

南会津・湯の花温泉の中心部にある白い建物の星商店は、かつては「星酒店」という酒屋さんでしたが、現在はいわゆる萬屋のような業態になったらしく、店の表の表記は「星 店」と間の酒の字が抜かれた状態になっていました。店内では食料品の他、地元の方が作るカゴや草履などの小物類、そして共同浴場の入浴券を販売しているのですが(くわしくは南会津町観光物産協会の紹介ページをご覧ください)、私が訪れた日はシャッターが閉まっていました。地元の方に伺ったところ、いつも店を開いているわけではなく、営業日や定休日が定まっていないようでした。


さて、その星商店の脇に新しい行灯のようなものを発見。なんと共同浴場「石湯」の案内標識なのでした。4つある湯ノ花温泉の中でも「石湯」は最も外来客が近寄りがたい雰囲気を醸し出している独特な風情の浴場だと思うのですが、そんな浴場の場所を示す案内が立てられたことに、私はちょっと驚いてしまいました。


私が湯ノ花温泉を訪ねたのは、まだ残雪が融けきっていない今年(2017年)4月の某日。石湯へ向かう路地の傍では、残雪の間から福寿草の群生がたくさんの黄色い花を咲かそうとしていました。春の到来を告げる福寿草を横目に坂道を下り、湯ノ岐川に架かる古い橋を渡ります。


対岸の川岸に見える湯小屋が「石湯」。拙ブログでは2011年に取り上げていますが、それ以来の再訪です(その時の記事はこちら)。昔話の挿絵にしたくなるような、実に特徴的なロケーションですね。


階段を下りて湯小屋へ。川岸の巨大な岩を包摂するように立てられているプリミティブな湯小屋がとてもフォトジェニックです。法令厳守が求められる今のご時世ならば、こんな湯小屋は立てられないでしょうね。おそらく河川法云々が喧しく言われなかった時代に建てられ、それ以来既得権として今日まで存続しているのでしょうけど、それにしてもこの「石湯」はいつ開湯されたのでしょうか。


引き戸を開けて、いざ入室。入ってすぐのところで靴を脱ぎ、浴槽の縁をぐるっと回って奥の脱衣ゾーンへ移動します。出入口と湯船周りや脱衣ゾーンの間には仕切りや目隠しのようなものはありません。脱衣棚の前に背の低い衝立が立っているばかりです。会津に限らず昭和の僻地のあちこちで見られたように、脱浴一体型で且つ混浴という非常に古いタイプの共同浴場です。


小屋の中に巨大な岩がせり出ており、その上に御幣が立てられていました。神様が宿るお風呂なのですね。


岩盤を鑿って湯船を作ったことから「石湯」と呼ばれているんだそうです。小屋の真ん中にある主浴槽はモルタルで固めて形が整えられており、キャパは3〜4人サイズ。長年使い込まれているためか、浴槽内は青光りしていました。お湯は2方向から注ぎ込まれており、完全掛け流しの湯使いです。


上画像は大きな岩の下にある源泉から流れ込んでいる湯の筋を撮ったものです。木の栓を差し込むことで流量を調整しているようでした。


もうひとつ、山側の歩道下にある源泉から細い筋を刻んで流れ込んでいました。
この2つの源泉とも50℃以上の熱いお湯であるため、湯船も何もしないままだとかなり熱く、慣れていないと入れないかもしれません。幸いにしてこの湯小屋には水道の蛇口があり、ホースを伸ばせば加水できますので、どうしても熱くて入れない場合は加水することをおすすめします。実際に地元の方も加水をすすめてくださいました。


主浴槽の川側には仕切り板が立っており、その向こうには一人サイズの小さな湯船がひっそりとお湯を張っていました。この小さな湯船は、主浴槽から流れ込んでくるお湯を受けていますので、その過程で温度も下がります。主浴槽のお湯が熱すぎて入れない場合は、この小さな湯船に入ってもよいでしょう(本来は洗い場として設けられた湯溜まりなのかもしれませんが)。


「石湯」は川岸ギリギリのところに建っているわけですが、私が訪れた4月は山の雪解け水によって川が増水しており、浴場のすぐ下では濁流が迫って、いまにもその奔流に飲み込まれそうでした。もし川の水嵩がもうちょっと増えていたらと思うと、ちょっと怖いですね。

ちょっと熱めな湯加減に満足する私。上述のようにお湯は2方向から流れ込んでくるため、湯船の熱さにムラがあり、適宜腕や脚で湯船の中を掻き混ぜながら湯浴みしました。源泉名はその名も「石湯」。上述したように、自然湧出したばかりのお湯が湯船に流れ込んでいます。
無色透明でほぼ無味無臭のクセがないお湯ですが、ツルスベ浴感はしっかりしており、ピリッとくる熱さが心身をシャキッと蘇らせてくれました。昔ながらの素朴な湯小屋でありながら、印象的な外観や、自然湧出の独自源泉を有するという、特徴的な要素がてんこ盛りな共同浴場。今回再訪して、より一層ユニークさを実感することができました。
石湯
単純温泉 57.5℃ pH8.0 9.8L/min(自然湧出) 溶存物質784.1mg/kg 成分総計784.1mg/kg
Na+:194.8mg(71.72mval%), Ca++:58.8mg(24.81mval%),
Cl-:292.8mg(68.84mval%), SO4--:136.7mg(23.75mval%), HCO3-:34.8mg,
H2SiO3:41.1mg,
(平成17年5月18日)
会津田島駅もしくは会津高原尾瀬口駅より会津バスの桧枝岐行で「湯ノ花石湯前」バス停下車、徒歩2〜3分
福島県南会津郡南会津町湯ノ花528番地 地図
紹介ページ(南会津町観光物産協会公式サイト内)
6:00〜22:00
200円(現金利用不可。あらかじめ地区内の商店・飲食店・旅館などで各共同浴場共通の入浴券を購入)
備品類無し
私の好み:★★★