二草庵摘録

本のレビューと散歩写真を中心に掲載しています。二草庵とは、わが茅屋のこと。最近は詩(ポエム)もアップしています。

スロットル全開、織田作之助の世界 ~「放浪・雪の夜」の周辺

2024年05月13日 | 小説(国内)
■織田作之助「放浪・雪の夜  織田作之助傑作集」(新潮文庫 令和6年刊)

西村賢太の本を物色するため戸田書店をうろついていたら、こんなのが目についた。
「おや、新潮文庫の新刊だな?」
そうかんがえながら手にしてみると、新たに編集されたおださく(織田作之助)だった。

織田作之助については、以前短く書いたことがある。

■二草庵摘録:2019年3月
https://blog.goo.ne.jp/nikonhp/e/0e2b053733c0f9636bfa4ac6e955eef7

そこから、まず「四月馬鹿」という短篇を読みはじめたら、これが傑作、文句なし(^o^)
いやはや、5年ぶりの再会は、印象の深い武田麟太郎を取りあげた短編であった。

《武田さんのことを書く。
 ――というこの書出しは、実は武田さんの真似である。》
(引用は青空文庫から)

《武田さんのことを書く。
 ――戎橋(えびすばし)を一人の汚ない男がせかせかと渡って行った。
 その男は誇張していえば「大阪で一番汚ない男」といえるかも知れない。髪の毛はむろん油気がなく、櫛を入れた形跡もない。乱れ放題、汚れ放題、伸び放題に任せているらしく、耳がかくれるくらいぼうぼうとしている。よれよれの着物の襟を胸まではだけているので、蘚苔(こけ)のようにべったりと溜った垢がまる見えである。不精者らしいことは、その大きく突き出た顎のじじむさいひげが物語っている。小柄だが、角力取りのようにでっぷり肥っているので、その汚なさが一層目立つ。濡雑巾が戎橋の上を歩いている感じだ。》
(引用は青空文庫から)

短編なのに「はしがき」がある。人を食ったおもしろい書き出しである。二段ロケットみたいなこのスタートの仕方にまず意表を衝かれた。
スロットル全開というか、勢い余って空ぶかし(笑)。
漫才のノリと思って間違いない。

「放浪・雪の夜」は、つぎの11編を収録している。
1.放浪
2.雪の夜
3.馬地獄
4.俗臭
5.人情噺
6.天衣無縫
7.高野線
8.蛍
9.四月馬鹿
10.神経
11. 郷愁


ついでに、BOOKデータベースから内容紹介を引用させていただく。

《『夫婦善哉』の作者であり、太宰治、坂口安吾の盟友としても知られる織田作之助。その作品の魅力は豊かな物語性にある。料理人順平の流浪の旅を描く「放浪」。別府へと逃れ落ちた男女を描く「雪の夜」。商才に優れた男が落ちぶれた家を再興する「俗臭」(芥川賞候補作)。亡き妻への想いをこめた「高野線」。龍馬に慕われた寺田屋お登勢の半生「蛍」。そして、作者を思わせる流行作家を視点人物として、心に深く残る名品「郷愁」。織田文学の研究者が厳選した11編を収録。波瀾万丈、そして人情──。大阪が生んだ唯一無二の作家がここにいる。 注解・解説=斎藤理生(大阪大学大学院教授)》

本編には、明治の文豪なみにこまかに注釈がついている。これがとてもありがたたいと感じるのは、“戦中・戦後”というおださくの時代が遠ざかってしまったからである。
「馬地獄」や「高野線」はタイトルを眺めているだけで、好奇心が刺激され、ちょっとわくわく( ゚д゚)



本編「四月馬鹿」に影響され、こんなのも買ってきてしまった。
武田麟太郎が読みたかったのだなあ。
なぜか文庫本では、その作品集が読めない。
岩波文庫か中公文庫にでもラインナップされそうなのにね。
「銀座八丁」「日本三文オペラ」「市井事」「一の酉」あたりは読んでみたいと思っている。ひと昔、あるいはふた昔前の文学全集は文字表記が小さいので少々つらい、たぶん読まないだろう。それにしてもどうして島木健作と抱きあわせなの´・ω・?

古い文庫本を調べると、新潮文庫に収録されていたことがある。これが見直されるといいのだけど。

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