パパと呼ばないで

再婚した時、パパと呼ばないでくれと懇願した夫(←おとうさんと呼んで欲しい)を、娘(27)「おやじ」と呼ぶ。良かったのか?

街結君と太郎君⑬

2016年08月12日 | 野望
太郎の顔色が悪いのは電車に酔ったせいなのか、
それとも千春さんのせいなのか。
俺の部屋に通すと、太郎は堰を切ったようにしゃべりだした。
「まちゆいたちが帰った後、何の話が始まったと思う?
交際宣言だぜ。かあちゃんと荒木さん。
俺は、何も、マスターとかあちゃんが結婚すればいいのになんて子どもみたいなことは言わないよ。
ただ、俺は、マスターのことが好きだ。
本当のおやじよりも、マスターのことが好きだし、実際おやじのように思ってる。
かあちゃんだって、マスターのこと頼りにしてる。
兄妹みたいなんだよねえなんて言ってたこともあるから、マスターの感情とは少し違うかもしれないけど、
でも、マスターはそれでいいって言ってたんだ。
そばで、オレたち親子を見守っていたいって言ってくれてたんだ。
オレ、スマートでバイトしてるだろ。
はじめのうち、オレはバイト代いらないって言ったんだ。
飯食わせてもらって、かあちゃんが帰ってくる時間までスマートにおいてもらってるんだから、
コーヒー運ぶくらい当たり前だって。
そしたらマスター、勝手に俺の口座を作って、毎月バイト代を振り込んでるんだ。
中一の7月からず~っと今まで。
中三の秋くらいだったかな、その通帳見せられてびっくりしたよ。
3百万くらい入ってるんだよ。
どんな計算したらこんなすごいことになるんだって聞いたら、
中学生だから時給500円だって言うんだ。
で、夕方の4時から12時までのうち、晩飯食う時間1時間引いて7時間。
スマートって年中無休だろ、30日で計算すれば年間100万越えるだろって。
そんで、なんで今、通帳を見せるかって言うと、今度高校受験だろって。
もし、お前が行きたい高校があって、でもそこが私立とかで金が掛かるからあきらめようとしてるんだったら、
この金があるってことを思い出せって。
これはお前が稼いだお前の金なんだからなって。
高校は碁石場高校に決めてるって言ったら、じゃあ、大学を受ける時、また思い出せって。
高校生になったら時給800円にしてやるからなって。
中央大学の法学部に行きたいって思ったのも、マスターと一緒にいるうちに思いはじめたことなんだ。
マスターが『弁護士ってかっこいいよなあ』って、すんごい褒めるんだよ。
マスターんち、資産家だから結構もめ事に巻き込まれることが多いらしくて
その時に、いつも頼む弁護士さんがいるんだ。
石橋さんっていって、たまにスマートにも来る。
そんでもって、うちのかあちゃんたちの離婚の時も、その石橋さんに頼んだら
あっという間に、かたを付けてくれたらしくて、
『俺は何にもしてあげられなくてオロオロするだけだったけど、
石橋さんはあっというまに千春ちゃんの笑顔を取り戻してくれたよ。
さすがに、あの時は、俺、もっと勉強して弁護士になれば良かったって思ったよ。』って、
子どもが将来の夢語るみたいにうっとり言うんだよ。
そのうち、俺も洗脳されてきてさ、弁護士になろうと思いはじめて・・・
そしたらマスターが『弁護士になるなら中大の法学部だ』って。
石橋さんがそうらしいんだ。
『金なら大丈夫だ。計算したら、高二までで7百万くらいはバイト代溜まってるはずだ。何も遠慮はいらん。太郎が働いた金だ』って。
俺、バイト代なんかいらないって言ってたくせに、すっかりその気になってたよ。
金の心配はいらない、あとは俺が勉強しさえすればいいんだなって。
純粋にマスターの気持ちを考える部分と、
もし通帳の金を使えなくなるってことは、大学、あきらめなきゃいけないってことか?っていうなんつうかヨコシマ?な気持ちとか、
かあちゃんと荒木さんに腹が立つ気持ちとか
かあちゃんの恋愛を素直に認めてあげられない自分の小ささとか
もう、頭がぐちゃぐちゃだよ。」
それで、スマートを飛び出して、荷物をまとめて電車に乗ったのか。
って、それ、夕べの話だろ?
どこに泊まったんだよって聞くと
「夕べ、スッゲー食べたじゃん。そんで興奮してたせいか、いつもよりさらに電車酔いがひどくてさ、
何度か降りて休憩しては、また乗って・・・を繰り返して乗り換えの駅まで行ったら、
最終電車に間に合わなかったんだ。
電車って、一晩中走ってるわけじゃないんだな。
初めて知ったよ。
ちょっとそこで冷静さを取り戻してさ、なんだよ、もう夜中じゃん!って。
今頃まちゆいんち行っても、もう寝てるなあって思ったから、てくてく歩いてた。
俺の『絶対土地勘』で、たぶんまちゆいんちはこっちだなって方向に歩いたらちゃんとついたよ。」
そして、太郎は、一方的に一人でしゃべりまくってたかと思うと、ちょっと寝ると言い、
俺のベッドにもぐり込んで寝てしまった。


街結君と太郎君①
街結君と太郎君②
街結君と太郎君③
街結君と太郎君④
街結君と太郎君⑤
街結君と太郎君⑥
街結君と太郎君⑦
街結君と太郎君⑧
街結君と太郎君⑨
街結君と太郎君⑩
街結君と太郎君⑪
街結君と太郎君
コメント
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