韓国で1980年に起きた光州事件で道庁を占拠した市民軍のスポークスマンを務めた尹源(ユン・サンウォン)の伝記。
著者は尹源が光州事件前主力の講師をしていた労働者学校「野火夜学」でともに講師をしていた後輩に当たり、そのため尹源に関する事実関係には詳しいものの視点はあくまでも尹源側からのもので別の観点からの考察に乏しく、また記述が学生時代と野火夜学に偏っているきらいがあります。
特に邦題の「光州 五月の記憶」から感じられる光州事件についてのノンフィクションを想定した読者(私もそうでした)にとっては、光州事件についての記述が少なく、記述の客観性への配慮に不安を感じます。光州事件についての記述は終盤の3分の1ほどで、その内容も尹源の言動に集中しています。とはいえ、道庁内部の様子が具体的に書かれていて、そこは興味深い。
主役の尹源は貧しい家庭から両親が無理をして大学に行かせたエリートが学生運動、労働運動へとのめり込んでいくという、日本でも安保世代・全共闘世代の活動家に見られるような経歴をたどったわけですが、その悩みや思いが近くにいた者の目から描かれているところも、光州事件そのものとは関係ないですが、共感と哀感と苦い思いを交えながら読みました。
私が学生の頃に、独裁政権下の隣国で弾圧にさらされながら生きてきた人々に関心は持ちながらも深く知ることができなかったことへの反省も込めて読ませてもらいました。事件を知るという観点からは、欲求不満が残りましたが。
林洛平(イム・ナッピョン) 訳:高橋邦輔
社会評論社 2010年4月30日発行 (原書は直接の原書となる改訂版が2007年、初版は1991年)
著者は尹源が光州事件前主力の講師をしていた労働者学校「野火夜学」でともに講師をしていた後輩に当たり、そのため尹源に関する事実関係には詳しいものの視点はあくまでも尹源側からのもので別の観点からの考察に乏しく、また記述が学生時代と野火夜学に偏っているきらいがあります。
特に邦題の「光州 五月の記憶」から感じられる光州事件についてのノンフィクションを想定した読者(私もそうでした)にとっては、光州事件についての記述が少なく、記述の客観性への配慮に不安を感じます。光州事件についての記述は終盤の3分の1ほどで、その内容も尹源の言動に集中しています。とはいえ、道庁内部の様子が具体的に書かれていて、そこは興味深い。
主役の尹源は貧しい家庭から両親が無理をして大学に行かせたエリートが学生運動、労働運動へとのめり込んでいくという、日本でも安保世代・全共闘世代の活動家に見られるような経歴をたどったわけですが、その悩みや思いが近くにいた者の目から描かれているところも、光州事件そのものとは関係ないですが、共感と哀感と苦い思いを交えながら読みました。
私が学生の頃に、独裁政権下の隣国で弾圧にさらされながら生きてきた人々に関心は持ちながらも深く知ることができなかったことへの反省も込めて読ませてもらいました。事件を知るという観点からは、欲求不満が残りましたが。
林洛平(イム・ナッピョン) 訳:高橋邦輔
社会評論社 2010年4月30日発行 (原書は直接の原書となる改訂版が2007年、初版は1991年)