温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

木部谷温泉 松乃湯

2011年03月01日 | 島根県
各地で見られる間欠泉には地中で加熱された水蒸気の圧力によって噴き上がるタイプ(間欠沸騰泉)が多いのですが、島根県の木部谷温泉では地中の炭酸ガス圧力によって噴き上がる間欠泡沸泉が見られます。同様の例は山形県の広河原温泉にも存在しており、当ブログで紹介したように間欠泉の中に入って湯浴みすることができます。


当地は以前から鉄分の多い鉱泉が湧いており、それを五右衛門風呂で沸かして使っていたそうですが、高温の源泉を求めるべく1970年にボーリングを行い、80メートル掘ったところで間欠泉として噴きあがったんだそうです。残念ながら泉温が上がらず低いままでしたが、豊富な湧出量が得られたので、以来この鉱泉を用いて一軒宿の温泉旅館「松乃湯」が開業し、今に至っています。
木部谷温泉では間欠泉の中に入ることはできないのですが、噴きあがった鉱泉水を泉源から数十メートル引き、浴室で加温して入浴に供じています。


入浴をお願いすると快く受け付けてくださり、宿の方は「そこのタオルをお使いくださいね」と脱衣所手前の棚を指さしました。テンの剥製やガラスケースに収められた大きな結晶(湯の華)が置かれているその棚を見ると、籠にタオルが入れられており、入浴する人はこれを一人一枚借りて良いようです。でも何度も洗濯しているため雑巾のようにゴワゴワで、お爺ちゃんの体から漂う加齢臭みたいな変な臭いがします。勿論自分のタオルを使っても問題ありませんが、お湯の濁りが強くてタオルがお湯の色に染まってしまうため、それを避けるべく宿側が配慮してタオルを貸し出してくれているんだと思います。実際に貸し出しタオルはみんな薄いオレンジ色に染まっていました。

 
(右側画像はクリックで拡大)
浴室には内湯が一つで、浴槽は3人サイズ。シャワー付き混合栓が3基。画像の下部にちょこっと写っていますが、洗い場には源泉由来の苔が発生しており、緑色に染まっているのが目を惹きます。


源泉温度が低いために加温する必要があるのですが、その方法が面白い。源泉はバルブを開けば投入口から冷たいまんまドバドバ出てくるので、浴槽の反対側にある加温用蒸気で加温して温度を調整するのです。お湯ではなくスチームで加温すれば、成分はあんまり薄まらずに済みますね。また源泉コックも蒸気のコックもセルフで開閉できるので、湯加減は客の好みに合わせられるのも嬉しい点です。この方法なら常時鉱泉を沸かしておく必要が無いため、なかなか効率的かもしれません。しかも鉱泉水は循環・加水・消毒されておらず、貯め湯ですが実質的には掛け流しみたいなもんですから、比較的新鮮な状態で湯あみすることができます。

その鉱泉水は橙色に濃く濁り、透明度は10cmも無いほど。味は強い炭酸味+塩味+明瞭な金気味+出汁味+土気味といったようにいろんな特徴が個性を競い合って顕れており、匂いも金気+土気などいろんな要素が複雑に混ざり合っています。見た目から想像できる通りギッシギシの浴感ですが、微かにツルスベ感を帯びているのは重曹の力でしょうか。強い炭酸が特徴的な濃いお湯には圧倒されてしまいました。

 
湯上がりに間欠泉を見学。旅館脇の坂を登っていきます。登り口には貸し出し用の杖も置かれているので、お年寄りでも大丈夫。道の端にはオレンジ色の水が流れています。


途中にはかつて当地で使われていた五右衛門風呂が展示されていました。

 
数十メートルで池のようなところに辿りつきました。どうやらここがその源泉&間欠泉のようです。


石灰でコーティングされた池の縁には「泉源」と書かれた杭が刺さっています。その上の金網に囲まれている個所が噴気孔のようです。


池の一番奥へ行ってみましょう。そこには説明プレートが立っており、25分休んで5分噴き上がるんだそうです。その量は最大で毎分400リットル。湧出時には無色透明ですが、空気に触れると酸化して浴室で見たような濃い橙色に濁るわけです。
あれ!? もしや!!


金網越しに噴出口を眺めていたら、運が良いことにほとんど待つことなく、ゴボゴボという音とともに水が上がってきました。


おお、きたきた!上がってきたぞ! かなりの量だ。


あれれ、これが限界か…。


やがて低くなり…


止まっちゃいました。

ここと同じく炭酸ガスの圧力によって間欠泉の原動力になっている山形県・広河原温泉の場合は、地中の炭酸ガスのパワーが優勢である一方、温泉水の供給が減少しているために、やがて間欠泉が止まってしまうだろうと予測されていますが、逆に木部谷温泉の場合は炭酸ガスの圧力が徐々に弱まっており、2050~60年頃には圧力不足で噴き上がらなくなってしまうようです。両間欠泉とも末長く続いてほしいものですが、地熱によって沸騰する間欠沸騰泉と違って、炭酸ガス圧力が原動力となる間欠泡沸泉はそのメカニズムがとってもデリケートであるため、いずれは止まってしまう運命なのかもしれません。(※)


ナトリウム・カルシウム-塩化物・炭酸水素塩泉 20.5℃ pH6.3 180L/min(自噴・間欠泉) 溶存物質5.97g/kg 成分総計6.49g/kg

島根県鹿足郡吉賀町柿木村木部谷530  地図
0856-79-2617

7:30~19:00 毎月6日・16日・26日定休
400円
タオル貸し出しあり、他の備品類は無し?(確認漏れです、ごめんなさい)

私の好み:★★★

(※)石井栄一「間歇泉の発生と消滅のメカニズム」(大沢信二編『温泉科学の新展開』ナカニシヤ出版)
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