西宮の山手幹線沿いにある「双葉温泉」は、道路に面した大きな看板がよく目立つ、一見何てことのない銭湯ですが、お湯の質には定評があり、しかも露天風呂も備わっているらしいので、今回是非行ってみたかった温泉のひとつでした。場所自体はJRや阪急の線路に近いのですが、残念ながら両線ともちょうど駅と駅の中間にこの温泉が位置しているため、駅としては最も近い阪神西宮から歩いて現地へ向かうことにしました。
駐車場入口には源泉を落とすオブジェがあり、その傍らには掘削深度や源泉温度、湧出量などが記されたプレートが掲示されています。ご多分に漏れず、こちらも阪神大震災後にボーリングして温泉を掘り当てた銭湯の一つなんだそうです。
こちらの銭湯は午後3時からの開店でして、私は混雑を避けるべく3時開店から間もない時間に訪れたのですが、口開けのお風呂を狙いたい気持ちはどなたも同じらしく、早くも玄関前には自転車がたくさん停められており、私の後からも自転車に跨った爺さんやおばちゃんが次々にやって来ました。
玄関内の券売機で湯銭を支払い、券をカウンター式の番台に差し出します。番台の奥には小さな休憩スペースがあり、そこに置かれているショーケースには温泉分析表やボーリングのコア、そして掘削作業中の写真が展示されていました。
脱衣室は典型的な銭湯のそれであり、広くてノビノビできる室内では、早くもお風呂から上がったお客さんたちが団扇を仰ぎながら談笑し、そしてテレビの野球中継に歓声を上げつつ、ゲームの行方に一喜一憂していました。
銭湯ですので内湯がメインであり、広い浴室内には様々な設備が用意されていますが、仕事や生活の汗を流すことが銭湯の一番大きな役目ですから、洗い場がたくさん設けられており、いくつかのブロックに分かれて水栓が計23基取り付けられていました(今回は混雑のため撮影は自粛しました)。
温浴槽は3つあり、うち2つには温泉が、残り1つには真湯が張られています(この他、水風呂や有料のサウナもあります)。最も手前側にある半円形(画像左(上))は温泉槽のひとつでして、容量としては2~3人サイズで、底から人工的にブクブクと気泡をあげており、浴槽の周りは温泉成分の付着によってベージュ色にコーティングされていました。この半円形の奥側には大きな主浴槽があり、こちらには真湯が張られ、泡風呂やジェットバスなど、オッサン達の疲れた体をほぐす設備も稼働していました。
真湯の主浴槽の更に奥、サウナや露天風呂入口の前にも温泉槽があり、こちらは上述の半円形温泉槽より一回り大きな容量(3人サイズ)なのですが、その形状は四角形の一部に潰れた扇形をくっつけたような形容しがたいもので、白黒の市松模様が施された半円形の壁飾りが目印です。こちらは人工的な気泡発生など余計な設備は無く、その代わりに温泉が底面から供給され、窓下の排水口へ溢れ出させていました(湯使いは不明)。
街中の銭湯なのに、旅館顔負けの立派な露天風呂を兼ね備えているのが、この「双葉温泉」のすごいところ。10人は余裕で入れそうなゆとりのある岩風呂の周りには、石灯籠の他、もみじや松、そして灌木のツツジなど、日本庭園の定石通りに諸々が配置されており、この趣きある佇まいだけで捉えたら、まさかここが都市の銭湯だなんて信じられません。お湯は岩風呂の奥から落とされており、大小2本が岩の上を滑る沢のように落ちていますが、これらのみならず槽内底面3ヶ所からも投入されており、複数の投入によって浴槽温度の均衡を図っているようでした。
温泉が流下する岩の表面は赤茶色に濃く染まっていました。館内表示によれば浴槽内の温度を一定にするため循環装置を用いていると表記されているのですが、縁で口を開けている排水口では絶えることなくお湯が捨てられています。浴槽と直接繋がっていない浴室床の下水口からは、この露天の排水口へ流下する流量の多寡に応じてボコボコと音が上がっていた(空気が抜けていた)ので、少なくとも上画像に写っている露天の排水口は、循環用の吸引口ではなく、下水に直結しているものと思われ、部分的に循環されているものの、かなりの量は掛け流されているのではないかと想像されます。
お湯はやや緑色を帯びた暗めの黄土色を呈しており、ほぼ透明ですがほんのり弱く濁っていうようにも見えます。お湯を手にとって顔に近づけると金気臭と弱ガス臭が嗅ぎ取れ、甘塩味に金気味と土気味、そしてちょっと焦げたような感のある弱い苦味が少々感じられました。端的に言えば、塩気と弱い重炭酸土類泉的特徴がミックスされたような味と匂いです。阪神間の他温泉でよく見られるような泡付きは確認できませんでしたが、スルスルスベスベ浴感が心地よく、入浴中は何度も自分の肌を擦ってしまいました。湯上がりは食塩泉らしいパワルフな温まりが効いてきますが、しばらくして粗熱が抜けると一転して重曹泉らしい爽快感が肌上を走り、一度で2度美味しい浴感を楽しめました。銭湯料金でこれだけ充実した温泉を堪能できるのですから、人気を博すのは当然ですね。
双葉の湯
ナトリウム-塩化物・炭酸水素塩温泉 44.0℃ pH7.6 428L/min(動力揚湯) 溶存物質2.465g/kg 成分総計2.482g/kg
Na+:742mg(38.32mval%), Mg++:17.5mg(3.94mval%), Ca++:47.2mg(6.45mval%),
Cl-:868mg(68.09mval%), Br-:1.7mg, HCO3-:698mg(31.81mval%),
H2SiO3:56.5mg, HBO2:18.6mg, CO2:17.1mg,
加水加温消毒なし
循環あり(浴槽内の水温を一定にするため)
阪神西宮駅より徒歩10分(700m)、JRさくら夙川駅より徒歩13分(1.1km)、阪急夙川駅より徒歩13分(1.1km)、
兵庫県西宮市分銅町2-28 地図
0798-22-1067
15:00~23:30(水曜定休)
420円(2014年3月時点)
ロッカー・ドライヤー(有料20円/3分)あり、各種入浴用品は番台にて販売
私の好み:★★+0.5