二草庵摘録

本のレビューと散歩写真を中心に掲載しています。二草庵とは、わが茅屋のこと。最近は詩(ポエム)もアップしています。

読者は踊る   斎藤美奈子

2010年01月06日 | エッセイ(国内)
こういうエッセイにどんな書評を寄せても空しさがつきまとう。
開き直った女性の、ヤジと嘲弄でうめつくされた本である。
あれれ、何ページか前に書いてあることと矛盾してるじゃん!?
・・・などと野暮なことをいってはいけない。それがこの人の「藝」であり、ご本人もそれは承知している。

「ベストセラーがすぐ古びるように、時評的な文章もまたたくまに鮮度が落ちる。雑誌連載をまとめて単行本にするだけだって『古い話で恐縮ですが・・・』だったのに、その本をさらに文庫にするのは無謀な話だ」
この人自身が後書きでそう書いているので、苦笑させられる。
「ある程度以上古くなれば、今度は風俗資料的な価値がでるんですよ」だとさ。
まあ、文春文庫の担当者に、こういったことばでなぐさめられたのだろう。

これほど気ままに、いいかげんにヤジを飛ばして、それが文庫本になるのだから、広く長く読まれることをめざした文庫本の世界も、「売れりゃいいんですよ。何でも出します」ということか?
ありとあらゆるものを「けなす」のがこの人の藝。しばしば「万才」のノリに近いものがある。肩が凝っている読者には、うってつけなのだろう。偶像や権威をほとんど認めず、痛快にこきおろす。「のどごし爽やかコカコーラ」か、はたまた便秘に悩む読者のための下剤か(笑)。

カラオケ化する文学
ニッポンという異国
文化遺産のなれのはて
野生の王国
科学音頭に浮かれて
おんな子どもの昨日今日
歴史はこうしてつくられる
知ったかぶりたい私たち

以上の8章からなり、ひたすら「ツッコミ、ツッコミ」の連続。
「えっ、そこまでいってしまったら、あんたそのうち闇討ちに遇うんじゃないの?」
読者はそんな心配までしたくなるほどだが、むろん、そんなことは絶対にない(だろう)。

退屈していて、ちょっと刺激がほしいと考えているわたしやあなたにとっては、笑ったり、、舌打ちしたり、しまったと反省したり、ばかいうんじゃねえよと怒ったり、へええ、であんたはどうなのさと逆ネジをいれたくなったりする。「踊る読者」とは、わたしであり、あなたであり、著者自身のことですよ、とこの本はいっている。

ウラ表紙のコメントにこう書いてある。
「『ごくごく一般的な、そんじょそこらの読者代表』の斎藤美奈子が、タレント本から聖書まで、売れた本、話題になった本253冊の読み方と読まれ方を、快刀乱麻で読み解いていく!」
「権威にとらわれない辛口の評価を下している」という評価が多いようだが、じつはもうひとつ仕掛けがあるとわたしは思った。
つまり、斎藤さんは、そんな「ふり」をしてみせて、いってみれば「大向こうウケ」を狙っているだけ。よくいえば、戦略的に書かれた、ケレン味たっぷりの本なのである。
デビュー作の「妊娠小説」はまじめに読んだんだけどなぁ。
「文章読本さん江」は途中からばかばかしくなり、投げ出した。
本書もまあ、たとえば、電車のなかでの「斜め読み」にはぴったりだろう。


評価:★★★

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