
紀伊半島の南端の串本付近から和歌山県道38号線を古座川に沿ってしばらく遡ると月野瀬温泉にたどり着きます。温泉地と入っても実質的には宿泊のできる入浴施設「ぼたん荘」があるだけですが、その手前にひっそりと小さなお風呂が佇んでいます。ネット上でその存在が密かに語られているだけで、ガイドブックには載っておらず観光協会でも紹介されない、まさに知る人ぞ知る温泉です。
一部のサイトでは「個人所有」と匿名で秘密めいた紹介がなされているので、訪問に当たっては相当の遠慮を要するのかと思いきや、実際には道路沿いに判りやすく看板も出ていたり、壁に立てかけられた板には歓迎することばも書かれていたりと、意外にも入りやすい雰囲気でした。
民家の敷地の端っこにコンクリート打ちっぱなしの粗末な無人小屋があり、壁には「天然掛け流し温泉」と書かれた看板が掛けられているので、これが湯屋であることがわかります。アルミの扉と木の扉がそれぞれ1ヶ所ずつあって、開いてみると中はいずれも左右対称で浴室になっており、すぐ目の前に据えられた湯船からはお湯がドバドバと溢れ出ていました。浴室は狭くその半分近くは浴槽が占めており、脱衣所はないので浴室の端っこで着替えることになります。浴槽と衣類の棚と桶以外の設備や備品は何もありません。また照明らしきものが無く窓も無く、扉を閉めてしまうと室内は暗闇になってしまうので、扉は軽く開けたまま備え付けの簾を下げて入浴することになります。

道路に向かってこんな看板が立てられているので、すぐに場所がわかります

これが湯小屋
手作り感溢れる浅めのコンクリート浴槽には絶え間なく新鮮な源泉が注がれています。無色透明ではっきりとわかるタマゴ味と弱いタマゴ臭を感じます。お湯に浸かると忽ち全身に気泡が付着し、肌をさするとヌルヌルスベスベ、とても気持ちよい。湯温はかなりぬるめで35℃ぐらいでしょうか、お湯の気持ちよさも相俟っていつまでも浸かっていたい長湯仕様です。洞窟のように薄暗く狭い空間の中、簾の隙間から漏れ入ってくる幾条もの光と、ぬるめで新鮮なお湯が時間の経過を忘れさせ、私は1時間ぐらい入っていました。
このような温泉施設は珍しいのでしょうか、私の入浴中に看板を見つけて足をとめた3組の家族がちらっと覗いて見学していきました。隣の浴室は空いていたのでせっかくだから入っていけばよいのですが、入っていきなり浴室という環境に慣れていらっしゃらないのでしょうか、あるいは混浴となる状態を敬遠しているのでしょうか、皆さん見るだけ見て立ち去ってしまいました。もったいない…。
外来客を歓迎してくださっているこの「ゆうや」ですが、個人所有であることには間違いないので、くれぐれもマナーを守って入浴していただきたいものです。また名称に「湯治場」とありますが、施設としてあるのは小さな浴室だけで宿泊や休憩はできませんので悪しからず。
独特の雰囲気と良い、お湯の良さといい、温泉好きなら足を運ぶべきお風呂です。

右側の木戸の方の浴室

左側のアルミ戸の方の浴室。左右対称になっていることがわかります

簾を下げてお風呂から表を眺めています
泉質に関する表示なし(おそらくアルカリ性単純泉)
和歌山県東牟婁郡古座川町月野瀬 地図
営業時間:特に定め無し(常識の範囲内で)
無休
寸志
私の好み:★★★