二草庵摘録

本のレビューと散歩写真を中心に掲載しています。二草庵とは、わが茅屋のこと。最近は詩(ポエム)もアップしています。

村上春樹「カンガルー日和」講談社文庫(1986年刊)はおもしろい

2021年08月25日 | 小説(国内)
村上春樹さんの「カンガルー日和」を読み終えたので、忘れないうちに感想をメモっておこう。
結論からさきに書いておくと、この「カンガルー日和」は、“珠玉の短編集”そのものである。佐々木マキさんのイラストもすばらしいというほかない。読んでいるうち、だれかの宝石箱の蓋を持ち上げてのぞき込んでいる・・・そういう印象が強かった。
「あれがいい、これがいい。うん、これもいいよ」
人それぞれ、いろいろな切り口があるだろう。村上ワールドのエッセンスがつまった一冊とえる(^^♪

本編のなかに、「1963/1982年のイパネマ娘」という短編がふくまれている。
https://www.youtube.com/watch?v=Arg_TAEZjPE 
リオデジャネイロのイパネマ海岸を舞台にしたボサノバの名曲。名曲中の名曲なので、この音楽を知らない人はほとんどいないだろう。

この「1963/1982年のイパネマ娘」を読んでいると、記憶というもののありようにスポットライトがあたって、とびっきりの夕焼けのように、情景がクッキリと浮かび上がる。
YouTubeには、こんなレビューもあるので、こちらもLinkしておく。
https://www.youtube.com/watch?v=N_IWmHo3jJ8&t=912s 

やや断片的ではあるが、極上のエンターテインメントといっていいだろう(^ε^)
全18篇、最後に収められた、長めの「図書館奇譚」をのぞき、他の17篇は超短編(ショート・ショート)であり、起承転結の“結”がない作品もある。短いので、10分もあれば一篇を読み終えることができる。
村上春樹さんは、いまもっともフィーチャーされている小説家。日本のみならず、世界的にみても注目度は高いようだが、わたしはこれまで彼には親しんではこなかったので、“いまさら”のように、ぞくぞくしながら読みはじめているわけだ。

この小説家は、現代文学における試金石であるのかもしれない。
村上春樹派
反村上春樹派
文学好きが、この二流派に大きく分かれている。
わたしはBOOK OFFをよく散歩するけど、そこには、じつに多くの村上本が置いてある。例外はあるし、最新刊は別。しかしそのほかの作品のほとんどは100円(税別)で買うことができる。ブレイクした本は、市場で商品的にダブついているわけだ。

テーマが重層化している。だからそれをどう読み解いていくのかが、読者を挑発し、しばしばこれまで経験したことのない風景が見えてくる。
むろん、技術的にもすぐれているので、なんだ、これ・・・と思わせておいて、意外性のある、不思議な世界へと読者をつれていく。こういう小説家は、従来の日本文学では少ないのではないだろうか?

表題作「カンガルー日和」「4月のある晴れた朝に100%の女の子に出会うことについて」「あしか祭り」「1963/1982年のイパネマ娘」「とんがり焼きの盛衰」は秀作である。超短編なので、一篇一篇についての感想は省略する。いろいろと変化にとんだ、まるでドロップの詰め合わせの味を愉しむように愉しめた(‘ω`)
ただし「図書館奇譚」はいただけない。わたしにはまったくついていけなかった。
最初のページから最後のページまで読むつもりでいたが、これだけは読むのが苦痛だった。

「図書館奇譚」さえなければ、当然5点満点をつけておく。
こういった短編作品集を堪能できる読者が世界中に散らばっているし、新刊が刊行されると、書店に行列ができるそうであ~る。
いまや押しもおされもせぬビッグネーム。マスコミにはめったに顔を出さないし、講演もしない。それがファンの心理(おれだけの、あたしだけの村上春樹という心理)をあおっているのではないか?

彼にはほかに翻訳という仕事がある。うむむ、村上春樹訳何冊買ったかなあ。
昨日から柴田元幸さんとの共編著「翻訳夜話」(文春新書)にとりかかったが、訳書にはまだまったく手を付けていないので、道のりはるか・・・。
しかし、「グレート・ギャツビー」を、「長いお別れ」(ロンググッドバイ)と比べるのはともかく、ドストエフスキーの「カラマーゾフの兄弟」と比べているのはいかがなものか(。-ω-)

インタビューなどを読ましてもらうと、村上春樹さんという人は、食事をするように、むしゃむしゃと本を読んでいる。つい「文字の魔」といいたくなる。
文字の魔。
活字(印字)がそこにあれば、手紙だろうが広告だろうが何でも読んでしまう。
そしてそういう自らの“習性”を正直に話している。

近ごろドキュメンタリーばかりでフィクションが読めない症状がつづいていたけれど、わたしにしてみたら、村上ワールドの門を敲きながらその先の世界へ復帰が果たせるかもしれないと期待しているわけだ。
「カンガルー日和」。
久しぶりに(じつに久しぶりに)フィクションの秀作集を読ませていただいたことを感謝しよう。



評価:☆☆☆☆

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