伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

アリアドネの弾丸 上下

2014-02-14 21:58:03 | 小説
 「チーム・バチスタの栄光」に始まる田口・白鳥シリーズ第5弾。
 第4弾「イノセント・ゲリラの祝祭」に始まった警察の陰謀がさらに進展し、死因判定の独占(第三者により判断ミスを暴かれない既得権の維持)のためにエーアイセンター設立を妨害したい警察が組織的に冤罪をでっち上げるという突き抜けた構成です。一般的に読み物として、あるいはノンフィクションとしてなら、権力組織がそういうことをするというのもありだと思いますが、作者が現実世界で対峙している問題でその敵方をそういうふうに描かれると、ちょっと引いてしまいます。
 強力な磁場であるMRIの中での銃による殺害という特殊条件を利用して、どのようにすれば磁場の外からつまり標的から離れて左目を撃ち抜きしかも銃弾を脳中央部で止められるのかという謎を中心にさまざまな謎が設けられています。田口・白鳥シリーズで最もミステリーらしいというか、おそらく唯一ミステリーとして成功している作品というべきでしょう。ただ…ラストに持ってきた田口をセンター長に推薦した人物はという謎は、大方見えていて今ひとつの感じですけど。


海堂尊 宝島社文庫 2012年6月21日発行 (単行本は2010年9月)

《田口・白鳥シリーズ》
1.チーム・バチスタの栄光:2014年1月26日の記事で紹介
2.ナイチンゲールの沈黙:2014年1月28日の記事で紹介
3.ジェネラル・ルージュの凱旋:2014年2月1日の記事で紹介
4.イノセント・ゲリラの祝祭:2014年2月14日の記事で紹介
5.アリアドネの弾丸:2014年2月14日の記事で紹介
6.ケルベロスの肖像:2013年12月9日の記事で紹介
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イノセント・ゲリラの祝祭 上下

2014-02-14 19:58:58 | 小説
 「チーム・バチスタの栄光」に始まる田口・白鳥シリーズ第4弾。「ジェネラル・ルージュの凱旋」までの3作が医療現場での医師の診察・治療に絡むメディカル・エンターテインメント作品だったのに対して、この「イノセント・ゲリラの祝祭」以降の3作はエーアイ(最終作「ケルベロスの肖像」ではAi)の拡大・エーアイセンター設立をめぐり推進する高階病院長、島津、彦根、白鳥、田口らと遅延・先送りに終始する厚労省本流、抵抗し陰謀を企てて妨害する警察という構図で著者の年来の主張のエーアイ(死亡時画像診断)導入の正しさをアピールすることを明確に目的とする作品になっています。その意味で、シリーズの性格を変える分岐点となった作品というべきでしょう。この作品以降、田口・白鳥シリーズでは田口の愚痴外来と極楽病棟での若干のやりとりを除いて「患者」がほとんど登場しなくなり、治療場面も描かれなくなります。
 この作品は、田口の勤務先の東城大学付属病院さえも離れて、多くの場面が厚労省の審議会の会議です。会議の展開を題材にエンターテインメントを書くという試みとしては、作者の筆力で読み物としてそれなりに楽しめるレベルまで作り上げているだけでも立派と言えるでしょうけど、~にしてはという枠を外して評価すると盛り上がりに欠けだらだらした感じ。作者の主張のエーアイ導入・拡大の必要性とそれに抵抗する悪役たちの相関図をアピールする戯曲ないしプロパガンダと読むのが適切でしょう。
 第3作「ジェネラル・ルージュの凱旋」でも内部告発者が誰かとその動機という謎を立てて形だけでもミステリーの体裁を保っていましたが、この作品ではミステリーに見せることを完全に放棄しています。2作目、3作目のミステリーとして読む時の捻れなさ・無理さ加減から考えれば、それ自体はむしろすっきりするとも言えます。


海堂尊 宝島社文庫 2010年1月22日発行 (単行本は2008年11月)

《田口・白鳥シリーズ》
1.チーム・バチスタの栄光:2014年1月26日の記事で紹介
2.ナイチンゲールの沈黙:2014年1月28日の記事で紹介
3.ジェネラル・ルージュの凱旋:2014年2月1日の記事で紹介
4.イノセント・ゲリラの祝祭:2014年2月14日の記事で紹介
5.アリアドネの弾丸:2014年2月14日の記事で紹介
6.ケルベロスの肖像:2013年12月9日の記事で紹介
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