伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。今年も目標達成!

よくわかるドーピングの検査と実際

2010-07-17 20:34:32 | 実用書・ビジネス書
 ドーピングの規定と検査と制裁の手続等について解説した本。
 ドーピングの禁止物質は現在かなりの数に上っていて風邪薬などの市販薬や漢方薬、サプリメントにも含まれているのに、検査で禁止物質が検出されたら、本人が知らずに飲んだ場合でも1年とか2年とかの出場停止などの重い制裁が科されるということには、ルールとして決められればそれに従うことでスポーツが成り立つという業界の特徴はあるにせよ、弁護士としては強い疑問を持ちました。
 検査が必ず検体を2つにして保存しておくなど慎重にしていることはいいと思いますし、検出された競技の記録やメダルの取消は、禁止物質が影響している以上は本人が知らなかったとしても仕方ないと思います。しかし、長期間の出場停止などの将来に向けての重い制裁は、やはり本人の責任をきちんと認定して行うべきでしょう。
 しかも、その制裁に対する不服申立が競技団体の仲裁機関に対してしかできないというのは、手続として疑問です。著者たちが扱った実例としてあげられているヤクルトのダニエル・リオス投手の日本野球機構への弁明・異議申立手続の実情(142~165ページ)は興味深く読ませてもらいましたが、重大な不利益処分を科する手続としてはあまりにもお粗末だし、選手側は何もできないしさせないという感じ。著者は、法律上の争訟と言えないから裁判所では門前払いされる可能性が大きいとしています(116ページ)が、長期間の出場停止とか、選手資格の剥奪追放とかいうことになれば、裁判の対象となり得るのではないかと思います。
 また禁止物質をやたらと広げ、それも市販薬やサプリメントに含まれる物質を次々と指定して選手を不安にして、禁止物質を含まない成分で作られたサプリメントをJADA(日本アンチ・ドーピング機構)認定商品と指定するというやり方は特定メーカーの利害に合致することにもなります。
 ドーピングに関する規定も、規定自体が曖昧な部分があり国際規定の直訳らしい文章でわかりにくく、著者も弁護士から見てもわかりにくく曖昧などと書いています(30ページ等)。つまり何がドーピングに当たるかプロでも簡単にはわからず、一般人には当然わからない。それで「そもそも、我が国において、ドーピングに関する知識や経験を有する弁護士の数は非常に限られており」(108ページ)という状態なのは寒々しい限り。


多田光毅、入江源太、石田晃士 秀和システム 2010年6月5日発行
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする