伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。今年も目標達成!

愛ふたたび

2014-03-11 22:00:25 | 小説
 妻と死別しその後52歳人妻と29歳元部下(看護師)の2人の愛人をもつ整形外科医「気楽堂」73歳が、バイアグラを服用してもインポテンツとなったことをきっかけに、性交(挿入)をあきらめて指での愛撫で女性を悦ばせることで愛人との関係を継続しさらには新たに45歳独身弁護士の愛人を作るという展開の小説。
 形式は小説ですが、実質的には高年男性のセックスはかくあるべしという論説文。
 「セックスというのは、本来、生殖のためにおこなうべきものである。単に、いっときの遊びのためにおこなうものではない。」(235ページ)、「これからの男女は、ただやみくもにセックスを求めるべきではない。それより、男はまず言葉や愛撫で、女性を悦ばせるべきである。セックスなどは、初めからないものと思い、言葉と躰で女性を満たしてやる。」(236~237ページ)、「夫と妻と、2人のセックスでも男はとくに挿入しない。」「未婚の男女のあいだで、デートの度にセックスまで求めるのはゆきすぎではないか。」(237ページ)というのが作者の結論となっています。
 しかし、男の側から見ると、この作者の言いぐさは、自分ができなくなったら途端にセックスなど余計なものと、それまで考えたこともなかったことを突然言い出し、自分ができないことは他の男にもやらせないと言わんばかりに説教をたれているように見えます。「気楽堂」の人柄を見ると、同級生の集まりで親しい友人たちが全員不能であることを聞いて安堵し自分だけは愛人が(2人も)いることで優越感を持ち「もしあそこに一人くらい『俺はまだまだできる』などというのがいたら、しらけてしまったかもしれない」(203ページ)などというお山の大将でなければ気がすまない人物なわけで、そういう人物が、自分が性交可能だった頃にはやりたい放題してきたことを、自分ができなくなった途端に自分の過去は棚に上げてそういうことは間違っているなどと言い出すのですからまともに聞く気になれません。
 そしてこの人物、主観的には女性のためになどと言っているのですが、この人物のいうことはあくまでも男が主導し女性をコントロールして悦びに導くというものです。自分の快感に向けて突き進んでいたのが、自分が相手の女性をコントロールして果てさせることで自己満足することに変わっただけ、女性を征服して自己満足するという点では変わりがないように思えます。「気楽堂」は、女性を悦ばせると言いつつ、その方法はあくまでも自分で考え、相手に相談する姿勢はありません。73歳にして「秘所への接吻は、まだ他の女性には、誰にもしていなかった」(226ページ)といいます。73歳で新たな開拓があるのはよしとすべきかもしれませんが、それまではそんな気にはなれなかったそうです。私には、どうにも、マッチョで独りよがりな自己満足男に見えるのですが、ちがうでしょうか。
 45歳女性弁護士が憧れの女性とされているのは、同業者としては喜ぶべきことかもしれません。しかし、73歳医師との関係で、この女性弁護士はあくまでもされるがままにすべてを受け入れる存在として描かれ、単に知的な女性に対する征服感を満足させるだけの材料に終わっている感じがします。


渡辺淳一 幻冬舎 2013年6月30日発行
コメント
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