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あくまで個人的な見解ですが、温泉と庶民生活との距離が短い九州や、農閑期の湯治文化がある東北などと異なり、温泉宿泊をハレの時間を捉える傾向にある関西エリアでは、手頃な料金で泊まれる温泉旅館が少なく、一人客を受け入れてくれる施設となるとかなり限られてしまいます。関西屈指の温泉地である有馬温泉はその典型例であり、一人客OKな宿でも当たり前のように1泊で5桁に達してしまいますから、それなら神鉄で神戸市街に戻ってビジネスホテルに泊まった方が安上がりだな、と吝嗇家な私としては考えてしまうのですが、そんな有馬にあって温泉街からちょっと離れたところにある「ミント・リゾートイン・アリマ」は、リゾートと銘打っているものの、ビジネスホテルのように気軽でリーズナブルに宿泊できる一人旅の強い味方ですので、今回有馬へ立ち寄ったついでに一泊利用してみることにしました。
ホテルは隣接する病院が経営しているらしく、その病院の敷地内にあり、カタカナの名前から抱くイメージとは裏腹に、企業の保養所のような地味な建物です。三角形のアーチを潜って玄関へと向かいます(ハレーションが入り込んだ見難い画像で申し訳ございません)。
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こちらのホテルは神鉄・有馬温泉駅から川沿いに約700メートル下ったところにあり、親柱にレトロ調な外灯が立てられてる乙倉橋を渡った先に病院とホテルが建ち並んでいるのですが、ここにはかつて国鉄有馬線の終点である有馬駅があったんだそうです。つまり乙倉橋は駅正面への架け橋を担っていたのであり、駅の跡地に病院とホテルが建てられているわけですね。
この有馬線は昭和18年に不要不急路線として休止されて以来、復活せずに現在に至っているのですが、橋の上から川の上流を向かって撮った上画像の左側に写っている空き地は、いまでもJR西日本が管理しているだとか。
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今回予約した客室はツインの洋室で、ひと通りの備品は揃っており、トイレ付きユニットバスも設けられていますが、冷蔵庫の備え付けは無く、廊下に置かれている共用のものを使うことになります。
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浴室は1階フロントのすぐ左側です(男湯の場合)。宿泊客の入浴可能時間は15:00~23:00、6:30~8:45です。源泉を加温した上で浴槽へ供給している都合上、真夜中の利用はできないのでしょう。脱衣室はこぢんまりしているものの、清掃はよく行き届いており、ハンガー付きロッカーの他にカゴの備え付けもあったり、無料で使えるドライヤーが用意されていたりと、使い勝手はまずまずです。
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室内には温泉の配管内に付着したスケールが展示されていました。説明文によると、有馬でも珍しい自家源泉であり、裏山にある源泉(地下800メートル)から湧出している金泉である、とのこと。
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お風呂は男女別の内湯のみで、壁に飾り付けられているステンドグラスが印象的な浴室には、後述する金泉浴槽の他、キャパ2~3人のポリバス真湯槽が1つ、そしてシャワー付き混合水栓が4基設けられています。
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金泉浴槽は元々白いタイル貼りだったと推測されるのですが、濃厚なお湯の成分付着によってすっかりオレンジ色に覆われており、浴槽のお湯も味噌汁を連想させるような色に強く濁っていました。容量としては4~5人サイズといったところ。濁りが強くて槽内の様子がまったく見えませんから、入浴の際は手すりに掴まって慎重に足を入れましょう。なお、窓下の浴槽縁には丸太が枕のような感じでセッティングされているのですが、位置が高くて頭を上手く載せることができませんでした。
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槽内ではジャグジーが作動しており、この手の物が苦手な私としてはちょっと騒々しく感じられるのですが、こんな濃くてスケールが忽ちこびりついてしまうようなお湯でジャグジーのような装置を運転させて、果たして故障が頻発しないのでしょうか。浴槽縁には石灰質が分厚く層をなしてこびりついており、とりわけこのジャグジー周りでは浴槽の容量を明らかに狭めるほど、コンモリ盛り上がっていました。そしてその表面には千枚田のような鱗状の模様が形成されていました。
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浴槽の中程に円筒形の湯口が立ち上がっており、漬物石のような重い蓋が載せられていて、蓋の隙間からぬるいお湯が、チョロチョロと円筒の外側を伝って浴槽へと注がれていました。この蓋を開けてみますと、まるでセサミストリートのキャラクターみたいな、パックリ口を開けたモンスターのような格好になってしまったのですが、この内部からは槽内の濁り方とは異なる、白っぽく微濁した鉱泉が底の方から上がっていました。またこのモンスター円筒とは別に、窓下から槽内へ塩ビ管が伸びており、その先からは加温されたお湯が吐出されていました。館内表示によれば入浴に適した温度にするため熱交換で加温し、循環を行いつつ源泉投入も行う放流一部循環式の湯使いを採用しているそうですから、状況から想像するに、モンスター円筒から上がってくる鉱泉は生源泉なのでしょうね(でも分析表記載の湧出温度より遥かに高い40℃弱はあったので、断言はできません)。なお排湯に関してはよくわかりません。
浴槽のお湯は明るいオレンジ色に強く濁り、透明度は殆どありません。いかにも有馬の金泉らしく、鉄錆味や苦味の他に強い塩辛さを有しているのですが、前々回や前回記事で取り上げた温泉街に湧く高温の天神(「上大坊」)や愛宕山泉源(「かんぽの宿」)と比べて塩っぱさは幾分マイルドであり、強烈な塩分による口腔粘膜への刺激はあまり感じられませんでした。その一方で、ホテル名と関係しているかわかりませんが、ミント(ハッカ)のようなスーッとする清涼感がわずかながら伝わってきました。湯中では食塩泉らしいツルスベと、カルシウムや金気の多い温泉らしいギシギシ浴感が混在しています。湧出温度が25℃未満ですから浴用に際しては加温されていますが、とても濃い金泉ですから体がお湯に負けてしまって長湯ができず、優しい真湯の存在がとてもありがたく思えます。また湯上がりには肌にベタつきや引っ掛かりが残りますが、それほど嫌味な感じはせず、温浴効果は抜群で、いつまでも汗が引かずに体の芯からよく温まります。
手軽な料金で自家源泉の金泉に入ることができる、旅人の味方というべきホテルでした。
乙倉谷源泉
ナトリウム-塩化物強塩冷鉱泉 23.3℃ pH6.5 100L/min(動力揚湯)
加温あり(入浴に適した温度にするため熱交換で加温)
循環あり(濾過はしていない)
加水・消毒なし
神戸電鉄・有馬温泉駅より徒歩7分(700m)
兵庫県神戸市北区有馬町188-23 地図
078-903-0023
ホームページ
日帰り入浴13:00~17:00
500円
ロッカー・シャンプー類・ドライヤーあり
私の好み:★★+0.5