松本と東信地方を跨ぐ峠のひとつである扉峠は、その険しさ故に冬季になると通行止となり、文字通り交通面で固く閉ざされる扉となってしまうわけですが、この通行止区間の松本側の起点となるのが峠の手前で湧く「扉温泉」でして、途中から離合が厳しくなる狭隘な山道を約2キロ進んだ先には、数軒の旅館と1軒の日帰り入浴施設が営業しています。今回は日帰り入浴である「桧の湯」でひとっ風呂浴びてまいりました。駐車場の入口には温泉がチョロチョロ落ちる蹲居のようなオブジェが設置されていました。
そのオブジェの傍には「子宝石」なるものが祀られているのですが、よく見たところ、屋根の下では石で造られた大きな男根と女陰が向い合っていたのでした。その姿勢といい仰角といい即時戦闘態勢なのですが、兄さんの方は角度的にいまいち元気が無いような気がします。
敷地内には建物が2つあり、右手は食堂で左手が浴場。いずれも地元の農協が運営しているんだとか。浴場の玄関左手には昭和のユニットキッチン流用したお湯汲み場が設置されていました。
桧の湯と称するだけあって、館内は木材を多用した温かみのある雰囲気です。玄関の戸を開けると、浴場オリジナルの法被を纏ったお爺さんが元気よく出迎えてくれました。受付カウンターの上に置かれている小さな券売機で料金を支払ます。
フローリングの脱衣室にはプラ籠がたくさん積まれており、各自そこからひとつ取って、括り付けの棚に籠をおさめます。辺鄙なところにあるにもかかわらず利用者が多く、私が訪問した時もかなり混雑していたのですが、係員の方がこまめにチェックしており、室内は綺麗に維持されていました。
受付周りや脱衣室などのドライエリアは「桧の湯」らしく木材が多用されていましたが、浴室に入ると機能的且つ実用的なタイル貼りとなり、桧の面影は微塵も見られません。しかしながら大きな窓からは外の光がたっぷりと降り注ぎ、窓に面した広い浴槽はその光を受けてキラキラ輝いていましたので、気持ちよく快適に利用することができました。床・側壁腰部・浴槽底部など室内の下部にはチャコールグレーのタイルが用いられており、特に床や浴槽の底部には焼き物のようなタイルが採用されている一方、側壁の上半分にはオフホワイトの塗装が施されており、下半分を濃く、上半分を明るい配色にするというインテリアカラーコーディネートの基本原則が貫かれています。
入口のドアを挟んで左右両側に洗い場が配置されており、計8基のシャワーが並んでいます。なおシャワーから吐出されるお湯は源泉です。シャンプーなどの備え付けは無いので、予め持参しておくか受付で購入しましょう。
浴槽は12人近く同時に余裕で入れそうな容量を擁しており、黒御影石で縁取りされています。窓側の隅っこにある湯口からお湯が供給されており、その対角線上にある脱衣室側の隅にある切り欠けより排湯されています。湯加減は40℃前後という長湯仕様であり、多くのお客さんが長い時間じっくりと湯船に浸かっていました(なお訪問時の内湯は混雑していたため、上画像の湯口以外、撮影は自粛しました)。
内湯から屋外に出てアプローチの飛び石を渡ってゆくと露天風呂です。この飛び石の周りには露天風呂のオーバーフローが川を成して流れていました。それだけ源泉投入量が多いんですね。なお、この露天風呂に用いられている石材は山辺石といい、松本市内の浅間温泉や美ヶ原付近で産出される庭石として以前は普通に採石できたんだそうですが、現在では産出地が国定公園に指定されてしまったため、石を切り出す際にはその都度関係機関への申請と許可が必要となっており、そのためかなり貴重な石材となっているそうです。
石積みの湯口からは無色透明の澄み切ったお湯が滔々と落とされており、お湯と石が接する湯面ライン上や飛び石の周りには、温泉成分の析出と思しき白い線が形成されていました。湯口に置かれていたコップでテイスティングしてみますと、タマゴのような味と匂いが薄いながらも明瞭に感じられ、加えて石膏の匂いと味、そして芒硝の味も確認できました。この石膏や芒硝こそ、石に付着してる白線の正体なのでしょう。
湧出時点で40℃しかないお湯ですから、露天ではたちまち外気に熱を奪われてぬるくなってしまい、私が訪れた日には私以外誰も露天に入ろうとしなかったのですが、寧ろこれ幸いとノンビリこの露天を独占させていただきました。谷を見下ろし、その向こうには峠に続く稜線が左右に広がる、実に爽快で見晴らし良好なロケーションです。お湯に浸かっていると徐々に肌に気泡が付着し、特に内湯ではそれがはっきり現れていました。湯中で肌を擦ると弱いながらもツルスベ浴感があり、引っ掛かりも混在していますが(左腕を撫でる右手を止めると、キュッとグリップが効くような感じ)、どちらかといえばツルスベが優っているようです。
長湯したくなるお湯なので、どうしてもお客さんの回転が悪いのですが、それほど心地よく寛げるお湯であるとも言えそうです。湯使いは加温加水循環消毒の無い完全掛け流しとのこと。冬季だとぬるいかもしれませんが、暑い夏に入れば最高に気持ち良いでしょうね。
アルカリ性単純温泉 40.2℃ pH9.2 湧出量未測定(掘削自噴) 溶存物質660.4mg/kg 成分総計660.4mg/kg
Na+:99.6mg(49.62mval%), Ca++:86.8mg(49.61mval%),
Cl-:6.4mg(2.02mval%), HS-:0.3mg, SO4--:399.2mg(93.19mval%), CO3--:9.0mg,
H2SiO3:51.9mg,
長野県松本市入山辺8967-4-2 地図
0263-31-2025
ホームページ
10:00~19:00(受付18:30まで)
300円
貴重品用ロッカーあり、ドライヤー貸出、シャンプー類など販売あり(備え付けなし)
私の好み:★★★