■末木文美士「日本仏教史 思想史としてのアプローチ」新潮文庫(平成8年刊 原本は平成4年)
末木文美士と書いてすえき・ふみひことお読みするそうである。1949年生まれ、本書刊行当時東京大学大学院人文社会研究科教授。
ビギナー向けなので平易に書かれているが、いたって専門性の高い一冊であろう。ビギナー向けだから工夫をする必要があるし、専門用語は一般に流通することばに置き換えなければならない。そうしないと読者がついてこないで、途中で投げ出してしまう。
易しいのから、歯ごたえのあるものまで、さまざまなレベルの入門書がある。しかし、正面切って「日本仏教史」と銘打った本を、わたしはほかに見かけたことがない。十分な読み応えがあった。
とくに「第Ⅵ(6)章 神と仏」、「終章 日本仏教への一視覚」は参考になった。神仏習合による民間信仰と、本来の仏教との関係への思索に鋭利な洞察がある。
評価:☆☆☆☆☆
■吉見俊哉「ポスト戦後社会」シリーズ日本近現代史⑨岩波新書(2009年刊)
歴史家の本ではなく、社会学者の書いた本。
むろん日本近現代史の第9巻として書かれているので、そういった史的考察への配慮はなされている。
『表「戦後」から「ポスト戦後」へ』はすぐれた要約になっている。
支配体制
政治と変革
産業と環境
家族と地域
社会意識
この5つの大項目に対して図式化し、読者のざっくりした理解をバックアップ↑ 非常に頭に入りやすく、印象に残る(´・ω・)? この一覧表を眺めていると、自分が生きてきた時代の変遷が、あれこれ脳裡をかすめて過ぎる。
わたしとほぼ同世代の人たちならおもしろく読めること請け合い・・・である。
ただし、あまりに多くの社会的事件や外交、政治問題を詰込みすぎ。
切り口は鋭いけれど、奥行きが足りない。
あとがきまでで240ページ。さらに参考文献、略年表、索引がついている。あれもこれもと、てんこ盛りなので、論証不足なのはやむをえないだろう。
吉見俊哉さんというこの筆者は初のお目見えとなるが、ほかの本も読んでみたくはなった。
ただし、この本は刊行が2009年なので、当然ながらそこまで出来事の叙述。
2011年3月に発生した東日本大震災にはふれていない。
東日本大震災で、日本のどこがどのように変わったのか、吉見先生の意見をお聞きしたかった。
すでに発生から10年が経過し、そこまでが“現代史”なのだ・・・とわたしはかんがえているわけだ。
評価:☆☆☆☆
■江川卓「ドストエフスキー」岩波新書(1984年刊)
この本、はじめて古書店で見かけ、すかさず買ったが、しばらく寝かせておいた。本を整理していたら、ひょっこり顔を出した(´v’)
売れなかったのだろうか、この書物、ほかの書店の棚では見かけた記憶がない。
江川卓さん(有名なスポーツ選手とは別人)は、ロシア文学者(1927年 - 2001年)。
ドストエフスキーの翻訳者として、わたしも存じ上げていた。
「謎とき『罪と罰』」1986年
「謎とき『カラマーゾフの兄弟』」1991年
「謎とき『白痴』」1994年
これら3冊が手許にあり、「謎とき『罪と罰』」だけは読んでいるが、ほか2冊は何年も“スタンバイ”のまま(笑)。
ドストエフスキーの数ある作品の中でも、「罪と罰」は、わたしには特別な思い入れがある。
最初の衝撃・・・というやつで、読み終えたあと、しばらく熱にうかされた状態がつづいた。そして、10年ばかりたって再読。
2回とも工藤精一郎訳の新潮文庫。
ところが、「罪と罰」はサンクトペテルブルクという都市の小説だと気がついて、江川卓訳の岩波文庫(上・中・下)も買って、リビングテーブルに長いあいだ載せてある。
こちらには当時のサンクトペテルブルクの地図が掲載されているのだ。
主人公ラスコーリニコフを中心とした「都市」が、もう一つの主人公なので、地図を横目でちらちら眺めながら読むと、この長編小説は数倍おもしろく読める。
いつか、どこか・・・ではない。日付も背景の都市空間も、たしかなリアリティーをもって迫ってくる。
もう一度いうけれど、「罪と罰」を読む場合、ペテルブルクの地図は必須ですぞ!!
さて、この岩波新書「ドストエフスキー」は、大ブレイク(この手の本としては)した謎ときシリーズの前哨戦という位置づけになる。
ドストエフスキーの研究書、批評ははいて捨てるほどあるけれど、江川さんの本は、じつにユニークで、ジェットコースター並みのスリルをもって、読者を巻き込んでいく・・・と思う。
「カラマーゾフの兄弟」(光文社古典新訳文庫)で一世を風靡した亀山郁夫さんのものより断然こちらがおもしろい。
ドストエフスキーの研究に一生を捧げた人の著作として、かたわらに置いておきたいのはこういう本である。
江川卓訳岩波文庫は、註が充実し謎を読み解く手助けをしてくれる。この「ドストエフスキー」を読み終えたあと、文庫版の訳注だけ読んでみたが、これを頭の隅に入れておくとおかないでは、百歩も二百歩も違う(゚o゚;
江川さんは「罪と罰」という長編に惚れこんでいる。
それにしても、ドストエフスキー、よくもまあこんな“世界文学”を書き残したものだ。
わたしは若いころ、夢で「罪と罰」に何度かうなされている。
しかし、以前はソーニャが出てくるシーン、甘っちょろくてあまりに感傷的だと思えて反発したりしていた。
「そうじゃないよ、もう一度じっくりと読んでごらん」
江川さんに、そうたしなめられた気分である。
評価:☆☆☆☆☆
末木文美士と書いてすえき・ふみひことお読みするそうである。1949年生まれ、本書刊行当時東京大学大学院人文社会研究科教授。
ビギナー向けなので平易に書かれているが、いたって専門性の高い一冊であろう。ビギナー向けだから工夫をする必要があるし、専門用語は一般に流通することばに置き換えなければならない。そうしないと読者がついてこないで、途中で投げ出してしまう。
易しいのから、歯ごたえのあるものまで、さまざまなレベルの入門書がある。しかし、正面切って「日本仏教史」と銘打った本を、わたしはほかに見かけたことがない。十分な読み応えがあった。
とくに「第Ⅵ(6)章 神と仏」、「終章 日本仏教への一視覚」は参考になった。神仏習合による民間信仰と、本来の仏教との関係への思索に鋭利な洞察がある。
評価:☆☆☆☆☆
■吉見俊哉「ポスト戦後社会」シリーズ日本近現代史⑨岩波新書(2009年刊)
歴史家の本ではなく、社会学者の書いた本。
むろん日本近現代史の第9巻として書かれているので、そういった史的考察への配慮はなされている。
『表「戦後」から「ポスト戦後」へ』はすぐれた要約になっている。
支配体制
政治と変革
産業と環境
家族と地域
社会意識
この5つの大項目に対して図式化し、読者のざっくりした理解をバックアップ↑ 非常に頭に入りやすく、印象に残る(´・ω・)? この一覧表を眺めていると、自分が生きてきた時代の変遷が、あれこれ脳裡をかすめて過ぎる。
わたしとほぼ同世代の人たちならおもしろく読めること請け合い・・・である。
ただし、あまりに多くの社会的事件や外交、政治問題を詰込みすぎ。
切り口は鋭いけれど、奥行きが足りない。
あとがきまでで240ページ。さらに参考文献、略年表、索引がついている。あれもこれもと、てんこ盛りなので、論証不足なのはやむをえないだろう。
吉見俊哉さんというこの筆者は初のお目見えとなるが、ほかの本も読んでみたくはなった。
ただし、この本は刊行が2009年なので、当然ながらそこまで出来事の叙述。
2011年3月に発生した東日本大震災にはふれていない。
東日本大震災で、日本のどこがどのように変わったのか、吉見先生の意見をお聞きしたかった。
すでに発生から10年が経過し、そこまでが“現代史”なのだ・・・とわたしはかんがえているわけだ。
評価:☆☆☆☆
■江川卓「ドストエフスキー」岩波新書(1984年刊)
この本、はじめて古書店で見かけ、すかさず買ったが、しばらく寝かせておいた。本を整理していたら、ひょっこり顔を出した(´v’)
売れなかったのだろうか、この書物、ほかの書店の棚では見かけた記憶がない。
江川卓さん(有名なスポーツ選手とは別人)は、ロシア文学者(1927年 - 2001年)。
ドストエフスキーの翻訳者として、わたしも存じ上げていた。
「謎とき『罪と罰』」1986年
「謎とき『カラマーゾフの兄弟』」1991年
「謎とき『白痴』」1994年
これら3冊が手許にあり、「謎とき『罪と罰』」だけは読んでいるが、ほか2冊は何年も“スタンバイ”のまま(笑)。
ドストエフスキーの数ある作品の中でも、「罪と罰」は、わたしには特別な思い入れがある。
最初の衝撃・・・というやつで、読み終えたあと、しばらく熱にうかされた状態がつづいた。そして、10年ばかりたって再読。
2回とも工藤精一郎訳の新潮文庫。
ところが、「罪と罰」はサンクトペテルブルクという都市の小説だと気がついて、江川卓訳の岩波文庫(上・中・下)も買って、リビングテーブルに長いあいだ載せてある。
こちらには当時のサンクトペテルブルクの地図が掲載されているのだ。
主人公ラスコーリニコフを中心とした「都市」が、もう一つの主人公なので、地図を横目でちらちら眺めながら読むと、この長編小説は数倍おもしろく読める。
いつか、どこか・・・ではない。日付も背景の都市空間も、たしかなリアリティーをもって迫ってくる。
もう一度いうけれど、「罪と罰」を読む場合、ペテルブルクの地図は必須ですぞ!!
さて、この岩波新書「ドストエフスキー」は、大ブレイク(この手の本としては)した謎ときシリーズの前哨戦という位置づけになる。
ドストエフスキーの研究書、批評ははいて捨てるほどあるけれど、江川さんの本は、じつにユニークで、ジェットコースター並みのスリルをもって、読者を巻き込んでいく・・・と思う。
「カラマーゾフの兄弟」(光文社古典新訳文庫)で一世を風靡した亀山郁夫さんのものより断然こちらがおもしろい。
ドストエフスキーの研究に一生を捧げた人の著作として、かたわらに置いておきたいのはこういう本である。
江川卓訳岩波文庫は、註が充実し謎を読み解く手助けをしてくれる。この「ドストエフスキー」を読み終えたあと、文庫版の訳注だけ読んでみたが、これを頭の隅に入れておくとおかないでは、百歩も二百歩も違う(゚o゚;
江川さんは「罪と罰」という長編に惚れこんでいる。
それにしても、ドストエフスキー、よくもまあこんな“世界文学”を書き残したものだ。
わたしは若いころ、夢で「罪と罰」に何度かうなされている。
しかし、以前はソーニャが出てくるシーン、甘っちょろくてあまりに感傷的だと思えて反発したりしていた。
「そうじゃないよ、もう一度じっくりと読んでごらん」
江川さんに、そうたしなめられた気分である。
評価:☆☆☆☆☆