二草庵摘録

本のレビューと散歩写真を中心に掲載しています。二草庵とは、わが茅屋のこと。最近は詩(ポエム)もアップしています。

舞台裏を明かす  ~吉村昭「わが心の小説家たち」がおもしろい

2024年09月22日 | 吉村昭
■「わが心の小説家たち」吉村昭(平凡社新書 1999年刊)


作家吉村昭は、一時期夢中になって読みふけった。その“時期”を過ぎたらぱったり読まなくなった。自身を責めても仕方ないが、要するに気まぐれなのだ。
「二草庵摘録」を参照すると、28個のコンテンツがならんでいる。これが29個め。
近ごろときたま思い返すのは、これまで読んだ中で、どれが胸の一等席を占めているかというと、
「長英逃亡」(新潮文庫 上下巻)なのですね。
結末にいたるまで、まったく筆力が衰えておらず、ハラハラ・ドキドキが、末尾の一ページ
までつづく。
吉村昭さんが「長英逃亡」を書いたのは、1987年、57歳のとき。脂がのっていたというべきだろう。新潮文庫の現行版を、もう一揃い買っておこうかな(´ω`*)

逃亡の過酷なドラマを描いた小説・映画は、海外では多いようだが、日本では「長英逃亡」がNo.1といえるのではないか。
ご本人は、書いている最中に、しばしば役人に捉まる悪夢にうなされたようだけれど、わたしも長英の夢を2~3回みている。吉村さんらしい“シリアスな味”が隅からすみまで行き届いているのは見事。
小説の舞台裏を明かすのは、これまでしばしばやっておられる。ところが、敬愛する日本文学の先輩作家については、口が重いというか言葉少な。

《森鴎外、志賀直哉、川端康成、岡本かの子、平林たい子、林芙美子、梶井基次郎、太宰治──最も敬愛する小説家たちの文章の魅力を語りつくす。吉村昭版「名作案内・小説入門」。》BOOKデータベースより

ほかの本を探していたら、本書「わが心の小説家たち」が顔を見せた。ん、んん。
久しぶりじゃないか♪
ポストイットが1か所だけ挟んであったから、読みかけたことはあったのだ。しかし、これを全部読んだ憶えはない。

完読していれば、BlogにUPしただろう。
・・・というわけで、はじめて読むつもりで、一昨日あたりから取りかかった(。-ω-)

目次を引用しておこう。

第1章  森鷗外、「歴史其儘」の道
第2章  志賀直哉「暗夜行路」への旅
第3章  川端康成――「死体紹介人」と「雪国」をめぐって
第4章  川端康成「千羽鶴」の美
第5章  女性作家の強烈な個性――岡本かの子・平林たい子・林芙美子
第6章  梶井基次郎「闇の絵巻」の衝撃
第7章  太宰治「満願」の詩

この7章である。『森鷗外、「歴史其儘」の道』をのぞき、すべて読んだ。
その中でも第4章、第5章がすばらしい出来映えをしめしている・・・とおもわれた。
吉村昭さんは、評論家ではない、いうまでもなくね。
その代わり実作者の眼が底光りしている。

こういうエッセイを読むと、刺激をうけて、こちらで取り上げられた小説家、その作品を読みたくなる。それがいつもの“クセ”なのだし、ミーハーのミーハーたる所以である。
「アメリカ彦蔵」
「大黒屋光太夫」
「彰義隊」
この3作品を中心に、長短10作あまりはストックしてある。読みはじめるタイミングを見計らっているのだ(その前に寿命が尽きてしまうかな? 眼が見えなくなったりね)。

このところ、芥川龍之介、志賀直哉、梶井基次郎その他の短篇を、ぽつりぽつり読んでいるけれど、書評・レビューを書くまでもないんじゃないか、とおもっている(;^ω^)
それより、いつのタイミングで吉村昭の小説世界に復帰するか、胸の奥がもやもやしている。残り時間が少ないから、余計に。

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