※今回の記事に温泉は登場しませんのであしからず
立川といっても、中央線の駅ではありません。
台湾東部の花蓮県には黄金色のシジミを養殖している立川漁場というところがあると聞いたので、黄金のシジミとはいかなるものか、そして漁場とはどんなところか、無類の貝好きである我が胃袋が強い興味を示したので、実際に行ってみることにしました。
前回紹介した礁渓温泉の「礁渓楓葉館」をチェックアウトした後、礁渓から台鉄の「自強号」で壽豐(寿豊)駅まで乗車。列車ダイヤの都合により、途中花蓮駅でPPトレインから花蓮始発のディーゼルカーへ乗り換えました。
壽豐駅は長閑な田舎の三等駅。積極的に合理化を進めて無人駅が年々増えつつある日本のJRとは異なり、台鉄は余程の駅でないかぎりは駅員が配置されており、ここ壽豐でも駅長さんがホームに立って列車の安全を確認していました。小さい駅だからか構内には行李房(手荷物預かり所)が見当たらず、ダメ元で駅長さんに「私のバックパックをちょっと置かせてくれませんか?」とお願いしたところ、駅長さんはホーム事務室の扉を開けて部屋の隅を指さし、「ここに置きなさい」とそのスペースを使わせてくれました。ご親切に対し、この場を借りて御礼申し上げます。貴重品や雨具など必要最低限の荷物だけを持参して駅を出発です。目的地までは約2kmの道程ですからのんびり歩いて向かうことにします。
駅を出たら十字路(↑画像の交差点)を右折して幹線道路(9号線)を北東へ。
商店が建ち並ぶ集落の中を200~300mほど歩くと1灯信号がある交差点に到達するので、ここを右折し、線路を潜って東へ進みます。信号のアームにはニコニコ笑顔のシジミ君とともに「立川漁場」と書かれた標識が取り付けられていました。
途中の路傍には随所に「立川漁場」の案内標識が立っているので、地図が無くても迷うことはないでしょう。クリークを流れる水が麗しく、空気も澄みきっており、とっても長閑な田園風景が広がっています。心が洗われるなぁ。
この道はサイクリングロードも兼ねているようですが、こんなユニークな標識を発見。しじみがチャリンコを漕いでるよ!
牧場の草地では牛が青草を食んでいる最中。
芭楽とはグァバのことですね。「自産自銷」という言葉とともに携帯の番号が書かれていますから、生産者直売ってことなのでしょう。
台湾のカタツムリはデカいなぁ。
道はやがて養魚場が広がるエリアへと入ってきました。小さな羽根車がバタバタと廻りながら水を攪拌させています。
駅から歩くこと20分で立川漁場に到着です。
道路に面したこの建物は、おそらく水産加工場。その後背にも養魚場の池が広がっています。
正面に建つ「蜆之館」と称する建物へ入ってみます(無料)。
館内では当地におけるシジミ養殖の歴史、なぜ当地が養殖に適しているのか、養殖方法、シジミ以外の養殖水産品などをパネルによって解説展示しているほか、シジミエキスを用いた産品などが販売されていました。説明パネルによれば、ここではシジミのみならずティラピアなどの魚も養殖しているんだそうでして、シジミ、ティラピア、そしてシルバーパーチという淡水魚がこの養殖場の三大産品なんだそうです。
雲林県出身の蔡有進という方が台湾各地を転々と移り住んだ後、この地で河シジミの養殖事業を立ち上げたのが立川漁場のはじまり。蔡さんが長年にわたって苦労と努力を重ねた結果、当地のオリジナルである黄金シジミの開発と養殖に成功し、その成果が政府から認められて全国十大農民に与えられる「神農賞」を受賞。黄金シジミの存在と蔡さんの名誉は台湾全土に知れ渡ることとなったんだそうです。
解説文を読んでいると、横からスタッフのお姉さんが紙コップを渡してくれました。中には鰹節と蜆のだし汁が入っており「試飲してください」とのこと。鰹と蜆という最強タッグの組み合わせだけあって、なかなかうまかったですよ。
「蜆之館」を抜けて反対側へ出ると、眼前には遠くからでも底が見える浅い池が広がり、その池畔では親子連れが濡れた足を拭いていました。この池では有料でシジミ狩り体験ができ、獲ったシジミは構内のレストランで炒めてくれるのです。件の親子はちょうど獲り終わって池から上がったところなのでしょう。私もやってみたかったのですが、一人でシジミ狩りするのは何だか虚しいので、今回は遠慮することに。
池の周りは回遊式の遊歩道になっています。低い雲が立ち込めて残念な空模様でしたが、それでも豊かな緑と可憐な花々、そして潤いのある景色に囲まれて、全身がすっかり浄化されてゆくようでした。ベンチに腰掛けて頭を空っぽにし、しばらくボーっとしておりました。
遊歩道の一部をよく見ると、地面に敷かれているのは砂利ではなく、シジミの貝殻なのであります。
池の水はとっても清らか。水質がいいのか栄養が豊かなのか、池の鯉は1メートルを余裕で超す巨大怪魚と化していました。
池の畔に立つ、派手な魚の形をした魚用の餌販売機で餌を買い…
その餌を池に落としてみると、忽ち鯉が集結し、音を立てて口をパクパクさせながら餌にありつこうと必死の形相で、小さい子供が見たら泣いちゃうかもしれない修羅場と化してしまいました。もちろんこうなることは予想していましたが、わかっていても、おぞましい光景ですね。とか言いながら、そんな鯉の必死さが面白く、何度も餌付けしてしまったのでありました。
さてちょっと遅めの昼食をいただくことにしましょう。こちらがレストランの外観。
入口では眼鏡をかけた黄色い巨大シジミがお出迎え。平日だというのに店内は席が殆ど埋まるほどの大盛況です。
まず注文したのが「炒蜊仔」(炒めシジミ)。立川漁場の目玉である黄金シジミを炒めた、このレストランの看板メニューです。200元という結構なお値段なのですが、それもそのはず、コカコーラの350ml缶と見比べれば、そのボリュームがお分かりいただけるかとおもいます。とんでもなく量が多いのです。目の前に出された時には、とても一人じゃ食えないだろうと困惑したのですが、嵩を増しているのは殻であって、所詮はシジミ、実際に食べられる身は小さいので、食べる手間さえ厭わなければ、一人でも何とか平らげることができました。
黄金という名前の通り、殻は本当に黄金色。色が特別なだけではなく、良好な水質のためかシジミにありがちな泥臭さは皆無、身そのものの味も濃くてやわらかく、本当に美味しい! わざわざここに来て食べる価値があります。
炒めシジミのみならず「蜊仔蜊丸湯」(シジミ団子汁)も一緒に注文(250元)。シジミとタラのすり身を団子にしたもので、プリップリの食感と強い旨味がたまりません。すり身団子のみならず、殻つきのシジミそのものもスープの中に入っています。なおスープ自体は結構薄味なので、私のような生粋の東日本人だとちょっと物足りないかも。こちらも通常は2~3人で食べるようなボリュームでしたが、気づけば平らげておりました。
炒めシジミとこのスープを合わせたら、この日だけで私は一体何個のシジミを胃袋に納めたんでしょうか。何年分のシジミを平らげたんでしょうか。自分の全身全霊がシジミに化けてしまいそうだ…。
麗しい景色と美味しいシジミに大満足。はち切れんばかりのお腹を押さえながら立川漁場を後にし、再び歩いて駅へ戻りました。
壽豐駅に戻った時、こんな看板を見つけて愕然としてしまいました。この駅には台鉄によるレンタサイクルのサービスがあったんですね。出発時には全く気付きませんでした。自転車が使えたならば、もっと時間を有効に使って漁場のみならず、いろんなところにも寄り道できたのに…。
花蓮縣壽豐郷魚池45號 地図
(03)8651333
ホームページ
8:00~19:00(レストラン「五餅二魚」は10:00~14:30, 15:30~19:30)