★さちゅりこん――渡邊史郎と縦塗横抹

世界が矛盾的自己同一的形成として、現在において過去と未来とが一となるという時、我々は反省的である。(西田幾多郎)

2021-06-02 18:10:51 | 文学
飛鳥川の淵瀬常ならぬ世にしあれば、時移り、事去り、楽しび・悲しび行き交ひて、はなやかなりしあたりも人住まぬ野らとなり、変はらぬすみかは人あらたまりぬ。桃李もの言はねば、たれとともにか昔を語らん。まして、見ぬいにしへのやんごとなかりけん跡のみぞ、いとはかなき。

昨日、授業で徒然草や廃墟のペルソナ論について話したりしたんだが、兼好法師が実に惜しいと思うのは、批評魂が邪魔して桃李などの声が聞こえない、ほんとうは頭の中でヒビイているのだそれが抑圧されてしまっているのだ。やんごとなかりけん跡にいっても、無常を感じ、その実、そのやんごとなき何者かの声がヒビイているにも関わらず、それが無常の風の音に変換されて了っている。まさに人間の魂の塊のような人である。

さきほど庭に出たらこんな感じで話しかけられたぞ



そんなわけはないのだが、明らかに花というのは顔のかたちをしている。

 怠惰ほど、いろいろ言い抜けのできる悪徳も、少い。臥竜。おれは、考えることをしている。ひるあんどん。面壁九年。さらに想を練り、案を構え。雌伏。賢者のまさに動かんとするや、必ず愚色あり。熟慮。潔癖。凝り性。おれの苦しさ、わからんかね。仙脱。無慾。世が世なら、なあ。沈黙は金。塵事うるさく。隅の親石。機未だ熟さず。出る杭うたれる。寝ていて転ぶうれいなし。無縫天衣。桃李言わざれども。絶望。豚に真珠。一朝、事あらば。ことあげせぬ国。ばかばかしくって。大器晩成。自矜、自愛。のこりものには、福が来る。なんぞ彼等の思い無げなる。死後の名声。つまり、高級なんだね。千両役者だからね。晴耕雨読。三度固辞して動かず。鴎は、あれは唖の鳥です。天を相手にせよ。ジッドは、お金持なんだろう?

――太宰治「懶惰の歌留多」


ここまでくると桃李も顔であることやめる。人間が喋りすぎると、花ではなく雑草じみてくるのである。われわれはやはり植物を模倣している。