前回記事「台湾最後の現役サトウキビ列車 虎尾糖廠のトロッコ その2・空っぽの回送列車」の続編です。
空っぽ貨車が連結された長い回送列車は、途中に複数ある各積込所で数両ずつ切り離されてゆきながら、もっと奥にある積込所へと進んで行きます。そして切り離された貨車は、積込所でサトウキビを積載し、今度は工場へと戻ってゆくわけです。そこで今回記事では、積込所においてどのように積載されるのか、その荷役作業の様子を見ていきます。
●サトウキビは積載前に細かく切断される
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2016年1月の晴れた日に撮影した、虎尾郊外のサトウキビ畑。清々しい青空のもと、トロッコ線路の両側に青々と成長したサトウキビが果てしなく広がっており、風が吹くたび葉や茎が擦れてザワザワと音を立てていました。台湾のサトウキビは冬に糖度を増しますので、毎年12月から翌年3月にかけての4~5ヶ月が収穫期になります。ということは、目の前で天高く育っているサトウキビは、糖分をたっぷり蓄えているわけですね。
沖縄や熱帯・亜熱帯の国々を旅行された方ならご存知かと思いますが、サトウキビは背丈が高く、余裕で3mを超えます。そのため、長い茎のまま貨車へ積むわけにはいきません。
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そこで、畑で刈り取ったサトウキビは、丸い刃がローラー状に何枚も連なっている、上画像の作業車で数十センチに細かく切り刻まれます。右(下)画像は、空の貨車の底に残っていたサトウキビの破片を撮ったものですが、大体30~50cmサイズに裁断されていることがおわかりいただけるかと思います。
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上2枚の画像に写っているゾウさんみたいな長いノーズを持つ作業車は、裁断したサトウキビを荷台に積み込むためのものです。おわかりかと思いますが、この車が裁断したサトウキビを吸い込んで、長いお鼻の先から荷台へ向かって放出するわけですね。でも、これで直接貨車に積載するわけではありません。
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ゾウさんのお鼻みたいな車がサトウキビを吐き出す先は、大きなトラックの荷台なんですね。サトウキビ畑は広大ですから、まずはトラックで掻き集め、そして近くのトロッコ積込所へと移動するのです。トラックはいわば畑とトロッコの橋渡し役なのであります。
●10号積み込み所の作業
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さて、トラックによって集められたサトウキビがどのようにトロッコの貨車に移されるのか、今度はその荷役作業の様子を見ることにしましょう。上画像は2ヶ月後の2016年3月に撮影した10号積込所です。当日は大陸から海峡を渡ってきた寒気の影響で、鉛色の低く重たい雲が空を覆い、朝から冷たい小雨が降りつづいておりましたが、そんな天候でもサトウキビの積込作業は休むことなく行われていました。私が現地に到着したのは朝9時ちょうど。まっすぐ伸びる本線から分岐した側線の上には、既に積込作業を終えたトロッコ達が止まっており、工場へ牽引される時をジッと待っていました。
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積込済みのトロッコ群から更に後方へ向かうと、10号積込所の主体である荷役施設があり、ちょうど積み込み作業中の貨車が盛り土の高台に接して停車していました。既に前方の4両は積み込みが済んでいるようですね。
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高台の上は大型トラックが切り返せるほどの広さがあり、その線路側にはホッパーが設けられています。ホッパーの直下には荷役線(先ほどの側線)が敷かれていますので、このホッパーの下に空の貨車をセッティングし、上からサトウキビを貨車へ落とすわけです。
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私がこの10号に着いてから10分も経たないうちに、サトウキビを満載したトラックがやってきました。トラックはホッパーが設置されている高台へ登り、バックしながら車をホッパーへと近づけます。
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ホッパーのコンクリ擁壁ギリギリまでバックしたトラックは、すぐさま荷台を上げて、ドサドサと豪快に音を響かせながら、サトウキビを貨車へと落としてゆきます。その衝撃で貨車はグラグラと大きく揺れていました。
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私が各積込所で観察した限り、トラック1台分の積載容量は、トロッコ貨車2両分に相当しているようです。つまり一度荷台を傾けて貨車に落としただけでは、トラックが運んできた量の半分しか貨車に移すことができません。そこで、貨車1両分の積み込みが終わると、トラックは一旦荷台を平らに戻し、それと同時に、貨車の最後尾で待機しているトラクターが列車をグイッと押して1両分だけ前に動かし、空の貨車をホッパーの下にセッティングします。
ホッパーの前には詰所があり、そこにいるおばちゃんがトラクターを動かすおじさんに手を振りながら、もうちょっと前とか、少しバックして、などと合図を送っていました。
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空の貨車がセッティングされたら、トラックは再び荷台を起こしてドサドサっとサトウキビを貨車へ落とし込み、荷台が空になったら、そそくさとその場から離れていきました。
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たった今、積み込みが終わったばかりなのに、早くも後続のトラックがやってきました。こうして次々に空の貨車にサトウキビが積み込まれてゆくのです。
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ちなみに詰所の内部はこんな感じ。物置みたいな小屋にベンチが置かれているだけに見えますが、内部には伝票の束があり、積み込みの度に伝票記入が行われ・・・
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各貨車に伝票が差し込まれるのです。ハイテク産業で経済が成り立っている今日の台湾とは思えない、あまりに前世紀的でアナログな方法ですが、このようにして数字面の管理も行われているんですね。
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数字について、もう一つ。
各貨車の車体には自重が記されています。上画像に写っている2両の貨車の場合、右側の車両は2370公斤、左側の車両は2410公斤と表示されており(公斤とはkgのこと)、車両によって自重がバラバラであることがわかります。おそらく工場に到着した後、運んできたサトウキビを全部出す前に、各貨車を台貫に乗せて積載されているサトウキビの重量を計量するはずなのですが、総重量から車両の自重をマイナスすることによって、サトウキビの重さを算出するのでしょうね。
この10号積込所における荷役作業の流れを動画にまとめてみました。よろしければご覧ください。トラックからサトウキビが豪快に落とされる衝撃で、貨車がグラグラ揺れる様子がよくわかるかと思います。
「虎尾糖廠のサトウキビ列車 10号積込所での積み込み作業」
(2016年3月9日撮影・4分36秒)
●11号積み込み所の作業
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10号での作業をひと通り見学した私は、つづいて11号にも行ってみることにしました。10号での線路はまっすぐな本線の他、荷役線を兼ねた側線が1本あるだけでしたが、この11号には側線が2本あり、作業を行う荷役線とは別に、貨車を留置できる線路が本線と荷役線の間に敷かれ、実際に空っぽの貨車が何両も留め置かれていました。
ちなみに貨車の脇を歩いているのは、作業詰所で待機している係員のおじさん。周囲にはサトウキビ畑が果てしなく広がっているのですが、既に刈り込みを終え、ノッペラボウのようになっていました。
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ホッパーの先(虎尾糖廠側)には既に荷役を終えてサトウキビを満載にしたトロッコ貨車が何両も連なっていました。
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ホッパーの構造は10号とほとんど同じですね。ホッパーの先っちょにはスプレー塗装で上向きの矢印が書かれ、その上に竹竿がささっていますが、これが何を意味するかはわかりません。おそらくバックしてきたトラックの運転手に対して何らかのサインを与えるためのものでしょう(もしかしたら「竿の先に荷台が触れたら、これ以上荷台を傾けないで」といった感じでしょうか)。
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トロッコが積み込みを終えると、最後尾で控えているトラクターが列車を押して1両分前進させるのも、10号と全く同じです。ここでは荷役用高台の上からそのトラクターを間近に見下ろしてみました。トラクターの最前部には梁に使うような横長のH鋼が取り付けられており、貨車を前進させる時にはトラクターごと体当たりで押し、バックさせるとき時には連結器代わりに結いているロープで引っ張ります。このロープは後進時に使う他、前進時のブレーキ代わりとしても使われます。というのも、貨車にはブレーキがないため、ただ単に後ろから押しただけでは、慣性の法則に従って貨車がどんどん前へ進んでしまうためです。このため、貨車を1両分だけ前進させる際には、トラクターでちょっとだけ体当たりし、貨車が動いたところでトラクターはすぐにストップ。慣性の法則でそのまま前進する貨車を、このロープで引っ張って(というかトラクターが踏ん張って)止めさせるのです。貨物列車に詳しい方なら「突放(とっぽう)」という鉄道専門用語をご存知かと思いますが、マニアックな表現をすれば、トラクターで突放した上で、ロープで引っ張り(踏ん張って)停止させるわけです。
この11号ではホッパーの上から荷役作業する様子を、すぐ目の前で動画撮影しました。ドサドサと豪快に落ちるサトウキビの様子や、トラクターが突放する様子などがご覧いただけます。
「虎尾糖廠のサトウキビ列車 11号積込所での積み込み作業」
(2016年3月9日撮影・3分17秒)
次回記事では、積み込みを終えたトロッコが工場へ帰ってゆく様子を取り上げます。
空っぽ貨車が連結された長い回送列車は、途中に複数ある各積込所で数両ずつ切り離されてゆきながら、もっと奥にある積込所へと進んで行きます。そして切り離された貨車は、積込所でサトウキビを積載し、今度は工場へと戻ってゆくわけです。そこで今回記事では、積込所においてどのように積載されるのか、その荷役作業の様子を見ていきます。
●サトウキビは積載前に細かく切断される
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2016年1月の晴れた日に撮影した、虎尾郊外のサトウキビ畑。清々しい青空のもと、トロッコ線路の両側に青々と成長したサトウキビが果てしなく広がっており、風が吹くたび葉や茎が擦れてザワザワと音を立てていました。台湾のサトウキビは冬に糖度を増しますので、毎年12月から翌年3月にかけての4~5ヶ月が収穫期になります。ということは、目の前で天高く育っているサトウキビは、糖分をたっぷり蓄えているわけですね。
沖縄や熱帯・亜熱帯の国々を旅行された方ならご存知かと思いますが、サトウキビは背丈が高く、余裕で3mを超えます。そのため、長い茎のまま貨車へ積むわけにはいきません。
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そこで、畑で刈り取ったサトウキビは、丸い刃がローラー状に何枚も連なっている、上画像の作業車で数十センチに細かく切り刻まれます。右(下)画像は、空の貨車の底に残っていたサトウキビの破片を撮ったものですが、大体30~50cmサイズに裁断されていることがおわかりいただけるかと思います。
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上2枚の画像に写っているゾウさんみたいな長いノーズを持つ作業車は、裁断したサトウキビを荷台に積み込むためのものです。おわかりかと思いますが、この車が裁断したサトウキビを吸い込んで、長いお鼻の先から荷台へ向かって放出するわけですね。でも、これで直接貨車に積載するわけではありません。
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ゾウさんのお鼻みたいな車がサトウキビを吐き出す先は、大きなトラックの荷台なんですね。サトウキビ畑は広大ですから、まずはトラックで掻き集め、そして近くのトロッコ積込所へと移動するのです。トラックはいわば畑とトロッコの橋渡し役なのであります。
●10号積み込み所の作業
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さて、トラックによって集められたサトウキビがどのようにトロッコの貨車に移されるのか、今度はその荷役作業の様子を見ることにしましょう。上画像は2ヶ月後の2016年3月に撮影した10号積込所です。当日は大陸から海峡を渡ってきた寒気の影響で、鉛色の低く重たい雲が空を覆い、朝から冷たい小雨が降りつづいておりましたが、そんな天候でもサトウキビの積込作業は休むことなく行われていました。私が現地に到着したのは朝9時ちょうど。まっすぐ伸びる本線から分岐した側線の上には、既に積込作業を終えたトロッコ達が止まっており、工場へ牽引される時をジッと待っていました。
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積込済みのトロッコ群から更に後方へ向かうと、10号積込所の主体である荷役施設があり、ちょうど積み込み作業中の貨車が盛り土の高台に接して停車していました。既に前方の4両は積み込みが済んでいるようですね。
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高台の上は大型トラックが切り返せるほどの広さがあり、その線路側にはホッパーが設けられています。ホッパーの直下には荷役線(先ほどの側線)が敷かれていますので、このホッパーの下に空の貨車をセッティングし、上からサトウキビを貨車へ落とすわけです。
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私がこの10号に着いてから10分も経たないうちに、サトウキビを満載したトラックがやってきました。トラックはホッパーが設置されている高台へ登り、バックしながら車をホッパーへと近づけます。
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ホッパーのコンクリ擁壁ギリギリまでバックしたトラックは、すぐさま荷台を上げて、ドサドサと豪快に音を響かせながら、サトウキビを貨車へと落としてゆきます。その衝撃で貨車はグラグラと大きく揺れていました。
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私が各積込所で観察した限り、トラック1台分の積載容量は、トロッコ貨車2両分に相当しているようです。つまり一度荷台を傾けて貨車に落としただけでは、トラックが運んできた量の半分しか貨車に移すことができません。そこで、貨車1両分の積み込みが終わると、トラックは一旦荷台を平らに戻し、それと同時に、貨車の最後尾で待機しているトラクターが列車をグイッと押して1両分だけ前に動かし、空の貨車をホッパーの下にセッティングします。
ホッパーの前には詰所があり、そこにいるおばちゃんがトラクターを動かすおじさんに手を振りながら、もうちょっと前とか、少しバックして、などと合図を送っていました。
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空の貨車がセッティングされたら、トラックは再び荷台を起こしてドサドサっとサトウキビを貨車へ落とし込み、荷台が空になったら、そそくさとその場から離れていきました。
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たった今、積み込みが終わったばかりなのに、早くも後続のトラックがやってきました。こうして次々に空の貨車にサトウキビが積み込まれてゆくのです。
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ちなみに詰所の内部はこんな感じ。物置みたいな小屋にベンチが置かれているだけに見えますが、内部には伝票の束があり、積み込みの度に伝票記入が行われ・・・
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各貨車に伝票が差し込まれるのです。ハイテク産業で経済が成り立っている今日の台湾とは思えない、あまりに前世紀的でアナログな方法ですが、このようにして数字面の管理も行われているんですね。
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数字について、もう一つ。
各貨車の車体には自重が記されています。上画像に写っている2両の貨車の場合、右側の車両は2370公斤、左側の車両は2410公斤と表示されており(公斤とはkgのこと)、車両によって自重がバラバラであることがわかります。おそらく工場に到着した後、運んできたサトウキビを全部出す前に、各貨車を台貫に乗せて積載されているサトウキビの重量を計量するはずなのですが、総重量から車両の自重をマイナスすることによって、サトウキビの重さを算出するのでしょうね。
この10号積込所における荷役作業の流れを動画にまとめてみました。よろしければご覧ください。トラックからサトウキビが豪快に落とされる衝撃で、貨車がグラグラ揺れる様子がよくわかるかと思います。
「虎尾糖廠のサトウキビ列車 10号積込所での積み込み作業」
(2016年3月9日撮影・4分36秒)
●11号積み込み所の作業
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10号での作業をひと通り見学した私は、つづいて11号にも行ってみることにしました。10号での線路はまっすぐな本線の他、荷役線を兼ねた側線が1本あるだけでしたが、この11号には側線が2本あり、作業を行う荷役線とは別に、貨車を留置できる線路が本線と荷役線の間に敷かれ、実際に空っぽの貨車が何両も留め置かれていました。
ちなみに貨車の脇を歩いているのは、作業詰所で待機している係員のおじさん。周囲にはサトウキビ畑が果てしなく広がっているのですが、既に刈り込みを終え、ノッペラボウのようになっていました。
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ホッパーの先(虎尾糖廠側)には既に荷役を終えてサトウキビを満載にしたトロッコ貨車が何両も連なっていました。
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ホッパーの構造は10号とほとんど同じですね。ホッパーの先っちょにはスプレー塗装で上向きの矢印が書かれ、その上に竹竿がささっていますが、これが何を意味するかはわかりません。おそらくバックしてきたトラックの運転手に対して何らかのサインを与えるためのものでしょう(もしかしたら「竿の先に荷台が触れたら、これ以上荷台を傾けないで」といった感じでしょうか)。
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トロッコが積み込みを終えると、最後尾で控えているトラクターが列車を押して1両分前進させるのも、10号と全く同じです。ここでは荷役用高台の上からそのトラクターを間近に見下ろしてみました。トラクターの最前部には梁に使うような横長のH鋼が取り付けられており、貨車を前進させる時にはトラクターごと体当たりで押し、バックさせるとき時には連結器代わりに結いているロープで引っ張ります。このロープは後進時に使う他、前進時のブレーキ代わりとしても使われます。というのも、貨車にはブレーキがないため、ただ単に後ろから押しただけでは、慣性の法則に従って貨車がどんどん前へ進んでしまうためです。このため、貨車を1両分だけ前進させる際には、トラクターでちょっとだけ体当たりし、貨車が動いたところでトラクターはすぐにストップ。慣性の法則でそのまま前進する貨車を、このロープで引っ張って(というかトラクターが踏ん張って)止めさせるのです。貨物列車に詳しい方なら「突放(とっぽう)」という鉄道専門用語をご存知かと思いますが、マニアックな表現をすれば、トラクターで突放した上で、ロープで引っ張り(踏ん張って)停止させるわけです。
この11号ではホッパーの上から荷役作業する様子を、すぐ目の前で動画撮影しました。ドサドサと豪快に落ちるサトウキビの様子や、トラクターが突放する様子などがご覧いただけます。
「虎尾糖廠のサトウキビ列車 11号積込所での積み込み作業」
(2016年3月9日撮影・3分17秒)
次回記事では、積み込みを終えたトロッコが工場へ帰ってゆく様子を取り上げます。