台湾東部で温泉めぐりをするなら瑞穂地区を欠かすわけにはいかないので、当初予定にはなかったのですが、後の予定に影響が出ない程度で数時間だけ、久しぶりに瑞穂へ寄り道してみることにしました。以前訪問時には無味乾燥としていた駅構内のアンダーパスには、いつの間にやら観光地図や地名を示したものが石碑風に飾られていました。これを見れば、元々は水尾という地名だったのが、日本統治後に読みを日本語化した上で瑞祥地名化して瑞穂となり、光復後も今に至るまで字面はそのまま、という当地の地名の変遷が一目瞭然ですね。
長閑なローカル駅なのですが、アンダーパスの側面には「防空避難所」と記された物騒なプレートがはめ込まれていました。両岸問題を抱える台湾ではコンクリの建造物などでこのプレートをよく見かけますが、台湾海峡とは反対側の至って平和なこの瑞穂でキナ臭い言葉を見かけたので、実質的には形骸化しているんでしょうけど、その意外性にギョっとしてしまいました。
駅舎本棟の上屋から垂れ下がっている気根のカーテン、そして柱の下に置かれているブーゲンビリアの鉢植え。いかにも南国らしいですね。
久しぶりに瑞穂駅へ降りたちました。懐かしい景色だぁ。行李房(ラッチ内にあり)に大きな荷物を預かってもらい、身軽になってから温泉を目指します。駅から温泉施設がある一画までは、車に乗る程じゃないのですが、歩くには面倒という中途半端な距離なので、何か都合の良い移動方法は無いかと前夜にネットでいろいろと調べていたら、駅前のショボい商店街に最近レンタサイクル店が開業したという情報を入手したので、駅を出て左斜め前にあるそのレンタサイクル店へ(観光案内所の並び)向かいます。今日は気持ち良い青空が広がる絶好のサイクリング日和であり、温泉のみならず、近くにある観光名所の瑞穂牧場(台湾人にとって瑞穂は温泉ではなく牛乳で有名かも)にも寄って新鮮な乳製品をいただけたら最高だ!! なんて口笛拭いて浮かれ気分で店を訪ねると、入口は固く閉ざされており店内は真っ暗。あろうことか、この日(木曜日)は週1回の定休日だったのです。ウキウキ気分のサイクリングを想像していた私は一気に落胆し、この時点でハートが半分近く折れてしまったのですが、せっかくこの駅で降り立ったのですから、牧場は無理でも温泉だけでも寄っていかなきゃ損だろうと、何とか心を奮い起こして、駅前で客を手ぐすね引いて待っているタクシーに乗り込み、駅の裏手から伸びる一本道「温泉路」を、あてもなく西進してもらうことにしました。
当初予定では、サイクリングしながら適当に行き当たった温泉施設で入浴するつもりでしたので、タクシーの運ちゃんに「ドコイク?」(瑞穂は温泉好きの日本人が訪れるので片言の日本語を話せる運ちゃんが多い)と聞かれた時には答えに窮してしまったのですが、とりあえず「温泉路」を奥へ進んでもらい、ファミマの隣に建つ「瑞雄温泉旅館」が偶々目に入ったので、そこで下してもらいました。
ここはちょうど日本の温泉ファンには有名な「瑞穂温泉」や「紅葉温泉」へ向う途中にあり、両者を訪れたことのある方なら見覚えがあるのではないかと思いますが、どうしても先にある瑞穂や紅葉が目的地となるために、ここはパスされてしまいやすい施設だろうと思います。かくいう私も以前に瑞穂や紅葉を訪れた際はここをパスしましたが、メイン通り沿いに建つ比較的大きな旅館だけあり、その時からどんな温泉なのか気になっていたので、今回偶々目に入ったのは何かの縁だろうと判断し、こちらで入浴することにしました。
受付のおじさんはとっても愛想良く、平日午前中の訪問にもかかわらず、快く笑顔で対応してくれました。受付から中庭へ出たところにはガラスケースに収められた石灰華の塊が展示されています。
中庭にはウッドテラスが広がり、その右側にはコインロッカーがズラリと並んでいます。この日は私以外に誰もいませんでしたが、テラスにはカフェエリアもあり、休日にはSPAを楽しむお客さんで賑わうのでしょう。おじさんは「等一下(ちょっと待って)」と言い残して、どこかへ姿を消してしまいました。
テラスでしばらく腰かけていましたが、手持無沙汰なので構内をウロウロしてみることに。この中庭はいわゆる露天のSPAになっているんですね。台湾の温泉施設は、平日の午前中など来客が望めない時間帯には温泉プールをすっかり空にしてしまうことが多いのですが、こちらもご多分に漏れず、二段に分かれた露天の温泉プールは下段が空っぽ、上段は半分しか入っていませんでした。ちょうどお湯を張りはじめたタイミングだったのかもしれません。
黄金色に強く濁るお湯は、見るからに濃そうです。上段から下段へお湯を落とす流路の口には、まるで「瘤取り爺さん」の瘤のように下方へ滴るような形状で、温泉成分の析出がコンモリと付着していました。
ウッドデッキと露天浴槽の中間に位置する一画には個室風呂の扉が並んでいます。建物の造りといい、木立といい、なかなか良い雰囲気ですね。露天のお湯を眺めて「濃いお湯だねぇ」なんてわかりきったことを呟いていたら、さっき姿を消したおじさんが個室風呂の一室から顔を覗かせ、笑顔でおいでおいでと手招きしています。なるほど、おじさんは個室風呂の準備をしてくれていたんだな、とその時わかり(姿を消した時点で薄々気づいていましたが)、いそいそとその個室へ向かいました。
個室の室内はとっても綺麗。このままビジネスホテルの客室にしても良さそうな雰囲気で、クローゼットや鏡台まで用意されていました。クローゼットを開けると中にはミネラルウォーターが置かれており、無料でいただけます。
お風呂は露天になっており、浴槽の上には電動開閉のテントが設置されているので雨天時や日差しの強い日はテントを伸ばせばOKです。おじさんはこのテントの操作方法など、設備についてひとつひとつ丁寧に説明してくれました。
浴槽は温泉槽と水風呂のふたつ。温泉槽は3人同時に入れそうなサイズで、一人利用の私は悠々と寛いで湯あみすることができました。頭上には山の梢がせり出しているため、時々葉っぱや虫が落ちてきますが、緑豊かな環境ですから、自然と親しむべく葉や虫と混浴するのもまた一興です。
浴槽の脇にはシャワー付き混合栓があり、シャンプーやボディーソープも備え付けられています。また水風呂上の壁にはテレビまで設けられていました。
浴槽に注ぐお湯や水は自分でバルブを開閉して投入量を調整します。配管がむき出しですが、もう少し上手く隠せなかったものかしら…。
木組みの湯口から露天SPAで見たものと同じ源泉が出てきます。黄土色というより黄金色と表現したくなる明るい色を帯びて濁っており、透明度は30~40cmでしょうか。重炭酸土類泉らしい土気と金気が混ざった味と匂いが感じられますが、金気よりは石灰的な知覚の方が断然はっきりしています。また微かな塩味も含んでいるようでした。お湯は湯口から出る段階で41℃くらいなので、湯船ではそれより若干下がり、いつまでも長湯していたくなる絶妙な湯加減に保たれていました。幾分ぬるめなのに湯上りにはしっかり温まりますから、水分補給は欠かせません。
貸切風呂で誰にも邪魔されず、山の自然と静かな環境に囲まれながら、掛け流しの濁り湯に浸るひとときは、とっても優雅で贅沢。行き当たりばったりで入った温泉でしたが、思いがけない寛ぎが得られました。
花蓮縣瑞穗郷温泉路3段185號 地図
(03)8872254
ホームページ(なのかな?)(繁体字中文)
日帰り入浴可能時間不明(ちなみに私は午前10時半に訪問しました)
個室風呂300元
ドライヤー・シャンプー類あり
私の好み:★★★