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伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

渡りの足跡

2010-07-03 19:02:59 | エッセイ
 オオワシなどの渡り鳥を中心としたバード・ウォッチングの紀行文を中心とするエッセイ。
 渡り鳥は、現に留鳥がいるようにその地にとどまっても生きていけるのになぜ危険を冒して渡りをするのか、という問いかけを軸にしつつ、第2次大戦中に強制収容所でアメリカへの忠誠を聞かれてノーと答えたために日本に送還された「ノーノーボーイ」やロシア革命とソ連崩壊に翻弄された人々、内地から北海道に移住した人々を取り上げて人間の渡りとして対比させています。他者にとっては謎であり不可思議であっても、その者にとっては必然でありまた運命であり他に選択肢などない、生きることは時空の移動でありそれは変容をも意味する、不可避の移動・変化というあたりが著者の答えになっています。
 バード・ウォッチングのエッセイで、北の大地の自然を描写した文章の美しさが読み味の基調をなしていますが、美しい自然礼賛でもないところが独特の重みを感じさせます。人間の自然破壊も、人間の存在やその欲深さも自然の一部だからその結果もこの時代この場所の生態系に他ならない、だが同時にその人間の中に何とか自然破壊を食い止めようと試行錯誤する人々が出ることもまた自ら回復しようとする自然の底力の一つなのだろう(14ページ)とか、エチゼンクラゲがオホーツク海に現れることも稲作の発達につれてスズメが増えたのと同様自然なのだ(172ページ)とかの突き放した物言いには、ある種の挑発も含めて読んでいてはっとします。
 都会の卑しい鳥として嫌っていたヒヨドリに北海道の山奥の森で出会い過去にヒヨドリに意地悪したことの罪の意識を感じ、詐欺商法のセールスマンの不気味さを野生生物の狩りの様子に重ね合わせたり、価値観・視点の相対化が図られていたりする点にも考えさせられます。


梨木香歩 新潮社 2010年4月30日発行
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ビッグイシューの挑戦

2010-07-03 16:36:41 | ノンフィクション
 ホームレスが路上で販売し、販売代金から利益を得る(当初200円中110円、現在は300円中160円)というシステムのイギリスで生まれた雑誌「ビッグイシュー」の日本版を立ち上げた著者が、日本版立ち上げの経緯と理念を語る本。
 チャリティの伝統のない日本では成功しない、ホームレスから雑誌を買う客はいない、必ず失敗すると言われながら、しかも雑誌造りの素人ばかりで始めたいきさつや、最初の販売説明会ではホームレスが十数人しか集まらず4人しか販売員登録してくれなかったことなどの苦労話が興味深く読めます。イギリスのビッグイシューの創始者の一人で自らもホームレスの経験を持つジョン・バードが大阪の釜ヶ崎のドヤ街(ATOK2010って「とぅーりお」は一発で闘莉王に変換できるのに、「かまがさき」は変換できないし、「どやがい」も変換できない・・・)を見て呆然とし、涙ぐみ、「第三世界」のようだと言ったエピソードも印象深いところです。
 寄付ではなく、あくまでも商品を買う、それも200円とか300円で買うというスタイルで、ホームレスもビジネスパートナーで販売の報酬として受け取るということが、斬新な発想で、そこに成功の秘訣があるのだと思います。日本でも、同じものを買うのなら「エコ」と名の付く方を選ぶ消費者は結構いるわけですし。購入層の7割が女性で、20代、30代の女性が中心的な顧客というのも、これまでの先入観を覆すものです。
 路上販売を巡る警察とのやりとりとか、ホントはもっと苦労してるんじゃないかなと思われるところもあり、もう少し書き込んでほしいなという感じもします。
 ビッグイシューの経緯に関する話は半分くらいで、ホームレス支援やボランティアのあり方みたいな部分が多くそのあたりは好みの分かれるところと思います。


佐野章二 講談社 2010年6月3日発行
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がんと一緒に働こう! 必携CSRハンドブック

2010-07-03 01:03:42 | 人文・社会科学系
 がんになっても働き続けるための知識とノウハウを説明した本。
 知識としての働く権利、会社との関係の持ち方、働き方、保険や社会保障、グッズや生活のノウハウなどから構成され、がん経験者が自らの経験等を書いています。
 働く権利のところは、基礎知識で抽象的ですが、まぁこんなところ。労働組合加入者の労働条件は労働協約で定められる(11ページ)っていうのは就業規則と異なる労働協約があれば(協約がないことが多い)ですし、配置転換についての書きぶり(15~16ページ)は、現実はもっと厳しいように思えます(そう書きたい気持ちはわかります)が。会社との関係は、結局、上司や主治医、産業医とよく相談してということに終始しています。
 私には、社会保険関係と、ワーキンググッズや生活の工夫のあたりが一番興味深く読めました。ただ、グッズの使い方とか、今ひとつイメージしにくいのでそういうところをイラストでわかりやすくした方がいいと思います。ギャグマンガ風の4コマよりも。
 CSRは、Cancer Survivors Recruitingの略。もちろん、Corporate Social Responsibility(企業の社会的責任)とかけてあるわけですが。がん経験者の雇用を維持することも企業の社会的責任という主張をこめたものと思いますが、その雄々しい編者名のわりに本の内容は控えめで、制度的提案は治療休暇制度と雇用促進条例くらい(159ページ)。
 今後の動きにちょっと注目したいなと思います。


CSRプロジェクト編 合同出版 2010年5月1日発行
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