交通事故(車の水没事故)の遺族による保険金請求訴訟を扱ったリーガル・サスペンス。
遺族は別居中の妻、加害者は妻と面識があり、事故は新車購入後(従って損害保険加入後)すぐで被害者が売れっ子のトレーダーで年収が200億もあるため請求額が2000億円あまりという極端で怪しげな設定で、損害保険会社は支払を拒否して裁判となり、保険会社は遺族と加害者の共謀による殺人を主張してそれを裏付ける証拠を次々と出してくるが、窮地に追い込まれた原告側の新人弁護士が周囲の協力を得ながら巻き返していくというストーリー。
交通事故訴訟を多く手がける弁護士の作者が損害保険会社への恨みを爆発させたような展開は、同業者としてはよくわかるとも、でも現役の弁護士が書くにはちょっと書き過ぎかなとも思いました。
設定やストーリー展開は、私の目には、グリシャムのRainmaker(邦題は「原告側代理人」)と重なって見えます。Rainmakerより遙かにシンプルな展開で、事件をめぐる駆け引きに純化している分、読みやすくわかりやすく、他方作品としての味わいには欠けますが。
裁判の審理の展開は、裁判所主導の迅速な計画審理が励行される現在、ほとんど考えられないような、証人尋問が1回ごとに採用されてそれが終わってから次はどうしますか(誰を尋問するか)なんて進行でなされます。この小説のような展開は、裁判所からは「漂流審理」と揶揄されて、今時はやってはいけない審理の典型とされます。こういう昔風の五月雨審理でこそ、日本の裁判システムでもリーガル・サスペンスが成り立つ、いや悪辣な企業に対抗して一市民が真実を明らかにできるというのが、この小説に込められた作者の主張であり思いであると読めました。
ところで、この小説では「制裁的損害賠償法」という法律が登場し、「2006年11月に制定された新法である」(247ページ)と書かれています。アメリカの陪審法廷で高額の損害賠償が認められる根拠となる懲罰的損害賠償は、日本の弁護士にとってはうらやましい限りで、日本では懲罰的損害賠償はほとんど認められません。それが弁護士が書いた本で新法制定などとあるので、思わず「えっ、知らないうちにそんな法律ができていたのか」と動揺して、思わずその場で「法令データ」を確認してしまいました。
その点も含めて、被害者側の弁護士にとっての夢を書いた小説と言えますが、問題提起の意味を込めるのならば、法制度は現実のものだけをベースにした方がいいと、私は思います。

加茂隆康 幻冬舎 2009年12月10日発行
遺族は別居中の妻、加害者は妻と面識があり、事故は新車購入後(従って損害保険加入後)すぐで被害者が売れっ子のトレーダーで年収が200億もあるため請求額が2000億円あまりという極端で怪しげな設定で、損害保険会社は支払を拒否して裁判となり、保険会社は遺族と加害者の共謀による殺人を主張してそれを裏付ける証拠を次々と出してくるが、窮地に追い込まれた原告側の新人弁護士が周囲の協力を得ながら巻き返していくというストーリー。
交通事故訴訟を多く手がける弁護士の作者が損害保険会社への恨みを爆発させたような展開は、同業者としてはよくわかるとも、でも現役の弁護士が書くにはちょっと書き過ぎかなとも思いました。
設定やストーリー展開は、私の目には、グリシャムのRainmaker(邦題は「原告側代理人」)と重なって見えます。Rainmakerより遙かにシンプルな展開で、事件をめぐる駆け引きに純化している分、読みやすくわかりやすく、他方作品としての味わいには欠けますが。
裁判の審理の展開は、裁判所主導の迅速な計画審理が励行される現在、ほとんど考えられないような、証人尋問が1回ごとに採用されてそれが終わってから次はどうしますか(誰を尋問するか)なんて進行でなされます。この小説のような展開は、裁判所からは「漂流審理」と揶揄されて、今時はやってはいけない審理の典型とされます。こういう昔風の五月雨審理でこそ、日本の裁判システムでもリーガル・サスペンスが成り立つ、いや悪辣な企業に対抗して一市民が真実を明らかにできるというのが、この小説に込められた作者の主張であり思いであると読めました。
ところで、この小説では「制裁的損害賠償法」という法律が登場し、「2006年11月に制定された新法である」(247ページ)と書かれています。アメリカの陪審法廷で高額の損害賠償が認められる根拠となる懲罰的損害賠償は、日本の弁護士にとってはうらやましい限りで、日本では懲罰的損害賠償はほとんど認められません。それが弁護士が書いた本で新法制定などとあるので、思わず「えっ、知らないうちにそんな法律ができていたのか」と動揺して、思わずその場で「法令データ」を確認してしまいました。
その点も含めて、被害者側の弁護士にとっての夢を書いた小説と言えますが、問題提起の意味を込めるのならば、法制度は現実のものだけをベースにした方がいいと、私は思います。

加茂隆康 幻冬舎 2009年12月10日発行