前回記事「台湾最後の現役サトウキビ列車 虎尾糖廠のトロッコ その1・概説」の続編です。
虎尾糖廠のサトウキビ列車は1本の単線線路を行ったり来たりしながら、収穫されたサトウキビを工場へ運んでいます。1日の流れは大体決まっており、朝8時頃に空っぽの貨車、つまり回送列車が工場のヤードを出発するところからトロッコの1日がスタートします。1日数往復するのですが、その日の収穫状況などにより、往復する回数は異なるようです。
工場を出発する回送列車は空っぽの貨車を何両も長く連結しており、途中の積み込み所で数両ずつ切り離しながら、より遠くにある積み込み所へと向かってゆきます。そして各積込所で貨車への積載が終えると、こんどは往路とは逆に、各積込所において積載済の貨車を連結の繰り返し、最終的に1本の長大編成となって工場へと向かってゆくのです。原則的に、貨車は積み込み所で夜を越すことはあまりなく、お仕事が終わったら工場内のヤードに戻ってお休みし、翌朝改めてサトウキビ畑の積み込み所へと向かいます。
そこで今回の記事では、朝8時頃に空っぽの回送列車が工場の敷地内から出発し、中山路という往来の多い通りの市街地の踏切を越えてゆく様子を取り上げます。
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係員さんの許可を得て、工場構内のヤードに入らせていただきました。草むした広大なヤードには、ヨレヨレの細い線路が幾重にも輻輳しており、その上に多数の無蓋貨車が止まっていました。私がこのヤードに足を踏み入れたのは朝7:40頃。奥に聳える煙突からは、白い煙(湯気?)が上がっており、工場では既に操業が開始されているようでした。砂糖を精製するための釜に火が入ったのでしょう。
上画像で輻輳している線路のうち、最も右側の一本だけは貨車が止まっていませんが、それもそのはず、もうすぐ動き出す回送列車はこの線路を走ってくるのです。まだ回送のトロッコは工場の奥にいるため、この時点では姿を見せていません。
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サトウキビ列車(トロッコ)の線路は一般的な鉄道より線路の幅が狭く、そのサイズは762mm(2フィート6インチ)です。新幹線やヨーロッパの鉄道などで採用されている国際標準軌(1435mm・4フィート8.5インチ)の半分(五分)しかないので「五分車」とも呼ばれています。ちなみに台湾の在来線(台鉄)の線路幅は、日本のJR在来線と同じく1067mm(3フィート6インチ)です。
ヤードに広がる線路の一部は、幅の狭いトロッコ列車と、それより幅の広い台鉄の車両が一緒に走れるよう、三線軌条になっている箇所がありました。現在、虎尾の街に台鉄の路線は乗り入れていませんが、かつては台鉄の線路が当地まで敷設されており、台鉄の車両もこの工場へ乗り入れていたことがわかります。
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ヤード構内には「虎尾車站」、つまり虎尾駅と表示された小さな建物がありました。現在、これとは別に観光案内所やカフェを兼ねた木造の「虎尾駅」跡が建てられており(後日ご紹介します)、虎尾まで鉄道が旅客営業していた昔日の様子を再現していますが、木々に呑まれかけているこちらのボロい駅舎も、以前は旅客扱いしていたのでしょうか。ちなみに現在この小さなボロ駅舎は、ポイント操作をする係員さんの詰所になっています。
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工場構内のヤードを出たトロッコは、工場の敷地に沿って南北に伸びている中山路という通りと平面交差します。上2枚の画像はその中山路とトロッコの線路がクロスする踏切を撮ったもの。工場を出ていきなり踏切になるわけです。前回記事で述べたように虎尾は砂糖工場の城下町であり、市街地の中心に工場があるため、トロッコの線路は市街地を抜けるまで、いくつもの踏切を越えてゆくことになります。
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市街地の各踏切には踏切警手がおり、この警手によって遮断機の上げ下げが行われています。踏切の脇には、トロッコの運行が開始されたので踏切通過時には気をつけて、と告知する赤い幟がはためいていました。
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中山路の踏切を越えると、線路は緩やかな左カーブを描きながら、虎尾の街中を北西に向かって走ってゆきます。ヤード内で見られた三線軌条はこの辺りでも見られるほか、トロッコの線路自体も複線になっていました。砂糖生産の全盛期には台鉄の車両が乗り入れていたばかりか、トロッコの本数も多かったため、線路を複線にして輸送需要に応えていたのでしょうね。
また、線路脇には信号も建植されていましたが、単線の線路を単純往復するだけとなった現在、この信号は全く使われていません。運転本数が多かった頃は、この信号で列車の運行を管理していたのでしょう。
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この中山路の踏切でしばらく待っていると、上述の「虎尾站」で待機していた係員さんのおじさんがポイント操作を行い、工場の奥の方に向かって緑色の旗を振りはじめました。これに呼応するかのように、踏切警手のおじさんも詰所から出てきて、通りの状況やヤードの奥の動向を確認し、ポケットからリモコンのようなものを取り出して、何やら操作をしました。すると、カンカンと遮断機の警報音が鳴り、ワイヤー式の遮断機が下りてきたのでした。
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踏切が閉まって往来が完全に遮断されると、ヤードの奥からディーゼルエンジンを響かせつつ、オレンジ色の小さな機関車に牽引された空っぽの回送トロッコがやってきました。
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踏切を通過中のトロッコ。私の目に間違いがなければ、機関車に引かれている空荷のトロッコはなんと56両!! 長編成のトロッコがゆっくり通過するので、踏切が開くまでには時間がかかり、運悪く?この場面に遭遇してしまった通行者は、辛抱強く列車の通過を待っていました。この踏切では、警報音だけでなく、赤いランプの警報機もちゃんと作動するんですね。
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長編成のトロッコが通過してゆくと、バイクや車が堰を切ったようように、一斉に踏切を渡ってゆきました。
ここまでの一連の流れを動画にしましたので、宜しければご覧ください。
「虎尾糖廠から積込所へ向けて出発する空荷のトロッコ」
(2016年3月9日撮影・3分04秒)
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ついでに、虎尾の街を抜けて10数キロ西へ走った先の、サトウキビ畑に囲まれた11号積込所を通過する回送列車の様子もご覧ください。この回送列車はお昼頃に撮影しましたので、おそらくこの日の2往復目の便なのでしょう。既にここより手前の9号積込所や10号積込所で貨車を半数近く切り離しているので、工場出発時よりも短く身軽な21両編成となっており、機関車の動きもどこか軽やかでした。この回送列車は11号に停車することなく、そのまま通過して、12号方面へと走り去っていきました。
同じくこちらの様子も動画を用意しましたので、宜しければご覧ください。
「虎尾糖廠のサトウキビ列車 11号積込所を通過する空荷の回送トロッコ」
(2016年3月9日撮影・0分58秒)
次回記事では積込所における積込作業の様子を取り上げます。
虎尾糖廠のサトウキビ列車は1本の単線線路を行ったり来たりしながら、収穫されたサトウキビを工場へ運んでいます。1日の流れは大体決まっており、朝8時頃に空っぽの貨車、つまり回送列車が工場のヤードを出発するところからトロッコの1日がスタートします。1日数往復するのですが、その日の収穫状況などにより、往復する回数は異なるようです。
工場を出発する回送列車は空っぽの貨車を何両も長く連結しており、途中の積み込み所で数両ずつ切り離しながら、より遠くにある積み込み所へと向かってゆきます。そして各積込所で貨車への積載が終えると、こんどは往路とは逆に、各積込所において積載済の貨車を連結の繰り返し、最終的に1本の長大編成となって工場へと向かってゆくのです。原則的に、貨車は積み込み所で夜を越すことはあまりなく、お仕事が終わったら工場内のヤードに戻ってお休みし、翌朝改めてサトウキビ畑の積み込み所へと向かいます。
そこで今回の記事では、朝8時頃に空っぽの回送列車が工場の敷地内から出発し、中山路という往来の多い通りの市街地の踏切を越えてゆく様子を取り上げます。
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係員さんの許可を得て、工場構内のヤードに入らせていただきました。草むした広大なヤードには、ヨレヨレの細い線路が幾重にも輻輳しており、その上に多数の無蓋貨車が止まっていました。私がこのヤードに足を踏み入れたのは朝7:40頃。奥に聳える煙突からは、白い煙(湯気?)が上がっており、工場では既に操業が開始されているようでした。砂糖を精製するための釜に火が入ったのでしょう。
上画像で輻輳している線路のうち、最も右側の一本だけは貨車が止まっていませんが、それもそのはず、もうすぐ動き出す回送列車はこの線路を走ってくるのです。まだ回送のトロッコは工場の奥にいるため、この時点では姿を見せていません。
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サトウキビ列車(トロッコ)の線路は一般的な鉄道より線路の幅が狭く、そのサイズは762mm(2フィート6インチ)です。新幹線やヨーロッパの鉄道などで採用されている国際標準軌(1435mm・4フィート8.5インチ)の半分(五分)しかないので「五分車」とも呼ばれています。ちなみに台湾の在来線(台鉄)の線路幅は、日本のJR在来線と同じく1067mm(3フィート6インチ)です。
ヤードに広がる線路の一部は、幅の狭いトロッコ列車と、それより幅の広い台鉄の車両が一緒に走れるよう、三線軌条になっている箇所がありました。現在、虎尾の街に台鉄の路線は乗り入れていませんが、かつては台鉄の線路が当地まで敷設されており、台鉄の車両もこの工場へ乗り入れていたことがわかります。
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ヤード構内には「虎尾車站」、つまり虎尾駅と表示された小さな建物がありました。現在、これとは別に観光案内所やカフェを兼ねた木造の「虎尾駅」跡が建てられており(後日ご紹介します)、虎尾まで鉄道が旅客営業していた昔日の様子を再現していますが、木々に呑まれかけているこちらのボロい駅舎も、以前は旅客扱いしていたのでしょうか。ちなみに現在この小さなボロ駅舎は、ポイント操作をする係員さんの詰所になっています。
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工場構内のヤードを出たトロッコは、工場の敷地に沿って南北に伸びている中山路という通りと平面交差します。上2枚の画像はその中山路とトロッコの線路がクロスする踏切を撮ったもの。工場を出ていきなり踏切になるわけです。前回記事で述べたように虎尾は砂糖工場の城下町であり、市街地の中心に工場があるため、トロッコの線路は市街地を抜けるまで、いくつもの踏切を越えてゆくことになります。
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市街地の各踏切には踏切警手がおり、この警手によって遮断機の上げ下げが行われています。踏切の脇には、トロッコの運行が開始されたので踏切通過時には気をつけて、と告知する赤い幟がはためいていました。
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中山路の踏切を越えると、線路は緩やかな左カーブを描きながら、虎尾の街中を北西に向かって走ってゆきます。ヤード内で見られた三線軌条はこの辺りでも見られるほか、トロッコの線路自体も複線になっていました。砂糖生産の全盛期には台鉄の車両が乗り入れていたばかりか、トロッコの本数も多かったため、線路を複線にして輸送需要に応えていたのでしょうね。
また、線路脇には信号も建植されていましたが、単線の線路を単純往復するだけとなった現在、この信号は全く使われていません。運転本数が多かった頃は、この信号で列車の運行を管理していたのでしょう。
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この中山路の踏切でしばらく待っていると、上述の「虎尾站」で待機していた係員さんのおじさんがポイント操作を行い、工場の奥の方に向かって緑色の旗を振りはじめました。これに呼応するかのように、踏切警手のおじさんも詰所から出てきて、通りの状況やヤードの奥の動向を確認し、ポケットからリモコンのようなものを取り出して、何やら操作をしました。すると、カンカンと遮断機の警報音が鳴り、ワイヤー式の遮断機が下りてきたのでした。
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踏切が閉まって往来が完全に遮断されると、ヤードの奥からディーゼルエンジンを響かせつつ、オレンジ色の小さな機関車に牽引された空っぽの回送トロッコがやってきました。
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踏切を通過中のトロッコ。私の目に間違いがなければ、機関車に引かれている空荷のトロッコはなんと56両!! 長編成のトロッコがゆっくり通過するので、踏切が開くまでには時間がかかり、運悪く?この場面に遭遇してしまった通行者は、辛抱強く列車の通過を待っていました。この踏切では、警報音だけでなく、赤いランプの警報機もちゃんと作動するんですね。
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長編成のトロッコが通過してゆくと、バイクや車が堰を切ったようように、一斉に踏切を渡ってゆきました。
ここまでの一連の流れを動画にしましたので、宜しければご覧ください。
「虎尾糖廠から積込所へ向けて出発する空荷のトロッコ」
(2016年3月9日撮影・3分04秒)
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ついでに、虎尾の街を抜けて10数キロ西へ走った先の、サトウキビ畑に囲まれた11号積込所を通過する回送列車の様子もご覧ください。この回送列車はお昼頃に撮影しましたので、おそらくこの日の2往復目の便なのでしょう。既にここより手前の9号積込所や10号積込所で貨車を半数近く切り離しているので、工場出発時よりも短く身軽な21両編成となっており、機関車の動きもどこか軽やかでした。この回送列車は11号に停車することなく、そのまま通過して、12号方面へと走り去っていきました。
同じくこちらの様子も動画を用意しましたので、宜しければご覧ください。
「虎尾糖廠のサトウキビ列車 11号積込所を通過する空荷の回送トロッコ」
(2016年3月9日撮影・0分58秒)
次回記事では積込所における積込作業の様子を取り上げます。