シマリスの冬眠についての研究から冬眠時の冬眠動物の体の変化やその変化を引き起こす機構、冬眠と長寿の関係、さらには人間への応用の可能性について考察した本。
心臓の低温保存の研究をしていた著者が冬眠中のシマリスから摘出した心臓の心筋を調べたところ、通常の細胞は細胞膜の内外でカリウムイオンやナトリウムイオン、カルシウムイオンを交換して活動しているのに対し、冬眠中のシマリスでは心筋細胞内部のカルシウムイオンを筋小胞体内外でやりとりして(細胞内でカルシウムイオンをリサイクルして)収縮していることを発見した。そしてその切り替えは冬眠自体によってではなく体内時計による概年リズムに応じてなされ、一定の期間は現実に冬眠していなくてもなされ、その間は冬眠特異的タンパク質(HP)と名付けられたタンパク質が血液中では減少し脳内では活性化された上で濃度が高まっていることがわかった。そして冬眠中の冬眠動物の体では外部とのやりとりは遮断され代謝がきわめて遅くなりながら体内では修復が進み、冬眠動物の寿命は長くなっており、寿命は現実に冬眠するかどうかではなく冬眠可能な状態に切り替わっているかに依存している。人間は低体温に弱く低温保存して回復させることは困難だが、人間にもHPに似たタンパク質は発見されており、高温のままで冬眠可能状態の冬眠動物と似た状態を作り長寿化することはできるかもしれない・・・というのが著者の論旨です。
冬眠動物が細胞レベルでの活動の機構から季節に応じて切り替えているというのは驚きでした。改めて生命の神秘を感じます。
化学物質名だらけの生化学系の文章は、苦手なんですが、それを押しても読む価値のある知的好奇心を刺激してくれる本でした。
近藤宣昭 岩波新書 2010年4月20日発行
心臓の低温保存の研究をしていた著者が冬眠中のシマリスから摘出した心臓の心筋を調べたところ、通常の細胞は細胞膜の内外でカリウムイオンやナトリウムイオン、カルシウムイオンを交換して活動しているのに対し、冬眠中のシマリスでは心筋細胞内部のカルシウムイオンを筋小胞体内外でやりとりして(細胞内でカルシウムイオンをリサイクルして)収縮していることを発見した。そしてその切り替えは冬眠自体によってではなく体内時計による概年リズムに応じてなされ、一定の期間は現実に冬眠していなくてもなされ、その間は冬眠特異的タンパク質(HP)と名付けられたタンパク質が血液中では減少し脳内では活性化された上で濃度が高まっていることがわかった。そして冬眠中の冬眠動物の体では外部とのやりとりは遮断され代謝がきわめて遅くなりながら体内では修復が進み、冬眠動物の寿命は長くなっており、寿命は現実に冬眠するかどうかではなく冬眠可能な状態に切り替わっているかに依存している。人間は低体温に弱く低温保存して回復させることは困難だが、人間にもHPに似たタンパク質は発見されており、高温のままで冬眠可能状態の冬眠動物と似た状態を作り長寿化することはできるかもしれない・・・というのが著者の論旨です。
冬眠動物が細胞レベルでの活動の機構から季節に応じて切り替えているというのは驚きでした。改めて生命の神秘を感じます。
化学物質名だらけの生化学系の文章は、苦手なんですが、それを押しても読む価値のある知的好奇心を刺激してくれる本でした。
近藤宣昭 岩波新書 2010年4月20日発行