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ホテルや旅館の規模と温泉の湯使いの良さは、往々にして反比例する関係にあり、同じく規模と日帰り入浴の歓迎度も反比例する傾向があります。特に有馬温泉は限られた温泉資源を多くの施設で分けあっているため、貴重なお湯を大切に使うべく、多くのお宿で循環などが行われており、しかも日帰り入浴のハードル(時間や料金面)が高く設定されています。そんな環境にありながら、当地の「かんぽの宿」はこの常識に反して自家源泉を加水した上での掛け流しを実践しており、しかも日帰り入浴ウェルカムですので、私のように温泉をハシゴする人間にとっては非常に有り難い存在です。
坂道が続く温泉街のメインストリートをどんどん登って奥へ進み、炭酸泉源公園から更に急坂を登って六甲山の登山口へ向かってゆくと、その手前右側に大きな建物が目に入ってきます。
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エントランスを入って広々としたロビーからフロントへ向かおうとすると、その手前に券売機が立っていました。日帰り入浴を積極的に受け入れていることが窺えます。日帰り入浴客はこれで料金を支払い、フロントを経由することなく、入浴券を手にしたまま浴場のある4階へエレベーターで直接上がります。
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4階でエレベータを降り、右折して通路を進むと浴室入口の前にカウンターがあるので、そこにいるスタッフに券を手渡します。
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この通路には有馬温泉に関する説明プレートの他、「かんぽの宿」で使っている自家源泉の写真が展示されていました。公共色の強い施設でありながら、自家源泉を有しているとは意外です。
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源泉にはちゃんと湯守りの方がいらっしゃり、こまめに管理なさっているそうです。通路に置かれたショーケースには引湯に用いる配管が並べられており、まっさらな使用前からわずか7日で配管内にスケールが付着して目詰り状態になってしまう様子が、ひと目でわかるように展示されていました。何週間や何ヶ月といったスパンではなく、わずか数日で配管を交換しなくてはいけないのですから、関係者の方々のご苦労たるや相当のものかとお察しします。にもかかわらず日帰り入浴が平日700円(週末1000円)で利用できるのですから、本当に有り難いものです。
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中央にベビーベッドが据えられた脱衣室は、オレンジ色のロッカー扉や木目の壁など暖色系でまとめられており、手入れも行き届いていて明るく綺麗です。3台並ぶ洗面台には2台のドライヤーが備え付けられており、強い出力のおかげでスピーディーに髪を乾かせました。また室内に設置された扇風機2台と床置型のエアコンによって強力なクールダウン体勢がとられており、有馬の濃厚なお湯によって火照ってフラフラになっても、素早く体を冷却することができました。
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お風呂は内湯のみで、窓に面して真湯浴槽と源泉浴槽がひとつずつ設けられており、床には柔道場や剣道場で用いられるような化繊畳が敷き詰められていました。その広さは目算で27畳前後です。真湯浴槽からはプールの如き強烈な塩素臭が放たれており、槽内で稼動しているジャグジーによる振動が、塩素臭の拡散を余計に助長しているようでした。
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洗い場にはシャワー付き混合水栓が12基、コの字形に並んでいます。
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源泉浴槽は結構広く、きちんと数えてはいませんが、軽く15人は入れちゃいそうなキャパがあります。お湯の濁りが強く、槽内のステップが見えませんから、湯船に入る際には壁に掲示されている注意書きを参考に、手すりに掴まりながら慎重に足を運びましょう。
この湯船のお湯を桶に汲んでみると、濁りの濃さがよくわかります。ご覧の通り有馬温泉の金泉なのですが、同じ有馬温泉でも、取り上げた「上大坊」の天神泉源は茶色が濃いブラウン系で、カレーで例えるならビーフカレーのような色合いでしたが、こちらのお湯は明るいオレンジ系で、チキンカレーを連想させてくれます。
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湯口からは直に触るのが躊躇われるほど熱いお湯が落とされており、窓下の切欠より排水されています。加水されているものの放流式の湯使いとなっています。有馬の金泉らしく、赤錆臭を放つお湯は非常にしょっぱく、鉄味・苦味なども含まれているのですが、あまりに塩辛いために他の味が摑めなくなってしまうほどで、正直なところ味覚的な分析に自信はありません。加水を必要最小限に抑えるためか、投入される源泉の量が絞られており、その甲斐あってどなたでも入れる湯加減となっていたのですが、浴槽の大きさに対して如何せん投入量が少なく、私の訪問時には幾分お湯が鈍っているように感じられました。源泉が非常に高温ですので、入浴に適した温度に下げるため何らかの措置をとらねばならないわけですが、有馬のお湯は酸化しやすいため、貯湯すると質の劣化が著しく、かといって安易に加水すると折角の濃厚さが味わえませんから、従って投入量を絞る他に術はないのでしょう。実に難しいところです。
そんな状況でも横綱級のパワーを持つ有馬の金泉であることに変わりなく、適温であるにもかかわらず2~3分も続けて湯船に入っていられず、すぐに真湯や水のシャワーを求めたくなってしまいました。私以外の他のお客さんも、皆さん長湯できず早々に湯船から上がって、縁に座ってぐったりしたり、あるいは脱衣室へエスケープして扇風機に当たるなど、凶暴なお湯の洗礼を受けていました。湯船が熱かろうが適温だろうが、金泉から受ける身体的衝撃に大差は無さそうですから、濃厚なお湯に慣れていない方は、こちらのお風呂のように適温の湯船に入った方が、難なくお湯のパワーを実感できるかもしれません。
有馬にしては手頃な料金で日帰り入浴ができ、しかも実にパワフルな本物の温泉を掛け流しで楽しめるという、湯巡りする上で実に貴重な施設でした。
愛宕山泉源
含鉄-ナトリウム-塩化物強塩泉 98.5℃ pH6.45 50L/min(掘削自噴) 溶存物質49.55g/kg 成分総計49.58g/kg
Na+:13500mg(72.2mval%), Mg++:27.0mg, Ca++:2760mg(16.9mval%), Sr++:56.9mg, Ba++:42.7mg, Mn++:40.7mg, Fe++:63.9mg,
Cl-:29400mg(99.8mval%), Br-:53.1mg, HCO3-:60.8mg,
H2SiO3:273mg, HBO2:406mg, CO2:36.2mg, H2S:0.32mg,
加水あり(源泉が高温・高濃度のため)
神戸電鉄・有馬温泉駅より徒歩15分(1.1km)
兵庫県神戸市北区有馬町1617-1
078-904-0951
ホームページ
日帰り入浴10:30~20:30(受付20:00まで)
平日700円、土日祝(および年末年始・GW・お盆期間)1000円
ロッカー・シャンプー類・ドライヤーあり
私の好み:★★+0.5