伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

転換期の日本へ 「パックス・アメリカーナ」か「パックス・アジア」か

2014-02-07 21:15:09 | 人文・社会科学系
 歴史学者の立場から、沖縄の米軍基地、未解決の領土問題、不平等条約としての日米安保条約と日本の対米従属性、日本の軍備増強などをサンフランシスコ体制の問題に満ちた遺産と評価し、今後の日本がアジアとの協調関係を進めそこで主導的な役割を果たしていくのか、中国の脅威を言い立て過去の戦争を美化して国際社会から孤立し尖閣諸島・竹島問題で硬直した姿勢をとり続けて対立を深めその結果として米軍・アメリカへの依存をさらに強めていくのかを問う本。
 「保守的な人々ならびに右翼の人たちが使う『普通の国』になるという扇情的なフレーズは改憲と再軍備に対する制約を取り払うことに焦点を当てている。しかし、再軍備の加速が、真の独立と自立へ向かう途になるという考えは欺瞞的だ。日本はアメリカの軍事的な抱擁から抜けることはできない。実際に、アジアばかりでなく世界規模で次々と進化するその世界戦略の構想を支持させるために、憲法の制約を取り払った、より軍事化されたパートナーを求めているのがアメリカなのだ」(74ページ)、「再軍備に対する制限を取り除くために改憲を支持する人々は、改憲すれば日本は国連が後押しする平和維持活動に参加する『当たり前の国』になることができ、自国を防衛する自立的な能力を高めることができる、と論じる。だが実際のところ、日本は再軍備すればするほど、アメリカの戦闘活動に実質的な貢献をしなければならないという、逆らい難い圧力の下に置かれることになるのだ」(45ページ)という指摘はなるほどと思います。国の自主的主権を回復する、東アジア共同体を構想する、米国の市場中心の経済政策から距離を置く、米海兵隊の普天間基地を最低でも県外へ移設すると述べた鳩山首相に対しアメリカから集中的な恫喝があったとき「日本のメディアや政治関係者の反応は、米国に譲歩しろと鳩山に圧力をかけることだけだった。鳩山は、裏切り者とも言える信頼できない官僚たちと、浅はかで無責任なメディアに追いつめられ、彼らに立ち向かう勇気と明快な目標を欠いたまま、一年としないうちに辞任したのである」(143ページ)という指摘と、「その昔は国家主義や超国家主義を掲げた日本が今日では『追従』の途を行くという逆説に関心を持っています。それについては『不思議の国のアリス』型(自己矛盾型)倒錯とでも言うべきものが存在する。すなわち、日本は米国に従属すべきだと主張する人々がナショナリストを名乗り、他方で、日本の利益を米国のそれよりも優先させる人が『反日』ではないかと疑われるという倒錯です」(249ページ)という意見には考えさせられます。中国に対しては居丈高に振る舞って対立を煽りながらアメリカには何をされても文句を言わず積極的に従う日本の政官界の幹部たちの様子を「およそ一三〇〇年以上ものあいだ、大国の従属国となることに抵抗してきた日本が、この六、七〇年ほどのあいだに、海の彼方の米国に対し、喜んで『属国』の役割を担うようになったのは、何という歴史の皮肉だろう」(129ページ)と言われても返す言葉もありません。
 日本の辺境扱いされている沖縄の島々の自立志向について、国境を越えたアジア地域を考えれば中心に位置し平和的な市民の協調と交流が地域経済の発展の力となると論じているあたりも爽やかで希望が見えます。
 今後の日本の外交や進むべき道について冷静に考え視野を広げるのに有用な本だと思います。


英語タイトル:Pax Americana versus Pax Asia : Japan in the San Francisco Treaty System
ジョン・W・ダワー、ガバン・マコーマック 訳:明田川融、吉永ふさ子
NHK出版新書 2014年1月10日発行
コメント
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