この記事は2016年9月に長門湯本温泉を訪れた時の様子を記録したものです。
恩湯は2017年5月17日より長期休業中。現在リニューアル工事中です。営業再開は2019年夏以降の予定。

長門湯本温泉のランドマークである公衆浴場「恩湯」。破風を頂く玄関、そして瓦屋根の上に載っかった昭和の香りを漂わせるネオンサインが実にフォトジェニックですね。そのネオンが点り始めた時に、音信川のほとりから撮影したのが上の画像です。

そして日がとっぷり暮れた夜に撮ったものがこちら。

恩湯直下の川岸には「公衆洗濯場跡」なるものがあり、私の他にも写真を撮っている観光客がいらっしゃいました。その名前の通り、かつてここには温泉のお湯が引かれており、近所の奥様方が洗濯板を手に集って、談笑しながらゴシゴシと衣類を洗っていたのでしょうね、説明板によると既に昭和45年頃から使われなくなり、長い間放置されつづけてきたそうですが、音信川の川岸を河川公園として改修した際に、この洗濯場の跡も整備されたんだとか。もちろん再び洗濯場にすることが目的ではなく、昔日の温泉街を思い起こさせるオブジェとしての整備ですから、槽の中は空っぽでした。

さて、お風呂に入りましょう。建物に入ってすぐ右手にある券売機で湯銭を支払い、番台へ券を差し出します。定期利用する場合は定期券代わりの木札が発行されるようですが、番台の周りには使用済みの木札がたくさんぶら下がっていました。
また番台の前には長門湯本温泉の由来が記されていました。これによれば、当地のお寺の住職である禅師が散歩をしていた時、白髪一衣の老人が大きな岩の上で座禅しいているところに遭遇。その老人は「私は長門一の宮の住吉明神である。禅師の説教を聞きたい」と求めたので、禅師はその求道に感動して老人(つまり住吉明神)に大戒を授けて師弟の法縁を結んだところ、明神はその教えにいたく感銘を受け、そのお礼としてお寺の東に温泉を湧出させ「信者や病気の人のためにお湯を使ってほしい」と言って去っていったんだとか。一般的に温泉の開湯伝説には動物が登場することが多く、歴史上の人物だと弘法大師がしばしば登場しますが、この長門湯本のように住吉明神と地元のお寺の禅師が登場する例は珍しいかもしれません。明治以前の神仏習合の文化がよく表れている興味深い伝説です。
恩湯は、番台の左手にある1階の浴場が男湯で、番台の右手から通路を進み階段を上がった2階の浴場が女湯というように、男女が上下に分かれているのですが、ここでは1階にある男湯の方がお湯が良いらしいのです。その理由は後ほど。

浴場内は、一見すると実用的で渋いお風呂なのですが、一つ一つを細かく見てゆくと、なかなか味わい深く、歴史ある温泉のランドマークとして相応しい風格を有していることがわかります。浴槽は重厚感のある御影石で、2m×3mの槽が左右に2つ並んでいます。私が入った時には、左右の浴槽でお湯の温度や浴槽の造りなどに違いは見られなかったのですが、普段はお湯の温度などに相違があるのでしょうか。両浴槽とも槽内にはステップが2段あり(底を含めると浴槽は3段構造)、一般的なお風呂よりも深く、下のステップに腰掛けるとちょうど良い具合に肩まで浸かることができました。深いお風呂ですので、入り応えがあります。
公衆浴場に欠かせない洗い場は室内の左右に分かれて配置されており、計5基のカランが取り付けられていました。

お風呂の上に祀られている石像は住吉明神。上述のように、この温泉は老人の姿をした住吉明神がお礼として禅師に提供したものなので、温泉を湧出させた明神の石像が祀られているのでしょう。
その明神様に由来するお湯は、壁から突き出た短い樋の湯口より滔々と注がれており、浴槽縁よりふんだんにオーバーフローしていました。温泉街の各旅館に引かれているお湯は集中管理されている混合泉ですが、この恩湯はその名も「恩湯泉」と称する自家源泉であり、しかも加温加水循環消毒の無い源泉100%の完全放流式です。お湯はこの湯口のみならず、浴槽の底からも湧出しているらしく、この足元湧出のお湯を楽しめるのは、地面に接した1階にお風呂がある男湯だけ。それゆえこの浴場では男湯の方がお湯が良いと言われているのですね。分析書によれば湧出温度は38.8℃とのことですが、実際の湯船もその数値とほぼ同じであり、湧出温度と使用温度が同じという実に素晴らしい状態なのであります。
お湯は無色透明で、芳醇なタマゴ味とタマゴ臭(ゆで卵の卵黄的な風味)、そして少々の甘みが感じられました。私が感動したのはお湯の浴感。トロミがある湯船に入ると、全身にヌルヌルを伴うツルツルスベスベ感が伝わり、お湯の中を動くだけでもその水流でトロトロしているのがわかっちゃいます。そして、右手で自分の左腕をさすると、あまりにツルツルしているものですから、さすった勢いで右手がつるんと飛んでいってしまいそうになりました。これぞまさに天然のローション。しかも39℃前後という絶好の長湯仕様の湯加減。湯上がり後も肌のスベスベは残り、しかも大変爽快で、サラサラさっぱりとしたフィーリングがいつまでも続きました。
滑らかで且つぬるゆという、私が大好きな条件を2つも兼ね備えているお湯であるため、当地で宿泊した今回の旅では、夜と翌朝の計2回入ってしまいました。歴史ある銘温泉地に銘泉あり。恐れ入りました。
さて、この「恩湯」ですが、2017年5月17日から長期休業に入り、現在は改修工事中です。いまのところ、営業再開は平成31年夏以降を予定しているそうです。おそらくその年は新しい元号の元年でしょうから、由緒ある「恩湯」は新しい元号と一緒に新たな姿で時を再び刻み始めるのでしょうね。レトロな姿が失われることに一抹の寂しさを覚えますが、その一方で、どんな姿に生まれ変わるのか今から楽しみでなりません。リニューアル後もお湯の良さが活きるような施設であってほしいものです。
恩湯泉
アルカリ性単純温泉 38.8℃ pH9.9 溶存物質0.1712g/kg 成分総計0.1712g/kg
Na+:41.7mg,
Cl-:11.3mg, OH-:1.4mg, HS-:1.0mg, S2O3--:0.3mg, SO4--:12.8mg, CO3--:33.8mg,
H2SiO3:57.9mg,
(平成26年3月28日)
加水加温循環消毒なし
※2017年5月17日より長期休業中。現在リニューアル工事中です。再開は平成31年夏以降の予定。
夏季6:00~23:00、冬季6:30~23:00 第1火曜定休
200円
ドライヤー(有料100円)・ロッカー(有料100円)あり
JR美祢線・長門湯本駅より徒歩10分
山口県長門市深川湯本2265
施設紹介ページ(湯本温泉旅館協同組合公式サイト内)
私の好み:★★★
恩湯は2017年5月17日より長期休業中。現在リニューアル工事中です。営業再開は2019年夏以降の予定。

長門湯本温泉のランドマークである公衆浴場「恩湯」。破風を頂く玄関、そして瓦屋根の上に載っかった昭和の香りを漂わせるネオンサインが実にフォトジェニックですね。そのネオンが点り始めた時に、音信川のほとりから撮影したのが上の画像です。

そして日がとっぷり暮れた夜に撮ったものがこちら。


恩湯直下の川岸には「公衆洗濯場跡」なるものがあり、私の他にも写真を撮っている観光客がいらっしゃいました。その名前の通り、かつてここには温泉のお湯が引かれており、近所の奥様方が洗濯板を手に集って、談笑しながらゴシゴシと衣類を洗っていたのでしょうね、説明板によると既に昭和45年頃から使われなくなり、長い間放置されつづけてきたそうですが、音信川の川岸を河川公園として改修した際に、この洗濯場の跡も整備されたんだとか。もちろん再び洗濯場にすることが目的ではなく、昔日の温泉街を思い起こさせるオブジェとしての整備ですから、槽の中は空っぽでした。


さて、お風呂に入りましょう。建物に入ってすぐ右手にある券売機で湯銭を支払い、番台へ券を差し出します。定期利用する場合は定期券代わりの木札が発行されるようですが、番台の周りには使用済みの木札がたくさんぶら下がっていました。
また番台の前には長門湯本温泉の由来が記されていました。これによれば、当地のお寺の住職である禅師が散歩をしていた時、白髪一衣の老人が大きな岩の上で座禅しいているところに遭遇。その老人は「私は長門一の宮の住吉明神である。禅師の説教を聞きたい」と求めたので、禅師はその求道に感動して老人(つまり住吉明神)に大戒を授けて師弟の法縁を結んだところ、明神はその教えにいたく感銘を受け、そのお礼としてお寺の東に温泉を湧出させ「信者や病気の人のためにお湯を使ってほしい」と言って去っていったんだとか。一般的に温泉の開湯伝説には動物が登場することが多く、歴史上の人物だと弘法大師がしばしば登場しますが、この長門湯本のように住吉明神と地元のお寺の禅師が登場する例は珍しいかもしれません。明治以前の神仏習合の文化がよく表れている興味深い伝説です。
恩湯は、番台の左手にある1階の浴場が男湯で、番台の右手から通路を進み階段を上がった2階の浴場が女湯というように、男女が上下に分かれているのですが、ここでは1階にある男湯の方がお湯が良いらしいのです。その理由は後ほど。


浴場内は、一見すると実用的で渋いお風呂なのですが、一つ一つを細かく見てゆくと、なかなか味わい深く、歴史ある温泉のランドマークとして相応しい風格を有していることがわかります。浴槽は重厚感のある御影石で、2m×3mの槽が左右に2つ並んでいます。私が入った時には、左右の浴槽でお湯の温度や浴槽の造りなどに違いは見られなかったのですが、普段はお湯の温度などに相違があるのでしょうか。両浴槽とも槽内にはステップが2段あり(底を含めると浴槽は3段構造)、一般的なお風呂よりも深く、下のステップに腰掛けるとちょうど良い具合に肩まで浸かることができました。深いお風呂ですので、入り応えがあります。
公衆浴場に欠かせない洗い場は室内の左右に分かれて配置されており、計5基のカランが取り付けられていました。


お風呂の上に祀られている石像は住吉明神。上述のように、この温泉は老人の姿をした住吉明神がお礼として禅師に提供したものなので、温泉を湧出させた明神の石像が祀られているのでしょう。
その明神様に由来するお湯は、壁から突き出た短い樋の湯口より滔々と注がれており、浴槽縁よりふんだんにオーバーフローしていました。温泉街の各旅館に引かれているお湯は集中管理されている混合泉ですが、この恩湯はその名も「恩湯泉」と称する自家源泉であり、しかも加温加水循環消毒の無い源泉100%の完全放流式です。お湯はこの湯口のみならず、浴槽の底からも湧出しているらしく、この足元湧出のお湯を楽しめるのは、地面に接した1階にお風呂がある男湯だけ。それゆえこの浴場では男湯の方がお湯が良いと言われているのですね。分析書によれば湧出温度は38.8℃とのことですが、実際の湯船もその数値とほぼ同じであり、湧出温度と使用温度が同じという実に素晴らしい状態なのであります。
お湯は無色透明で、芳醇なタマゴ味とタマゴ臭(ゆで卵の卵黄的な風味)、そして少々の甘みが感じられました。私が感動したのはお湯の浴感。トロミがある湯船に入ると、全身にヌルヌルを伴うツルツルスベスベ感が伝わり、お湯の中を動くだけでもその水流でトロトロしているのがわかっちゃいます。そして、右手で自分の左腕をさすると、あまりにツルツルしているものですから、さすった勢いで右手がつるんと飛んでいってしまいそうになりました。これぞまさに天然のローション。しかも39℃前後という絶好の長湯仕様の湯加減。湯上がり後も肌のスベスベは残り、しかも大変爽快で、サラサラさっぱりとしたフィーリングがいつまでも続きました。
滑らかで且つぬるゆという、私が大好きな条件を2つも兼ね備えているお湯であるため、当地で宿泊した今回の旅では、夜と翌朝の計2回入ってしまいました。歴史ある銘温泉地に銘泉あり。恐れ入りました。
さて、この「恩湯」ですが、2017年5月17日から長期休業に入り、現在は改修工事中です。いまのところ、営業再開は平成31年夏以降を予定しているそうです。おそらくその年は新しい元号の元年でしょうから、由緒ある「恩湯」は新しい元号と一緒に新たな姿で時を再び刻み始めるのでしょうね。レトロな姿が失われることに一抹の寂しさを覚えますが、その一方で、どんな姿に生まれ変わるのか今から楽しみでなりません。リニューアル後もお湯の良さが活きるような施設であってほしいものです。
恩湯泉
アルカリ性単純温泉 38.8℃ pH9.9 溶存物質0.1712g/kg 成分総計0.1712g/kg
Na+:41.7mg,
Cl-:11.3mg, OH-:1.4mg, HS-:1.0mg, S2O3--:0.3mg, SO4--:12.8mg, CO3--:33.8mg,
H2SiO3:57.9mg,
(平成26年3月28日)
加水加温循環消毒なし
※2017年5月17日より長期休業中。現在リニューアル工事中です。再開は平成31年夏以降の予定。
夏季6:00~23:00、冬季6:30~23:00 第1火曜定休
200円
ドライヤー(有料100円)・ロッカー(有料100円)あり
JR美祢線・長門湯本駅より徒歩10分
山口県長門市深川湯本2265
施設紹介ページ(湯本温泉旅館協同組合公式サイト内)
私の好み:★★★