台湾には温泉がたくさんありますが、その多くが山間部に位置しているため、台風や豪雨、そして地震など天変地異の被害に遭いやすく、大きな天災が発生するたびにどこかの温泉施設が閉業に追い込まれていると言っても過言ではありません。罹災した後に再興する温泉もありますが、復活せずに放置されたまま廃墟と化してゆくところもあります。前回記事で取り上げた台東紅葉温泉の場合も、2008年に当地を襲った台風被害のため公営の温泉公園が濁流に飲み込まれ、その後現在に至るまで再興せず廃墟のまま放置されているですが、人の手を借りなくても温泉はたくましく自然湧出し、河原に野湯ができあがっていたわけです。
同じ台東県の南部にある「金峰温泉」も台風被害に遭った温泉のひとつ。かつては公営の温泉公園がありましたが、同じく2008年の台風に伴う水害(いわゆる八八水災)で濁流に飲み込まれ、公園としての機能が失われたばかりか、アクセスする道路も土砂崩れによって崩壊してしまいました。さらには2016年にも台風被害に遭ってしまいました。しかしながら金峰温泉の場合は、地元自治体で予算の都合がついたのか、再興へ向けて少しずつ動きはじめているらしく、すでに温泉は湧出しており、しかも今ならそのこぼれ湯で野湯ができるという情報を入手したので、機を逃すまいと意気込んで現地へ行ってみることにしました。
太麻里の街から台東県道64号線に入り、太麻里渓に沿って車を西へ走らせます。途中で金峰郷公所などを擁する嘉蘭地区を抜け、さらに西へ進んでゆくと、明るいグリーン色に塗られたアーチ橋(ローゼ橋)の「拉冷冷大橋」にたどり着きます。この橋の前には「金峰温泉」を示す標識が立っているのですが・・・
私が訪ねた2017年3月時点で「拉冷冷大橋」から先の県道64号線にはバリケードが設置されており、看板には「梅姫台風による連日の豪雨により道路には崖崩れが多いので、観光客は(金峰温泉方面へ)入らないでください」と記されていました。梅姫台風とは2016年に発生した台風17号の台湾名で、台湾各地に甚大な被害をもたらしましたが、この金峰も例外ではなかったようです。しかし、バリケードは大型トラックでも余裕で通れるほど幅が開けられていますし、金峰温泉はこの先にありますので、私はレンタカーを「拉冷冷大橋」の脇に駐車し、自己責任で歩いてバリケードから先へ向かうことにしました。
たしかにバリケードから先にはところどころで斜面が崩壊していましたが、路面自体が崩れているわけではないので、特に支障なく歩くことができました。太麻里渓に沿ってひたすら進みます。
「拉冷冷大橋」から歩くこと13〜4分で、道のどん詰まりにたどり着きました。道路はここまで舗装されており、本来県道自体はもっと先まで続いているのですが、先述の災害によりここから先の県道は崩壊しているため、現時点では実質的な行き止まりとなっているのです。なお私はこの地点まで徒歩で来ましたが、道路の状態は悪くないので、ここまでなら車で来られます。
本来の県道は崩壊していますが、その代わり工事用車両はこの先へ行かなければなりません。このため、この行き止まりのガードレールの一部が撤去され、河原の一部をこの道に向かって盛り土することにより、仮設の道路が河原に設けられていました。私もこの仮設道路へ入ることにしました。
盛り土の坂路で河原へ下り、仮設道路を進みます。河原にはタイヤの轍がはっきり残っているので、迷うことはありません。轍の先にはテントが数張立てられており、その奥に白い湯気も上がっていることも確認できました。
河原の仮設道路を歩いている途中で右手の山の斜面を見ますと、急傾斜の山が上の方から大規模に崩れ、斜面を横切る道路がその崩落に飲み込まれてすっかり姿を消していました。河原の仮設路を除けば、この道路は金峰温泉の温泉公園へアクセスする唯一の道ですので、温泉公園の復活にはこの道路の復旧も欠かせません。果たしていつ開通できるのでしょうか。
野営ポイントには大小のテントがいくつか張られており、プロパンガスを熱源とするキッチンまで備え付けられた本格的なものなのですが、どのテントにも人がおらず、みなさんどこかへ出かけているようでした。工事関係者のものなのか、あるいは川の上流にある比魯温泉(上級者向けの野湯)へアタックする人たちのベースキャンプなのか・・・。人様の物を詮索しても意味がないので、とりあえず今はここを通過し、その奥へ進みます。
河原を遡ってゆくと、金峰の温泉公園跡地に到着しました。平らに整地された敷地内には丸いプールが複数あり、往時の賑わいを想像させてくれますが、プールの中のひとつに藻が繁殖して汚く淀んだ水が溜まっているばかりで、他のプールは空っぽ。全体的に埃っぽく、とても公園として使える状態ではありません。再整備はまだまだこれからなのでしょう。
この公園の脇には金峰温泉の源泉があります。「国破れて山河あり」ならぬ「公園破壊されて源泉あり」。直径数メートルの穴からは、ふつふつと音を立てながら大量の温泉が湧出しており、白い湯気が濛々と天高く上がっていました。近づくだけで身の危険を覚える程のすごい熱気を感じます。源泉に接近できないよう、無骨な柵が二重に立てられていましたが、かつて公園が開放されていた頃、この源泉はモニュメントのような形状に整備されていましたから、将来的に公園が再オープンする時にはこの源泉も観光名所に相応しい形状を纏うのかもしれません。
現在この源泉を使う施設がないため、温泉はひたすら捨てられています。柵の外へ溢れ出る温泉を図ってみたら、76.3℃という高温でした。触ったら火傷しちゃいますね。
「水は高きより低きに流れる」という幼稚園児でもわかる当たり前の摂理に従い、源泉から捨てられたお湯は傾斜を流れて河原へと落ちていきます。ちょうど先述のテント群の近くに、こぼれ落ちた温泉が溜まってできた池があるのですが、この湯溜まりは浅くてぬるく、しかも泥が深く沈んでいるため、とても入れるような状況にありません。その代わり・・・
先ほどのテントの前には、工事用の分厚いシート(ブルーシートみたいなもの)でつくられた簡易風呂が二つ設けられていました。ここなら入浴ができそうですね。双方とも源泉近くからホースでお湯を直接引いているのですが、うち一つはホースが途中で外れていたため、お湯がお風呂まで届かず、その代わり雨水が溜まって藻が生えていました。もう一方にはちゃんとお湯が引かれており、無色透明の綺麗なお湯で満たされていました。
3〜4人は同時に入れそうな大きさを有しており、しかも深さも良い感じです。岩を並べてシートを敷き、ホースを引いてお湯を張るという作業は、言葉にすると単純ですが、それを実践することは相当な苦力が必要かと思います。この即席露天風呂を作った方はかなり器用なのでしょう。
ただ、70℃以上の温泉をそのまま引いているため、お湯は篦棒に熱い。しかも河原とはいえ川の流れからちょっと離れているので水を引くことができない。そこでホースの先っちょにネットを被せて霧吹き状にすることにより、温度を下げているのでした。つくづく上手く作っていると感心させられます。
霧吹き状にして自然冷却を図っているものの、加水しないで温度を下げるのは至難の技。私が訪ねた時の湯船は46.5℃という高温でした。栃木県那須湯本の「鹿の湯」なみの熱い風呂です。でも私はいままで49℃のお湯に入ったことがありますので、決して入れない温度ではありません。しっかり掛け湯をして体を慣らせば何とかなりそうです。なおpH値はpH8.84ですから純然たるアルカリ性泉ですね。
気合を入れて入浴しちゃいました。あまりの熱さに10秒入るのが限界でしたが、でもその僅かな間で得られた浴感の素晴らしさは感動もの。具体的には、pHの数値からも想像できるようにお湯がトロットロで、肌に伝わるツルツルスベスベ感が大変つよく、まるでローションに浸かっているかのように、全身がトロミに包まれました。またお湯からは薄い塩味のほか、ゆで卵の卵黄のような味や匂いがほんのり感じられ、味や匂いの面でも温泉らしい特徴を兼ね備えています。もし湯加減が適温だったら、あまりに素晴らしいお湯に心を奪われ、後ろ髪を引かれてここから帰れなくなってしまったかもしれません。むしろ長湯できない熱いお風呂でよかったのかも。
とにかく「台湾のうなぎ湯」と称したくなるほど極上のニュルニュル感には、お世辞抜きで本当に感激してしまいました。近くには同じくトロトロのアルカリ性泉で有名な知本温泉がありますが、私個人の感覚ではそれに比肩するか、あるいはそれ以上の浴感が楽しめたように思っています。
台東県金峰鄉嘉蘭村
GPS座標:22.592884, 120.938635
24時間アクセス可能。無料。
ただし立ち入り制限ゾーンなので訪問の際は自己責任で。
私の好み:★★★
同じ台東県の南部にある「金峰温泉」も台風被害に遭った温泉のひとつ。かつては公営の温泉公園がありましたが、同じく2008年の台風に伴う水害(いわゆる八八水災)で濁流に飲み込まれ、公園としての機能が失われたばかりか、アクセスする道路も土砂崩れによって崩壊してしまいました。さらには2016年にも台風被害に遭ってしまいました。しかしながら金峰温泉の場合は、地元自治体で予算の都合がついたのか、再興へ向けて少しずつ動きはじめているらしく、すでに温泉は湧出しており、しかも今ならそのこぼれ湯で野湯ができるという情報を入手したので、機を逃すまいと意気込んで現地へ行ってみることにしました。
太麻里の街から台東県道64号線に入り、太麻里渓に沿って車を西へ走らせます。途中で金峰郷公所などを擁する嘉蘭地区を抜け、さらに西へ進んでゆくと、明るいグリーン色に塗られたアーチ橋(ローゼ橋)の「拉冷冷大橋」にたどり着きます。この橋の前には「金峰温泉」を示す標識が立っているのですが・・・
私が訪ねた2017年3月時点で「拉冷冷大橋」から先の県道64号線にはバリケードが設置されており、看板には「梅姫台風による連日の豪雨により道路には崖崩れが多いので、観光客は(金峰温泉方面へ)入らないでください」と記されていました。梅姫台風とは2016年に発生した台風17号の台湾名で、台湾各地に甚大な被害をもたらしましたが、この金峰も例外ではなかったようです。しかし、バリケードは大型トラックでも余裕で通れるほど幅が開けられていますし、金峰温泉はこの先にありますので、私はレンタカーを「拉冷冷大橋」の脇に駐車し、自己責任で歩いてバリケードから先へ向かうことにしました。
たしかにバリケードから先にはところどころで斜面が崩壊していましたが、路面自体が崩れているわけではないので、特に支障なく歩くことができました。太麻里渓に沿ってひたすら進みます。
「拉冷冷大橋」から歩くこと13〜4分で、道のどん詰まりにたどり着きました。道路はここまで舗装されており、本来県道自体はもっと先まで続いているのですが、先述の災害によりここから先の県道は崩壊しているため、現時点では実質的な行き止まりとなっているのです。なお私はこの地点まで徒歩で来ましたが、道路の状態は悪くないので、ここまでなら車で来られます。
本来の県道は崩壊していますが、その代わり工事用車両はこの先へ行かなければなりません。このため、この行き止まりのガードレールの一部が撤去され、河原の一部をこの道に向かって盛り土することにより、仮設の道路が河原に設けられていました。私もこの仮設道路へ入ることにしました。
盛り土の坂路で河原へ下り、仮設道路を進みます。河原にはタイヤの轍がはっきり残っているので、迷うことはありません。轍の先にはテントが数張立てられており、その奥に白い湯気も上がっていることも確認できました。
河原の仮設道路を歩いている途中で右手の山の斜面を見ますと、急傾斜の山が上の方から大規模に崩れ、斜面を横切る道路がその崩落に飲み込まれてすっかり姿を消していました。河原の仮設路を除けば、この道路は金峰温泉の温泉公園へアクセスする唯一の道ですので、温泉公園の復活にはこの道路の復旧も欠かせません。果たしていつ開通できるのでしょうか。
野営ポイントには大小のテントがいくつか張られており、プロパンガスを熱源とするキッチンまで備え付けられた本格的なものなのですが、どのテントにも人がおらず、みなさんどこかへ出かけているようでした。工事関係者のものなのか、あるいは川の上流にある比魯温泉(上級者向けの野湯)へアタックする人たちのベースキャンプなのか・・・。人様の物を詮索しても意味がないので、とりあえず今はここを通過し、その奥へ進みます。
河原を遡ってゆくと、金峰の温泉公園跡地に到着しました。平らに整地された敷地内には丸いプールが複数あり、往時の賑わいを想像させてくれますが、プールの中のひとつに藻が繁殖して汚く淀んだ水が溜まっているばかりで、他のプールは空っぽ。全体的に埃っぽく、とても公園として使える状態ではありません。再整備はまだまだこれからなのでしょう。
この公園の脇には金峰温泉の源泉があります。「国破れて山河あり」ならぬ「公園破壊されて源泉あり」。直径数メートルの穴からは、ふつふつと音を立てながら大量の温泉が湧出しており、白い湯気が濛々と天高く上がっていました。近づくだけで身の危険を覚える程のすごい熱気を感じます。源泉に接近できないよう、無骨な柵が二重に立てられていましたが、かつて公園が開放されていた頃、この源泉はモニュメントのような形状に整備されていましたから、将来的に公園が再オープンする時にはこの源泉も観光名所に相応しい形状を纏うのかもしれません。
現在この源泉を使う施設がないため、温泉はひたすら捨てられています。柵の外へ溢れ出る温泉を図ってみたら、76.3℃という高温でした。触ったら火傷しちゃいますね。
「水は高きより低きに流れる」という幼稚園児でもわかる当たり前の摂理に従い、源泉から捨てられたお湯は傾斜を流れて河原へと落ちていきます。ちょうど先述のテント群の近くに、こぼれ落ちた温泉が溜まってできた池があるのですが、この湯溜まりは浅くてぬるく、しかも泥が深く沈んでいるため、とても入れるような状況にありません。その代わり・・・
先ほどのテントの前には、工事用の分厚いシート(ブルーシートみたいなもの)でつくられた簡易風呂が二つ設けられていました。ここなら入浴ができそうですね。双方とも源泉近くからホースでお湯を直接引いているのですが、うち一つはホースが途中で外れていたため、お湯がお風呂まで届かず、その代わり雨水が溜まって藻が生えていました。もう一方にはちゃんとお湯が引かれており、無色透明の綺麗なお湯で満たされていました。
3〜4人は同時に入れそうな大きさを有しており、しかも深さも良い感じです。岩を並べてシートを敷き、ホースを引いてお湯を張るという作業は、言葉にすると単純ですが、それを実践することは相当な苦力が必要かと思います。この即席露天風呂を作った方はかなり器用なのでしょう。
ただ、70℃以上の温泉をそのまま引いているため、お湯は篦棒に熱い。しかも河原とはいえ川の流れからちょっと離れているので水を引くことができない。そこでホースの先っちょにネットを被せて霧吹き状にすることにより、温度を下げているのでした。つくづく上手く作っていると感心させられます。
霧吹き状にして自然冷却を図っているものの、加水しないで温度を下げるのは至難の技。私が訪ねた時の湯船は46.5℃という高温でした。栃木県那須湯本の「鹿の湯」なみの熱い風呂です。でも私はいままで49℃のお湯に入ったことがありますので、決して入れない温度ではありません。しっかり掛け湯をして体を慣らせば何とかなりそうです。なおpH値はpH8.84ですから純然たるアルカリ性泉ですね。
気合を入れて入浴しちゃいました。あまりの熱さに10秒入るのが限界でしたが、でもその僅かな間で得られた浴感の素晴らしさは感動もの。具体的には、pHの数値からも想像できるようにお湯がトロットロで、肌に伝わるツルツルスベスベ感が大変つよく、まるでローションに浸かっているかのように、全身がトロミに包まれました。またお湯からは薄い塩味のほか、ゆで卵の卵黄のような味や匂いがほんのり感じられ、味や匂いの面でも温泉らしい特徴を兼ね備えています。もし湯加減が適温だったら、あまりに素晴らしいお湯に心を奪われ、後ろ髪を引かれてここから帰れなくなってしまったかもしれません。むしろ長湯できない熱いお風呂でよかったのかも。
とにかく「台湾のうなぎ湯」と称したくなるほど極上のニュルニュル感には、お世辞抜きで本当に感激してしまいました。近くには同じくトロトロのアルカリ性泉で有名な知本温泉がありますが、私個人の感覚ではそれに比肩するか、あるいはそれ以上の浴感が楽しめたように思っています。
台東県金峰鄉嘉蘭村
GPS座標:22.592884, 120.938635
24時間アクセス可能。無料。
ただし立ち入り制限ゾーンなので訪問の際は自己責任で。
私の好み:★★★