治に身を投ずる者のそなうべき資格と覚悟とは何か。ヴェーバー(1864‐1920)のこの痛烈な問題提起は、時代をこえて今なおあまりに生々しく深刻である。》(岩波文庫の内容紹介)

《次のように言わねばなるまい。国家とは、ある一定の領域の内部で――この「領域」という点が特徴なのだが――正統な暴力行使独占を(実効的に)要求する人間共同体である、と。国家以外のすべての団体や個人に対しては、国家の側で許容した範囲内でしか、物理的暴力行使権利が認められないということ、つまり国家が暴力行使への「権利」の源泉とみなされているということ、これは確かに現代に特有な現象である。
だからわれわれにとって政治とは、国家相互の間であれ、あるいは国家の枠の中で、つまり国家に含まれた人間集団相互の間でおこなわれる場合であれ、要するに権力の分け前にあずかり、権力の配分関係に影響を及ぼそうとする努力である、といってよいであろう》(本書9-10ページ)

哲学や思想ではなく、社会学。
これがヴェーバー的思考法の卓越した構想なのである。観念的・思弁的ではなく、具体的な社会現象に密着しながら、論理を組み立て、時代を批判していく。
わたしにはよくはわからないが、ヴェーバーの影響力はマルクスとならぶほど大きなもので、本書も“名著”たる意義を、現代でも失っていない・・・と思う。

政治思想の研究ではなく、それを日常的に営まれる職業として具体的に批判するところに、社会学的・政治学的基礎を据えたわけだ。
いまでも「政治学の教科書」として通用する“古典”といっていいだろう。
丸山真男さんはじめ、政治学者、社会学者で、ヴェーバーの影響を受けていない学者はいない。

ただし、そう銘打たれてはいないが、本書は原理を分析した前半部と、時局(ヨーロッパ内部の)を分析した後半で、ほぼ二部構成となっている。
後半部は、政治における時局の推移によって、ある意味“賞味期限切れ”になっている。18世紀、19世紀、そして第一次世界大戦におけるドイツの敗戦。ヴェーバーの言説はそういった政治史のディテールを知らないとわからない局面に移行していく。

これは1919年に開催された講演なので、そのとき、ドイツとヨーロッパ世界の政治情勢をどう分析し、どう批判するかが、喫緊の課題であったのだ。
政治的な関心を持ったドイツ人や、ドイツ人ではなくても専門の研究者なら後半部もおもしろく読めるだろう。わたしはそういう立場にはいないから、後半部は色褪せたものにみえる。

国家の重要な責務は、安全保障と収税システムである。あなたやわたし、つまり日本国民は一年にどのくらいの税金を支払っているのか?
利権に群がるのが政治家である。官民癒着の構造も、そこに胚胎する。政治というものは、表と裏がある。日本的にいえば、“本音と建前”。国家という暴力装置の裏で、黒々とした・・・つまり眼に見えない金と権力への欲望が渦巻いている。

政治家の本音が、本当はどこにあるのか、選挙のときしか具体的な政治と関わりを持たない一般の国民は、つねに「そのこと」を、頭の中に入れて、あっという間に推移していく“時局”に眼を光らしていなければならない。
国家は暴力装置であるとともに、収奪のシステムでもある。ヴェーバー以後の社会学、政治学が、どのような思考を積み重ね、どのように職業としての政治家・・・つまり権力者に対抗してきたのか、ある意味ヴェーバーがその二十世紀への扉を開いたということになる。



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